GOD EATER 3 -BEAST- ~人の心を宿した神は、人を守るべく神を喰らう~   作:Ingwelsh

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第4話 - 名前

 船のハッチから船内に入り、ロビーへと足を踏み入れる。武骨で無機質な内装だが、その堅牢で機能的な様は、さすが灰域踏破船といったところだ。

 

「わぁ……」

 

 初めて見る、人間の船の中。ボクが感嘆の声を漏らしていると、金髪の女性がくるりとこちらに向き直った。

 

「それじゃ、船の中に戻ったことだし改めて。私は『クリサンセマム』の船長、イルダ・エンリケス」

 

 微笑みを見せながら自己紹介を始める、船長のイルダ。それを皮切りにして、ゴッドイーター達がそれぞれ言葉を続ける。

 

「『クリサンセマム』所属のAGEチーム、『ハウンド』隊長、ユウゴ・ペニーウォートだ」

 

 まず最初に口を開いたのはユウゴだ。なるほど、彼が対抗適応型ゴッドイーター(AGE)のリーダーなのか。続いて口を開いたのはビクトルだ。

 

「同じく『ハウンド』所属、ビクトル・ペニーウォート」

 

 簡潔に、表情を変えないままに話す彼。確かこのご時世、ミナトの名前がAGEの姓になるんだったっけ。ペニーウォート、どこかで聞いたことがある気がする。

 次いで自分の胸に手を当てるのはジーク。ビクトルとは違い、にっかりと笑いながら大きく身を乗り出してくる。

 

「で、俺がジーク。ジーク・ペニーウォートだ」

 

 少年らしい物言いに、自然とボクの表情も緩む。姓を見るに、彼ら三人は出自を同じくするんだろう。そして最後、クレアが背筋をまっすぐ伸ばしながら目元を細めた。

 

「『グレイプニル』所属のゴッドイーター、クレア・ヴィクトリアスです。後は船内に、専属AGEが一人と、正規ゴッドイーターが一人。そしてオペレーターとメカニックがいます」

 

 彼らの自己紹介を聞きながら、ボクはそれぞれの名前を記憶に刻み込む。アラガミの脳にどうやって記憶が刻まれるのか、仕組みはよく分からないけれど、覚えられるのだからそれでいい、と思う。

 もう一度頭を大きく下げながら、ボクは口を開いた。

 

「よ、よろしくお願いします。えっと……」

「焦らなくていいのよ。あなたのお名前も……というより、名前があるのかしら、あなたには?」

 

 まごつくボクに、イルダが優しく声をかけてくる。

 そして、そう、大きな問題がここにもあった。せっかく自己紹介をしてもらったのだから、ボクも自己紹介しないとならないけれど、生まれたばかりのボクには名前が無いのだ。

 

「名前……ない、です。今日、生まれたばかりなので……どうしよう」

 

 顔を上げつつ、しゅんと耳と尻尾を垂らすボクだ。しょぼくれたボクを見て、クレアがおかしそうにくすりと笑う。

 

「あら、じゃあまた皆で名前を考えないといけないですね」

「クレア、またお前を名付け親にはさせねぇからな!」

「ボク、ってことは、オスなのか? お前は」

「大概のアラガミにはオスもメスもないだろ。何言ってんだ」

 

 そんなことを言いながら、ゴッドイーター達が僕の背中を押す。そのまま、船内を案内しようということらしい。アラガミに灰域踏破船の中を色々見せていいのだろうか、と思う部分はあるが、この船にはこの船のルールがあるのだろうし、いいのだろう。

 はたして、ロビーから繋がる扉を潜ると、そこはブリッジのようだった。大きな存在感を発揮するレーダーに計器類、操作パネルが所狭しと並んでいる。

 そしてそこに、紫色の髪をした少女と、黒い髪を長く伸ばした女性が佇んでいる。

 彼女たちはボク達がやってきたことに気付くと、こちらに向き直った。

 

「あっ、オーナー。おかえりなさ……」

「急に出ていったから、何かと……」

 

 呼びかけた言葉が不意に途切れる。二人の視線が向くのは、当然、ボクだ。

 注目を浴びて、恥ずかしくなって小さくなるボク。おずおずと、遠慮がちに口を開く。

 

「あ、あの……お邪魔します……」

 

 挨拶をした途端だ。二人の女性の頬が赤らみ、同時に緩んだ。

 

「かっっ……!!」

「かわいい~~!! えっこの子ですか、この子があの連絡があった新種の!?」

「わっ!?」

 

 かわいい。間違いなく彼女たちはそう言った。確か愛らしいものとか、小さいものとかを褒める時に言う言葉だったよな、と思う間もなく、女性たちがまっすぐこちらに駆けてくる。

 戸惑う間もなくボクは女性たちに撫でられ、頬をもまれ、尻尾を触られた。

 なんだろう、この船の女性に、しかもゴッドイーターでない女性に、めっちゃ触られているぞボク、アラガミってなんだっけ。

 イルダが苦笑しながら、ボクの頭に手を置く。

 

「そう、この子が件の、人間を捕喰しない新種(・・・・・・・・・・)。今日からうちの船で面倒を見るわ。よろしくしてやって」

 

 そう話す彼女に、紫色の少女が目を大きく見開く。やはり、その発言は衝撃的だったらしい。

 黒い髪の女性が、困惑した表情で口を開く。

 

「しかし……いいのか? フィムとは違って、この子は見た目が……」

 

 彼女の視線が、ボクの顔に向いた。それを言われて、ボクの耳がピンと跳ね上がる。

 そう、ボクは人間とほぼ同じ体格をしているとはいえ、全身がもっふもふの毛に覆われた、アラガミ獣人とでも呼ぶべき姿なのだ。人間じゃない事なんて、一目で判る。

 紫色の髪の少女も、ボクのほっぺたをむにむにしながら眉尻を下げた。

 

「そ、そうですよオーナー。こんなアラガミ丸出しの見た目じゃ、グレイプニルからなんて言われるか……」

 

 その言葉を聞いて、ゴッドイーター達が顔を見合わせる。イルダも頷きつつ腕を組んで、溜め息をついてから彼女たちに答えた。

 

「そこは、追々考えていくつもりよ。それよりもまず、やることがあるの。エイミーとルルにも、協力してもらえないかしら」

「やること……ですか?」

 

 彼女の言葉に、きょとんとする紫色の少女。零された疑問に答えるのはジークだった。

 

「こいつの名前だよ。今日生まれたばっかで、まだ名前が無いんだと」

「呼び名が無いと不便なのは、フィムの時に分かっていますしね」

 

 クレアも笑みを見せながら言った。そういえば先程から名前が出ている「フィム」とは、一体誰の事だろう。

 各々がボクの名前を考える中、ユウゴとビクトルが早々に白旗を上げる。

 

「俺はこういうの苦手なんでな、頼むよ」

「僕もあまり、この手のは……」

 

 彼ら二人が抜けて、残りは五人。ボクの顔を見たり、尻尾を触ったりしながら、あれこれと知恵を出し合っている。

 

「えーどうしましょう、狼にも見えますし、犬にも見えますし」

「今は可愛いですけれど、大きくなったらたくましくなるかもしれないですしね……」

「でもかわいい……かわいい名前も似合いそうだ……」

 

 エイミーが、クレアが、ルルが、ボクを取り囲んで話し合う。

 彼女らにいいようにあれこれ触られながら、なんともむず痒い気持ちになるボクだ。確かに今は可愛いかもしれないが、結局はアラガミ。どんな猛獣に育つか、分かったものではない。

 程なくして、各々案が決まったようで。ボクを取り囲んで、ジークが声を上げた。

 

「よしお前ら、決まったか?」

 

 彼の言葉に、頷く面々。満足そうに笑ったジークがボクへと指を向ける。

 

「じゃー一人ずつ発表していくぞ! まずは俺からだ……」

 

 にやりと笑って、間を置きながら。自信満々にジークが発表する。

 

「『ギード』! どうだ?」

「えー……かっこいいですけど」

「センスの欠片もなくないですか?」

 

 しかし女性陣からの評価は芳しくない。散々な言われように、彼が肩を落とした。

 次に手を挙げたのはクレアだ。

 

「じゃあ、次は私が。『テディ』。どうですか?」

「可愛らしすぎね?」

「だが、今のイメージには合っている……」

 

 発表された名前を聞いて、ジークが肩をすくめる。確かに、可愛さが溢れすぎている気がしなくもない。

 次に手を挙げたのは紫色の髪のエイミーだ。

 

「あ、じゃあ次は私で! 緑色をしていますし、ビリジアンから『ビル』、でどうですか?」

「う、被った……」

「いいですね、男の子っぽいです」

 

 彼女の発案した名前は比較的高評価だ。なるほど、ボクの色から着想を得た名前なら、分かりやすいし大きくなっても外れない。

 そこは黒髪のルルも同様だったようで、おずおずと手を挙げながら口を開く。

 

「じゃ、じゃあ私も……『ジェイド』、を考えた」

「翡翠のジェイド、ですね」

「かっこいいじゃん、ルル!」

 

 ルルの挙げた名前に、ジークが大いに反応した。宝石の名前は確かにかっこいい。

 しかしどうしよう、どれもそこそこ気に入ってしまった。選ぶのが大変だ。

 と、そこでイルダがすっと手を挙げる。

 

「あ、私もいいかしら?」

「オーナーも考えたんですか?」

 

 エイミーが目を見開きながら問いかけると、イルダが小さく頷きながらその名前を発表する。

 

「ええ、『サルーキ』。どうかしら?」

「サルーキ、ですか?」

「オーナーらしい、お洒落な響きだが……由来とか、あるのか?」

 

 エキゾチックな雰囲気のある名前に、その場の全員が目を見開いた。確かにお洒落で、かっこいい。

 ルルの問いかけに、イルダが水色の目を細めつつ話す。

 

「アラガミ出現以前に実在したという、犬の名前でね。今はもう姿を消してしまったのだけれど……昔に見た写真と、この子の顔つきがそっくりだったから」

「へー……」

「なんだか、ロマンを感じさせるな」

 

 彼女の説明に、男性陣も興味津々だ。確かに、ロマンのある名前だ。

 案が出揃ったところで、イルダの目がボクへと向けられる。

 

「どうかしら? この中で、気に入った名前があったら、教えてくれないかしら」

 

 彼女の言葉を受け、ボクに視線が集まる。どぎまぎしながらも、ゆっくり自分の考えを述べていくボクだ。

 

「え、ええと……その、どれも、すごくいいと思う。思うんだけど……」

「けど?」

 

 恐る恐る話すボクに、ビクトルが小さく首を傾げる。

 彼の顔と赤い瞳を見上げながら、ボクは一番気に入った名前を挙げた。

 

「出してもらった中で、ボクが名乗るなら……『サルーキ』かな、って」

「あら、いいの?」

 

 その答えに、案を挙げたイルダが目を見張った。彼女にとっては予想外だったのだろう。

 エイミーが嬉しそうに、イルダに声をかける。

 

「よかったですね、オーナー」

「ええ……それじゃ、これからよろしくね、サルーキ」

「はい!」

 

 笑みを見せながら、イルダがボクへと手を差し出す。その手を握り返しながらボクが返事を返すと、彼女はその場のゴッドイーター達を見回した。

 

「じゃ、名前も決まったことだし、サルーキのことを調べましょう。クレア、エイミー、医務室まで付いて来てくれるかしら」

「あ、はい」

「分かりました」

 

 彼女に呼ばれたクレアとエイミーが一歩前に進み出る。そしてボクはイルダに手を引かれ、医務室とやらに向かうことになった。

 

「じゃあなサルーキ、また後でな!」

「これから、よろしく……」

 

 後方ではジークやルルが、こちらに手を振りながらボクに呼び掛けている。

 なんだか、家族になれたみたいで、ちょっと嬉しい。

 

「はい! ……よろしくお願いします!」

 

 ボクも彼らと同じように手を振り返し、エレベーターに乗り込むのだった。

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