GOD EATER 3 -BEAST- ~人の心を宿した神は、人を守るべく神を喰らう~ 作:Ingwelsh
船のハッチから船内に入り、ロビーへと足を踏み入れる。武骨で無機質な内装だが、その堅牢で機能的な様は、さすが灰域踏破船といったところだ。
「わぁ……」
初めて見る、人間の船の中。ボクが感嘆の声を漏らしていると、金髪の女性がくるりとこちらに向き直った。
「それじゃ、船の中に戻ったことだし改めて。私は『クリサンセマム』の船長、イルダ・エンリケス」
微笑みを見せながら自己紹介を始める、船長のイルダ。それを皮切りにして、ゴッドイーター達がそれぞれ言葉を続ける。
「『クリサンセマム』所属のAGEチーム、『ハウンド』隊長、ユウゴ・ペニーウォートだ」
まず最初に口を開いたのはユウゴだ。なるほど、彼が
「同じく『ハウンド』所属、ビクトル・ペニーウォート」
簡潔に、表情を変えないままに話す彼。確かこのご時世、ミナトの名前がAGEの姓になるんだったっけ。ペニーウォート、どこかで聞いたことがある気がする。
次いで自分の胸に手を当てるのはジーク。ビクトルとは違い、にっかりと笑いながら大きく身を乗り出してくる。
「で、俺がジーク。ジーク・ペニーウォートだ」
少年らしい物言いに、自然とボクの表情も緩む。姓を見るに、彼ら三人は出自を同じくするんだろう。そして最後、クレアが背筋をまっすぐ伸ばしながら目元を細めた。
「『グレイプニル』所属のゴッドイーター、クレア・ヴィクトリアスです。後は船内に、専属AGEが一人と、正規ゴッドイーターが一人。そしてオペレーターとメカニックがいます」
彼らの自己紹介を聞きながら、ボクはそれぞれの名前を記憶に刻み込む。アラガミの脳にどうやって記憶が刻まれるのか、仕組みはよく分からないけれど、覚えられるのだからそれでいい、と思う。
もう一度頭を大きく下げながら、ボクは口を開いた。
「よ、よろしくお願いします。えっと……」
「焦らなくていいのよ。あなたのお名前も……というより、名前があるのかしら、あなたには?」
まごつくボクに、イルダが優しく声をかけてくる。
そして、そう、大きな問題がここにもあった。せっかく自己紹介をしてもらったのだから、ボクも自己紹介しないとならないけれど、生まれたばかりのボクには名前が無いのだ。
「名前……ない、です。今日、生まれたばかりなので……どうしよう」
顔を上げつつ、しゅんと耳と尻尾を垂らすボクだ。しょぼくれたボクを見て、クレアがおかしそうにくすりと笑う。
「あら、じゃあまた皆で名前を考えないといけないですね」
「クレア、またお前を名付け親にはさせねぇからな!」
「ボク、ってことは、オスなのか? お前は」
「大概のアラガミにはオスもメスもないだろ。何言ってんだ」
そんなことを言いながら、ゴッドイーター達が僕の背中を押す。そのまま、船内を案内しようということらしい。アラガミに灰域踏破船の中を色々見せていいのだろうか、と思う部分はあるが、この船にはこの船のルールがあるのだろうし、いいのだろう。
はたして、ロビーから繋がる扉を潜ると、そこはブリッジのようだった。大きな存在感を発揮するレーダーに計器類、操作パネルが所狭しと並んでいる。
そしてそこに、紫色の髪をした少女と、黒い髪を長く伸ばした女性が佇んでいる。
彼女たちはボク達がやってきたことに気付くと、こちらに向き直った。
「あっ、オーナー。おかえりなさ……」
「急に出ていったから、何かと……」
呼びかけた言葉が不意に途切れる。二人の視線が向くのは、当然、ボクだ。
注目を浴びて、恥ずかしくなって小さくなるボク。おずおずと、遠慮がちに口を開く。
「あ、あの……お邪魔します……」
挨拶をした途端だ。二人の女性の頬が赤らみ、同時に緩んだ。
「かっっ……!!」
「かわいい~~!! えっこの子ですか、この子があの連絡があった新種の!?」
「わっ!?」
かわいい。間違いなく彼女たちはそう言った。確か愛らしいものとか、小さいものとかを褒める時に言う言葉だったよな、と思う間もなく、女性たちがまっすぐこちらに駆けてくる。
戸惑う間もなくボクは女性たちに撫でられ、頬をもまれ、尻尾を触られた。
なんだろう、この船の女性に、しかもゴッドイーターでない女性に、めっちゃ触られているぞボク、アラガミってなんだっけ。
イルダが苦笑しながら、ボクの頭に手を置く。
「そう、この子が件の、
そう話す彼女に、紫色の少女が目を大きく見開く。やはり、その発言は衝撃的だったらしい。
黒い髪の女性が、困惑した表情で口を開く。
「しかし……いいのか? フィムとは違って、この子は見た目が……」
彼女の視線が、ボクの顔に向いた。それを言われて、ボクの耳がピンと跳ね上がる。
そう、ボクは人間とほぼ同じ体格をしているとはいえ、全身がもっふもふの毛に覆われた、アラガミ獣人とでも呼ぶべき姿なのだ。人間じゃない事なんて、一目で判る。
紫色の髪の少女も、ボクのほっぺたをむにむにしながら眉尻を下げた。
「そ、そうですよオーナー。こんなアラガミ丸出しの見た目じゃ、グレイプニルからなんて言われるか……」
その言葉を聞いて、ゴッドイーター達が顔を見合わせる。イルダも頷きつつ腕を組んで、溜め息をついてから彼女たちに答えた。
「そこは、追々考えていくつもりよ。それよりもまず、やることがあるの。エイミーとルルにも、協力してもらえないかしら」
「やること……ですか?」
彼女の言葉に、きょとんとする紫色の少女。零された疑問に答えるのはジークだった。
「こいつの名前だよ。今日生まれたばっかで、まだ名前が無いんだと」
「呼び名が無いと不便なのは、フィムの時に分かっていますしね」
クレアも笑みを見せながら言った。そういえば先程から名前が出ている「フィム」とは、一体誰の事だろう。
各々がボクの名前を考える中、ユウゴとビクトルが早々に白旗を上げる。
「俺はこういうの苦手なんでな、頼むよ」
「僕もあまり、この手のは……」
彼ら二人が抜けて、残りは五人。ボクの顔を見たり、尻尾を触ったりしながら、あれこれと知恵を出し合っている。
「えーどうしましょう、狼にも見えますし、犬にも見えますし」
「今は可愛いですけれど、大きくなったらたくましくなるかもしれないですしね……」
「でもかわいい……かわいい名前も似合いそうだ……」
エイミーが、クレアが、ルルが、ボクを取り囲んで話し合う。
彼女らにいいようにあれこれ触られながら、なんともむず痒い気持ちになるボクだ。確かに今は可愛いかもしれないが、結局はアラガミ。どんな猛獣に育つか、分かったものではない。
程なくして、各々案が決まったようで。ボクを取り囲んで、ジークが声を上げた。
「よしお前ら、決まったか?」
彼の言葉に、頷く面々。満足そうに笑ったジークがボクへと指を向ける。
「じゃー一人ずつ発表していくぞ! まずは俺からだ……」
にやりと笑って、間を置きながら。自信満々にジークが発表する。
「『ギード』! どうだ?」
「えー……かっこいいですけど」
「センスの欠片もなくないですか?」
しかし女性陣からの評価は芳しくない。散々な言われように、彼が肩を落とした。
次に手を挙げたのはクレアだ。
「じゃあ、次は私が。『テディ』。どうですか?」
「可愛らしすぎね?」
「だが、今のイメージには合っている……」
発表された名前を聞いて、ジークが肩をすくめる。確かに、可愛さが溢れすぎている気がしなくもない。
次に手を挙げたのは紫色の髪のエイミーだ。
「あ、じゃあ次は私で! 緑色をしていますし、ビリジアンから『ビル』、でどうですか?」
「う、被った……」
「いいですね、男の子っぽいです」
彼女の発案した名前は比較的高評価だ。なるほど、ボクの色から着想を得た名前なら、分かりやすいし大きくなっても外れない。
そこは黒髪のルルも同様だったようで、おずおずと手を挙げながら口を開く。
「じゃ、じゃあ私も……『ジェイド』、を考えた」
「翡翠のジェイド、ですね」
「かっこいいじゃん、ルル!」
ルルの挙げた名前に、ジークが大いに反応した。宝石の名前は確かにかっこいい。
しかしどうしよう、どれもそこそこ気に入ってしまった。選ぶのが大変だ。
と、そこでイルダがすっと手を挙げる。
「あ、私もいいかしら?」
「オーナーも考えたんですか?」
エイミーが目を見開きながら問いかけると、イルダが小さく頷きながらその名前を発表する。
「ええ、『サルーキ』。どうかしら?」
「サルーキ、ですか?」
「オーナーらしい、お洒落な響きだが……由来とか、あるのか?」
エキゾチックな雰囲気のある名前に、その場の全員が目を見開いた。確かにお洒落で、かっこいい。
ルルの問いかけに、イルダが水色の目を細めつつ話す。
「アラガミ出現以前に実在したという、犬の名前でね。今はもう姿を消してしまったのだけれど……昔に見た写真と、この子の顔つきがそっくりだったから」
「へー……」
「なんだか、ロマンを感じさせるな」
彼女の説明に、男性陣も興味津々だ。確かに、ロマンのある名前だ。
案が出揃ったところで、イルダの目がボクへと向けられる。
「どうかしら? この中で、気に入った名前があったら、教えてくれないかしら」
彼女の言葉を受け、ボクに視線が集まる。どぎまぎしながらも、ゆっくり自分の考えを述べていくボクだ。
「え、ええと……その、どれも、すごくいいと思う。思うんだけど……」
「けど?」
恐る恐る話すボクに、ビクトルが小さく首を傾げる。
彼の顔と赤い瞳を見上げながら、ボクは一番気に入った名前を挙げた。
「出してもらった中で、ボクが名乗るなら……『サルーキ』かな、って」
「あら、いいの?」
その答えに、案を挙げたイルダが目を見張った。彼女にとっては予想外だったのだろう。
エイミーが嬉しそうに、イルダに声をかける。
「よかったですね、オーナー」
「ええ……それじゃ、これからよろしくね、サルーキ」
「はい!」
笑みを見せながら、イルダがボクへと手を差し出す。その手を握り返しながらボクが返事を返すと、彼女はその場のゴッドイーター達を見回した。
「じゃ、名前も決まったことだし、サルーキのことを調べましょう。クレア、エイミー、医務室まで付いて来てくれるかしら」
「あ、はい」
「分かりました」
彼女に呼ばれたクレアとエイミーが一歩前に進み出る。そしてボクはイルダに手を引かれ、医務室とやらに向かうことになった。
「じゃあなサルーキ、また後でな!」
「これから、よろしく……」
後方ではジークやルルが、こちらに手を振りながらボクに呼び掛けている。
なんだか、家族になれたみたいで、ちょっと嬉しい。
「はい! ……よろしくお願いします!」
ボクも彼らと同じように手を振り返し、エレベーターに乗り込むのだった。