GOD EATER 3 -BEAST- ~人の心を宿した神は、人を守るべく神を喰らう~   作:Ingwelsh

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第6話 - 参画

「「サルーキをクリサンセマム専属のゴッドイーターにするぅ!?」」

 

 ブリッジにて。

 ボクの肩に手を置きながらイルダが発表したその言葉に、ユウゴも、ビクトルも、ジークも、皆が驚きの声を上げた。

 当然だろう、明らかに人間じゃないボクを、ミナトの一員として迎え入れるどころか、ゴッドイーターにして働いてもらうだなんて。

 ジークが大きくため息を付きながら、困惑するボクの顔を見つめた。

 

「はー……正気かよ、イルダ」

「いくらなんでも、そいつは無茶だって……」

 

 ビクトルもその細い眉を大きく下げながら頭を振っている。これまでの間であまり表情を大きく動かすところを見たことのない彼だが、その彼がここまで表情を変えるのだ、よほどの無茶なのだろう。

 AGEたちの反応に小さく肩をすくめたイルダが、胸元に手を置きながら言う。

 

「無茶を言っていることは十分理解しているわ。でも、サルーキを船内に置いておき、かつよそのミナトに正当性を主張するには、これが一番なの」

 

 そうきっぱりと、彼女は告げた。

 アラガミであるボクを、この船の一員として置いておくこと。それをよそのミナトにも理由として説明できるようにすること。

 いくつか、ある気はする。例えば「灰域内で確保した新種のアラガミで、戦闘のデータを取るためにミッションに同行させている」とか、「所属するゴッドイーターがアラガミ化したが、偏食傾向の関係と他船員の意向で船員として扱っている」とか。

 しかしその場合、普通に灰域踏破船の中を歩き回らせることは出来ないはずだ。船の中を歩かせる理由として、一番あり得るものは「ミナト所属のゴッドイーターです」だろう。そう考えれば、イルダの判断も納得は行く。

 AGE達が顔を見合わせる中、ユウゴが眉間にしわを寄せつつ口を開いた。

 

「……策は、あるんだよな?」

 

 彼の言葉を聞いて、イルダはしっかりと頷いた。話を聞いているエイミーとクレアも、神妙な面持ちになる。

 事前に二人には、この()については話をしてある。二人と、ボクの間で、「そうするしかないですね」と決着がついている策だ。

 

「ええ。サルーキは確かに、人間の見た目をしていないわ。でも、人間のように二足歩行をして、両手を自由に使える身体の構造をしている。調べたら神機らしいものも使える。なら、この外見だけを隠して(・・・)しまえばいいわ」

「隠す?」

 

 イルダの言葉に、ジークが不思議そうに首を傾げる。ユウゴもいまいち、ピンと来ていない様子だ。

 唯一、なにか引っかかりを覚えている表情のビクトルへと、イルダが声をかける。

 

「ねえビクトル、貴方たしか、『アラガミ擬態用の強化ボディスーツ』を持っていたわよね?」

「極東から流れてきた、あれか? 確かに持っているけど……」

 

 彼女の問いかけに小さく首を傾げたビクトルが、ハッと目を見開いた。

 

「……え、ちょっと待ってくれ、あれを使うのか?」

「そうよ。あれをサルーキに着せて、『アラガミに擬態したゴッドイーター』だ、と説明するの。そうすれば、この子がこういう姿をしていることを隠せるでしょう?」

 

 頷くイルダが、ボクの肩に再び手を置いた。

 ゴッドイーターの身につける衣服には、様々なバリエーションが有る。実用性重視のもの、ファッション性の高いもの、ちょっと特殊なもの、いろいろとあるのだが、特殊なものの中でも一番特殊なものが、動物やアラガミに擬態することを目的とした強化ボディスーツ。つまり、着ぐるみ(・・・・)だ。

 それを、ボクが着る。そうすれば確かに、最大の問題である外見の異常さはクリアできる。

 

「なるほど……それなら確かに、中身がアラガミだ、ということを隠せるか」

「でも、大丈夫なのか? ほら、人間と違って、サルーキの頭はこんなだし、尻尾もあるだろ」

 

 納得した様子で頷くユウゴの隣で、ジークが首をひねりつつボクを見た。

 ボクの身体は狼のそれに近い。マズルは細長いし、尻尾も大きくフサフサとしている。とはいえ、覆ってしまえばそれも隠せるだろう。イルダは笑う。

 

「そこは大丈夫、あの強化ボディスーツは肉体の形状にあわせてフィットするようになっているわ。そうでしょ?」

「ああ……見た目があんななだけで、中身は体型に合わせてフィットするし、オラクル細胞で肉体と接続しているから、感覚もクリアだし……」

 

 笑みを見せながらビクトルに目を向けると、彼は少し戸惑いがちに答えた。

 あれは極東地域の研究者が熱心に開発していて、オラクル細胞で肉体とリンクさせてクリアな視界と感覚を素材越しに得られるとかなんとか。当然、神機の扱いも問題なく行える代物だという。

 その言葉に頷きながら、イルダはさらに話を続ける。

 

「そう。なんならあのボディスーツを介して回復錠やレーションの摂取も出来る。問題は無いわ……なんならサルーキの姿をそのまま晒しても、『ボディスーツを身につけているんです』と言い張れるかもしれない」

 

 イルダの発言を聞いたボクは目を見開いた。尻尾がぶわっと膨らむ。

 さすがに、ボクの姿をよその誰かに見られて、その言い訳は通らない気がするのだが。

 ユウゴも大きく肩を竦めながらため息を付いた。

 

「そいつは流石に希望的観測すぎやしないかね……第一、腕輪はどうするんだ?」

 

 そう言いながら、彼が目を向けるのはボクの手元だ。そこには硬く大きな、岩石のような質感のガントレットが嵌っている。

 このガントレットがここにあっては、ゴッドイーターが普段つけている位置に腕輪はつけられない。何か別の場所に付ける必要があるだろう。イルダも小さく息を吐く。

 

「そこなのよ。サルーキの両手にはこのガントレットがあるでしょう? 皆が装着しているような腕輪はつけられないわ。つけるにしても、位置を変えないとならない。でも、ボディスーツで覆ってしまえば……」

「手首部分の腕輪の有無は分からない、というわけか。なるほど」

 

 彼女の言葉を聞いて、ビクトルが納得したように笑った。

 彼の言うとおりだ。腕輪が本来の位置になくても、ボディスーツを身に着けていればそのことは分からない。各種問題をクリアできるのだ。

 すべてを把握したようで、ビクトルがその場から離れる。きっと、眼下に見えるターミナルに向かうのだろう。

 

「……分かった。とりあえず、一着持ってくる」

「よろしくお願いするわ。出した分の補填は、後で必ずするから」

 

 ビクトルに小さく頭を下げるイルダだ。彼女の手はまだ、ボクの肩に置かれたまま。補填と言うが、どうやって補填するんだろう、ああいう特殊な衣装って。

 ボクはなんだか申し訳ない気分になった。イルダに居場所の面倒を見てもらった上に、ビクトルの私物であるボディスーツを譲ってもらうのだから。

 

「やっぱり……ボクみたいなのがいると、大変なことになります、よね?」

 

 少し卑屈になりながら口を開くと。ユウゴもジークも、何ならクレアもエイミーもにっこり笑って首を振った。

 

「否定はしないけどな。お前はもう、俺達の仲間だ。気にすることはない」

「だよな。面倒ごとならいつものことだしよ。それにお前、結構強そうじゃん?」

 

 ユウゴがさっぱりと言えば、ジークも軽い調子で言ってきて。

 強い、のだろうか。確かにそれなりに戦えはするけれど。困惑するボクに、クレアも微笑みながら言葉をかけてくる。

 

「ですね。フィムの時も、面倒なことはいっぱいありましたし。慣れっこです」

「あ、あの……さっきから度々名前が挙がっていますけれど……」

 

 クレアの顔を見下ろしながら、ボクはおずおずと話を差し込んだ。

 先程から何度か、その名前を聞いているのだ。この船の面々は当たり前のようにその名前(・・・・)を出しているけれど、ボクは一切その人物について知らされていない。

 

「フィムさん、って人も、ボクみたいな感じなんですか?」

 

 ボクの問いかけに、その場の全員が視線を交わし合う。ほんのり、緊張感が走った。

 エイミーが、観念したように息を吐いた。

 

「鋭いですね」

「まぁな、つまりはそういうことだ。そろそろブリッジに――」

 

 ユウゴが同意をしながら視線を巡らせると。ちょうどビクトルが下のフロアから戻ってきた。手にはボディスーツの胴体と大きな頭を抱え、その後ろから銀髪の少女が付いてきている。

 

「お待たせ、持って来た」

「もってきた!」

 

 ビクトルの言葉を繰り返すように、少女が元気に手を挙げる。

 彼の手からボディスーツを受け取りつつ、ボクは彼の背後に立つ少女に目を向けた。特徴的な髪型と服装をして、額から黒く短い()を生やした、その少女を。

 

「あ……ありがとうございます。それで、その……この子が?」

「そう、フィムだ」

 

 ボクの問いかけに、ビクトルは頷いた。

 フィム。ボクと同じ、アラガミとしてこの船に迎え入れられた少女。その姿はボクよりずっとヒトに近く、また可愛らしいけれど。きっと彼女も、その体からは想像もつかない戦闘能力を持っているのだろう。

 ボクを不思議そうな目でじーっと見つめてきたフィムが、ぱっと表情を明るくする。

 

「わんわん!」

「え、えぇと……は、初めまして、サルーキです」

 

 軽く自己紹介をしつつ、頭を下げながらボクは耳をぺしょんと伏せた。

 わんわん。まぁ、間違ってはいないけれど。なんかちょっと、複雑な気持ちだ。

 困り顔になるボクに、イルダが再び声をかけてくる。

 

「サイズ調整はあとでやってあげるわ。なるべく普段から、それを身につけるようにしてちょうだい。あとで腕輪の装着もしましょう」

「わ……分かりました」

 

 彼女の言葉に従って、ボクは自分の手の中に収まったボディスーツを見る。

 ボクの姿によく似た、緑色の体毛の狼に似たアラガミを模したボディスーツ。これからボクの身を、文字通り守る()を、ボクは優しく抱きしめた。

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