GOD EATER 3 -BEAST- ~人の心を宿した神は、人を守るべく神を喰らう~   作:Ingwelsh

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第7話 - 神機

 ゴッドイーターとしてデータベースに登録してもらい、右腕のガントレットの内側、なるべく手首に近い位置に腕輪を装着した後、ボクは灰域踏破船の地下、ラボラトリ区画へとユウゴとビクトルに連れられてやってきていた。

 目的は、ボクが手から出現させている神機について調べるためだ。既に手から出して、この船に乗り込むエンジニアに預けている。

 

「ふむふむ、なるほどなるほどー」

 

 で、そのエンジニアであるところの、キース・ペニーウォートなる少年が、ボディスーツに身を包んだボクのことを、間近でまじまじと見ていた。両手首に腕輪が装着されている辺り、彼もAGEであるらしい。

 

「いいなぁ兄ちゃん達。俺も見たいなぁ、サルーキの本当の顔!」

「え、えぇと……」

 

 ボクは若干困惑した。何しろボディスーツを身にまとったのはついさっきのこと。さっき着て、なるべく着ているようにと言われた直後に、自分から脱ぐのはなんだかイルダに申し訳がない。

 

「ユウゴさん、あの」

「ま、見せても問題ないと思うけどな。こいつも、立派な俺達の仲間だ」

 

 ユウゴに顔を向けると、彼は肩をすくめながら苦笑した。

 仲間だと言うなら、まぁいいかと考えて、ボディスーツの頭部分を持ち上げる。ボクの長いマズルが若干引っかかるが、ずるんと頭は外れて狼の頭が顕になった。

 

「その……こんな感じです」

「へぇ……」

 

 ボクの困り顔を見て、キースが興味深そうに目を見開く。もう一度まじまじとボクを見たキースが、にんまりと笑った。

 

「アラガミだっていう割には、可愛い顔してるんじゃん」

「そう思うよな? 目とか大きくてよ」

 

 彼の言葉に、ユウゴも笑ってボクの肩を叩いた。

 確かに、ボクはアラガミにしては随分可愛らしい容姿をしているな、と思う。先程のデータベース登録の際に顔写真を撮影したし、腕輪装着の前後で鏡も見た。

 金色の瞳はぱっちりとして大きく、アラガミでよくある小さい瞳孔が黒い眼球の中にあるような見た目ではない。目の上には眉毛らしいふさふさした白い毛が生えて、それも相まって表情がわかりやすく豊かだった。

 なんだろう、このアラガミとしても人間としても中途半端な感じ。ますます困惑顔になるボクに、キースが話しかけてくる。

 

「うん、そうそう。まぁその辺は一旦置いておくとして、だ。あ、もういいよ頭、戻して」

「あ、はい……」

 

 あっさりと言われ、ボクはボディスーツの頭を戻した。再びずにゅんという感触とともに頭が押し込まれ、ボクの視界がボディスーツの瞳を通してクリアに映る。

 ボクが頭を戻したのを確認して、キースが自分の手に持っていたタブレット端末をこちらに向けてきた。

 

「俺はエンジニアだからね。興味があるのはサルーキ自身、というよりは、その扱う神機の方だ」

「やっぱり、あれは神機なのか?」

 

 彼の発言に、ビクトルが小さく首を傾げる。言わんとしているのは「ボクの手から出ていたあれが神機なのか、それとも神機を模した別の何かか」ということだ。

 ゴッドイーターやAGEの扱う神機は、オラクル細胞を武器の形に成型し、人間を捕食しないように偏食因子で調整した、謂わば武器型のアラガミだ。一般的な神機は腕輪と接続されて人体と結合、体内の偏食因子を取り込んでアラガミへの偏食を向けるが、ボクは自分のオラクル細胞から神機を生成(・・)している状態だ。

 その神機を一通り調べてくれたキースが、調査の結果をざっくりと説明する。

 

「そうだとも言えるし、そうじゃないとも言える。構成するオラクル細胞は完全にサルーキのオラクル細胞だけど、まぁ九割方神機と呼んで差し支えないと思うよ、あれは」

 

 そう話したキースの手元のタブレットには、ボクの神機のデータと構造が記されていた。こうして見ると、ちゃんと神機のカテゴリの中に収まるような形をしていたんだな、と思う。

 

「ショートブレード、スナイパー、バックラー。機動力と手数を重視して、オラクルが溜まったらスナイパーでズドン。いいバランスだよね。ただ……」

「ただ?」

 

 ボクの神機のパーツ構成に所感を述べながら、キースがニッコリと笑う。が、その評定が途端に曇った。ボクが問いかけると、キースの指がタブレットの表面をなでた。画面に写すのは、ボクの神機の性能面のデータだ。

 

「あの神機、ランクが異様に高いんだ。全部のパーツが高い。ビクトル先輩の神機ほど洗練されて(・・・・・)はいないけどさ」

「ほう?」

 

 その言葉に、ユウゴが面白そうな表情で声を発した。

 神機使いの強さは、神機の強さと直結する。AGEには潜航可能灰域濃度レベルという、濃い濃度の灰域に潜って生命を維持していられるか、という能力の高低があるので、神機の強さだけで測れる問題ではないが、それでも強い神機を扱えるということは、それだけ強いということだ。ユウゴの手が、ビクトルの肩を叩く。

 

「てことは、サルーキはこいつよりも強い……そういうことか?」

「神機のランクだけで言えばね。どんなに道具が良くても使い手がそれを使えなきゃ意味ないから、強さで言ったらビクトル先輩やユウゴ先輩の方が上なんだろうけど」

 

 そう話しながら、キースは興味深そうにタブレットのデータを見ている。まだ13歳という若い少年だと聞いているけれど、その表情は技術者のそれだ。AGEとして戦場に出るよりも、こちらの方が性に合っているのだろう。

 

「にしてもさ、不思議だと思わないか? フィムもヒト型アラガミだけど、船に置いてあった予備の神機を使っているだろ。こいつはどうして、自分の身体から神機を作り出せるんだろうな?」

 

 ビクトルが不思議そうに首を傾げながら、ボクの手を見てくる。ボディスーツに覆われたボクの手、その内側には人間と同じような骨格をした手があるが、そこからどうして、神機を出すことが出来るのか。

 アラガミで、武器を使うものはいる。ハンニバル神属は両手から炎を出して剣や槍のように振るうし、クアドリカ神属はミサイルポッドを兼ね備えている。しかし、神機を用いる……それも第二世代相当の神機を用いるアラガミは、聞いたことがない。

 ユウゴもキースも、その辺りが腑に落ちていないようだった。

 

「さあな。捕食傾向の問題とか……あるいは、ヒト型アラガミじゃなく、別種のアラガミだからとか?」

 

 ユウゴが肩をすくめながら言うと、キースの指がぴしりとユウゴに向けられた。

 

「かもね。俺は何となく、『アラガミ化した(・・・・・・・)ゴッドイーター(・・・・・・・)の成れの果て(・・・・・・)なんじゃないか……って思っているけど。それなら、神機を知っていてもおかしくないだろ」

「あぁ……」

「なるほどな。説得力がある」

 

 その言葉に、AGE二人が納得した表情を見せた。

 ゴッドイーターのアラガミ化。偏食因子の欠乏によって神機のオラクル細胞に肉体が侵食され、肉体がオラクル細胞に変異してしまう現象だ。

 アラガミ化した人間は、オラクル細胞の「喰らう」という本能に支配され、思考も精神もアラガミと化す。しかしそこに偏食因子が作用し、人間を捕食しない偏食を有するアラガミが誕生するということは、理論上起こり得るだろう。

 なるほど、今までの説の中では一番有力だ。

 

「ボクは……元々は、ゴッドイーターだった、ということ、ですか?」

 

 話をじっと聞いていたボクが、ぽつりと言葉を零した。

 ボクは元々人間だったのが、アラガミ化して、どこかで死んで、また生まれた。納得がいく筋書きではある。でも、少しだけ、元の人間だったことをすっかり忘れてしまっているのが、不安だった。

 うつむきがちになるボクの頭を、ビクトルが優しく叩いた。

 

「可能性の話だけどな。AGEが偏食因子の投与を打ち切られて、アラガミ化する現象は、珍しいものでもない」

「アラガミ化が先か、蝕灰に喰われるのが先か、という問題はあるけどな。でも完全にアラガミ化したら、例え死んでもオラクル細胞がまた集合して、どこかでアラガミとして生まれる……サルーキも、きっとそんな風にして、あそこで生まれたんだろう」

 

 ユウゴも、ボクの肩に手を置きながら優しく話す。その言葉を聞いて、ボクはようやく、自分の姿が定まったような感じがした。

 一度死んで、もう一度生まれて、生まれた途端にこうなって。それは、ボク自身に過去がなくても、しょうがない。けれど身体を構成するオラクル細胞が、僅かずつでも覚えている。

 

「そうか……だからボクは……」

「ああ、何も分からない、何も知らない、けれど自分がアラガミだと分かる……そんな風になったんだろうよ」

 

 こぼされたボクの言葉に、ユウゴが頷いた。ビクトルもキースも、一緒になって頷く。

 ようやく安堵の息を吐いたボクを見て、キースが後頭部に手を回しながら言う。

 

「ま、その辺の難しい話は、俺には分かんないけど。今はこうして仲間になったんだし、それでいいんじゃない?」

「ほんと、相変わらず軽いよな、キース」

 

 彼のあっけらかんとした言葉に、ビクトルが小さく笑いながら言った。

 その彼の軽さに、今回は特に救われたような気がして。ボクもボディスーツの中で、うっすらと笑みを浮かべるのだった。

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