GOD EATER 3 -BEAST- ~人の心を宿した神は、人を守るべく神を喰らう~ 作:Ingwelsh
そうしてボクがユウゴ、ビクトルとラボラトリフロアで談笑していると、エレベーターの方から足音が聞こえてきた。
そちらに顔を向けると、体格のいい黒髪の男性がこちらに手を上げている。身体のあちこちには傷跡がある。そして右手首には赤い腕輪。正規のゴッドイーターだ。
「おーいお前ら、メシの時間だぞ」
「おっ、やった!」
「待ってました!」
男性の言葉に、ユウゴもビクトルも一気に表情を明るくした。こんなご時世だ、食事の時間は当然のように、人生の数少ない楽しみでもあるのだろう。
意気揚々とエレベーターの方に駆けていく二人を、ぽかんとしたまま見送るボク。と、男性が立ち尽くすボクを見ながら微笑んだ。
「そこの君も、早く来いよ。オーナーの言ってた新入りだろ、君」
「い……いいんですか?」
彼の言葉に、ボクは率直に驚いた。イルダから話を聞いているなら、ボクが
しかしそんなことは気にしないとでも言うように、彼の大きな手がボクの肩へと置かれる。
「ウチの船の方針でね。食事は皆で一緒に取ることになっている。家族だからな」
「家族……」
そう話しながら、男性がボクの背中を押した。歩け、と言いたいらしい。
家族とまで言われたら、従わないといけない気がした。多分、年齢的にはイルダと同じか少し上くらい。ボクが息子なら、彼は父親だろう。
と、エレベーターの前までやって来た彼が、ウインクしながら振り返った。
「ああ、自己紹介がまだだったな。リカルド・スフォルツァ。この灰域踏破船『クリサンセマム』のパイロットにして、料理長兼、オーナーの秘書兼、家事担当。一応、ハウンドと共にアラガミ討伐に出ることもある」
「い、忙しいんですね……」
彼――リカルドが話した内容に、驚きを隠せないボクだ。仕事を抱えすぎているにも程がある。船の雑事を一手に担うどころか、パイロット業にイルダの秘書にと、重要な職務まで担当していることになる。そんな重要人物をアラガミ討伐に出していいのだろうか、イルダは。
困惑しながら声を発するボクに、リカルドが苦笑しつつまた背を押す。
「昔なじみなもんでね。ま、生活に刺激があるのはいいことだ。ほら、早く」
「は、はい」
促されるようにエレベーターに乗り込んで、ボク達は「クリサンセマム」の居住区にやって来た。エレベーターを出て右に曲がり、そのまま突き当たりまで行ったところが食堂だ。中に入ると、既に全員が勢揃いしている。
「リカルドさん、今日のメシなに!?」
「今日はごちそうだぞ、サルーキの歓迎も兼ねて、ミートローフだ」
「やった! マジでごちそうじゃん」
「ごちそう!」
キースがリカルドに声をかけると、ボクの傍から離れてキッチンの方に向かいながらリカルドが笑う。ミートローフ。どんな料理だったっけ。皆の話しぶりからして、そうそう出ることのないごちそうなのは分かるけれど。ジークとフィムが満面の笑みで喜んでいる。
そうして程なくして、リカルドが人数分の皿を持ってきた。
ボクの前にも運ばれてきた皿を目にして、ボクは驚きに目を見張った。
肉だ。整形されてオーブンで焼かれたらしい、スライスされたひき肉料理。中にはみじん切りにされた根菜や、ゆで卵も顔を覗かせている。
驚いた。この世界で肉なんて、そうそう食べられないだろうに。添えられたパンも焼き立てだ。二つもある。
「す、すごい……」
「凄いだろ? 世界がこんなに荒れ果てているって言うのに、リカルドは美味い料理を作って、俺達AGEにも食わせてくれる」
「ほんと、うちのミナトは恵まれているよ。前のミナトじゃ食事抜きなんてのも、珍しくなかったしな」
ユウゴが満面の笑みで話しながらパンを割ると、ビクトルもパンにかじりついてから言った。その言葉に、小さく首を傾げるボクである。
「前のミナト?」
「あぁ、ハウンドは元々、ペニーウォートっていう別のミナトの所属だったんだ。ミナトが灰嵐に飲まれた時に、クリサンセマムに拾ってもらった」
ユウゴの話に、ため息をつくボクだ。そういえばユウゴも、ビクトルも、ジークも、キースも、同じファミリーネームを名乗っていた。どうやらミナトの名前が、そのままファミリーネームになる仕組みらしい。
首を戻すボクを見ながら、キースがにこにこしつつ言う。
「この船、水耕栽培システムも搭載しててさ。小麦だったり野菜だったり、自分とこで作ってるんだ。どどっと人数が増えると流石に賄いきれなくなるけど」
「い……いいんですか? あの、ボク別に、人間と同じもの食べなくても大丈夫だし……」
彼の言葉に、ボクは慌てて手を振った。この船が出来る補給だって、入ってくる補給物資だって有限だ。ボクが一人、いや一匹増えることでその物資を多く減らすわけにはいかない。
何しろボクはアラガミなのだ。人間と同じものを食べなくても生きていける。ボクが食事を食べないことで皆が食べられるようになるなら、ボクはその方がいい。
しかし、イルダはミートローフにナイフを入れながら、ゆるゆると頭を振った。
「いいのよ。家族だって言ったでしょう? 人間も、ゴッドイーターも、アラガミも、家族として一緒に暮らすのなら、そこに違いはないわ。食べるものも、寝るところも」
「ね……寝るところも?」
彼女の発言に、ボクは戸惑いがちに言葉を返した。もう一度言う、ボクはアラガミだ。そのアラガミと寝床を一緒にするようなマネを、まともな人間がするとは思えない。
ビクトルがミートローフの中に収められたゆで卵を真っ二つにしながら、天井を見上げる。
「ああ。でも男性用のキャビンに空き……あったっけな?」
「一つくらい空いてるんじゃね? 俺たちと同じ部屋にするか分かんないしさ」
「女性用キャビンだったら確実に一つ空いているぞ」
「わんわんといっしょにねる!」
ジークがぺろりと舌なめずりすると、ルルが口元を拭いながらサラッと言った。フィムに至ってはボクと一緒に寝ようと言いだしている。
いやいや、ちょっと待って欲しい。色々と申し訳ないし、許されない気しかしない。
「え、ええ……いや、流石に女性用の部屋に入れてもらうのは……というかいいんですか、皆さんと同室というのも、なんかこう申し訳ない気分に」
「ならなくていいから心配するなって。ほら、さっさと食え食え」
困惑する僕の背中を、ユウゴが叩いた。突然叩かれてびっくりしながらも、ボクはフォークとナイフを手に取った。
「い……いただきます」
見れば、皆はほとんどが食べ終わっている。あとはボクだけだ。
恐る恐る、ボクはミートローフにフォークを入れた。肉の部分を刺して口に運ぶ。ボディスーツの口はそのまま僕の口に繋がって、口の中に肉を送り届けてくれた。
そして感じた。とても美味しい。脂っこさこそ無いが、その旨味はものすごい。肉の旨味だけではない、混ぜ込まれた根菜の旨味も、甘味も一緒に感じられる。
驚いた。こんな美味しい料理をこんな時に食べられるなんて。
目を白黒させながらも、ボクは食べる手が止まらない。
「お……美味しい……!!」
「そうだろ? リカルドのメシは超美味いんだぞ」
「喜んでもらえて何よりだ」
自慢気に言ってくるジークの隣で、リカルドが満足そうに頷いた。すると彼は隣に座るイルダへと、垂れた目を向けつつ話す。
「しかし、オーナーはよくよく、変わった連中と縁があるよな。ハウンドの連中に、フィムに、サルーキに」
「そういう星の巡りなのかもしれないわね」
なんでも無いことのようにそう言いながら、イルダが満足そうにナプキンで口元を拭いた。そんな会話をする二人を他所に、ボクはパンを口へと運ぶ。こちらも小麦の甘味が感じられて、とても美味しい。
「んむっ、パンも、美味しいですっ」
「そうかそうか、よかった」
ボディスーツの下で満面の笑みを見せるボクに、リカルドは笑顔を見せつつ嬉しそうに頷く。この船は確かに恵まれている。ボクはそうひしひしと感じていた。