GOD EATER 3 -BEAST- ~人の心を宿した神は、人を守るべく神を喰らう~   作:Ingwelsh

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第8話 - 食事

 そうしてボクがユウゴ、ビクトルとラボラトリフロアで談笑していると、エレベーターの方から足音が聞こえてきた。

 そちらに顔を向けると、体格のいい黒髪の男性がこちらに手を上げている。身体のあちこちには傷跡がある。そして右手首には赤い腕輪。正規のゴッドイーターだ。

 

「おーいお前ら、メシの時間だぞ」

「おっ、やった!」

「待ってました!」

 

 男性の言葉に、ユウゴもビクトルも一気に表情を明るくした。こんなご時世だ、食事の時間は当然のように、人生の数少ない楽しみでもあるのだろう。

 意気揚々とエレベーターの方に駆けていく二人を、ぽかんとしたまま見送るボク。と、男性が立ち尽くすボクを見ながら微笑んだ。

 

「そこの君も、早く来いよ。オーナーの言ってた新入りだろ、君」

「い……いいんですか?」

 

 彼の言葉に、ボクは率直に驚いた。イルダから話を聞いているなら、ボクがどういう存在(・・・・・・)かも、彼は知っているはずだ。

 しかしそんなことは気にしないとでも言うように、彼の大きな手がボクの肩へと置かれる。

 

「ウチの船の方針でね。食事は皆で一緒に取ることになっている。家族だからな」

「家族……」

 

 そう話しながら、男性がボクの背中を押した。歩け、と言いたいらしい。

 家族とまで言われたら、従わないといけない気がした。多分、年齢的にはイルダと同じか少し上くらい。ボクが息子なら、彼は父親だろう。

 と、エレベーターの前までやって来た彼が、ウインクしながら振り返った。

 

「ああ、自己紹介がまだだったな。リカルド・スフォルツァ。この灰域踏破船『クリサンセマム』のパイロットにして、料理長兼、オーナーの秘書兼、家事担当。一応、ハウンドと共にアラガミ討伐に出ることもある」

「い、忙しいんですね……」

 

 彼――リカルドが話した内容に、驚きを隠せないボクだ。仕事を抱えすぎているにも程がある。船の雑事を一手に担うどころか、パイロット業にイルダの秘書にと、重要な職務まで担当していることになる。そんな重要人物をアラガミ討伐に出していいのだろうか、イルダは。

 困惑しながら声を発するボクに、リカルドが苦笑しつつまた背を押す。

 

「昔なじみなもんでね。ま、生活に刺激があるのはいいことだ。ほら、早く」

「は、はい」

 

 促されるようにエレベーターに乗り込んで、ボク達は「クリサンセマム」の居住区にやって来た。エレベーターを出て右に曲がり、そのまま突き当たりまで行ったところが食堂だ。中に入ると、既に全員が勢揃いしている。

 

「リカルドさん、今日のメシなに!?」

「今日はごちそうだぞ、サルーキの歓迎も兼ねて、ミートローフだ」

「やった! マジでごちそうじゃん」

「ごちそう!」

 

 キースがリカルドに声をかけると、ボクの傍から離れてキッチンの方に向かいながらリカルドが笑う。ミートローフ。どんな料理だったっけ。皆の話しぶりからして、そうそう出ることのないごちそうなのは分かるけれど。ジークとフィムが満面の笑みで喜んでいる。

 そうして程なくして、リカルドが人数分の皿を持ってきた。

 ボクの前にも運ばれてきた皿を目にして、ボクは驚きに目を見張った。

 肉だ。整形されてオーブンで焼かれたらしい、スライスされたひき肉料理。中にはみじん切りにされた根菜や、ゆで卵も顔を覗かせている。

 驚いた。この世界で肉なんて、そうそう食べられないだろうに。添えられたパンも焼き立てだ。二つもある。

 

「す、すごい……」

「凄いだろ? 世界がこんなに荒れ果てているって言うのに、リカルドは美味い料理を作って、俺達AGEにも食わせてくれる」

「ほんと、うちのミナトは恵まれているよ。前のミナトじゃ食事抜きなんてのも、珍しくなかったしな」

 

 ユウゴが満面の笑みで話しながらパンを割ると、ビクトルもパンにかじりついてから言った。その言葉に、小さく首を傾げるボクである。

 

「前のミナト?」

「あぁ、ハウンドは元々、ペニーウォートっていう別のミナトの所属だったんだ。ミナトが灰嵐に飲まれた時に、クリサンセマムに拾ってもらった」

 

 ユウゴの話に、ため息をつくボクだ。そういえばユウゴも、ビクトルも、ジークも、キースも、同じファミリーネームを名乗っていた。どうやらミナトの名前が、そのままファミリーネームになる仕組みらしい。

 首を戻すボクを見ながら、キースがにこにこしつつ言う。

 

「この船、水耕栽培システムも搭載しててさ。小麦だったり野菜だったり、自分とこで作ってるんだ。どどっと人数が増えると流石に賄いきれなくなるけど」

「い……いいんですか? あの、ボク別に、人間と同じもの食べなくても大丈夫だし……」

 

 彼の言葉に、ボクは慌てて手を振った。この船が出来る補給だって、入ってくる補給物資だって有限だ。ボクが一人、いや一匹増えることでその物資を多く減らすわけにはいかない。

 何しろボクはアラガミなのだ。人間と同じものを食べなくても生きていける。ボクが食事を食べないことで皆が食べられるようになるなら、ボクはその方がいい。

 しかし、イルダはミートローフにナイフを入れながら、ゆるゆると頭を振った。

 

「いいのよ。家族だって言ったでしょう? 人間も、ゴッドイーターも、アラガミも、家族として一緒に暮らすのなら、そこに違いはないわ。食べるものも、寝るところも」

「ね……寝るところも?」

 

 彼女の発言に、ボクは戸惑いがちに言葉を返した。もう一度言う、ボクはアラガミだ。そのアラガミと寝床を一緒にするようなマネを、まともな人間がするとは思えない。

 ビクトルがミートローフの中に収められたゆで卵を真っ二つにしながら、天井を見上げる。

 

「ああ。でも男性用のキャビンに空き……あったっけな?」

「一つくらい空いてるんじゃね? 俺たちと同じ部屋にするか分かんないしさ」

「女性用キャビンだったら確実に一つ空いているぞ」

「わんわんといっしょにねる!」

 

 ジークがぺろりと舌なめずりすると、ルルが口元を拭いながらサラッと言った。フィムに至ってはボクと一緒に寝ようと言いだしている。

 いやいや、ちょっと待って欲しい。色々と申し訳ないし、許されない気しかしない。

 

「え、ええ……いや、流石に女性用の部屋に入れてもらうのは……というかいいんですか、皆さんと同室というのも、なんかこう申し訳ない気分に」

「ならなくていいから心配するなって。ほら、さっさと食え食え」

 

 困惑する僕の背中を、ユウゴが叩いた。突然叩かれてびっくりしながらも、ボクはフォークとナイフを手に取った。

 

「い……いただきます」

 

 見れば、皆はほとんどが食べ終わっている。あとはボクだけだ。

 恐る恐る、ボクはミートローフにフォークを入れた。肉の部分を刺して口に運ぶ。ボディスーツの口はそのまま僕の口に繋がって、口の中に肉を送り届けてくれた。

 そして感じた。とても美味しい。脂っこさこそ無いが、その旨味はものすごい。肉の旨味だけではない、混ぜ込まれた根菜の旨味も、甘味も一緒に感じられる。

 驚いた。こんな美味しい料理をこんな時に食べられるなんて。

 目を白黒させながらも、ボクは食べる手が止まらない。

 

「お……美味しい……!!」

「そうだろ? リカルドのメシは超美味いんだぞ」

「喜んでもらえて何よりだ」

 

 自慢気に言ってくるジークの隣で、リカルドが満足そうに頷いた。すると彼は隣に座るイルダへと、垂れた目を向けつつ話す。

 

「しかし、オーナーはよくよく、変わった連中と縁があるよな。ハウンドの連中に、フィムに、サルーキに」

「そういう星の巡りなのかもしれないわね」

 

 なんでも無いことのようにそう言いながら、イルダが満足そうにナプキンで口元を拭いた。そんな会話をする二人を他所に、ボクはパンを口へと運ぶ。こちらも小麦の甘味が感じられて、とても美味しい。

 

「んむっ、パンも、美味しいですっ」

「そうかそうか、よかった」

 

 ボディスーツの下で満面の笑みを見せるボクに、リカルドは笑顔を見せつつ嬉しそうに頷く。この船は確かに恵まれている。ボクはそうひしひしと感じていた。

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