GOD EATER 3 -BEAST- ~人の心を宿した神は、人を守るべく神を喰らう~   作:Ingwelsh

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第9話 - 出陣

 夕食を終えた後は自由時間、かと思いきや、AGE達はまだまだ気の休まる様子がない、と言った感じだ。

 ターミナルをチェックしたり、自室に戻ったり、やることは様々だが、有事の際にはいつでも飛び出せるように準備しているのが分かる。

 ビクトルもブリッジの中央に設置された巨大な光り輝く球体の前、そこにつながるように設置された椅子に座って目を閉じていた。

 

「ふー……」

 

 彼が深呼吸をして椅子の肘置きに置いた手に力を込めると、途端に後方に浮かぶ球体が輝き出した。中央には大きなマーク、その周囲には地形上方、そしてなにやら動いている光点がたくさん表示されている。

 そのスケールの大きさに圧倒されながら、ボクは隣に立って満足そうに笑うイルダに声をかけた。

 

「イルダさん、これは……? すごく大きいですけど……」

 

 今もボクの視界では、ビクトルの後ろの球体が次々に光を増やし、映す範囲を増やしているのが見える。その球体を見上げながら、イルダはにっこりと微笑んだ。

 

「私達の船が搭載している『感応レーダー』よ。これを使って、灰域の中を活動するアラガミの存在をキャッチするの」

 

 曰く、濃い灰域の進んでいくのに目視による視野確保は行えないため、これのような感応レーダーを搭載して周辺の状況、地形を確認しながら進んでいるらしい。この感応レーダーが検知できる範囲は「航海士」と呼ばれる特殊な訓練を積んだゴッドイーターの技量によって違い、ビクトルは実に数百マイルもの範囲を見渡すことが出来るのだとか。

 その感知範囲の広さにボクは目を見開いた。とてつもなく広い。

 

「すごい……それを、ビクトルさんが?」

「彼らを拾った時、偶然に高い適性を持つことが判明してね。それ以降、一任しているというわけ」

 

 そう話しながらイルダが目を細める。と、話をしている横でビクトルが小さく目を見開いた。

 

「……!」

「何か見つけた?」

 

 ハッとした表情になるビクトルに、イルダが声をかける。すぐに頷いたビクトルが、険しい表情をしながら言った。

 

「ああ。ここから南東に7マイルの地点、複数の中型アラガミの存在をキャッチした。こちらに向かっている」

 

 大きく広がっていたレーダーの光が、急速に一点に拡大されていく。その光は高速で一直線に動き、この灰域踏破船に向かって突き進んでいた。

 間違いない、アラガミがこちらに近づいている。

 近くのカウンターでモニターしていたエミリーも、眉尻を持ち上げながら頷く。

 

「私の方でも確認しました。シユウ2体に、ネヴァン1体と思われます」

「なるほどね……」

 

 その報告に、イルダが少々考え込む表情をした。

 シユウにネヴァン、どちらも中型のアラガミだ。どちらも鳥人のような外見をしているとは言っても、立ち回り方や攻撃方法はそれぞれ異なる。一緒に相手取るには、生半可な技量では厳しいだろう。

 だが、そうして悶々と考えるボクを見ながら、イルダが笑った。

 

「サルーキの肩慣らしには、ちょうどいいかしら?」

「えっ」

 

 その言葉にキョトンとしながら、ボクは顔を上げた。

 肩慣らし、ということは、ボクはこれからそのアラガミを相手に戦闘をする、ということだろうか。

 ちょっと待って欲しい、まだゴッドイーターとしての戦闘経験の浅いボクに、これを相手にするのは無理がないだろうか。いくらボクがアラガミで、神機が強いと言っても。

 しかし、他の面々は涼しい顔だ。それどころか、ボクが易易と依頼を終えられるという風に話をしている。

 

「そうだろうな。そいつは強いだろうが、そのボディスーツを着ての戦闘に慣れておく必要もある」

「あー、分かる。服を変えた後って動きづらくなるもんな」

 

 ビクトルも、ジークも、二人揃ってそんな調子だ。まごつくボクを差し置いて、イルダが話は済んだと言わんばかりに頷く。

 

「決まりね。ユウゴ、出られる?」

「ああ、問題ない。それと、念のためにビクトルも連れていくぞ」

 

 彼女の言葉に、水を向けられたユウゴがこくりと頷いた。そんな彼が視線を向けた先のビクトルも頷く。

 つまり、ユウゴ、ビクトル、ボクの三人で出るということで決まりらしい。イルダもそれに異論はないようだ。

 

「いいわ。いってらっしゃい。よろしく頼むわね」

「ああ」

 

 そうして、ユウゴとビクトルはさっさと船の出撃用ハッチに向かおうとする。ボクもそれについていかないとならないのだろうが、そう簡単に済ませられる問題じゃない。

 

「さ、三人でいいんですか? AGEのチームって、四人一組が基本だって聞いたことが……」

「なんだ、よく知ってるな?」

 

 戸惑いがちに発したボクの声に、まず反応したのはリカルドだった。

 一応、ボクもアラガミとして、知ってはいる。ゴッドイーターは一個小隊としての四人一組のチームで行動することが基本で、大概のゴッドイーターはその枠組の中で仕事をするのだ、と。

 それを、今回は三人。いくらボクの力を見るための仕事だとしたって、イレギュラーが過ぎる。

 だが、他の面々は涼しい顔だ。ジークがボクの肩を強く叩いてくる。

 

「なんだよサルーキ、心配なのか?」

「相手はシユウ二匹にネヴァン一匹、対してこちらはハウンドの最大戦力の二人が揃い踏みだ。何も心配することはない」

 

 ルルも表情をちっとも動かさないでそう言った。

 確かにビクトルはハウンドのエースだと聞いているし、ユウゴはそのハウンドのリーダーだということだ。その実力に疑問を挟む予知はない。

 そして、そこにボクが加わる。ボクの神機はビクトルのそれよりも強いということが分かっているし、それを考えれば戦力としては、確かに十分だろう。

 だけど、数値上の話だけでどうにかなるものでもない。万一の事故やトラブルの可能性だってあるのだ。

 

「それは……そうですけど……」

「大丈夫だ、サルーキ」

 

 言い淀むボクに対し、肩を叩きながら言ってくるのはユウゴだった。ビクトルに指を向けながら話す。

 

「俺も、こいつも、絶対に死なない。それに今回は、お前がいる。だろ?」

 

 その言葉に、チクリと胸が痛む。

 ああ、なんだろう。そこまで言われてしまってはボクが何を言ってもしょうがない。それに、その慢心とも取れる自信たっぷりな言葉。

 でも、その言葉に反論する言葉を、ボクは持たない。こくりと頷くしかなかった。

 

「……分かりました、頑張ります」

 

 もう後には引けない。ボクのAGEとしての初仕事は、すぐそこまで迫っているのだ。

 エイミーが指を振りながら、にこやかに笑みを向けてくる。

 

「現場は凍結プラント、中央制御棟になります。いってらっしゃいませ! 頑張ってくださいね!」

 

 その言葉に、ボクも、ユウゴも、ビクトルも頷いた。そして改めて、出撃用のハッチに向かう。

 

「よし、出るぞ」

「ああ」

「……はい」

 

 出撃用ハッチには、現地に向かうためのバギーが用意されていた。勿論、対アラガミ装甲壁にカバーされた、灰域の中も走行できる代物だ。

 これに乗り込み、アラガミの迎撃地点へと向かう算段だ。ボクの身につけるボディスーツを着たままでも、何とか中には乗り込める。

 ユウゴの運転で現地の凍結プラントに向かう中、ボクは車体の揺れに身を任せながら、ずっと下を向いていた。

 

「……」

 

 ボディスーツ越しに見える視界。着ぐるみのようになった両手と両足が見える。

 この状態で、上手く戦えるか、という心配はそんなにない。身体を動かすのも、物を口に入れるのも、今の所全く問題はない。試してみたら神機もちゃんと出せた。

 だけれど、やはり。心の底に淀んだ心配事は拭えなくて。

 手元をぎゅっと握るボクに、隣に座るビクトルが声をかけてきた。

 

「どうした、サルーキ」

「いえ、その……」

 

 彼の言葉にはっきり言葉を返せないでいると、前の席でハンドルを握るユウゴが口を開いた。

 

「不安か?」

 

 彼のその言葉に、ぴくりと身体が震える。

 不安。確かに、不安を覚えていると言えばその通りだ。

 

「……はい。何と言うか、その……」

 

 ボクが言葉を選び、また話す言葉に悩んでいるのを、二人は急かさない。ただ、ボクの次の言葉を待っている。

 その後の少々の沈黙。そしてボクは、思った通りの言葉を吐き出した。

 

「いいのかな、って、思っちゃって」

 

 不安は、やはりあったわけだ。ボクがAGEとしてミッションに参加することが、ではない。ボクをミッションに参加させることによって、クリサンセマムというミナトに影響がないか、という不安だ。

 クリサンセマム所属のAGE、という形になってこそいるが、ボクはアラガミだ。れっきとした、アラガミだ。それをミッションという形で外に出して、いいものか。

 そのボクの逡巡を見透かしてか、ユウゴがボクに声をかけてくる。

 

「お前がアラガミだから、ってことか?」

「……はい」

 

 その言葉に、素直に頷くボクだ。

 それはそうだろう。本来のAGEと違って、ボディスーツの中身は人間の形をしていないボクが、AGEとして活動しているところをよその集団に見られたらどうなるか。考えないほどボクは考えなしではない。

 だが、二人はそれほど気にしていない様子だった。ユウゴが小さく笑いながらハンドルを切る。

 

「気にしなくていいさ。俺達AGEもアラガミみたいなもんだ。たまたま人間の形を保ち続けて、捕食本能を抑制しているに過ぎない」

「そうさ。サルーキはたまたま、アラガミらしい姿をして生まれてきただけに過ぎない。それに、今はクリサンセマムの正規のAGEだろう?」

 

 隣に座るビクトルもあっさりと言ってくる。

 どうなんだろう、ボクが心配し過ぎなだけだろうか。でも、やはり心配なものは心配だ。

 

「……」

「ま、納得できるまで時間はかかるだろうさ。焦らず行こう……もうすぐ着くぞ」

 

 再びうつむくボクに、ユウゴが声をかけてくる。目的地の凍結プラントは、もうすぐそこまで迫ってきていた。

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