性格つきましては、序盤は原作を。成長過程で徐々にアニメへ、智代アフターに近いイメージへ変化していく予定です。
車窓に広がる景色は、懐かしいよりも、真新しさを感じさせた。
あれから、5年以上も経ったのだから無理もない。
何もかも変わらずにはいられない、か。確かに、その通りだ。この町も、俺も変わった。たぶん、これからも変わり続けていくだろう。
「あとどれくらいでつくの?」
膝の上に座って、パックジュースを飲んでいた小さな女の子が、顔を見上げて訊いてきた。
「もう少しだ。あ、ほら、もうすぐ着くってさ」
ちょうど良いタイミングで、列車内に到着を知らせるアナウンスが流れる。棚から荷物を降ろして、下車の準備を整える。アナウンスから数分後、予定到着時間ちょうどに駅に停車した。
「忘れ物はないな? 行くぞ」
「おーっ」
はぐれないように手を繋いで、列車を降りる。
始発で来たためか、若干人数もまばらなホームを抜けて、改札を潜り駅郊外へ出る。すると、駅の外には出迎えに来てくれていた。
あの短くも、濃い時間を共に過ごした日々の中で出会った人たちが、明るい笑顔で出迎えてくれた――。
* * *
「転校!?」
金髪の男子――
突然呼び出しを受けたと思えば、また唐突な話しに頭が付いて来ないが、詳しく話しを伺う。
「どういうことなんだ? ジイさん」
「うむ。先日、職員会議が行われた。このままでは、退学の可能性が出てきた。一部の教員が、お前たちを快く想っていなくてな」
誰を差しているかは、何となく想像が付いた。今年赴任してきた、新しい生活指導の教師。中庭で昼飯を食べていただけで因縁をつけて来た、あの絵に描いたような頭の硬い体育会系の教師のことだろう。初対面にもかかわらず、あからさまな喧嘩腰の態度に若干イラッと来たことを覚えている。
老教師の話では、前任から引き継いだ資料を見て、俺たちのことを手の施しようのない悪童と思い込んでいるとのことだ。
成績不良、遅刻、早退、欠席、サボりの常習犯。実際に接した態度の悪さを理由に挙げ、他の生徒に悪影響を及ぼす前に退学処分にするべきとの発言があったらしい。だが、それは行き過ぎだと、老教師を含めた数名の教職員が庇ってくれたそうだが。しかし、話しはまとまらず。強硬派と穏健派に分かれ、議論は真っ向から対立。事態を治めるための対案、妥協案として出されたのが――。
「転校ねぇ~」
学校併設の学生寮の一室。雑誌や服が無造作に散らばった部屋の万年炬燵に足をつっこんで、気怠そうに天井を眺めながら呟いた
「どうするよ?
そんなこと今は、どうでもいい。今、直面している問題の方が遥かに重要事項。まあ、訊かれたところで答えなんてものは、そう簡単に出るはずがない。ただ一つだけ確定していることは、二学期開始までの一週間以内に答えを出さなければ、自主退学を勧告されるということ。
生活態度を改めるか、提案を受け入れ、老教師の知人が校長を務める地方の学校へ転校するか。どちらかを選択しなければならない。
「それにさ。いくら進学校のウチより劣るって言っても、試験で赤点回避しないといけないんだろ」
同時に提示された条件。
今の学校に残るにしても、提案を受け入れ転校するにしても、一年以内に試験で全科目赤点を回避しなければならない。スポーツ推薦の特待枠で入学し、まともに授業を受けて来なかった落ちこぼれの俺たちには、無理難題な話しだ。
「ジイさんは、ああ言ってたけどさぁ~。ぶっちゃっけ厄介払いの島流しだよね。どっちに転んでも痛い思いはしない訳だし。あーあ、このまま実家帰ろっかな~? 別に、特別思い入れがあるわけでもないし」
脳天気な台詞に思わずタメ息が漏れる。いいよな、帰れる実家があるヤツは気楽で。コタツを出て、立ち上がる。
「あれ? 帰んの?」
「こうしてても仕方ないからな」
「それもそうだねぇ。僕も今日は、のんびり過ごすことにするよ」
ドアノブに手をかけて、立ち止まる。
「そういえば、この寮ってさ......やっぱいいや」
「何だよ、言えよ!?」
少し間を開けて、意味深にゆっくりドアを閉めると、悲鳴にも似た叫び声がドア越しに廊下まで聞こえてきた。少しだけ気が晴れた。学校併設の男子寮を出て、すっかり葉桜になった桜並木の坂道を下り、やや寂れた商店街で時間を潰して、空が薄暗くなり始めた頃、家路を歩く。
――まだ、早かったか。
窓には、明かりが点っていた。踵を返す。
「おや」
背中から、あの人の声が聞こえた。
「
この人から発せられる声、その言葉使いの全てが、俺の心の中のモヤモヤした感情をより一層引き立てる。
「ああ......」
「そうか。僕は、今から出掛けてくるから入れ違いだね。今度、ゆっくり話せるといいね」
「出掛けるんだろ。油売ってる暇なんてあるのか?」
「ああ、そうだったね。じゃあ、また――」
背中を丸めて歩いて行く姿が、しばらく脳裏を離れなかった。
無造作にカバンを置き、灯りを消した暗闇の部屋の中、ベッドに寝転んで天井を見上げる。
「くそ......」
モヤモヤが晴れない。晴れる日が来ることなんて、あるのだろうか。
――この町は、嫌いだ。忘れたい思い出が染みついた場所だから。
結局この日は、晩飯を食べる食欲もなく。
心の中をうごめく感情を抱えながら、深い眠りについた。
* * *
そして、翌日。
昨日の件を話し合うため、
「あん? お前、受け入れるのか?」
「まーね! 気付いちゃったんだよね~。ほら、僕って天才じゃん?」
「いや、アホだろ」
事実、それが原因で今の状況になってるんだから。頭が良いなら、テストで良い点を取ってしまえばいいだけだ。成績が良ければ多少素行不良でも、教師も文句は言わないだろう。
「はっきり言わないでくれますかね......? てか、頷いてくれないと話しが進まないだろ」
「で、何だよ? 自称天才」
「何か引っかかるんすけど。まあ、いいや。気付いちゃったんだよね~。ほら、僕って天才じゃん?」
そこから始めないと気が済まないのか。面倒くさい奴だ。
「別に、無理してテストで良い点取らなくても、他で結果を残しちゃえばいいってさ!」
何が言いたいのかと言うと、つまり、こういうこと。
はなっから勉強のことは諦めて、部活で得点を稼ぐ。特待枠で入った運動能力を転校先で活かせばいい、と。
「ふーん、アホにしては考えたな」
「まあね! って、またナチュラルにバカにしただろ!?」
「バカにはしてない。アホにはしたけど」
「あっそっか、って同じだよ! とにかく! 持ってる武器を使わない手はないってことさ」
「まあ、お前はそうすればいいんじゃないか」
ヘタレのお前が、長続きするとは思わないけど。ヘタレだし。
「心の声が漏れてるんですが? しかも、ヘタレって二回も言っただろ!」
「ああ、悪い。つい本音が出た」
「全然フォローになってないんすけど......!」
苦虫をかみつぶしたよう
「で。お前は、どうすんだよ?」
今年度の試験は、あと三回。今さら真面目に勉強したところで、この名門進学校で赤点回避なんてどだい無理な話し。
それに何より――この町から、あの人から、他人行儀の父親から距離を置くことが出来る。
どんなに早くても、今の学校を卒業してからだと思っていた。だけど――。
「......行くか。どうせ、退学勧告を待つだけだし」
もしかしたら、良い機会なのかもしれない。
「ははっ、お前も無謀なアホだな!」
「うっせーよ。ヘタレ」
「ヘタレって言うなよ!」
「じゃあ、バカ」
「......バカの方が傷つくことに今、気付いた」
我ながら、アホな会話だ。
さて、どうなるんだろうな、これから――。
この選択が正解なのか、間違っているのかは分からない。
だけど、何かが変わる。いや、違う。変えたかったんだ。
今、行動することによって俺の、今後の人生における重要な何かが変わる――そんな気がしたんだ。
第一話拝読ありがとうございました。
感想などお気軽にどうぞ。