~辿り着く場所~   作:ナナシの新人

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Episode9

 授業終わりの四葉(よつば)のことを、教室の前で待っていたのは、女子バスケットボール部の部長だった。

 彼女が、四葉(よつば)を待っていた理由は、女子バスケ部存続の危機を乗り越えるための協力。

 女バスは現在、部員が五人しかおらず。転校してきた当初、部員の一人がケガをしていたこともあって、運動神経抜群の四葉(よつば)が、助っ人として出場したことがあったそうだ。

 しかし、またケガ人が出てしまい。症状自体は軽い捻挫だが、常時活動できる部員が、またしても四人になってしまった。そこへ、男子バスケットボール部が練習時間の再調整を要求。練習時間を削られる女バスとしては当然、提案を受け入れられず。今まで通り活動を続けるため、部員のケガが治るまでの間、四葉(よつば)に練習への参加を、救いの手を求めた。

 

「つーか、どの学校だって似たようなもんじゃないの?」

「普通は、な」

 

 名門・強豪校以外は、基本的に専用のコートなんてものはない。

 他の部活と体育館の使用時間を調整したり、ネット等の間仕切りして、練習スペースを区切って使用するのが普通だ。

 

「だろ? 僕んとこだって、サッカー専用グラウンドなんてなかったし。すぐ隣から、野球部の打球が飛んでくることも日常茶飯事だったよ」

「危ねーな」

「いや、普通に当たったって。マジで」

 

 たぶん......いや、間違いなく、四葉(よつば)は引き受ける。そういうヤツだ。たった三ヶ月あまりの付き合いしかないけど、それが容易に想像出来る。クラスでも面倒事を嫌な顔をひとつせずに率先して買って出られる、人の良さ。魅力的な長所なんだろうけど、今回みたいな場合は、損な性格だ。

 

「さすがに無理がある。無謀だ」

 

 四葉(よつば)は今現在、陸上部の助っ人をしている。同時に、期末試験に向けて勉強も並行して行っている。そこへ、女バスの練習が加わるなんてことになれば、必ずどこかで息切れ(パンク)する。最悪、倒れる。

 

「そもそもさ。勝てないのは、実力がないからじゃん」

「それを、練習時間を増やすことで補おうってんだろ」

「無駄だと思うけどね、僕は」

「珍しく意見が合ったな」

「あははっ、スポーツ特待同士のフィーリングってヤツかな?」

「かもな」

 

 あながち間違っていない。

 安易に練習時間を延ばしたところで、その分間延びするだけで終わるだろう。本気で取り組むなら、フットワークや筋トレなどの基礎トレは、各自が自宅で行えばいい。それで浮いた時間を、部活での練習に充てれば済む話しだ。少なくとも俺は、そうしていた。

 

「それ以前にさ。こういう面倒ないざこざって、学校側が解決する問題だろ?」

「それが、簡単にはいかないんだよ」

 

 予定の時間よりも十分ほど遅れて、武田(たけだ)が図書室へやって来た。

 

「やあ、お待たせ」

「のんびりだったな、何してたんだ?」

「お察しの通りの事だよ。今、キミたちがしていた話しを調べていたんだ」

 

 椅子を引いて座り、続きを話し出した。

 

「学校側は、今回の件について静観を貫く方針みたいだよ」

「何でだよ?」

「バスケットボール部は男女共に、同じ顧問だからさ」

 

 事態は、思っていた以上に最悪だった。

 顧問としては、表向きどちらにも肩入れは出来ない。普通なら仲介に入る。入らないのは、本音の部分では、活動に制限がある女バスよりも、男バスを優先したいと言ったところか。

 もし仮に、顧問が別々であれば上同士の話し合いで落とし所を見出せたのかも知れないけど。

 

「さっき、上杉(うえすぎ)君たちの様子を見てきたけど。案の定大騒動になっていたよ」

「相当荒れてるだろうな。これ以上、厄介事を背負い込むなって」

「実のところ、陸上部の助っ人も、休日や朝練なしの条件のはずだったらしいんだよ。それも今では、半強制的に参加を余儀なくされてしまっているみたいでね」

 

 四葉(よつば)自身、姉妹で一番のおバカと自称していた。

 これ以上、勉強時間を奪われるのは、四葉(よつば)自身にとって大きなマイナス。

 

「けど、よく調べがついたな」

「僕は、多方面に顔が広いから、ね」

 

 緊張感皆無の爽やかスマイル。

 しかしそれは、一瞬で。真剣な面持ちに変わる。

 

「事態の収束に向けて考えられる解決法は、ふたつ。ひとつは、療養中の部員が戻るまでと条件を書面に残し、一時的に提案を受け入れる。もうひとつは、新な新入部員募集を募りつつ、中野(なかの)さんが一時的に練習に参加する。合同練習と言う方法もなくはないけど、このふたつが現実的だろうね」

「やけに親切だな」

「それは、中野(なかの)姉妹の学業に影響が出れば、上杉(うえすぎ)君の成績にも影響が及ぶからさ。ライバルとしては、それは絶対に避けてもらいたいから、ね!」

 

 分かりやすすぎ。コイツは、良い奴だ。

 武田(たけだ)は、ふたつの提案を提示したが、おそらく前者しかないだろう。期末を控えた大事な時期に、新しく部活を始める物好きなヤツなんてまず居ない。それ以前に興味があるのなら、部員不足に陥ることもなかっただろう。

 

「......結局のところ、部外者の僕達には何も出来ないよ。これは、バスケットボール部の問題だからね」

「なーんか、腑に落ちないねぇ。すんげー消化不良だよ」

 

 ――全くだ。

 どうしようも、何もしてやれないどかしさで、勉強も手に付かなかった。

 

 

           * * *

 

 

「ありえない、ありえないわっ!」

 

 二乃(にの)が、大声を上げた。

 

「お客さま、他のお客さまもいらっしゃいますので――」

「キミは、頭にこないのっ!」

 

 騒がしい客を注意を促しに行ったところ、怒鳴られてしまった。

 

二乃(にの)! 岡崎(おかざき)君に八つ当たりしても解決にはなりません」

「それに、お店の迷惑になる」

「ふんっ」

「それで、四葉(よつば)は、何て?」

「......引き受けると言っています」

 

 予想通りの答え。

 やっぱり、放っておける性格(タチ)じゃない。

 五月(いつき)の言葉を聞いた上杉(うえすぎ)は、腕を組んで、眉間にシワを寄せ、眉尻をつり上げた。

 

「無理だ。体力オバケの四葉(よつば)でも、陸上部の助っ人と、勉強だけで手一杯の状態だ。その上、バスケの練習に参加なんて無謀にも程がある」

「うん。今も、無理してる。昨日も、晩ご飯食べながら寝そうになってた」

「そうですね。最近、夜遅くに帰ってきて、勉強して、朝早くから出掛けています......」

「だいたい勝手なのよっ。相手のこと考えないで、自分の価値観が絶対みたいに押し付けてくるようなのはっ!」

 

 今、上杉(うえすぎ)が気まずそうに視線を逸らしたような......気のせいか。

 結局、上杉(うえすぎ)や姉妹たちも打開策を見出すことは出来なかった。

 そして、答えを先送りにした後日の夜。

 

「ただいま~」

 

 部活終わりの春原(すのはら)が寒そうにして、アパートに帰ってきた。手には、コンビニの袋がぶら下がっている。

 

「遅かったな。練習長引いたのか?」

「ふふーん。それがさ、ちょっと面白い情報を仕入れて来たんだよね」

 

 コタツに入った春原(すのはら)は、湯飲みに茶を注ぎ、袋から出した弁当を広げる。

 

「面白い情報? 何だよ」

「実はさ。男バス、そこまで本気で取り組んでた訳じゃなかったみたいなんだ」

「あん?」

「ほら。最近、サッカー部が強いだろ? 僕のおかげでさ!」

 

 ものスゴーく得意気な顔だ。

 ここは、話しを聞くことを優先して流しておこう。

 

「今まではさ、運動部の中では強い方の部類だったらしいけど。サッカー部が強くなったことで、ちょっと危機感を覚えたみたいなんだ。今の地位が危うくなるってさ」

「なるほど、な......」

 

 それで、練習時間の確保に躍起になっていると。

 それに、サッカー部の春原(すのはら)は、この件の間接的な当事者になっている。俺達が来なければ、こんなことにもならなかったのかも知れない。

 だとしたら――俺達の選択は、間違っていたのではないのだろうか。

 いや、今は、後悔している状況でも、振り返っている余裕もない。問題なのは。

 

「なおさら引かないじゃないか」

「そう、簡単には引き下がらないだろうね。だからさ、分からせてやろうと思ってさ」

「はあ? 分からせるって、何をだよ?」

「決まってるだろ。練習環境なんて関係ないってことをだよ」

 

 全く要領を得ない。端折りすぎかつ、主語が抜けているから意味不明だ。

 

「だから、女バスにいったん受け入れてもらって少し泳がせる。で、いい気になったところを、僕達でぶっ倒すんだよ」

「道場破りかよ」

「その通り、3on3の勝負をふっかける! バスケ部じゃない僕達に負ければさ、練習環境は言い訳でしかないって証明になるだろ? 男バスは態度を改めて、女バスは今まで通り活動できる。ほら、万事解決じゃん」

「そんな都合良く行くわけないだろ」

「そんなことない。僕と岡崎(おかざき)なら出来る!」

「無茶なこと言うな」

 

 コタツを挟んで、無言の睨み合い。

 膠着状態の沈黙を破った春原(すのはら)は、大きなタメ息をついた。

 

武田(たけだ)が言ってた方法だって、あんなの絶対反故にするに決まってるじゃん。一度でも引いたら、既成事実化されて終わりだっての。今さら戻せない、とか言ってさ」

 

 それは、十分あり得る。むしろ、ない可能性の方が低い。

 もし、そうなれば――あいつは、四葉(よつば)は絶対に引きずる。

 何より俺自身が、顔向け出来なくなる。

 今が、返す時なのかも知れない。あの時の借りを――。

 

「どうしたの?」

「いや、探さないとなってな」

「何を?」

「あと一人、足りないだろ」

 

 大満足と言わんばかりの笑顔を見せた春原(すのはら)は、いつもより遅めの夕食に箸を伸ばした。

 

 

           * * *

 

「勝負?」

 

 俺達が、問題集を解いている間、試験対策の参考書に目を落としていた武田(たけだ)が、顔を上げた。

 

「ああ。バスケ部に3on3の勝負を仕掛けるんだ。それで、身の程を知らせてやるのさ」

「それで上手く行くのかい?」

「さーな。俺にも分からん。何も変わらないかも知れない。けど、やらなきゃ何も変わらないのは確かだ」

「そうそう。僕も、それを言いたかったんだよねっ」

「......なるほど。日程は?」

「週末の放課後」

 

 春原(すのはら)の言葉に、問題集を解いていた手が止まる。

 

「週末って......期末試験直前じゃねーか!」

 

 何考えてんだ? そんな大事な時期に組むなんて――。

 

「試験後にずらせ」

「いや、負けたら全員に飯奢るって宣言しちゃったんだよね。アハハ」

「ふむ、男子バスケ部の部員は二十名ほどだったはずだから、ひとり千円として。少なく見積もっても、二万円くらいかな? 食べ盛りだから倍の四万円くらいかかるかも、ね」

「降りる」

「止めてください! お願いします!」

 

 足にすがりついて、必死の形相で懇願してきた。

 そもそもの話し、予定が組まれてるってことは、昨日話しを持ち出す前には、もう既に決まっていたってことじゃないか。

 

「決まってしまっている以上は、仕方ないよ。ここは、まだ準備期間があるとプラスに捉え得るべきだろうね。勉強の方は、バスケの練習を終えてからに変えよう」

「えっ、バスケの練習の後にやるのっ?」

中野(なかの)さんは、陸上部の練習と両立しているんだよ。まさか、キミたちは出来ないのかな?」

「うぐっ......」

「諦めろ、春原(すのはら)。悪いけど、頼むな」

「任せておくれよ。残る問題は、あとひとりのメンバーだけだね」

「お前でいいじゃん」

 

 武田(たけだ)は、爽やかスマイルで答えた。

 

「自慢じゃないけど、運動は得意な方じゃないんだ。足手まといになるだけだよ」

「ホントに自慢になってないよ」

「まいったな。勝負の以前に、面子が揃わないぞ」

四葉(よつば)ちゃんは?」

「本気で言ってるのか?」

「冗談だって、さすがにわきまえてるよ。女バスの部長はどう?」

「無難な選択だろうね。でも、キミたちの狙いが透けて見えるんじゃないかな?」

 

 あくまでも、素人に負けたと言う衝撃を与えるのが目的。そう言う意味では、経験者の部長だと意味がなくなる。

 だけど相手は、強豪じゃないとは言っても、現役だ。生半可で通用するとは思えない。例え素人でも、ある程度動けるヤツじゃないとさすがにキツい。

 

「手当たり次第にあたってみるしかないか。この時期に、そんな物好きなヤツがいればいいけど......」

「前途多難だねぇ~」

「お前が言うなよ」

「僕も、心当たりに声をかけてみるよ」

 

 惜しみなく協力を申し出てくれた武田(たけだ)に感謝し、試験勉強と、助っ人探し。

 そして、試合当日に向けて奔走することになった。

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