「ふっ、侮るなよ。俺の運動能力を......」
正門前で、登校してくるところを待ち伏せして声をかけた
「俺の体力は、
比較対象の
「仕方ないだろ。勉強に不要と思って、運動能力は切り捨ててきたんだ。それ以前に、その方法で事態を打開できるのか?」
「不服なら対案を提出してくれよ、学年一位の天才。僕達にも分かりやすい簡略な方法でさ」
「女バスの部長が、協力の申し出を撤回する」
「はい、分かりました、と素直に受け入れると思うか? あの、
一寸の迷いもなく、
「無駄だろう。
「なら、やるしかないだろ」
「問題そのものをなかったことにする、か。勝算は?」
「フッ、神のみぞ知るってね......。どう? 今のセリフ、カッコ良くないっ!」
俺と
「頼りないセリフだな。宝くじの当選確率の方が高いんじゃないのか?」
「まあ、買わなきゃ当たらねーし。ゼロよりはマシだ」
「それはそうだ。俺に、協力できることはあるか?」
「それこそ、勉強だろ?」
五つ子の姉妹の家庭教師なのだから。一番危うい
「あと。このことは――」
「
「ああ、そっちは任せた」
「よし。じゃあ俺の方も、知り合いに当たって――」
携帯を取り出した
「くっ、この携帯使えねぇ......!」
「アハハッ。まあ僕達は、携帯すら持ってないから、
「全くだな」
連絡手段すら持ち合わせていない。
おかげで、こうして朝早くから待ち伏せするはめになったし。
「あれ? 珍しい組み合わせだね」
声がした方へ、俺達の視線が一斉に向く。
声の主は先日、学校を早退して話し合いに参加していなかった、
「おっはよー。何だか、真面目な
いきなり何を言い出すんだ、
正門から離れて話していたからよかったものの、他人に聞かれていたら面倒なことになってたぞ。
「ふふっ、冗談だよ。
「......からかうなよ。話し、聞いたんだな」
「姉妹だからね。どうやって説得しようか、みんなで話し合ってるよ。家でも、スマホでも。本当はもっと、お姉ちゃんのことを頼って欲しいんだけどね」
「
先ほどのテンションから一転、とてもしおらしく顔を伏せた
「なんてねっ!」
勢いよく顔を上げた
「どう? びっくりした?」
「お、お前なぁ......こんな時に、演技するな」
「あははっ、上手くなったでしょ? じゃあ、先に行くね」
笑顔のまま手を振って、校舎へと歩いて行く。
「今の、ホントに演技?」
「んな訳ないだろ」
「ああ。あれは、作り笑いだ。本心を隠す時のな」
「だよねー」
本当は心配で、心配でどうしようもないクセに、それを周りに悟られまいと作り笑いでごまかす。ああ言うところは、無理して笑う
本当に世話の焼ける姉妹だ。
* * *
一日の授業を終た放課後、俺達は、
「それで、どうだった? メンバー探しの方は」
「全滅だよ。サッカー部の連中に声かけてみたけど、試験前はキツいってさ」
「そっか。僕の方も、似たような返答だったよ」
「やっぱり、この時期に助っ人は無理があるよな......」
空を仰いで吐き出した息は白く、季節は確実に冬へ移り変わっていた。今年も残すところ、あと半月あまり。悔いが残らない様に、キレイに終わらせたいところだけど――。
「女子バスケットボール部の部長には?」
「昼に事情を話した。どのみちテスト前だから、粘って時間を稼いでみるってさ」
「そう。あ、ナビが終わった。この近くようだよ」
「アレじゃない?」
「ほい、ボール」
放られたバスケットボールを受け取り、コートで軽く弾ませる。
最後に触ったのは、もう二年も前こと。懐かしい感触が手のひらに伝わって来る。
感覚を確かめながら弾ませていると、後ろから伸ばされた手に、ボールが弾き飛ばされた。
「へへっ、来いよ!」
ボールを奪い取った
「まあ、ブランクあるし。手抜いてあげるからさっ」
「......後悔すんなよ」
「盛り上がってるけど、準備運動した方がいいと思うよ。今、ケガをしてしまったら支払い確定だよ」
「......ストレッチしてからにしよっか?」
「だな」
忠告を聞き入れ、しっかり体をほぐしてから、ゴールを背に改めて対峙。攻守に分かれて、1on1。
ドリブルで突っ込んで来た
「おおっ!?」
「甘ぇよ」
動き自体は、直線的で単調。体育を真面目に受けておいたおかげで、対応も出来る。
「へぇ、やるじゃん。僕のクイックネスに付いてくるなんてさ。これで、どうよっ!」
体の後ろで弾ませたボールを、持ち手から逆手側へ弾いた。
――バックチェンジ。
「って、お前なぁ」
「あ、あれ? サッカーだと上手く行くんだけどな、アハハ」
背後でバウンドさせたボールを収めきれず、あらぬ方向へと転がっていく。
「せめて、フロントチェンジをノールックで出来るようにならないと、バックチェンジは無理だぞ」
「だって、後ろの方がカッコいいじゃん」
「格好の良し悪しで決めるなよ」
ひとつ息を吐いて、転がったボールを拾いに行く。
すると――。
「オイ、コラ。お前ら、誰の許可貰ってやってんだコラ」
「あん?」
茶髪でオールバックの男が、いきなり因縁を付けてきた。
しかもそいつは、
「今時いるんだねぇ。あんなゴテゴテのヤンキー」
「ん? おや、彼は......」
茶髪が、足下のボールを拾い上げた。
「おい、返せよ」
「誰が返すかコラ」
意味不明な絡みだ。まったく、時間が惜しいってのに。
「フン、返して欲しけりゃ取って――はっ!?」
言い終わる前に素早く踏み込み、左手でスティール。ボールを弾き飛ばし、奪い取る。
「拾ってくれてサンキューな。じゃあな」
「ちょ待てよ!」
「何だよ? 暇じゃないんだ。ケンカ売るなら別のヤツにしてくれ。アイツとか」
「僕を指名しないでいただけませんか!」
「......まぁ、ちょうどいい。お前にも、話しがあったんだ」
ズボンに両手を突っ込んで、これでもかとオラつきながら、
「おいコラ」
「やっぱり、そうだ」
「げっ! 何で、お前がいんだよ......」
どうやら二人は、多少面識があるらしい。
「知り合いか?」
「僕の、クラスメイトだよ。横の席の......横田君」
「
「あ、ごめん。そう、
一瞬で、不穏な空気を変えた。
林間学校の時と同じだ、主導権を握るのが上手い。
「で、何の用だよ? まさか、本気でケンカを売りに来たわけじゃないよな。付き合ってやる暇はないぞ」
「そりゃ返答次第だな......!」
「待っておくれよ。話しは、僕が代わりに聞く。二人は、練習を続けて」
「何でお前が、しゃしゃり出てくんだよっ。俺は、アイツらに話しが――」
「まあまあ、暖かい飲み物でも飲みながら話そう」
「何だったんだろうね?」
「さーな。とりあえず、続けるか」
攻守を交代して、練習再開。
運動能力の高い
「ちょっといいかな?」
「何だ?」
水分補給をしつつ、話しを聞く。聞かされた話は、思いもよらないことだった。
「はあー? 助っ人? このヤンキーが?」
「何だ? 文句あんのかコラ」
「いや、別にないけどさ。探してたし」
「動けるのか?」
「その辺りは、問題ないと思うよ。クラスの中では、運動神経いい方だからね。彼は」
「おい。言っとくけどな、お前らのためじゃねーからな。勘違いすんじゃねーぞ!」
ツンデレってヤツなのだろうか。
「今、僕の中で、ツンデレは美少女ってイメージが崩壊したよ......」
「あっそ」
どうであれ、キャラが濃いヤツなのは間違いなさそうだ。
「じゃあ誰のためだよ?」
「そ、それは、いち......
「
「違う。い、
「ふーん、
なるほど、そう言うことか。
協力を申し出てくれた理由も、因縁をつけて来た理由も、とても分かりやすかった。朝、
「おい金髪! 馴れ馴れしく
「声に出てるぞ」
「あはは、まあ、そう言う理由だから。ともあれ、これでメンバーは揃った訳だね。ちょうど日も暮れて来たことだし、今日は、ここまでにしよう」
近くのファミレスで勉強を見てもらい、各々帰宅の途についた。
* * *
「どうだ?」
「プレーは繊細だな。厳つい顔の割に」
「ケンカ売ってんのかコラ!?」
三人で練習を始めて数日、
「みんな、ちょっといいかな?」
「試合は、いよいよ明日だね。そこで、作戦を立てておこうと思うんだ」
「だな」
「作戦って言っても。
「それだ。お前、抜群に上手いクセに、何でシュート打たねぇーんだよ?」
事情を知っている
「別にいいじゃん。そんなの」
「いや、話しておいた方がいい」
「
「いいんだ。俺は――」
利き腕が、肩から上にあがらない。
「中学ん時に、右肩やっちまって。そんな訳で、左のレイアップくらいしか出来ないんだよ」
「マジかよ、おい......」
「ケガのことは知っていたけど。それ程の故障を抱えた状態、あれだけの動きを......」
「それより、作戦だろ?
「あ、うん。そうだったね」
「勝算は十分あるよ」
「おっ、マジ?」
「例に漏れず、バスケ部も今は、テスト前で練習時間が短くなっているからね。それに、まず本気では来ない」
「どう言うことだ?」
「たいしたデメリットがないからだよ。相手にとってこの試合は、テスト勉強の気晴らしのようなもの。勝てば、ご飯を奢って貰えるけど。負けても特に何もないからね」
言われてみれば、その通りだ。
ただの遊びで本気じゃなかった、と言い訳が立つ試合なら面子は潰れない。
「そこで重要なことは、相手に危機感を植え付けること」
「具体的には?」
「試合開始直後に、強烈なインパクトを与える」
「その気じゃないなら、その気にさせればいいってことか」
「その通りだよ。ただ、普通のプレーじゃダメだけどね」
「ダンクとか?」
「いや、無理だろ。ちょっと試したいことがあるんだ、相手してくれ」
「行くぞ?」
「かかって来い――って、速ぇ!?」
「右!?」
戸惑いながらもシュートブロックに飛んだ
「ふぅ、どうだった?」
「......何で、反対側で着地してんだよ? 訳分かんないっての!」
「普通のレイアップだけじゃキツいと思ってな。まあ、あんま自信ないけど」
「今、空中で動いたよな?」
「よく分からないけど。とりあえず、今のシュートならインパクトを与えるには十分だよ。でも、自信がないのなら保険はかけておきたいね」
「それは僕に任せといてくれよ。良い考えがあるからさ!」
何故だろうか、嫌な予感しかしないのは――。
そして、試合当日の放課後。その予感は的中することになった。
「おい、何だよ......これ?」
「いやー、思った以上に盛況だねぇ~」
放課後の体育館には、そこそこな数のギャラリーが集まっていた。
「宣伝して回った甲斐があったよ。これなら、向こうも本気でやるしかないだろ?」
「確かに、な」
大敗したらシャレにならなくなった。双方どちらにとっても。
その証拠に、相手のスターティングメンバーが代わった。アップをしていた下級生から、ベンチでくつろいでいたレギュラーがコートに出てきた。
「引きずり出せたね、スタメン連中を。じゃあ、速攻、先手必勝で決めようぜ」
「ああ」
女バスの部長が審判を務め、俺達の攻撃で試合開始。
相手にボールを出し、返ってきたボールを受け取り、速攻を仕掛ける。
「速い!?」
「
「ナイスパス!
リターンパスを受け、ドリブルで一気にゴール下まで攻め込む。そして、立ち塞がったディフェンスを練習の時と同様に、フロントチェンジで左右に揺さぶり、リングへ向かって勢いよくジャンプ。ブロックに飛んだ相手の背後へ回り込み、ボールを持ち替えた左手でシュート。
リングに跳ねたボールは、そのままフープを潜った。
「よっしゃ、決まった!」
「ダブルクラッチリバース! ナイス
二人とタッチした、拳を軽く握る。
作戦通り、試合直後の速攻からの奇襲に成功。
今のプレーで、相手の目の色が変わった。
――勝負は、ここからだ。