~辿り着く場所~   作:ナナシの新人

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Episode13

 田園の中を走る単線列車、寂れた田舎駅、一面黄色の菜の花畑、遠くに見える雄大な山々。

 そして、どこまでも遠くまで広がる、夕焼け空の岬。

 いつ見た景色だろう。

 思い出そうとしても、上手く思い出せない。

 ただ確かに、記憶の片隅に残っている。

 誰かに手を引かれ、一緒に歩いていたことだけは――。

 

           * * *

 

「注文いい?」

 

 作業をしていたところへ声をかけられた。エプロンのポケットからメモ帳を取り出し、注文を伺いに行く。テーブル席に座る二人組、一花(いちか)三玖(みく)一花(いちか)は今日が、初めての来店。少し興味あり気に店内を眺めてから、ドリンクメニューに目を通し出した。

 

「お待たせ。どうぞ」

「いつものを、ホットで」

「えっ? いつものって何?」

 

 三玖(みく)の注文を聞いた一花(いちか)は顔を上げ、目を丸くした。

 

「抹茶ソーダの、ホットな」

「通じたっ! それに今のやり取り、まるで常連のお客さんみたいだよ?」

「ダメ元で注文してみたら出てきたんだ。店内で飲める貴重なお店だからときどき通ってる」

 

 三玖(みく)とはたぶん、同じクラスの四葉(よつば)の次くらいに顔を合わせてる。接客とか、商品整理とかやることが多いから、あまり会話をする訳ではないけど。

 

「因みにホットには、アタリとハズレがある。一花(いちか)も試してみる? 抹茶ソーダ占い」

「えーと、ちょっと色んな意味で混乱しちゃってるんだけど。今回は、遠慮しておこうかな」

「そう」

 

 表情にはあまり出ていないが、少し残念そうだ。

 

一花(いちか)は、どうする?」

「あ、うん、じゃあ――」

 

 承った注文の品を用意して、二人のテーブルへ運ぶ。

 一花(いちか)の前には、ミルクと砂糖を添えたホットコーヒーを。三玖(みく)には、抹茶ソーダのホットのティーカップを置く。

 

「ホントにあるんだね。お姉さん、ビックリだよ」

「今日のは......うん、アタリ」

「アタリ・ハズレの定義とは?」

 

 真顔で疑問を投げかける、一花(いちか)

 俺も最初は、彼女と同じリアクションだった。

 以前、三玖(みく)が冗談半分で注文した抹茶ソーダと同様に、正式なメニューには存在しない代物。これも店頭の自販機で買い求めたものを、ティーカップへ移し替えたもの。そんな訳で、多少の運が絡む。

 

「商品補充のタイミングで温度が違うそうだ。冷たいのは、氷でいけるんだけどな」

「ああ~、それで判定してるんだね」

「前の時は、ちょっとぬるかった。けど今日のは、いい感じ。炭酸も飛んでない」

 

 今度は、とても満足そうだ。どうやら大当たりだったらしい。そんな三玖(みく)の姿を見て、一花(いちか)は少し可笑しそう微笑んで、ティーカップを口に運ぶ。

 

「けど、珍しい組み合わせだな」

「ん? そうでもないよ。ショッピングとか、二人で行くし。この間も、二乃(にの)の部屋着を買いにいったよ」

「でも一花(いちか)は最近忙しいから、家以外で一緒なことは貴重になりつつあるかも」

「あはは、そうかもね」

 

 例の、四葉(よつば)と女バスの件の時、用事で学校を早退していて話し合いの場にいなかったことを思い出した。サボりというわけではないだろうし、忙しいのは確かなんだろう。

 それにしても、この二人の様子......四葉(よつば)もだったけど、普段と変わらない。まだ、聞かされていないのか。それとも、聞いた上で納得しているのだろうか。

 どちらにしても、これは、俺が話していいことじゃない。

 それだけは、間違いないんだ。

 

「どうしたの?」

「これは、あれだね。美少女の会話が気になって仕方ないんだよ」

「いや、特に気にならないけど。てか、何の話してたんだ?」

 

 今、一花(いちか)の目が光った。

 

「新しい下着を一緒に選んでもらおうって話してたんだよっ」

「い、一花(いちか)っ?」

「こんなところで話すなよ、時と場合を考えてくれ。ついでに答えは、ノーな」

「あ、本当に聞いてなかったんだ」

「ここまで無関心だと、お姉さん、傷つくよ......?」

 

 本当に、何の話しをしていたんだろうか。

 手を動かしながら、二人の話しに耳をかたむける。話しの内容は、陸上部のことだった。今度の日曜日に、駅伝の大会があって、陸上部の助っ人として参加する、四葉(よつば)の応援について。

 

「絶対寒いよねー」

四葉(よつば)が走る番になるまで、このお店に居させてもらうとか?」

「あ、それいいね。ちょうど、走るコースからも近いし。席の予約ってできるかな?」

「居酒屋じゃないんだけど。まあ、聞いてみる。店長」

 

 レジについている店長に尋ねると、すぐに返事が返ってきた。

 

「できますよー。三日後の日曜日、取り置きしておきますね」

「だってさ」

「やっぱり、融通の利くお店。私の中では、五つ星。でも私たちは五分の一人前だから、一つ星評価」

「何の嫌がらせだ。融通の利く店を、自らの手で潰しにかかるなよ」

「あっははっ、じゃあ私も、星ひとつにしておくねっ」

「やめてくれ......」

 

 その後話題は、明日返却日を迎える期末試験の話しに変わった。二人とも、若干緊張感のある面持ちをしている。

 

「いよいよ明日だね。手応えは、どう?」

「英語は、ちょっと自信ない。一花(いちか)は?」

「私は、国語かな? 理系は大丈夫だと思う」

 

 二人の視線が同じタイミングで、空いた食器を片付けていた俺に向けられた。

 

「何だよ?」

「どうなのかなーって思っただけだよ」

「うん」

「......まぁ、理系以外はボーダーラインギリギリくらいだと思う」

 

 特に、英語と社会には不安が残る。元々苦手な文系の科目な上に、空腹も相まって、何度か集中力が切れかかった。春原(すのはら)は......まあ、確実に赤点があるだろう。

 

「じゃあ、みんな一緒に補習かな?」

「また、フータローにしこたま怒られそう」

「きっと、スパルタで暗記させられるねっ。う~ん!」

 

 椅子に座ったまま一花(いちか)は、大きく伸びをした。

 

「さて、そろそろ帰ろっか?」

「あ、待って。お土産に買っていく」

「手伝うよ」

 

 席を立った二人がトレイとトングを持ってパンを選んでいる間に、テーブルを片付けて、奥の厨房へ入る。流しに食器を置いて、掛け時計を見る。バイト終わりの時間が近づいていた。

 

「すみませーん」

 

 店の方から、一花(いちか)の呼び声。

 急いで戻って、レジを打ち、パンを入れた紙袋を手渡す。

 

「ありがとうございました」

「ごちそうさま」

「ごちそうさまー」

「ああ~、そうだ。三分後に出ると、ちょっとしたサプライズに立ち会えるぞ」

「サプライズ?」

「それはつまり、一緒に帰ろうとナンパしてるんだねっ!」

「三分じゃ帰り支度なんてできねーよ。店長、お先に失礼します」

「はーい、ご苦労さま。またよろしくね」

 

 奥に下がって洗い物をしていると「わぁ!」と、弾んだ声が表から聞こえた。手を止めて、窓の外へ目を向ける。

 定刻通り点灯された、青と白を基調とした鮮やかなイルミネーションで彩られた町の通りを、仲良く歩幅を合わせて歩いている姉妹の姿が目に映った。

 これで、もし雪が降っていたらスノードームみたいだなと、ガラでもないことを思ってしまうほど、二人の姿は絵になっていた。

 

           * * *

 

 翌日、放課後のホームルーム後に、期末試験の結果発表。

 出席番号順に結果が記された紙を受け取り、席へ戻る。受け取った紙に書かれた結果を若干緊張しながら確認。裏にして机に伏せ置き、深くゆっくり息を吐いて天井を仰いだ。

 

「どうだったよ? 見せてくれよ」

「あ、おい――」

 

 結果を受け止めていたところを春原(すのはら)に、横からかっ攫われた。

 

「おっ、四科目もクリアしてるじゃん。数学は60点近いし、理系の方が得意ってのはマジだったんだね。んで、唯一落とした科目は......英語か。文系は、お互い鬼門だねぇ」

「合計点数でならクリアしてるんだけどな」

 

 兎にも角にも、これで崖っぷちに追い込まれた。

 退学宣告回避のチャンスは、あと一回。来年の年度末試験が、本当に最後の勝負。

 

「あと一回じゃない、まだ一回あるんだ! ほら、そう考えれば気持ちも楽になっただろ?」

「ああ、そうだな。今回は、そのポジティブさを素直に見習わせてもらう」

 

 しかし、春原(すのはら)は、この時気付いていなかったんだ。

 

「既に自分が、崖の下に落ちているということに......!」

「......まる聞こえなんすけど。言っておくけどな、僕も、二科目クリアしたんだぜ」

「マジかよ?」

 

 春原(すのはら)の結果を見ると、社会と理科の二科目で赤点ラインの30点を越えていた。

 

「中間試験オール7のジャックポットから大躍進だな」

「フッ、僕をナメてもらったら困るね。本気になれば、こんなものさ!」

「わぁー、お二人ともスゴいですね!」

 

 担任から試験結果の紙を受け取った四葉(よつば)が、席へ戻ってきた。

 

四葉(よつば)ちゃんは、どうだったの?」

「今回は、国語と社会の二科目でした」

 

 それでも、全科目で中間の点数を上回っている。部活との両立していたという点を考慮すれば、試験勉強に時間を割けた俺よりも、二人の方が伸びしろは高いのかも知れない。

 

「また仲良く補習だねぇ」

「あはは、よろしくお願いしまーす。では私は、お先に失礼しますっ」

 

 笑顔で敬礼した四葉(よつば)は、仲の良い女子と挨拶を交わしながら教室を出て行った。

 

「さて、俺たちも行くか」

「どこへ?」

「図書室。武田(たけだ)が、結果から反省点を教えてくれるって言ってたじゃないか」

「ああ~、そんなこと言ってたね」

「ハァ、さっさと行くぞ」

 

 バッグを肩に担いで、図書室へ向かう。武田(たけだ)は既に来て、窓際の四人がけの席に座っていた。空いている席に座り、結果報告。

 

「二人とも、僕の予想以上の結果だよ」

 

 いつも通りの爽やかな笑顔の上に、満足感も加わっている。

 

岡崎(おかざき)君は、本当にあと一歩のところだったね」

「少し集中力が切れた」

「ケガの影響かな?」

「それはない」

「うん。そうだね」

 

 こう言うところは、しっかり空気を読むヤツだ。

 だから、教えてもらっている時も素直に受けられる。

 

「お前は、どうだった? 俺達の面倒とか、バスケの練習にも付き合わせちまったし」

「残念ながら。今回も、二位に終わったよ」

 

 結果を見せてもらう。記されていた数字は、正に雲の上。

 満点が、三科目。残り二科目も90点台半ばをたたき出していた。

 

「これで、二位なのかよ。ってことは一位は、上杉(うえすぎ)か」

「また全部満点なのー?」

「お察しの通りだよ」

「アハハ、バケモノだね」

「もう、満点取るしかないってことか。俺達の勉強見てなかったら、チャンスあったんじゃないのか?」

「そんなことはないさ。教える側に立ってから問題点を見るようになって、僕自身のケアレスミスが減った自覚があるからね。その証拠に、中間試験よりも成績が上がったから、ね!」

 

 爽やかにウインクした笑顔が一転、どこか儚げな顔に変わった。

 

「......付き合いは短いけど。僕は、キミたちのことを本当に友達だと思っているよ」

「はぁ? 何だよ急に、マジなトーンで」

「何かあったのか? 親父さんと――」

 

 前は飲み込んだ言葉を口に出す。

 

「......今は、話せないんだ。でも、いつの日か話せる時が来たら必ず話すよ」

「そっか。じゃあ何か食いにでも行くか? 勉強教えてくれた礼も兼ねて」

「おっ、いいねぇ!」

前田(まえだ)君も誘おう。バスケのお礼をしてないから、ね」

「そう言えば、そうだったな。どこ行く?」

「焼き肉!」

「最近、食ったばかりだろ。年越せなくなるぞ」

「えぇ~、なら、岡崎(おかざき)のバイト先でいいよ」

「パン屋だったね。僕も異論はないよ」

「まっ、いいけど。そのままシフトに入るからな?」

 

 図書室を出て、話しをしながら廊下を歩く。

 武田(たけだ)が、父親とどんな確執があるのかは分からない。

 でもそれは、俺達に関わりのあることだと、なんとなくは分かる。

 だから、待とうと思う。

 必ず話すと言った、友達の言葉を信じて。

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