~辿り着く場所~   作:ナナシの新人

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Episode17

「――わかった。春原(すのはら)には、俺から伝えておく。また何かあれば連絡をくれ。じゃあ......」

 

 終了ボタンをタップし、連絡を寄越せと年賀ハガキを送ってきた老教師、幸村(こうむら)の爺さんと通話を終えて。自室から、コタツがある隣部屋へ戻る。

 

「どう? ちゃんと電話通じた?」

「ああ、おかげさまでな」

 

 正月、三ヶ日の最終日。

 今朝、契約してきたばかりのスマホの使い方をレクチャーしてくれている一花(いちか)二乃(にの)に礼を言って、コタツに入る。

 

「じゃあ次は、アドレス帳だね」

「この番号を、そのまま登録すればいいんだよな?」

「そうよ。通話履歴から新規登録を選んで、名前を入力すればいいわ」

 

 画面とにらめっこしながら慣れない手つきで、名前を打ち込む。下の名前、なんだっけ? まぁ、爺さんでいいか。隣の部屋のテーブルに置きっぱなしの年賀ハガキを取ってくるのも面倒だし。俺自身が分かれば特に問題ない。

 続けて、アパートに完備された無線への接続設定を教えてもらう。パスワードを打ち間違えたり、途中で画面が替わってしまったりと手間取ったが、受信可能な状態になったはず。念のため確認をしてもらう。

 

「オッケー。これで、ネットに繋がってるよ」

「ふぅ、結構ややこしいな......」

「使っているうちに慣れるわ」

「そういうもんか」

「そういうものよ」

 

 結局、使いながら慣れていくしかない。

 次は、学校の連絡先をいちから登録してみる。

 

「へぇ、こんな感じなんだね」

 

 操作に悪戦苦闘する中、対面に座っていたはずの一花(いちか)がいつの間にか、俺が使っている部屋を無断で覗いていた。

 

「勝手に見るなよ」

「見られて困る物があるのかなっ?」

「見たんだからわかるだろ。何もないって」

 

 つまらなそうな顔をして、コタツに戻って来た。

 ちょうど、学校の連絡先の設定が出来た。姉妹たちの父親は今日の午後。バイト先の店長とは、次会う機会に交換すればいい。これで、とりあえず一段落。

 

「サンキューな。助かった」

 

 充電状態にして、スマホを置く。

 

「二件だけでいいの?」

「前に話しただろ。常時連絡を取り合う相手なんて居ないって」

「そう言えば、そんなこと言ってたわね。寂しいわね」

「ほっとけ」

「あははっ。前の学校ではどんなだったの?」

 

 二乃(にの)も、少し興味有り気な視線を向けてきた。

 

「二人とも、スポーツ特待生って聞いたわね」

 

 別に隠すことでもないし、使い方を教えてくれた礼になるのなら安い上がりだ。

 

「町一番の進学校。けど、部活にも結構力を入れてて、スポーツ推薦専用の寮もあった。春原(すのはら)は、サッカー。俺は......バスケ」

 

 俺は、中学時代の故障。春原(すのはら)は、他校との練習試合で乱闘騒ぎを起こして退部を余儀なくされた。

 それで、当時俺の担任だった幸村(こうむら)の爺さんが、俺たちを引き合わせた。たぶん、あのままだと学校を辞めてしまうと思ったんだろう。

 実際、居心地の悪さで辞めていたと思う。いや、辞める辞めない以前に――あの人が庇ってくれなければ、進級はおろか退学処分を言い渡されていたに違いない。今、ここに居られるのは、爺さんのおかげだ。

 

「......まぁ、お互い事情があって、部活はやめちまったけどな。それからは、この通りだよ」

 

 一花(いちか)二乃(にの)は、二人揃って不思議そうな表情を浮かべている。

 

「この通りって、なんのことよ?」

「あん? だから、不良だよ不良」

「えっ、そうなの? 春原(すのはら)はわかるけど、金髪だし。でも――」

「別に、そんな感じに見えないよね。タバコ吸うの?」

「いや、吸わない」

「じゃあ、お酒は?」

「飲まない」

「ケンカは?」

「絡まれた時は、仕方なくやり返した」

 

 ふっかけることはしなかった。面倒なことこの上ない。

 何かと振り回されはしたけど、春原(すのはら)とバカをやってるくらいが一番気楽だった。

 

「それ、不良なの?」

「話しを聞くと、冷めてるだけって感じだよね」

「......少なくとも素行と成績不良だったのは間違いない」

 

 それを理由に、こっちへ転校することになったのは確かだ。

 

春原(すのはら)君の他に、仲のいい友達はいなかったの?」

「仲がいいかはわからないけど、なにかと突っかかってくる物好きなヤツはいたな」

「女の子だね!」

 

 ――なぜ、断言できる。合ってるけど。

 沈黙は肯定と同義と言わんばかりに、一花(いちか)が笑顔になった。

 

「やっぱり! 女子の扱い手慣れてるもんねっ」

「ちょっと待て。誤解を招く言い方はやめろ」

 

 二乃(にの)は冷たい目を、一花(いちか)は小悪魔のような悪戯な笑顔と。まったく正反対の表情をしている。ここは、少し流れを変えておきたい。さて、どうやって矛先をずらすか――。

 

「ふふっ、前に言ってた双子の姉妹だよね? どっちとラブだったの?」

「そんな関係なら、こっちに来てないっての」

「それもそうね」

「ちょっと残念かなぁ。恋バナ聞けると思ったのに」

「まったく。そう言う話しは、お前らの方が豊富だろ」

「ん? どうして?」

「モテるだろ? お前たち」

 

 少なくとも、バスケ部の件で協力してくれた前田(まえだ)は、一花(いちか)に好意を寄せているし。二乃(にの)は、はっきりものを言う方だから、こちらも気兼ねなく話せるタイプだ。

 

「ま、まぁ、一花(いちか)は、たくさんされてるらしいじゃない。告白とかっ」

「わ、私に来たか~」

 

 狙い通り、標的を逸らせた。

 これで、攻勢に転じられる――と行きたいところだったが、あいにくタイムオーバー。二人のスマホに、ほぼ同じタイミングで連絡が入った。

 

「あ! フータロー君が来たって。いつの間に......」

「話しに夢中で気がつかなかったわね。じゃあ行くわ」

「ああ。ありがとな」

「どういたしまして」

「またね」

 

 玄関で二人を見送り、財布と携帯を持って、病院へ行くために家を出た。

 

「経過は良好のようだね」

 

 もう注意して見ないと気がつかないほど薄くなった患部を見て、姉妹の父親はペンを走らせる。

 

「あのー」

「なんだい」

 

 スマホを見せる。

 

「連絡先、用意しました」

「そのようだね。では、教えてもらおうかな」

「あ、はい。あれ......?」

 

 自分の連絡先ってどうやって出せばいいんだ。聞いておけばよかった。

 

「貸してみなさい」

 

 スマホを渡すと、ユーザー情報のページを開いた。どうやら、あれで自分の情報がわかるらしい。

 

「ふむ、まだ設定されていないようだね」

 

 そう言うと首から下げてた携帯ではなく、引き出しの中から取り出したスマホの画面を見て、素速く文字を打ちこんだ。

 

「アドレス帳に、僕の連絡先を登録させてもらった。ここへ名前と電話番号を入れてメッセージを送ってくれたまえ。週に一度は連絡を入れるように」

「わかりました」

「次回以降の診察は、処方薬がなくなり次第で構わないよ。ところで......」

 

 この言葉が出た、と言うことは――。

 

「娘たちのようすはどうかな?」

 

 予想を裏切らない、想像通りの言葉だった。

 

           * * *

 

 病院の帰り、近くの店で夕食を調達。腹ごなしも兼ねて、新年で賑わう町を抜け、いつか来た高台の公園のベンチに腰を落ち着け、町並みを眺めながら、暖かい缶コーヒーを飲んで時間を潰す。

 

「今さら、だよな......」

 

 呟いた言葉と一緒に、白い息が空を舞って消えていく。

 爺さんから聞かされた話は、思いもよらない話しだった。

 

「あれれ? 岡崎(おかざき)さんじゃありませんか」

「ん?」

 

 ジャージ姿の四葉(よつば)が、駆け寄ってくる。

 

「どうしたんだ? こんなところで」

「晩ご飯の前に走っていたんです。ちょっとおやつを食べ過ぎてしまいまして、あはは」

 

 そう言えば、一花(いちか)二乃(にの)と話している時「あんまりおいしくない!」と、隣の部屋から四葉(よつば)の声が聞こえた。おそらく、三玖(みく)が作った“ナニカ”を食べていたんだろう。

 

岡崎(おかざき)さんは、なにをしていたんですか?」

「散歩途中の休憩だよ。ああそうだ、ちょうどよかった。時間があれば教えて欲しいんだけど」

 

「なにをですか?」と、隣に座った四葉(よつば)に、スマホを見せる。

 

「設定。まだ使い方がよくわからないんだ」

「そう言うことでしたら、お任せを。ここをですねー」

 

 教わりながら、プロフィール設定を行う。

 

「はい、それで完了ですよーって、あれ? お、お父さんの名前が登録されています!」

 

 アドレス帳を見た彼女は、ベンチから転げ落ちそうになりながら、とても驚いた表情(かお)を見せた。

 

「通院が面倒だって話をしたら、メッセージで報告してくれればいいって」

「あっ、そうでしたかー。でも、この番号......」

「どうした?」

「プライベート用の番号ですよ。お仕事関係用と、二台持っているので」

 

 プライベート用を教えたということはつまり、完治の診断を下さなかったのは、姉妹たちの話しを聞くための口実だったのではないか、という疑念が俺の中で深まった。

 もし、そうだったとしたら――どれだけ不器用で、子煩悩な人なんだ。

 言葉を失っていたところ、四葉(よつば)は難しい表情(かお)で唸っていた。

 

「う~ん、でもこれは、ちょっとアレですね。私たちも、アドレス交換しましょうっ」

「どういう理由だよ?」

「だって、少し悔しいじゃないですかー」

「どこに対抗心を燃やしてるんだよ。ほら」

 

 スマホを渡すと、あっという間に交換作業を終わらせた四葉(よつば)は笑って見せた。

 

「私が、姉妹の中で一番乗りですね。しししっ」

「そらよかったな」

 

 何がそんなに嬉しいんだか。まぁ、別にいいけど。

 

「さて、日も落ちて来たし。そろそろ帰るか」

「ですね」

 

 帰り道は同じ。寒空の下を話しながら歩く。

 

「もうすぐ新学期ですね。三学期も、イベント盛りだくさんです、楽しみましょうね!」

「イベント? 修学旅行か?」

「うちの学校の修学旅行は、三年生の一学期ですよぉ。先ずは、球技大会ですっ」

「球技大会ねぇ」

 

 肩を故障してる俺には、ありがたくないイベントだ。

 

「種目には、男女混合バスケもあるそうですよ。一緒にやりませんか?」

「無茶言ってくれるなぁ」

 

 でもまぁ、もう本当に気にしていないと言うことなのだろう。少し安心できた。

 早足で前に出た四葉(よつば)が、くるりと振り向く。

 

「勝ち負けなんて関係ないですよ、楽しければ。私、思い出をいっぱい作りたいんです。心に残る楽しい思い出を――」

「思い出ねぇ......」

 

 夜空を見上げる。

 すっかり日が落ちきった夜空には、数え切れないほどの星々が瞬いていた。

 ――まだ半年にも満たない短い時間。

 それでも、前の学校に居た時よりも充実していることは確かだと思う。

 

「よそ見してると、またぶつかっちゃいますよー」

「......ああ、そうだな。気をつけないとな」

「そうですよ。よそ見は危ないですから」

 

 しっかりと前を向き、歩幅を合わせて帰り道を歩いた。

 そして、姉妹の部屋の前で別れ、ドアの前に立つと違和感に気がついた。

 誰も居ないはずの部屋に、灯りが点っていた。騒がしいヤツが戻ってきたらしい。

 ゆっくりドアノブを回して部屋に入ると、一昔前の歌謡曲が聞こえ、金髪の後頭部が視界に入った。

 気付かれないように近づき、後頭部にスマホを押し付ける。

 

「ホールドアップ」

「ひぃ!? ぼ、僕、金ないっす!」

 

 両手を上げ、命乞いしてきた。

 

「俺だ」

「な、なんだよ、お前かよ......脅かすなよな。マジでビビったっての」

 

 批難の声をスルーして、手を洗いながら聞く。

 

「思ったより早かったな。説得は上手くいったのか?」

「まーねぇ。新しい成績を交渉材料に仕送りアップの銭闘してきた。出来高も勝ち取ってきたよ!」

「契約更改かよ。お前、オフシーズン満喫してるな」

 

 コタツに入り、スマホを置いて、夕食の弁当を広げる。

 

「おっ、スマホじゃん。買ったの?」

「連絡用にな。一番安いやつ」

 

 そうだ、姉妹の父親に連絡入れておかないと。アドレス帳を開いて、本文に名前と電話番号を入れて、送信をタップ。

 

「手慣れたもんだねぇ、僕も持とうかな? アレも見放題だし!」

「不純な動機にもほどがあるぞ」

 

 小さくタメ息をついて、弁当に箸をのばす。

 

幸村(こうむら)の爺さんから連絡があった」

「なんて?」

 

 内容を伝える。春原(すのはら)は、呆れ顔を見せた。

 

「また唐突な話しだね。ハンコどころか、交渉のテーブルに着く以前の話しだよ」

「ああ、全くだ」

 

 年度末の成績如何によっては、復学の可能性もあり得る。

 それが、聞かされた話。寝耳に水もいいところだ。

 まぁ、考えるまでもない。

 今さら、前の学校へ戻るなんてことは――あり得ない話しだ。

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