~辿り着く場所~   作:ナナシの新人

19 / 32
Episode18

 短くも様々なことがあった冬休みが終わり、三学期がスタートした。始業式とホームルームの後、久しぶりに足を運んだ図書室で、これまた久しぶりに武田(たけだ)と顔を合わせた。

 

「年賀状を手渡しで受け取るのは、初めての経験だよ」

 

 手に取った二枚の年賀状に、少し可笑しそうに笑う武田(たけだ)

 

「悪いな、思い切り手抜きで」

「今年の年末年始は何かと忙しかったんだよねー。僕は、実家に帰省してたし」

「そうだったんだね。僕の方も、自宅に居る機会が少なかったから今、改めて新年を迎えられた気持ちになったよ」

 

 本音半分気づかい半分と言ったところだろうか。

 ついでに、アドレスも交換してしまう。

 

春原(すのはら)君は?」

「交渉に失敗したそうだ。赤点回避してから言えって」

「はは、それは残念だったね」

「クソー、次の試験で絶対達成してやるっての! それで、あんな動画やこんな動画を......ヤベぇ、今から、興奮してきたよ!」

 

 煩悩まみれの妄想から生み出された衝動を抑えるためか、その場で高速スクワットを始めた。

 

「アホか」

 

 マジで、ろくでもないことにしか使わなそうだ。

 

「そうだ。試験といえば、コレは貰ったよね?」

 

 スクールバッグから取り出した四つ折りの用紙を、テーブルに広げた。それは、ホームルームの中で配られたものと同じもの、進路希望調査の用紙。

 

武田(たけだ)は、進学するんだろ?」

「うん。第一希望は、東京の大学さ」

「さすが、優等生だねぇ」

「二人は? 何かやりたいこととか、将来の夢とかないのかい?」

「夢ねぇ、子供の頃はなりたいものとかいっぱいあったけどね。サッカー選手、飛行機のパイロット、先生、それと――」

「便座カバー」

「そう、便座カバー......って! んなモンになろうなんて一度も思ったことないよっ!」

「どれも難易度が高そうな夢だね」

「お前も乗るなよ! ったく。で、岡崎(おかざき)はどうなんだよ?」

「未定」

 

 まぁ、進学はない。学力的にも、経済的にも。

 何より、進学する理由が見当たらない。今はまだ、赤点回避という明確な目標があるから勉強を続けられている。けど、その先がどうなるかなんてことは、まだわからない。

 

「結局、何も決まってないってことじゃん」

「お前もだろ」

「まだ時間はあるから、焦って決めることはないんじゃないかな。先ずは、当面の目標に照準を合わせよう。年度末の試験に、ね?」

「それは、ありがたいけど。お前が目指してる大学って、超が付くほどの難関だろ? 俺達の勉強見てる余裕なんてないだろ」

 

 武田(たけだ)が希望している進学先は、興味のない俺たちですら知っている名前の有名大学。おそらく、入学前から目標に設定していないと目指せないレベル。

 

「もちろん、自分の学業(こと)を疎かにするつもりは毛頭ないよ。けれど、自身の学力向上に繋がることは期末試験で実証済みだから、ね。何よりこれは、僕の意地でもあるんだ」

「意地?」

 

 静かに頷いた武田(たけだ)は、窓の外へ目を向けた。

 寒空の中を、翼を広げた鳥が風に乗って羽ばたいている姿を、どこか羨むような表情で見つめている。

 

「......僕は、ずっと縛られて生きてきたんだ。両親の期待のまま、予め敷かれたレールの上を歩いていた。そんな僕が、見つけた夢があるんだよ」

 

 子供の頃から、母親と同じ医学の道を歩いていた武田(たけだ)が見つけた夢、それは――。

 

「宇宙飛行士!?」

「またずいぶんとぶっ飛んだ夢だな。それこそ、パイロットじゃダメなのか?」

 

 武田(たけだ)の学力なら、航空機のパイロットにだってなれそうだ。

 

「飛行機は、乗ろうと思えば今すぐにでも乗れるじゃないか。それこそ、一般の人だって免許を取得できる。けど、宇宙飛行士は違う。宇宙は、世界中から選ばれた一握りの者しか行くことの出来ない特別な場所なんだよ......!」

「そりゃそうだろうな」

「じゃあ将来的には、海外留学するってこと?」

「あ、うん、そうなるね」

 

 饒舌に語っていた割には、何だか歯切れが悪い反応。

 

「......笑わないのかい?」

「いや、別に笑うとこじゃないでしょ。そりゃ冗談なら笑うけどさ。本気か冗談かくらいはわかるっての」

「まぁ、何も考えてない俺達にしてみれば、将来の目標があるってだけでな」

「それになんか、本当になっちゃいそうな気もするしね。アハハ!」

「そうかもな」

 

 身近に結構無謀なことにチャレンジしているヤツが居るから、まんざらあり得ない話しじゃないのかもしれない。

 

「――決めたよ。次の試験、二人には赤点回避と言わず、全教科平均点以上を取らせてみせる......!」

「はぁ?」

「なんでだよ!?」

「もちろん夢を叶えるためさ。宇宙飛行士は、常に助け合い、足りないところ補い合って困難なミッションを成し遂げるのさ!」

 

 爽やかにウインクしながら言うことじゃない。ありがた迷惑この上ない決意表明だった。

 

「あ、僕、部活だから! この話しは、また今度ってことで!」

「お、オイコラ! 逃げやがった......」

「ははっ。じゃあ今日は、解散にしよう。準備しないといけないから、ね」

「本気かよ」

「本気さ。必ず証明して見せる」

 

 その真面目な表情と声色からは、何か特別な理由があることを物語っていた。

 

「以前、口をつぐんだ話しだよ。達成したあかつきには、理由を話すと約束するよ」

「ふーん、まぁ、構わないけど。だけど、自分のことを一番に考えろよ? 俺達に構って成績落としでもしたら、それこそ本末転倒だからな」

「無論さ。僕自身も、上杉(うえすぎ)君の上を行くつもりだよ。小さな国の小さな学校でトップを獲れないなら叶いっこないからね。そうだ、聞いておきたいことがあったんだ。例の話しは、本当なのかい......?」

 

 聞かれたことは、前の学校への復学の話し。

 

「相変わらず耳が早いな。親父さん関連からの情報か?」

「年末の会食の時に偶然、向こうの理事長との会話を小耳に挟んだんだ」

「俺達は、半ば厄介払いで追いやられた身だぞ。戻るつもりも、理由もないって」

 

 なにより、ここでの生活に充実感を感じている。

 バカやって暇を潰してはいたけど、無気力で漠然と生きていたあの頃と比べると雲泥の差だ。

 そう、それは、普通とは少し違うのかも知れないけど。本来過ごせていたのかもしれない日々を過ごしている、なんとなく、そんな風に感じていた。

 しかし、返答を聞いた武田(たけだ)の表情は、変わらず硬いまま。

 

「どうした? そんな重苦しい顔をしてると、眉間に寄ったしわが戻らなくなるぞ」

「......少し考えていたんだ。どちらの道を進むことが、二人にとって正しい選択なのかを、ね。もちろん僕としては、このまま一緒に卒業できればいいと思っているよ」

「何の話しをしてるんだよ?」

「なんとなくなんだけど。二人は時々、特に岡崎(おかざき)君は――」

 

 ――どこか遠い場所を見ているように感じる時があるんだ。

 

 

           * * *

 

 

「お疲れさまでーす」

「はーい、お疲れさまー!」

 

 余り物の食パンと惣菜パンを数個いただき、家路を歩いている途中、よく利用するスーパーが入るショッピングモールの近くで、買い物中の五月(いつき)と出くわした。

 

「ひとりか?」

「はい。アルバイトの帰りですか?」

「ああ。そうだ、これ、よかったら貰ってくれ」

 

 パンの入った袋を差し出すと、五月(いつき)の目が輝いた。

 

「いいのですかっ?」

「余り物だから」

 

 家の冷蔵庫の中には、まだ手つかずのパンが結構な数残ってる。無駄にしてしまうより、食べてもらった方が経済的で有意義だ。

 夕食がまだだったらしく、休憩スペースに設けられたベンチに座って、幸せそうな顔でパンを頬張る五月(いつき)に尋ねる。

 

五月(いつき)は、卒業後の進路とか考えてるか?」

「なんですか? 唐突に」

「いや、なんとなく。これ、貰っただろ」

 

 進路希望調査の用紙を見せる。

 

「まだ漠然とですが、憧れている職業はあります」

 

 まだ一年も先のことと思っていたけど、ちゃんと考えているようだ。

 

岡崎(おかざき)君は、どうなのですか?」

「未定。今のところ、次の試験の赤点回避しか頭にないな。どうした?」

 

 手を止めた五月(いつき)は、やや目を落としていた。

 

「いえ、私も、希望を叶えるには学業が必須でして......」

「ふーん、じゃあ気合い入れてやらないといけないな」

「そうですね。先ずは、次の試験に集中です」

 

 止まっていた手を進め「ごちそうさまでした」と、丁寧に手を合わせた。買い物の途中だった五月(いつき)と別れて、一足先にアパートに帰ると、コタツで横になっていた春原(すのはら)が、ダルそうに体を起こした。

 

「遅かったねぇ」

「ちょっとな」

 

 自室で部屋着に着替えて、コタツに入る。

 

「お前さ。卒業したら、地元に帰るのか?」

「あん? どったの?」

「まぁ、なんとなくな」

 

 一年後には、嫌でもそういう話しになることは確かだ。

 

「ハァ、考えたくもないね、そんな先のこと。岡崎(おかざき)はさぁ、五年後、十年後何をしてるかとか考えることある?」

「いや、ないけど」

「だろ? だったら悩んでも仕方ないって。そん時になれば、嫌でもわかるんだからさ。だからさ、今しか出来ないことを楽しまないと損だと思うんだよね。たぶん今が、人生の中で一番バカをやれる時間なんだよ」

「......そうかもな」

「ってことで、スマホを貸してくれよ! 動画漁ろうぜ!」

「見直した俺が、バカだった。さて、久しぶりに銭湯にでも行ってくるかな」

「おっ、いいね! 僕も行くよ」

 

 戸締まりを済ませ、着替えを持って部屋を出る。

 俺は、少し焦っていたのかもしれない。既に目標を持っている、武田(たけだ)五月(いつき)の話しを聞いて――。

 

「そう言えば近々、球技大会があるそうだぞ」

「ラッキー! 授業潰れるじゃん。で、なにに出る?」

「そうだなぁ」

 

 夜空を見上げて考える。

 

「バカでもやってみるかな。お前はどうする?」

「お前がやるなら、僕もやるさ。今度は、きっちり決めてやるっての」

「あれはやめろよ......」

 

 そして、休日を挟んだ後日のホームルーム。

 教壇に立った担任は、黒板に白いチョークで文字を書き連ねていく。最後のひと文字を書き終え、手についた粉を払い、前を向いた。

 

「――と言うことで。今から、来週の球技大会の参加種目を決める。黒板に書いた種目の中から選ぶように。希望者が募集人数を越えた場合は話し合い、まとまらない場合はジャンケンで決めるぞ。あと、全員参加だからな。単位に響くぞ。じゃあ、先ずは――」

 

 ソフトボール、フットサルと屋外競技から順番に読み上げられていき。

 そして、屋内の競技へ。

 

「次、男女混合バスケ。定員の最低三人、上限は五人」

 

 前の席に座る四葉(よつば)が、いの一番に手を上げた。

 

「希望者は三人か、ここは定員割れはせずに済んだな。中野(なかの)岡崎(おかざき)春原(すのはら)と......」

「えっ?」

 

 驚きの声を上げると同時に後ろを振り向いた四葉(よつば)は、大きな目を丸くしていた。

 

「どうした?」

「あ、いえ、まさか本当に参加してくれると思わなかったので。あはは~」

「別に、深い意味はないって。ただの気分転換だよ」

「そうそう、遊びみたいなものだね。それこそ僕が、フットサルに参加したらシラけちゃうでしょ?」

「そう言うことだ。楽しければいいんだろ?」

「あっ......はいっ。楽しい思い出にしましょうね!」

 

 嬉しそうに笑顔を見せる、四葉(よつば)

 

「さっそく放課後、一緒に練習しましょう!」

「いや、僕、部活あるんすけど」

「俺も、バイトがある」

「えぇ~」

 

 きっといつか、いろいろなことに決着をつけなければならない日が来るんだろう。

 あの人の――父親のことも含めて。

 けど今は、もう少しだけバカをやるのも悪くない、そんな風に想えた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。