マイボールでスタートの後半戦。
相手の作戦は前半と同様、各々がべったり貼り付くマンツーマン。相手は、本職のバスケ部が二人。俺達の方が基本的な運動能力では勝ってるといっても、経験値で上回る本職を相手に下手に動き回って振り切ろうとすれば、先にこっちのスタミナが切れかねない。特に、俺の体力が。
けど、完全に守りに徹してる今の状況を、動かない山を動かさない限り勝機も見えてこない。
――インパクトを与える。
ふと、あの時の、アイツの言葉が頭に浮かんだ。
突けば、何かしらのアクションを起こしてくれるはず。そして、狙うなら一番効果的なところを狙って崩す。
男バスの部長を引き付けながら、
「アウトサイドスクリーン! ボールは――」
「ねぇぞ! どこだコラ!?」
ボールを見失った二人へ、コートの外から
「ボールは、
「今だ!」
「あいよっと!」
振り返るタイミングを教えると、身体を捻って背中に当てて、リターンパスを出してきた。まったく、また無茶なプレーを。勢いなく転がったルーズボールを素早く戻って拾い、その勢いのままリングへ向かってジャンプ。
大丈夫、問題ない。高さは余裕で上回ってる。構わず、シュートにいく。ボールを放そうとした時、お互いの腕同士が接触。ボールはリングに弾かれ、笛の音が鳴り響いた。
「ファール!」
「あっ、ごめんっ」
「いや、いい......」
わざとじゃないのは分かる。今のは、勢いが余って当たっただけ。コンタクト競技のバスケではよくあることだ。
ただ問題なのは、今のファールで与えられるフリースロー。
相手に一切邪魔をされず、後半戦開始直後で先制点を奪える願ってもないチャンスなのだが、利き腕が上がらない俺には、一番厄介なプレー。完全フリーになっていた
「イテテ、バスケのボールって思ったよりも硬いんだね」
どうすべきか頭を悩ませていたところへ、
「今度は、肘で決めるよ」
「やめろっての。今のも逸れたじゃないか」
「心配すんなって、ちゃんと決めるからさ! まぁ、リバウンドも任せとけよ」
笑いながらポジションへ戻っていく、
いつもと変わらない軽いノリに呆れて、力が抜けた。アイツなりの励ましだったようだ。
フリースローラインに立ち、審判を務める顧問からボールを受け取り、軽く弾ませ逆手で構える。左なら、肩から上に上がらない右腕は添えるだけでいい。
こういう時、マンガとか、映画の主人公ならカッコ良く決めちまうんだろうけど......。
ゴールを狙って、シュート。いい感じに孤を描いたが、ボールはリングに触れることなく、コートに弾んだ。
まぁ、そう都合よくいくわけない。エアボールなんて、いつ以来だろうか。結構、力を入れたつもりが想像以上に飛距離が出なかった。二本目は、もっと強く打つ。そんなことを考えながら顔を上げると、不思議そうな
二人の表情で大方察した。右肩のことは知らされていない。
「......正々堂々ってか」
――まったく、
大きく息を吐いて、リングを見つめて構える。
二本目のフリースロー。一本目よりも意識して強く打った、が――。
「リバウンド!」
軌道が低い上に、横へ逸れた。
ボードの下部に当たって、コートに跳ね返ったリバウンドを制したのは、
「ナイスフォロー、
「サンキューな」
「いえいえ、さあ反撃開始ですよー!」
一見無謀に思えた
「行かせねーぞ、コラ......!」
「ふふーん、そんなヘロヘロで止められると思っちゃってんの?」
「ざけんなコラ! 伊達にバイトで、たこ焼き焼いてねーんだよ!」
意味不明な返しだ。
男バスの部長の視線が動いた一瞬を逃さず裏へ出て、パスを要求。
「へい! って、おい――」
ニヤリと意味深に笑った
「え、えぇーっ!?」
「うげっ、マジかよ!? 決めやがった!」
「出した張本人が驚くなよ......」
まさかのプレーで全員の足が止まったすきに、レイアップを決めて連続ポイント。そのまま勢いに乗り、一気に差を詰める。
残り時間、あと四分弱。一時は、二桁あった点差も射程圏。このままのペースで行けば、十分逆転出来ると思った次の瞬間、相手チームの
「えぇ~、ここでタイムかよ。これからって時にさー」
「上手いな」
こちらの良い流れを、向こうにとっては嫌な流れを、タイムを取ることで断ち切りに来た。いったんベンチへ戻って、水分補給。
「やるじゃない。ちょっと見直したわ」
「なに? もしかして、僕に惚れちゃ――」
「ないわ」
「......ほんのちょっとでいいんで、夢を見させてください」
食い気味に完全否定された
「ところで
「えっ? そうかな?」
「私も、
「う~ん、あっ! きっと、二人のおかげだよ。
「お前が、いいところに居るからだよ。つーか、転校してくる前は、バスケ部だったのか?」
「あ、えっと、はい。陸上部の時と同じで、助っ人でですけど」
今、少し歯切れが悪かったような気がした。
「ん? おい。
「
「
「毎日走っていますからね、
「へぇ~、ん? 待てよ、
煩悩まみれの思考に至った
その後姉妹たちは、中立を保つために両ベンチの真ん中へ移動。
「お前は、行かないのか?」
「まだ、問題をピックアップしている途中なんだ。三人とも敗退したそうだから、この試合が終わり次第、すぐに試験勉強に移れるようにな......!」
こちらも相変わらず、勤勉なヤツだった。
「あのさ、真面目な話し。相手、女の子が二人になっちゃったけど。僕達も交代する?」
「そうだな」
点差は、ツーゴール差。少し余裕があるし、このタイムで少し熱が冷めた。体力面を考慮し、
「ふふふ......」
コートに出た面子を見た
「なんだよ?」
「フッ、すぐに分かるさ」
「はぁ?」
相手の攻撃で、試合再開。最初のチャンスは相手側、交代して入ったばかりの
「
「
「あははっ、ナイスパス!」
「これぞ、知りがたきこと陰の如く! 切り札とは、ここぞという場面で使ってこそ真価を発揮するのさ」
「ほぅ、ドッペルゲンガー作戦か」
「ただの、かく乱じゃねーかよ」
爽やかにいうことでも、感心するようなことでもない。
しかし、今のミスで相手との点差が開いてしまったことは事実、と想っていたら――。
「
「わっ!」
今度は相手側が、
「敵味方お構いなしか」
「もはや何の競技か分からないな」
「想定内だよ。
ここで
「あとは、よろしくねっ」
「は、はい!」
「お願い」
「ああ」
相手の動きに合わせて、こちらも交代。
残り時間二分、二本差。かく乱の本命は、
ここまで来たんだ、最後はスッキリ終わりたい。
「よこせよ!」
「――
フリーの
「よっしゃ、もらったぜ!」
「いかせませんっ!」
「――ッ!?」
女バスの部長に付いていたはずの
ここから勝負は、一進一退。お互い一歩も譲らず決定打を決めきれないまま残り一分を切った。またしても、
「リバウンド!」
得意なはずのアウトサイドからのシュートが、連続で落ちた。いくら得意といっても、脅威的な瞬発力と跳躍力でブロックに跳ぶ
そうと分かれば、もう怖くない。
「どこでもいい、二人とも動け!」
指示を飛ばし、男バスの部長とマッチアップ。ドライブで切り込み、手を出して来た瞬間、反射的にルーレットでかわし、食らい付いて来た股の間を抜く。
――何なのだろうか、この感覚は。
自分でも驚くほど思い通りのプレーが出来る。全盛期と同じ......いや、それ以上だ。故障で現役を退き、もう二年以上の月日が経つのに。どうして、これほどのプレーが出来るのだろう。
「
「こっちだ!」
共にマークを振り切り、フリーになった
――そうか、そういうことか。
パスを出そうと想う瞬間、居て欲しい場所に、必ず顔を出してくれる。まるで、二人の動きに引っ張られるように、頭の中で、得点へと繋がるルートが次々と頭に思い浮かんでくる。
「いかせない!」
振り切ったはずの男バスの部長が、必死に追いすがって来た。
「ポンプフェイク!?」
シュートフェイクにかかって跳んだ脇を抜け、リングに向かってジャンプ。ボールを逆手に持ち替え、ブロックに跳んだ
これで、同点。そう確信した次の瞬間――右肩に、強烈な激痛が走った。
右手からボールが落ち、着地と同時に痛みが走る肩を抱え込む。自然と、乾いた笑いがこぼれる。
「はは、結局――」
――これが、付きまとうのか。どれほど離れようとも。
何を勘違いしていたんだろうな、俺は。二人に引っ張られて、もっと出来るとか、もっと高く跳べるとか、そんなこと叶うはずないのに。
すぐ近くでボールが弾む音と、緑色のリボンが視界に映った。
「同点ですよ、
「勝負の最中にヘタレてんなよ。一生笑ってやるからな!」
「......ざけんな、決めてから言いやがれ!」
最後の守備に付く。残り時間、三十秒。
ボールを奪い取り、ドリブルで切り込んだ
決まれば、勝ち。主人公なら、カッコよく決める場面。
「逸れた!」
そりゃそうだ。そう都合よくも、カッコよくも決まりはしない。
けど、ゴールは無理でも、ボードの付近へ放れば――。
リバウンドに備える相手の頭上を、緑色のリボンが、
そして、彼女の着地とほぼ同時に、試合終了を告げる笛の音が鳴り響いた。
大きく息を吐いて、天井を仰ぐ。
「あーあ、美味しいところ持ってかれちゃったよ」
「残念だったな」
「ししし、ナイスパスでしたっ!」
左手を大きく上げた
あの時からずっと、一生付きまとう呪縛のようなものだと想っていた。
だけど、悪いことばかりじゃないのかも知れない。
今は、ほんの少しだけ、そう想えた――。