~辿り着く場所~   作:ナナシの新人

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Episode25

 内容の濃い日々を送った三学期も残すところあと僅か。終業式を数日後に控え、学校も日程消化期間に入った短縮授業の早上がりの昼食時のこと。

 どういった理由なのか、バイト先のパン屋には、中野(なかの)さんのところの五つ子姉妹全員が集合していた。

 

「ここが、岡崎(おかざき)さんのアルバイト先ですか。朝の教室と同じ良い匂いがしますっ」

「あれ? 四葉(よつば)、来たことなかったの? 意外だね」

「部活の助っ人とか、勉強で忙しくて、なかなか来る機会がなかったんだ。でも、お裾分けして貰ったことあるから美味しいのは知ってるよ。みんなは?」

「何度か来たことがある。一番通ってたのは、私だと思う。だけど、引っ越してからは初かも」

「散財しないよう気をつけていましたからね。私たちも、久方ぶりの来店です」

「それより、注文するわよ。お昼に来たんだから」

「そうだね。すみませーん」

 

 一花(いちか)に呼ばれ、メモを片手にテーブル席へ向かう。

 

「お待たせしました。どうぞ」

「ドリンクセットを五つお願い。みんな、飲み物決まった?」

「私は、いつものを。今日は、アイスで」

「抹茶ソーダを......アイスで、と」

「わっ、二人がまるで常連さんみたいなやり取りをっ!」

 

 三玖(みく)とのやり取りを見た四葉(よつば)のリアクションは、一花(いちか)の時とほぼ同じ。なんとなく、可笑しくて笑いそうになる。実際一花(いちか)は、白い歯を見せて笑っていた。

 外の自販機で抹茶ソーダを調達してから厨房に入り、全員分の注文の品を用意して店内へ戻って、飲み物の代わりに礼の言葉を受け取り、通常業務に戻る。

 昼時の忙しい時間帯の客足が途切れたところを待っていたかのように、五月(いつき)に声をかけられた。

 

「シェアできるような甘い物はありますか?」

「大抵の物は切り分けられるけど。目と鼻の先に、専門店があるぞ」

 

 上杉(うえすぎ)のバイト先である、向かいのケーキ屋へ視線を向ける。

 

上杉(うえすぎ)君がアルバイトしているお店には先日、お邪魔したばかりですので」

「進級のお祝いで、店長さんがご馳走してくれたんだ」

「あの時のケーキ、すっごく美味しかったね。きっと、みんなで頑張ったからだよっ」

「そうだね。けど私は、フータロー君がバイクの免許持ってたことに驚いたかな。二乃(にの)は、あのバイクで連れ攫われたんだよね?」

「言い方!」

上杉(うえすぎ)が、バイクねぇ......」

 

 店の駐車場の隅に、カスタムが施されたオフロードバイクが止めてあった。想像していたような、普通の原チャリじゃない。上杉(うえすぎ)のキャラと合わなすぎて、運転している絵がまったく頭に浮かんで来ない。

 

「てゆーか、ライバル店を勧めるって店員としてどうなのよ?」

「客層が違うしな。とりあえず適当に見繕ってくる」

「お願いします。ところで、あの話しですが――」

「うーん、どうしよっか?」

 

 バレンタインのチョコ作りで、三玖(みく)が苦手と言っていたチョコ系は避け、確認のため一度テーブルへ持っていく。

 

「フルーツサンドはいけるか?」

「うん、大丈夫」

「じゃあ、カットしてくるから。少し待っててくれ」

「ふふ、こういう些細な心遣いはポイント高いよ」

「そら、どうも。褒め言葉として受け取っておく」

「その心遣いも、ホワイトデーでは報われなかったみたいだけどねー」

 

 少しかうように微笑む一花(いちか)と、小さく笑う二乃(にの)

 全く、この姉妹は......。人をイジる時も、息がぴったりだ。

 

「え? なになに? ホワイトデーに何かあったの?」

「何の話しですか?」

「少し気になる」

「はいはいっ、私も興味ありまーす!」

「話してもいいわよね? 別に好感度下がる話しでもないし」

「好きにしてくれ......」

 

 ホワイトデーの話題に花を咲かす姉妹たちを置いていったん、厨房へ下がり、五等分にカットしたフルーツサンドを盛り付けた皿をテーブルの中央に置く。

 

「お待たせ。ところで、さっき何の話しをしてたんだ? ずいぶん盛り上がってたみたいだけど」

 

 笑ったり、首を傾げたり、腕を組んで考え込んだりと、いろいろな表情(かお)が見れた。顔の作りはそっくりでも、ちょっと仕草だったり、反応だったり、各々個性があって新鮮だった。

 

「春休みの話しだよ。応募した懸賞で温泉旅行が当たったんだけど、私、間違えて前のマンションの住所を書いちゃったみたいで。お父さんから、当選の連絡を貰ったんだけど......」

「返事に迷ってんのか? つーか、当たるんだな。懸賞って」

「それが、出発日のスケジュールを一緒に送られて来たので考える余地もありませんでした。あはは......」

 

 苦笑いを浮かべる五月(いつき)。他の姉妹たちも同じような感じ。

 しかし、あらかじめ外堀を埋めた上での連絡、抜かりない人だ。その行動力をほんの少し方向性を変えれば、すぐに解決出来ちまいそうな気がしないでもないけど。

 

「旅行先は、おじいちゃんが経営する旅館だから、私たちも異論はないわ。久しく会ってないし。けど、問題は別にあるのよ」

「別の問題?」

「えっとですね......」

 

 姉妹を代表して四葉(よつば)が、若干辿々しくその理由を述べる。

 

「お前たちの爺さん、そんなに心配性なのか?」

「そうなんです。私たち五年前は髪形も、着ている服も、好みもそっくりで、それこそ自他ともに認める仲良しさんだったんです。それは、今も同じなんですけど。髪形も変わって、好みも変わって、それで仲が悪くなったんじゃないかって。それ以来、心配させないようにおじいちゃんの前では、みんな同じ姿でいようという話しだったんですけど――」

 

 問題は、誰の姿に合わせて変装するか。

 

「うーん、今の髪形を考えると。やっぱり、三玖(みく)五月(いつき)ちゃんになるよね。少し前までは、他の選択肢あったんだけど」

「まぁ、五月(いつき)でいいんじゃない? 今、一番髪長いの五月(いつき)なんだし。旅行中ずっと、三玖(みく)っぽく振る舞うなんて、想像するだけで息が詰まるわ」

二乃(にの)。それ、どう言う意味......?」

「言葉通りよ」

 

 仲が良いようで何よりだ。

 バイト終わりのタイミングで一緒に店を出て、姉妹たちは旅行の準備のために、ショッピングモールへ。俺は、通院のため姉妹の父親が経営する病院へと向かった。

 

「温泉旅行?」

 

 もう電源の入っていないコタツに入って、少し早めの夕食を食べながらの雑談の中、パン屋での出来事を話題にあげる。

 

「ああ。春休みを利用して、家族で行くんだってさ」

「ふーん、林間学校でも行った温泉はともかく、旅行はちょっと羨ましいよね」

「そうか?」

「考えてみろよ。ほら、僕たちさ、こっちに来てから遠出なんてしたことないだろ?」

 

 言われてみれば、確かに。学校と、バイト先と、近所のスーパー、ショッピングモールへ時々行くくらいで、アパートから半径二キロ程度くらいで生活範囲は収まってる。

 

「進級祝いにどっか行こうぜ。でっかいネズミのテーマパークとかさ」

「野郎同士でか?」

 

 想像するまでもない。悲惨どころか、一歩間違えれば放送事故案件だ。夢が悪夢になりかねない。

 

「そこは、あれだよ。現地調達」

「出禁喰らうぞ。けどまぁ、そうだな。たまには気分転換に遠出もいいかもな......」

「だろ? よし、そうと決まれば明日、武田(たけだ)にオススメスポットでも聞いてみようぜ」

 

 そう言って笑った春原(すのはら)は、カツ丼を豪快にかっ込み、お茶を飲んでひと息つくと、寝転がって天井を見上げた。

 

「なーんか、面白いことがいいよね」

「あん? なんだよ、唐突に。おセンチモードか?」

「アハハ! それはないっての。けどさ、面白いに越したことはないじゃん。それこそ、悩み事なんて全部吹き飛んじゃうくらいな壮大なさ!」

「そうだな。そいつは、同感だ」

 

 上杉(うえすぎ)じゃないけど。いろいろなことから少し離れて、悩み事を忘れて楽しむのも良いかも知れない。

 

 

           * * *

 

 

「ふむ、観光スポットか」

 

 翌日の放課後、春原(すのはら)武田(たけだ)と三人で、昨夜のことを話しながら商店街を歩く。

 

「こう、野心溢れる男っぽい感じのところで頼むよ」

「なかなか難しい注文だね。そもそもこの辺りは、住宅街とビジネス街が入り混じる地域で観光地というわけではないからね。市街地を離れれば、一通りの娯楽施設はあるけど。それこそ、二人の実家の方が観光スポットは豊富だと思うけど?」

 

 俺の実家は一応東京だから、武田(たけだ)の言う通り、歩けば何かしらはある。春原(すのはら)は――。

 

「普通に田舎なんすけど......」

「よかったな。山頂から町を見下ろして、この俗物が! って民衆を見下す遊びを思う存分出来るぞ」

「んな痛い遊び、中二の夏で卒業したよ!」

「やったことあんのかよ」

「ははっ。何かコレといった目的はないのかい?」

「まぁ、面白ければ何でもいいよ。とりあえず、京都はパスで。どうせ、修学旅行で行くんだろ? 中学ん時も京都だったし」

「三年に上がって結構すぐなんだよな」

「ああ、全国統一模試の後すぐさ。今は、桜の季節だから、また違った風景を楽しめるけどね」

「桜か......」

 

 前の学校に続く、桜並木の長い坂道は、春になると薄紅色の桜の花びらを咲かせて圧巻だった。今年もまた、変わらずに咲き誇るんだろう。

 

「桜ねぇ、僕は団子の方がいいや」

「情緒の欠片もないな」

岡崎(おかざき)君の希望は?」

「そうだな......」

 

 桜から連想されたのか、ふと頭に浮かんだのは、いつか見た、あの一面鮮やかな黄色に染まった菜の花畑。

 

「お前も花かよ。頭乙女か」

「頭春原(すのはら)よりマシだ」

「どういう意味だよ!?」

「それで、その菜の花畑に、特別な思い入れがあるのかい?」

「あんたも、さらっと流すの止めていただけませんかねぇ?」

 

 武田(たけだ)に習って春原(すのはら)をスルーして、質問に答える。

 

「さーなぁ? よく分からん。ただ、なんとなく頭の片隅に残ってるんだ」

「ふむ、ちょっと調べてみようか」

 

 なぜかこの話しに興味を持ったらしく、武田(たけだ)はスマホを取り出した。ファミレスに場所を変え、腰を落ち着けて改めて話す。

 

「思い当たる場所とかあるかな?」

「分からない。物心つく前から結構各地を転々としてて。今の実家に落ち着いたのは小学校の中学年くらいからだ」

 

 北上して来たのかも、南下して来たのかも定かではない。

 スマホにキーワードを打ち込んだ武田(たけだ)は、俺たちにも検索結果を見えるようにテーブルに置いた。

 

「うわっ、軽く一万件超えてるじゃん」

「海外の名所も表示されているからね。渡航歴は?」

「ない」

「日本国内に絞れるね」

 

 それでも一万件超。おぼろげながらも、思い出せる範囲で情報を伝える。

 

「周囲を山に囲まれた中の菜の花畑、沿岸沿いの単線の鉄道か。電車? それとも、汽車かな?」

「それ、なんか違うの?」

「電車は文字通り、架線から電気供給を受けて動いているんだ。汽車は、ディーゼルエンジンなんかを積んで燃料で稼働しているから送電線が必要ないんだよ。地方の私鉄や田舎の路線は、汽車が主流のところも多いからね。どちらか分かれば、相当絞り込めるはずさ」

 

 と言われても、さすがにそこまで鮮明に覚えてはいない。

 

「じゃあ、沿岸沿いの菜の花畑で検索し直してみよう」

「北は北海道から、南は沖縄まであるねぇ」

「海を渡った記憶はないな」

「本州、と。うん、だいぶ絞れて来たね」

「それはいいけどさ。お前、なんで楽しそうなんだ?」

 

 そう疑問に思って聞くと、武田(たけだ)はいつも通りの爽やかな笑顔で、逆に問いかけて来た。

 

「ん? 面白いと思わないかい? 微かな記憶を頼りに正解を導き出し、想い出の場所へと辿り着く。まる謎解きをしているみたいで、ね。それに、バレンタインデーの贈り主を見つけるより簡単だと思うけど?」

「ああ、そうだな、その通りだ。返したくても返せないからな、詮索するのも気が引ける」

「あははっ、お互い苦労するね」

 

 用意はしたけれど、結局分からず終いで、自分で消化するはめになった。二乃(にの)には、話しのネタにされるし。返せていない後ろめたさも残ってて、消化不良みたいな気分で微妙な感じだ。

 

「......あのさ、ひとつ言わせて貰ってもいいかな? あんたらの悩みは贅沢なんだよっ!」

 

 仏頂面の春原(すのはら)から発せられた言葉は、店内の視線全てを集める魂の叫びだった。

 店員にやんわりと注意を促されて、仕切り直し。

 

「んで。結局、菜の花畑にすんの?」

「僕は、面白いと思うよ。探しながら、いろいろな場所を回れるしね」

「一種の旅みたいなものか。まぁ、野郎だけでテーマパークよりは全然マシだな」

「風の赴くままに自由気ままな男旅かぁ。何だかロマンを感じる響きだね! 単車で、湾岸線をかっ飛ばしてたりさ!」

「転がす単車も、免許も持ってないだろ。問題は、どっちへ行くかだな」

 

 東西どちらにも候補がある。

 

「西!」

「どうして?」

「決まってるだろ? 太陽が昇る方だからさ!」

 

 春原(すのはら)の答えに、俺と武田(たけだ)は同じタイミングでタメ息をついた。

 

「じゃあ、東にするか」

「そうだね。そうしよう」

「なんでだよ!?」

「太陽が昇る方だからだ」

「はい?」

春原(すのはら)君、太陽は東から昇って、西へ沈むんだよ」

「えっ!? でもほら、歌であったじゃん? ドラマの主題歌でもさ......」

「その原作、昭和のギャグマンガだろ。頭春原(すのはら)だな」

 

 春休み。

 俺たちは、旅に出ることになった。

 目的地も定かではない旅。

 何かが見つかるか、それとも何も見つからないのか。

 どのような結末を迎えるのかも分からない、当てのない旅へと――。

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