~辿り着く場所~   作:ナナシの新人

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Episode26

 三学期の終業式が閉幕した後日。先日決まった旅支度のため、バイト帰りに少し寄り道をして、大型のショッピングモールへ足を運んだ。

 普段の買い物は大抵、近所のスーパーで済ませていることもあって、どこに何があるのかさっぱり分からない。そんなわけで、通路に設置されているフロアの案内掲示板とにらめっこ。目当ての防寒グッズを扱っていそうなショップを模索していると、不意に声をかけられた。

 

岡崎(おかざき)君」

「ん? ああ......」

 

 声をかけてきたのは、お隣さんの五つ子のひとり、特徴的な星形の髪飾りが一番に目に入る。彼女は「お困りですか?」と小さく首を傾げると後ろで手を組み、歩み寄って来た。

 

四葉(よつば)から出掛けると聞きましたが、出発は同じ日だそうですね」

「偶然だよな」

 

 バイト先の清掃日と元々の休みが重なったことで、上手い具合に連休になった。おかげで、少し余裕を持って行動すること出来る。交通手段は、遠出に慣れている武田(たけだ)が担当。宿の手配は、春原(すのはら)が自信満々で買って出たが、本当に大丈夫なのだろうか。不安しかない。

 因みに、前田(まえだ)にも声をかけたが、生憎春休みは、既に予定が埋まっているとのことだった。急だったから仕方がない。

 

「防寒グッズを所望とのことでしたね。どちらへ行かれるのですか?」

「とりあえず、北上しながら東へ進む予定。詳しいことは決まってない」

「計画性がありませんね。あまり褒められたことではありませんよ?」

「旅行じゃなくて、旅だからな」

「旅ですか。では、珍しいお土産を期待しています」

「観光地は素通りの可能性もあり得るから、あんま期待してくれるなよ。ところでお前たちは、結局、五月(いつき)に変装することにしたんだな」

 

 隣を歩いている彼女の表情(かお)が、若干の苦笑いに変わった。

 

「気づかれていましたか。正解です。姉妹の誰だと思いますか?」

一花(いちか)

「即答っ! でも残念、ハズレですよ」

「そうか。じゃあ、その一花(いちか)のマネにも意味があるんだな」

「私のマネ? あっ......!」

 

 慌てて口に手を持っていき、しまったといった表情(かお)で肩を落とした。

 

「や、やられた~。自信あったんだけどなぁー」

 

 口調と雰囲気が、普段の一花(いちか)の感じに戻った。

 けど姿は、五月(いつき)のままだから違和感が半端ない。

 

「ブラフ?」

「いいや。お前は、後ろで手を組むクセがあるから」

「えっ? うそ? 全然意識してなかったよ」

「直そうとしても無理だぞ。無意識に出るからクセなんだからな」

 

 今指摘したクセの他にも、いくつか相違点がある。

 本物の五月(いつき)は、あと半歩ほど距離を開けて隣を歩く。そして、一花(いちか)とは反対に、手を前で組むクセがある。バレンタインデーの朝、一緒に登校したから記憶に新しい。

 

「こんな感じかな?」

 

 体の前で手を組み直して、半歩分距離を取る。

 佇まいは、完全に五月(いつき)のそれ。だけど――。

 

「まぁ、似ちゃいるけど。どれだけ上手く演じてみせたって、やっぱりお前は、一花(いちか)だ。五月(いつき)にも、他の姉妹にもなれないと想うぞ」

「......うん、そだね。けど、ちゃんと見てくれてるんだね。もしかして、ラブ?」

 

 後ろで手を組み直し、上目遣いでからかうように微笑む。

 

「辞書で殴られた経験はあるか? ないだろ? そういうことだよ」

「何の話し?」

「愛の話しだろ。お前が、振ってきたんじゃないか」

「捉えどころがないんだけど......?」

 

 困惑気味の一花(いちか)をよそに、ショップで防寒グッズを見て回る。三月下旬とはいっても、まだ肌寒い日も少なくない。北上していくわけだから、より寒さは厳しいはず。備える越したことはない。

 

「ところで。どうして、五月(いつき)の変装してるんだ?」

「今度の旅行の買い物をかねた予行演習だよ。みんなは今、新しい下着を選んでるところ」

「ふーん」

 

 クリスマス前の時のように、おちょくって反応を楽しむつもりだと判断して、テキトーに流しておく。

 

「リアクション薄くない? フータロー君だって、もう少しどぎまぎしてくれるよ?」

「あえて拾わないツッコミだ。鬱陶しい芸人に絡まれた時は、これで放送事故に追い込んでやれ」

「あははっ、そうなんだ。機会があったら使ってみるね」

 

 生産性の欠片もないくだらないやり取りをしていたところへ、今の一花(いちか)と同じ姿の姉妹が同時にふたりも現れた。

 

一花(いちか)、ここに居たのですね。探しましたよ......って」

「あっ、岡崎(おかざき)さん――じゃなくて。岡崎(おかざき)君、こんばんは」

 

 最初に声をかけてきた五月(いつき)は、違和感を感じないから本物だろう。言い直したもうひとりの五月(いつき)は、間違いなく四葉(よつば)

 

「お前たちも、旅行の買い物に来たんだってな。二乃(にの)三玖(みく)は、一緒じゃないのか?」

「あー、えっと、ふたりはまだ、買い物の最中でして......」

「そ、そうなんです。女の子は、いろいろ大変なんですよ、岡崎(おかざき)さんっ」

 

 視線を向けると、一花(いちか)は、ニコッと悪戯な笑顔を見せた。どうやら、下着を選んでいるというのは冗談ではなかったらしい。また、セクハラを受けていたようだ。これで二度目の被害、民事訴訟を起こせば勝てるだろうか。

 

四葉(よつば)、口調が元に戻ってるぞ」

「はっ! やっぱり自信ないよぉ、うまくできるかな? うぅっ、緊張してきた......」

「気持ちはわかります。私も、姉妹のマネは苦手ですから」

「大丈夫だよ、四葉(よつば)。無理して演じなくていいんだよ。どんなに似てても、四葉(よつば)四葉(よつば)なんだから。ね?」

 

 一花(いちか)に、まるで母親のように諭された四葉(よつば)は、ゆっくりと頷いた。

 

「......うん。何か今、お姉ちゃんって感じがしたよ」

「ふふっ、実はこれ、受け売りなんだけどね。ねー?」

 

 ――同意を求めてくれるな、タマコちゃんめ......。

 ともあれ、場が落ちついたところで改めて四人で、ショップを見て回る。

 

「カイロは、私たちも持っていった方がいいよね?」

「そうですね。旅館はともかく、デッキは寒いでしょうし」

「デッキ? 船で行くのか?」

「はい。おじいちゃんの旅館は、離れ小島にあるので。高速船で、海を渡って行くんです」

「そらまた豪勢な旅行だな」

「片道十分くらいですけどね。それと、その島には、伝説があるんです。島の丘にある“誓いの鐘”を一緒に鳴らした男女は、永遠に結ばれるというロマンチックな伝説ですっ」

「林間学校の時も似たような話を聞いた気がするんだが?」

「まぁ、この手の話しはどこにでもあるからね」

「不純です。まったく......」

「相変わらずだね、五月(いつき)ちゃんは」

「あはは、そもそも相手が居ないんですけどねー」

 

 そんな他愛ない話をしながら一通り必要な物を買い揃え、インフォメーションの前で、買い物を終えた二乃(にの)三玖(みく)と合流。

 まったく同じ姿の五人と一緒に、幾分日が長くなった初春の帰り道を歩く。傍から見れば、恐ろしくシュールな光景だろう。すれ違う通行人は、もれなく二度見している。

 

「じゃあ、どこへ行くか決まってないんだ」

「計画性ないわね」

春原(すのはら)いわく。男旅は、風の赴くまま、自由気ままに彷徨う当てなき旅。スリルを楽しめてこそ、ナイスガイだそうだ」

「また似合わないセリフね。せめて、バイクの旅とかだったら少しは格好つくのに」

上杉(うえすぎ)みたいにか」

「......なんで、あいつが出てくるのよ?」

「さぁ、どうしてだろうな」

 

 惚けてみせる。ジト目を向けられるが、ここはスルー安定。

 

「フータロー、春休みに入ってから一回もアパートに来てくれない」

「春休み中の宿題は、たんまり出されましたけど」

「出発前に、ある程度片付けておかないとだよね」

「旅館で勉強は、さすがにごめんだわ」

「あはは......」

「そのことなんだけど。分からないところがあって、昨日メールを送ったんだけど、まだ返事が返ってこないんだ。何かあったのかな......?」

 

 以前、三日くらい充電が切れたまま気づかずに放置してることもままあると言っていた。たぶん今頃、落ちた成績を戻すことに全精力を注いでいるのだろう。携帯の存在を忘れるほどに。

 

「バイト終わりに会ったから、元気なのは確かだぞ。今度会った時は、充電しておけって伝えておく」

「うん、よろしく。ちょっと安心できた」

「だけど、充電切れてても気にしないって無頓着もいいところね。どうして――」

二乃(にの)?」

「な、なんでもないわっ。お土産よろしくね、朋也(ともや)

 

 最初の頃に比べると、だいぶ自然になってきた。話題の逸らし方は、雑にもほどがあるけど。

 

「呼び慣れてきたみたいだね」

 

 前を歩いていた一花(いちか)が、笑顔で後ろを振り向く。

 

「あんたたちが順応早すぎるのよっ」

「私と一花(いちか)は、フータローのことも最初から名前で呼んでたから」

「あんまり抵抗もなかったかな? でも、呼び方が被るよね。いっそのこと、あだ名とかどう?」

「あだ名......朋也(ともや)、ともや、トモヤ、トモや......トモやん?」

 

 何だか、ベンチがアホやから野球ができへん、みたいなことを言い出しそうな呼び方だった。それとも、ワシの球速は180キロの方だろうか。あと、なぜ疑問形。

 

「あんた、いつの時代の人間よ? ラジカセの音楽も妙に古かったし」

「そのクレームは、春原(すのはら)に提出してくれ。通らないだろうけどな」

 

 どこか可笑しそうに笑った一花(いちか)は、四葉(よつば)五月(いつき)にも問いかけた。

 

四葉(よつば)五月(いつき)ちゃんは?」

「うーん。私は、岡崎(おかざき)さんって呼び慣れちゃってるし、今のところ、岡崎(おかざき)さんのままでお願いしまーす」

「わ、私も、現状のままで......」

「まぁ、好きにしてくれ」

 

 このやり取り春原(すのはら)に聞かれたら、発狂するんだろうな。

 アパートの階段を上った先の玄関前で、お隣さんの姉妹たちと別れて部屋に入り、遅めの夕食。ちょうど食べ終えたところで、春原(すのはら)が帰ってきた。

 

「おっ、お早いお帰りだねぇ」

「お前が遅いんだ。で、宿は取れたのか?」

「ふふーん、バッチリさ。二日分きっちり手配したっての」

「二日? 一泊の予定だろ?」

 

 午後からシフトに入っているから、夜には帰っておきたいと伝えたはずなのだが......。

 

「大丈夫だって、二日目は東京だからさ。始発で帰れば余裕で間に合うっての」

「東京って......宿代もバカにならないぞ。まさか、寮を使うんじゃないだろうな?」

「んなわけないだろ。楽しみにしておけよ。武田(たけだ)には、僕から伝えておいたからさ」

 

 それで遅かったのか。

 幾ばくの不安が残るが、もしもの時の責任は取ってもらうとしよう。

 余裕を持って旅支度を済ませ、いよいよ出発当日の朝を迎えた。

 

「いやー、同じ時間だったんだねぇ」

「実家のマンションへ行くのか?」

「いえ、駅へ迎えに来てくれるそうです」

「僕たちと同じゃん。何だか、運命みたいなものを感じるよね!」

「私じゃないわよ」

 

 ストレートに言ってのけた二乃(にの)だけではなく、他の四人にもやんわりと否定されていた。

 

「鉄板ネタだな」

「こんな不名誉なネタ要りません!」

 

 そうこうしている間に、駅に到着。

 ここへ来るのは、この地に降り立った日以来。

 あの日も今日と同じ、よく晴れた日だった。

 駅のロータリーに、一際目立つ外車が駐まっている。その車の隣には、存在感のある男性が腕を組んで佇んでいた。

 

「もしかして、あの人?」

「はい。お父さんです。では、私たちはここで――」

 

 車へ向かう前に、姉妹の父親がこちらへやって来た。

 

二乃(にの)君......二乃(にの)以外は、久しぶりだね。元気そうで何よりだよ。さぁ、荷物を積み込み次第出発する。江端(えばた)

「はい。お嬢様方、こちらへ......」

 

 茶髪で真ん中分けのファンキーな爺さんがとても紳士に、姉妹たちを誘導していくという何とも異様な光景に唖然として立ち尽くしてしまう。あの爺さん、前に階段ですれ違った人だよな、と思っていると、姉妹の父親が声をかけてきた。

 

岡崎(おかざき)君」

「あ、はい」

「例の件だけど、心は決まったかい?」

「......もう少し考える時間をください」

「そうかい。しかし、決断は早いにこしたことはない。今後のことも含めてね」

「わかっています。次の時には、答えを持っていきます」

「わかった。では、失礼するよ。キミたちも道中、気をつけたまえ」

 

 踵を返した父親が車の助手席へ乗り込むと、ゆっくりと走り出した車を見送る。

 

「なんの話し?」

「まぁ、ちょっとな。無事に帰ってきたら話す。それよか、武田(たけだ)はもう、ターミナルで待ってるってよ」

「ふーん、まぁ、いいけどさ。んじゃあ行こうぜ! ロマン溢れる男旅にさ!」

「ああ」

 

 俺たちも、旅のスタート地点。

 駅併設のバスターミナルへ向かった。

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