三学期の終業式が閉幕した後日。先日決まった旅支度のため、バイト帰りに少し寄り道をして、大型のショッピングモールへ足を運んだ。
普段の買い物は大抵、近所のスーパーで済ませていることもあって、どこに何があるのかさっぱり分からない。そんなわけで、通路に設置されているフロアの案内掲示板とにらめっこ。目当ての防寒グッズを扱っていそうなショップを模索していると、不意に声をかけられた。
「
「ん? ああ......」
声をかけてきたのは、お隣さんの五つ子のひとり、特徴的な星形の髪飾りが一番に目に入る。彼女は「お困りですか?」と小さく首を傾げると後ろで手を組み、歩み寄って来た。
「
「偶然だよな」
バイト先の清掃日と元々の休みが重なったことで、上手い具合に連休になった。おかげで、少し余裕を持って行動すること出来る。交通手段は、遠出に慣れている
因みに、
「防寒グッズを所望とのことでしたね。どちらへ行かれるのですか?」
「とりあえず、北上しながら東へ進む予定。詳しいことは決まってない」
「計画性がありませんね。あまり褒められたことではありませんよ?」
「旅行じゃなくて、旅だからな」
「旅ですか。では、珍しいお土産を期待しています」
「観光地は素通りの可能性もあり得るから、あんま期待してくれるなよ。ところでお前たちは、結局、
隣を歩いている彼女の
「気づかれていましたか。正解です。姉妹の誰だと思いますか?」
「
「即答っ! でも残念、ハズレですよ」
「そうか。じゃあ、その
「私のマネ? あっ......!」
慌てて口に手を持っていき、しまったといった
「や、やられた~。自信あったんだけどなぁー」
口調と雰囲気が、普段の
けど姿は、
「ブラフ?」
「いいや。お前は、後ろで手を組むクセがあるから」
「えっ? うそ? 全然意識してなかったよ」
「直そうとしても無理だぞ。無意識に出るからクセなんだからな」
今指摘したクセの他にも、いくつか相違点がある。
本物の
「こんな感じかな?」
体の前で手を組み直して、半歩分距離を取る。
佇まいは、完全に
「まぁ、似ちゃいるけど。どれだけ上手く演じてみせたって、やっぱりお前は、
「......うん、そだね。けど、ちゃんと見てくれてるんだね。もしかして、ラブ?」
後ろで手を組み直し、上目遣いでからかうように微笑む。
「辞書で殴られた経験はあるか? ないだろ? そういうことだよ」
「何の話し?」
「愛の話しだろ。お前が、振ってきたんじゃないか」
「捉えどころがないんだけど......?」
困惑気味の
「ところで。どうして、
「今度の旅行の買い物をかねた予行演習だよ。みんなは今、新しい下着を選んでるところ」
「ふーん」
クリスマス前の時のように、おちょくって反応を楽しむつもりだと判断して、テキトーに流しておく。
「リアクション薄くない? フータロー君だって、もう少しどぎまぎしてくれるよ?」
「あえて拾わないツッコミだ。鬱陶しい芸人に絡まれた時は、これで放送事故に追い込んでやれ」
「あははっ、そうなんだ。機会があったら使ってみるね」
生産性の欠片もないくだらないやり取りをしていたところへ、今の
「
「あっ、
最初に声をかけてきた
「お前たちも、旅行の買い物に来たんだってな。
「あー、えっと、ふたりはまだ、買い物の最中でして......」
「そ、そうなんです。女の子は、いろいろ大変なんですよ、
視線を向けると、
「
「はっ! やっぱり自信ないよぉ、うまくできるかな? うぅっ、緊張してきた......」
「気持ちはわかります。私も、姉妹のマネは苦手ですから」
「大丈夫だよ、
「......うん。何か今、お姉ちゃんって感じがしたよ」
「ふふっ、実はこれ、受け売りなんだけどね。ねー?」
――同意を求めてくれるな、タマコちゃんめ......。
ともあれ、場が落ちついたところで改めて四人で、ショップを見て回る。
「カイロは、私たちも持っていった方がいいよね?」
「そうですね。旅館はともかく、デッキは寒いでしょうし」
「デッキ? 船で行くのか?」
「はい。おじいちゃんの旅館は、離れ小島にあるので。高速船で、海を渡って行くんです」
「そらまた豪勢な旅行だな」
「片道十分くらいですけどね。それと、その島には、伝説があるんです。島の丘にある“誓いの鐘”を一緒に鳴らした男女は、永遠に結ばれるというロマンチックな伝説ですっ」
「林間学校の時も似たような話を聞いた気がするんだが?」
「まぁ、この手の話しはどこにでもあるからね」
「不純です。まったく......」
「相変わらずだね、
「あはは、そもそも相手が居ないんですけどねー」
そんな他愛ない話をしながら一通り必要な物を買い揃え、インフォメーションの前で、買い物を終えた
まったく同じ姿の五人と一緒に、幾分日が長くなった初春の帰り道を歩く。傍から見れば、恐ろしくシュールな光景だろう。すれ違う通行人は、もれなく二度見している。
「じゃあ、どこへ行くか決まってないんだ」
「計画性ないわね」
「
「また似合わないセリフね。せめて、バイクの旅とかだったら少しは格好つくのに」
「
「......なんで、あいつが出てくるのよ?」
「さぁ、どうしてだろうな」
惚けてみせる。ジト目を向けられるが、ここはスルー安定。
「フータロー、春休みに入ってから一回もアパートに来てくれない」
「春休み中の宿題は、たんまり出されましたけど」
「出発前に、ある程度片付けておかないとだよね」
「旅館で勉強は、さすがにごめんだわ」
「あはは......」
「そのことなんだけど。分からないところがあって、昨日メールを送ったんだけど、まだ返事が返ってこないんだ。何かあったのかな......?」
以前、三日くらい充電が切れたまま気づかずに放置してることもままあると言っていた。たぶん今頃、落ちた成績を戻すことに全精力を注いでいるのだろう。携帯の存在を忘れるほどに。
「バイト終わりに会ったから、元気なのは確かだぞ。今度会った時は、充電しておけって伝えておく」
「うん、よろしく。ちょっと安心できた」
「だけど、充電切れてても気にしないって無頓着もいいところね。どうして――」
「
「な、なんでもないわっ。お土産よろしくね、
最初の頃に比べると、だいぶ自然になってきた。話題の逸らし方は、雑にもほどがあるけど。
「呼び慣れてきたみたいだね」
前を歩いていた
「あんたたちが順応早すぎるのよっ」
「私と
「あんまり抵抗もなかったかな? でも、呼び方が被るよね。いっそのこと、あだ名とかどう?」
「あだ名......
何だか、ベンチがアホやから野球ができへん、みたいなことを言い出しそうな呼び方だった。それとも、ワシの球速は180キロの方だろうか。あと、なぜ疑問形。
「あんた、いつの時代の人間よ? ラジカセの音楽も妙に古かったし」
「そのクレームは、
どこか可笑しそうに笑った
「
「うーん。私は、
「わ、私も、現状のままで......」
「まぁ、好きにしてくれ」
このやり取り
アパートの階段を上った先の玄関前で、お隣さんの姉妹たちと別れて部屋に入り、遅めの夕食。ちょうど食べ終えたところで、
「おっ、お早いお帰りだねぇ」
「お前が遅いんだ。で、宿は取れたのか?」
「ふふーん、バッチリさ。二日分きっちり手配したっての」
「二日? 一泊の予定だろ?」
午後からシフトに入っているから、夜には帰っておきたいと伝えたはずなのだが......。
「大丈夫だって、二日目は東京だからさ。始発で帰れば余裕で間に合うっての」
「東京って......宿代もバカにならないぞ。まさか、寮を使うんじゃないだろうな?」
「んなわけないだろ。楽しみにしておけよ。
それで遅かったのか。
幾ばくの不安が残るが、もしもの時の責任は取ってもらうとしよう。
余裕を持って旅支度を済ませ、いよいよ出発当日の朝を迎えた。
「いやー、同じ時間だったんだねぇ」
「実家のマンションへ行くのか?」
「いえ、駅へ迎えに来てくれるそうです」
「僕たちと同じゃん。何だか、運命みたいなものを感じるよね!」
「私じゃないわよ」
ストレートに言ってのけた
「鉄板ネタだな」
「こんな不名誉なネタ要りません!」
そうこうしている間に、駅に到着。
ここへ来るのは、この地に降り立った日以来。
あの日も今日と同じ、よく晴れた日だった。
駅のロータリーに、一際目立つ外車が駐まっている。その車の隣には、存在感のある男性が腕を組んで佇んでいた。
「もしかして、あの人?」
「はい。お父さんです。では、私たちはここで――」
車へ向かう前に、姉妹の父親がこちらへやって来た。
「
「はい。お嬢様方、こちらへ......」
茶髪で真ん中分けのファンキーな爺さんがとても紳士に、姉妹たちを誘導していくという何とも異様な光景に唖然として立ち尽くしてしまう。あの爺さん、前に階段ですれ違った人だよな、と思っていると、姉妹の父親が声をかけてきた。
「
「あ、はい」
「例の件だけど、心は決まったかい?」
「......もう少し考える時間をください」
「そうかい。しかし、決断は早いにこしたことはない。今後のことも含めてね」
「わかっています。次の時には、答えを持っていきます」
「わかった。では、失礼するよ。キミたちも道中、気をつけたまえ」
踵を返した父親が車の助手席へ乗り込むと、ゆっくりと走り出した車を見送る。
「なんの話し?」
「まぁ、ちょっとな。無事に帰ってきたら話す。それよか、
「ふーん、まぁ、いいけどさ。んじゃあ行こうぜ! ロマン溢れる男旅にさ!」
「ああ」
俺たちも、旅のスタート地点。
駅併設のバスターミナルへ向かった。