~辿り着く場所~   作:ナナシの新人

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Episode28

 東京に着いた日の夜中。

 今日厄介になることになった、幸村(こうむら)の爺さんの自宅の縁側でひとり、夜空を眺めていた。

 東京の中でも、自然が多く残るこの街は、一晩中光が消えることのない都心部と比べると静かで、月も、星もいくぶん綺麗に瞬いて見える。

 

「何を黄昏れておる?」

 

 幸村(こうむら)の爺さんは、湯飲みがふたつ乗ったおぼんを置き、静かに腰を降ろした。

 

「人生を悟るには、まだ早いぞ」

「そんなんじゃねーよ」

「冗談だ」

 

 相変わらず、惚けた爺さんだ。

 

「三日会わずば刮目せよ、とは言うが。見違えたの」

「また、軽口か?」

 

 泊めてくれた爺さんには悪いけど、戯言に付き合ってやれる余裕は、今の俺にはない。

 当初の目的だった、悩み事なんて忘れるくらいの壮大な旅は、忘れないほどの迷いを生む壮大な旅になった。

 大地の果てで訪れた思わぬ出会い、明かされた事実。

 そのことで、頭の中がいっぱいで。せっかく用意してくれた食事も、殆ど喉を通らなかった。体も、心も疲れているはずなのに眠気の欠片すら襲ってこないほど、現状を冷静に受け止められていないでいる。

 

「そう、卑屈に捉えるな。本心だ。半年前、旭高校へ送り出した頃とは、まるで別人だ。あの頃のお前は、世話の焼ける子どもだったからの」

「......今は、違うのか?」

「己に問いかけてみるとよい」

 

 自分じゃよく分からない。俺は、変わったのだろうか。

 もし、ただ、惰性のように生きていたあの頃と本当の意味で変わったのなら。それは、向こうでの新しい生活、新しい出会いが変えてくれたのだろう。

 それでも、今も迷ってばかりだ。

 

「少なくとも、目を背けてはおらぬだろう。わしにも、お前のように思い悩み、迷い、苦しみ、葛藤する時期はあった」

「爺さんにも?」

「当然だ、人間だからの。時代の移り変わりと共に、学校の役割、教師の在り方も変わり。結局のところ、自分勝手な信念を押し付けていただけではないのか、とな」

 

 爺さんの、教師としての信念。

 教え子は全員、卒業させる。

 爺さんを慕っている教師は多い、と初日に案内してくれた日本史の教師から話しを聞いた。

 何より、退学処分寸前間際だった俺たちに、新しい学校生活を送るきっかけを作ってくれた人だ。感謝はあれど、その志が間違っているとは思えない。

 

「正しさとは、所詮は主観的なものだ。立場や状況によって大きく変わる曖昧なもの。時には、大切なものを守るために、守りたいものを傷つけてしまうことさえもある」

 

 守るために傷つける。言葉が矛盾している。

 だけど、なんとなく分かる気がする。

 

「わしが思い悩んだのは、教師としての経験と年を重ねてからだ。今のお前は、同じ年の頃のわしよりも遥かに成熟しておる。既に答えを持ち合わせておるのではないかの」

 

 俺は、その問いかけに肯定も否定も出来なかった。

 

「さて、冷えてきたの。明日は、早いそうだな。寝ておかねば、身体に障るぞ」

 

 手つかずのまま湯飲みが乗ったおぼんを持ち、灯りの消えた居間へと戻って行く背中を見送り、再び夜空を見上げて、改めて考える。

 爺さんの背中からは、迷いは一切感じなかった。

 

「既に答えを持ち合わせている、か......」

 

 見透かされていた、自分でも気づかなかった心の内を。

 今、持ち合わせている答えが、正解か不正解かなんてことは分からない。

 ただ、今日までの日々を振り返り、様々なカタチを知り、在り方を知り。ひとつだけ確信して言えることがあるとすれば、それは――。

 

 

           * * *

 

 

「あんがとな、爺さん!」

「お世話になりました。幸村(こうむら)先生」

「またいつでも遊びに来るといい。向こうの校長によろしく伝えてくれ」

「はい。承りました」

 

 挨拶をした二人が先に、玄関を出て行く。

 靴紐を結び直し、荷物を担ぎ、俺も立ち上がる。

 

「答えは、出たようだな」

「ああ。正解なのかは分からないけど」

「今は分からずとも、いずれ分かる。わしもそうだった」

「そっか。任せていいか?」

「うむ、任せておけ。では、またの」

 

「お世話になりました」と、丁寧に頭を下げた俺に、爺さんは愉快そうに笑っていた。

 背に受けた笑い声に押されるように出た外は、まだ薄暗く、若干の肌寒さを感じる。

 

「本当にいいのかい? ここから歩いて行ける距離だよね」

「バイトあるからな。始発に乗り過ごしたら間に合わない」

「そのことなら、僕が代わりに――」

「まぁ、本人がいいって言ってんだからさ。無理強いするのもあれっしょ」

「そう言うことだ。武田(たけだ)、サンキューな」

「......そうか。じゃあ帰ろう」

 

 行きと同じように高速バスに乗って、東京を離れた。

 そして、多少の渋滞に捕まりながらも定刻通り、無事にターミナルに到着。

 バス停で、武田(たけだ)と別れて、三日ぶりに自宅アパートに帰ってきた。荷物を降ろして、ひと息......なんてものはつく暇もなく、貴重品と土産を持って、バイト先へ急いだ。

 

「おつかれ~」

「マジで疲れた......」

 

 コンビニで調達した晩飯を置いて、テーブルに突っ伏す。

 

「さっき、五つ子ちゃんたちが来たよ」

「ああ......そうか、そういえば電気ついてたな」

 

 疲労困憊で、それどころじゃなかった。

 

「ってことで、さっそく挨拶に行くぞ」

「はぁ?」

「だから、土産を渡しにだよ。さっき来たって言っただろ。お前が帰ってきたら渡しに行くって言っておいたんだよ」

「ズボラなクセして、変なところで気を回すなよ」

「きっちりしておかないとね。ほら、行くぞー」

 

 晩飯はお預け、土産を渡すために隣の部屋の呼び鈴を鳴らす。三玖(みく)四葉(よつば)の二人が、出迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ。そして、お久しぶりですっ」

「三日ぶりだな。旅行、どうだった?」

「いろいろあったけど楽しかった。それより上がって、もう出来てるから」

「何が?」

「晩ご飯ですよー。岡崎(おかざき)さんが二乃(にの)の手料理を食べたがってるって、春原(すのはら)さんが――」

 

 アホ面の肩をガッチリ掴み、ドスを利かせて問い詰める。

 

「い、イタイっす......!」

「どういうことだ?」

「い、いや、それがさ。冗談交じり言ったら、この運びに。アハハ」

 

 まったく、人をだしに使いやがって、コイツは。

 

「何してんの。早く上がりなさいよ」

 

 奥から、エプロン姿の二乃(にの)が顔を出した。

 

「言われなくても分かってるわよ」

 

 ひとつタメ息をつき、春原(すのはら)の肩から手を放す。

 

「悪いな、材料費――」

「それは、僕が出しといたよ。臨時収入があったからね。おじゃしゃーすっ」

「ハァ、お邪魔します」

 

 通された部屋のコタツの上には、まるで店で出てくるような色とりどりの料理が並んでいた。その料理に目を輝かして凝視している五月(いつき)を、微笑ましそうに見ていた一花(いちか)が、俺たちに気づく。

 

「いらっしゃい。久しぶりだね」

「邪魔する。これ、土産。飯の後にでも食べてくれ」

「ありがとう。あっ、すごーい。まるごとの丸いアップルパイだ。こんなのあるんだね」

「映えるわね」

「僕からは、これ!」

 

 存在感のあるビニール袋に入っていた物は、春原(すのはら)の家でご馳走になった、郷土料理の鍋セット。これが、なかなか好評で。特に五月(いつき)は「寒の戻りが楽しみですねっ」と、テンションが高かった。

 

「お二人とも、遠慮せず座ってくださいっ」

 

 四葉(よつば)に促されて、コタツに入って、ご相伴に預かる。旅行の思い出を話しながらの夕食は、とても賑やかだった。

 そして、気がつくと、暗闇の中に居た。

 

「ん? ここは......」

 

 身体を起こす。ブランケットらしきものが肩から落ちた。どうやら、土産話の最中に眠ってしまったらしい。ポケットをまさぐり、スマホで時間を時刻を確認する。午前五時過ぎを表示していた。

 

「あ、ごめん、起こしちゃった?」

 

 後ろから、一花(いちか)の声が聞こえた。

 コタツを出て、答える。

 

「悪い、すぐ帰るから」

「気にしないで。騒がしかったから起こしちゃわないか心配だったけど、疲れてたみたいだね。ぐっすりだったよ」

「昨日、夜更かししたから」

「休んでてくれていいよ」

「いや、今からバイトなんだ」

「そうなんだね。じゃあ途中まで一緒に行こ」

 

 一緒に姉妹の部屋を出て、スミレ色の朝焼けが照らす歩道を並んで歩く。

 

「もう春なのに、朝は寒いね」

「桜も咲き始めたのにな」

 

 まだ五分咲きくらいだけど、ちらほらと薄紅色の小さな花びらを咲かせている。あと一週間も経てば、見頃になるだろう。

 

「撮影?」

「ううん。実は今日、映画の完成試写会の打ち合わせがあって。眠気覚ましの散歩」

「タマコちゃんのやつか?」

「違うから! 言わないでって言ったよねっ?」

「有名になる前に返しとかねーとな。つーか、あれ以外にも出演してたんだな。どんな内容なんだ?」

「青春学園モノだよ。私は、生徒役で――」

 

 近日公開予定の初主演映画の話しをする一花(いちか)は、どこか吹っ切れたように生き生きとしていた。

 バイト先のパン屋の前で少し待ってもらって、焼きたてのパンを入れた袋を、一花(いちか)に差し出す。

 

「迷惑かけた詫びと、餞別。朝飯にでも食べてくれ」

「いいの? ありがとっ。がんばってね、朋也(ともや)君」

一花(いちか)。お前もな」

「うん、がんばるよっ」

 

 またね、と笑顔を見せた一花(いちか)と別れ、店内に戻った。

 バイト上がりの午後一時過ぎ、病院へ向かい歩いていると、買い物中の二乃(にの)三玖(みく)に出会した。

 

「晩ご飯の買い物の帰りよ。それから」

「CD探してたんだ。朋也(ともや)のスマホに入ってたの。だけど」

「レンタルショップ何軒か回って見たんだけど、ぜんぜん見つかんないわ」

「配信止まってるからな。動画サイトは?」

「カバーはあったんだけど、本人の音源はなかったんだ」

「やっぱり、全然違うのよねー」

 

 姉妹の持つスマホと、俺のスマホはタイプが違う。パソコンがあれば、データを共有してやれるんだけど。残念ながら持ち合わせていない。何か協力してやれるとすれば。

 

「手伝うよ。荷物持ちくらいだけどな」

「いいの?」

「ありがと」

 

 ひとつずつ持っていた買い物袋を預かり、近くの中古ショップを回る。何店舗か探してみたものの、結局、目当てのDCは見つからなかった。休憩がてら、ショッピングセンターに立ち寄り、席を立った二乃(にの)を待ちながら、ベンチに座って三玖(みく)と話す。

 

「手伝ってくれて、ありがとう。また今度、探してみるよ」

「そんなに気に入ったのか?」

「あんなに真っ直ぐ心に響く詩、初めて聴いたから。私も、あの詩みたいに素直な気持ちを言葉に出来たらなって」

 

 誰かひとりを特別贔屓して応援はしてやれない。

 けど、平等に応援してやることくらいは出来る。

 

「ちゃんと伝えられるといいな。がんばれ、三玖(みく)

「うん、がんばってみる」

 

 二乃(にの)が戻って来た。荷物を持って、立ち上がる。

 

「お待たせ」

「いや。じゃあ帰るか」

「いいの? 用事あったんじゃないの?」

 

 二人と会ったのは、普段の通り道じゃなかった。正直に話すと、気を遣わせてしまう。周囲を見て、目に止まった場所を指差す。

 

「じゃあ、寄ってもいいか?」

 

 そこは、ショッピングセンター内に店舗を構える家電量販店。

 

「何を見るの?」

「イヤフォン」

「そう。あっ」

 

 二乃(にの)が、調理家電のコーナーで立ち止まった。

 電子レンジ、オーブンレンジ、トースター、電気ポット、様々な調理器具が陳列され、中でもひときわ目を引いた家電は――。

 

「これって、炊飯器だよな? パンとか、ケーキも作れるのか」

「もっと多機能なのもあるわよ。カレー、スープ、煮込み料理もスイッチひとつで出来るわ」

「便利な世の中になったもんだな」

 

 それ相応の対価がかかるらしいけど。一般的な炊飯器と比べると、値札の数字がおかしなことになっている。

 

「私は、性に合わないわ」

「そうなのか?」

「料理は、作ってる時が一番楽しいのよ。食べてくれる人の顔を思い浮かべながら作るの」

二乃(にの)の将来の夢は、自分のお店を出すことだもんね」

「それ、子どもの頃の話しって言ったでしょ」

「ふーん。いいと思うけどな、二乃(にの)の料理美味いし。奢ってくれ、通いつめるから」

「そこは、ちゃんと払いなさいよ」

 

 冗談交じりに軽く笑う。でも、いいと思ったのは本心だった。

 調理器具コーナーを離れ、オーディオ機器コーナーへ。イヤフォンを見る前に、芽衣(めい)ちゃんが持っていたタイプと同じCDラジカセを見つけた。

 

「スロットが付いてる。これなら聴けるんじゃないか?」

「いいかも。だけど」

「ラジカセって結構するのね。やっぱり、アルバイト探そうかしら。無事に進級できたことだし」

一花(いちか)ひとりに負担かけちゃってるもんね」

 

 真剣な表情で話し合う、二人。

 スマホを操作して、データを一時的に本体へコピーして、メモリーカードを取り出す。

 

「やるよ」

「えっ? でも――」

「データは本体にコピーしたから」

「じゃあ、ありがとう」

「今じゃなくてもよかったのに」

「今が、ちょうどいいんだ。ここで買えるからな」

 

 広告の品と書かれたセール品の、新しいメモリーカードを買って、ショッピングセンターを後にする。話しながら帰り道を歩いていたところ、二乃(にの)は、ふと思い出したように聞いてきた。

 

「そういえば、イヤフォンは?」

「忘れてた」

「もう、何してるのよ。戻りましょ」

「いいって。いつでも買えるから」

 

 そんなものは、いつでもどこでだって買える。元々目的ってわけでもなかったし。もう半分近くまで来ている。今さら戻っても、二度手間になるだけだ。

 渋々ながらも納得してもらって、玄関の前で買い物袋を渡す。

 

「ありがと。助かったわ」

「これも大事にしまっておくから」

「ああ。手に入れたら、思う存分聴いてくれ。じゃあな」

「またね」

「ばいばい」

 

 二人と別れて、一度部屋に戻る。

 するとそこには、にわかには信じがたい光景が広がっていた。

 なんと、あの春原(すのはら)が、部屋の掃除をしていた。

 

「病院行くか? 手遅れだろうけど」

「あなた失礼ですねぇ。僕だって、たまには掃除くらいするさ。つーか、羨まし過ぎだっての。五つ子ちゃんの部屋に泊まったあげく、朝帰りなんてさ。次は、僕の番だからな」

「寝てなかったんだ。仕方ないだろ」

 

 厳密にいえば、コタツで突っ伏してただけだから一緒に寝ていたわけでもない。

 

「つーことで、旅の洗濯物ヨロシク! 端数は、お前持ちね」

「はぁ?」

「そんくらいしたって罰は当たらないだろ」

「わかったよ。ついでに病院寄ってくるから遅くなる」

「あいよ~」

 

 休む間もなく、近所のコインランドリーへ行き、洗濯物を放り込む。仕上がりを待つ間に病院へ行こうと店を出た矢先、またしても姉妹のひとりと遭遇した。一花(いちか)二乃(にの)三玖(みく)と来て、順番通り次は、四葉(よつば)......と思いきや、五月(いつき)だった。

 

「今、とても失礼なことを思いませんでしたか?」

「気のせいだ。昨日は、悪かったな。迷惑かけちまって」

「お疲れだったのでしょう。春原(すのはら)君から、お聞きました。いろいろあったみたいだから、と」

 

 気を回してくれたのか。確かに、これで済むなら安いな。

 

五月(いつき)。これから時間あるか?」

 

 花を供え、線香を立て、姉妹の母親が眠る墓石の前で目を閉じ、手を合わせる。

 

「何をお話していたのですか?」

「学業成就」

「神様ではないのですが?」

「冗談だ。娘さんたちのお世話になってますって話しただけだ」

「それです。突然、挨拶をしたいだなんて、いったいどういう」

「まぁ、出来る時にしておこうと思っただけだよ。教師だったって言ってたけど。五月(いつき)も、母親みたいな先生になりたいのか?」

「そうですね。最初はただ、お母さんのようになりたかっただけでした。でも、今は――」

 

 手を前で組んだ五月(いつき)は静かに目を閉じ、一呼吸置き、ゆっくりと目を開けて、母親が眠る墓石を見て答えた。

 

「私自身、先生を目指したい理由を見つけましたから」

「そっか」

岡崎(おかざき)君は、どうなのですか? 私は話したのですから、教えてください」

「ん? そうだな。直近の目的は見つけたってところだな」

「目的ですか? 希望ではなく?」

「どっちも似たようなもんだろ。さて、行かないと。ありがとな」

「あ、いえ、こちらこそ。お母さんへのお花、ありがとうございました」

 

 墓地の入り口で五月(いつき)と別れ、病院へ向かう。三度目の正直。今回は、無事に辿り着くことが出来た。

 受付を済ませ、診察室に入る。

 デスクのパソコンから俺に視線を移した、主治医である姉妹の父親は、黙ったまま凝視してきた。居心地が大変悪い。息が詰まりそうだ。

 

「あの、何ですか?」

「今、一瞬、別人かのような錯覚を覚えたよ。どうやら、決めたようだね」

 

 問いかけに頷く。

 

「正直、正しいかどうかは分かりません。だけど、だから――今を、後悔しない道を選ぼうと想います」

「そうかい。キミは、強いね。では、例の話しを進めさせてもらうよ」

 

 病院からの帰り道。

 商店街を歩いていると、目立つ緑色のリボンを風になびかせた女子が、前方から歩いてきた。そいつは、ウインドウショッピングをしているのか、ちゃんと前を見て歩いていない。

 

「ぶつかるぞ。四葉(よつば)

「わお、岡崎(おかざき)さん。偶然ですね、ここで会うなんて」

「まったくだな。けど、今回は話しを聞いてやれる」

「えっと、何のことでしょうか?」

「今のお前、あの時と同じ顔してるからな」

「あ、あはは~......」

 

 少し困ったような顔で、四葉(よつば)は、無理矢理笑顔を作った。

 

 そう、それは――あの時。

 

 この町へ来た日。ここで、初めて出会った時と同じ笑顔。

 まだ、後ろ髪が長かった頃と同じ、無理矢理作った笑顔だった。

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