~辿り着く場所~   作:ナナシの新人

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Episode2

 学食で出会った女子と瓜二つ顔で、大きな緑色のリボンを頭に巻いた女子は、中野(なかの)四葉(よつば)と名乗り。簡単に自己紹介を終えると、一つ前の空席までやって来た。

 

「よろしくお願いしますっ」

 

 とても人懐っこい笑顔での挨拶に、思わず面を喰らってしまう。

 

「あ、ああ......。中野(なかの)だっけ?」

「はい。中野(なかの)四葉(よつば)です」

「さっき学食で、お前にそっくりな顔の女子と会った。星形のヘアピンをしてる女子。もしかして――」

五月(いつき)のことですね。お察しの通り、私と五月(いつき)は姉妹ですよ」

 

 やっぱり、そうか。道理でそっくりな顔なわけだ。もう一人の中野(なかの)......五月(いつき)が話していたことと繋がった。姉妹で転校して来たから、同じクラスかとうかは断言出来なかったんだな。

 

「でも、スゴいです。初対面で、私たちを見分けられる方は珍しいですからっ」

 

 席に着いた四葉(よつば)は後ろを向いて、俺との会話を続けた。

 

「よく間違われるのか?」

「それはもう。前の学校の先生も、最後まで完璧には見分けられなかったのではないかと」

 

 それ、教師としてどうなんだ。身に付けているアクセサリーも、雰囲気も違うし、普通は見分けられるだろう。資質を疑われるぞ。

 

「と言うわけで、私たちを初見で見分けたスゴい人に認定です。おめでとうございますっ! と言っても、まだ初級ですが」

「初級? まあ、いい。それより――」

 

 質問しようとした時、教師に注意を促された。四葉(よつば)は素直に非を認めると、前を向いてしまった。まあ、いいか。休み時間にでも聞けば。そう、思っていたのだが――。

 

「一瞬で持っていかれたな」

「く、悔しくなんてないやいっ!」

 

 考えることは皆同じ。気を引くパンダの対象はあっという間に、春原(すのはら)から四葉(よつば)へと早替わり。案の定、彼女の机を取り囲むように人集りが出来上がってしまった。

 

「その制服、黒薔薇女子だよね?」

「はい、一応......」

「スゲー、本物のお嬢様学校出身だ! 挨拶は、ごきげんようって噂は――」

「あ、あはは......」

 

 姉妹の話をしていた時と違って、何やら歯切れの悪い受け答え。何か、特別な事情があるような感じに思えたけど、俺には関係のないことだ。わざわざ首を突っ込む理由もない。午後最後の授業の準備に取りかかる。

 

「次って、何だっけ?」

「体育。体力測定って話しだ」

「ふーん、体力測定ねぇ。ちょっと本気出しちゃおうかな~?」

 

 内容が体力測定と知った春原(すのはら)は、にんまりと笑みを浮かべる。持ち前の身体能力を見せつけて、注目を集めようという思惑が丸出しだった。

 更衣室で体操着に着替え、グラウンドへ移動。

 

「あれ? 隣のクラスと合同でやるんだ」

「体力測定だからだろ。どうせ、やる内容は同じだからな」

「ふふーん、それは、ますますチャンスだねぇ~。ストレッチ、付き合ってくれよ」

「ハァ、仕方ないな」

 

 嫌々言いつつも、ケガをしたくないのは本音。ストレッチに付き合い、軽く体をほぐす。やってみて思い知らされた。想像以上に体が硬い。春原(すのはら)も、危機感を持った顔をしている。

 

「集合!」

 

 ガタイの良い体育教師から号令が掛かった。クラスごとにまとまって集まる。全体でストレッチを行い、体力測定へ移行。最初の種目は、50メートル走。出席番号順に名前を呼ばれ、俺の順番が回ってきた。久々に全力で走った感想は――しんどい、以外出てこない。

 

岡崎(おかざき)、七秒フラット!」

 

 まだ十人も走っていないが、とりあえず暫定一位。

 

「やるじゃん」

「とりあえず、面目は保てただろ?」

 

 ベストからはほど遠い記録、正直、体力の低下を思い知らされた。深く大きく深呼吸して、上がった息を整える。そうしている間に、春原(すのはら)の名が呼ばれた。

 

「よーし、いっちょやってやるか!」

「ああー、待て」

「何だよ?」

「飛ばし過ぎない方がいいぞ」

「あん? ああ、そう言うことね。僕に、抜かれたくないってことでしょ。大丈夫だって、そこまで無慈悲じゃないからさ!」

「一応、忠告はしたからな」

 

 自信満々の春原(すのはら)は完璧なスタートを切り、グングンと加速。そして、ゴールの直前で盛大に転げ回った。それでもタイムは、七秒前半。多少流しても、しっかり走り抜けていれば六秒台は確実だっただろうに。

 

「ううっ......」

 

 涙を浮かべながら、トボトボと戻ってきた。

 

「だから言ったじゃないか」

 

 真面目に走ることが久しぶり過ぎて、思うように足が上手く回らなかった。運動会で父親が足を取られるのは、きっとあんな感じ何だろう。男子が走り終わり、女子の番。男子は、別の種目へ移行。

 

「――七秒フラット!」

 

 大きな歓声が上がる。

 

「おっ。岡崎(おかざき)と同じタイムじゃん」

「みたいだな」

 

 走り終えたランナーの頭には、目立つ緑色の大きなリボンが揺れていた。転校生の、中野(なかの)四葉(よつば)

 

「あはは、やっぱり速いねー、四葉(よつば)は」

「もぅ~、ちゃんと真面目に走りなよぉ」

「いやいや、お姉ちゃん、全力で走ってたよ?」

 

 ――お姉ちゃん。姉妹ということは、五月(いつき)が隣のクラスに居たのか。それらしい姿は見えなかったような......。

 

「呼ばれてるぞー」

「あ、ああ」

 

 次の種目は、ハンドボール投げ。事情を知っているらしく、体育教師が確認して来た。

 

「どうする?」

「えっと、じゃあ棄権――」

「やるよな!」

 

 春原(すのはら)が、暑苦しく肩を抱えてきた。土っぽいし、汗で湿ってるし、何より気色が悪い。

 

「おい。お前、知ってるだろ?」

「分かってるって。でも、お前なら出来る!」

「無茶言うなよ......」

「別にいいじゃん、オーバーで投げなきゃいけないって決まりもないし。ですよね?」

「ん? まぁ、どんな投げ方でも構わないが」

「ほらな。一緒に恥かこうぜー」

「それが、本音かよ。ったく......」

 

 棄権するよりも評価してくれるということで、仕方なく参加することに。50メートル走でそこそこの結果を残したこともあってか、結構注目が集まっている。

 ――こうなったら、ヤケだ。

 軸足に体重を乗せて、思い切り腕を振り抜く。低い軌道を描いたボールは、20メートル辺りに落下した。

 

「ナイスピッチ! いやー、全盛期の斉藤を思わせる見事なサイドスローだったね~」

「何十年前の選手だよ、現役選手で例えてくれ」

「歴史に名を残す名投手じゃん。さーて、僕の番だね。よーし、さっきの汚名をはらして名誉返上してやるぞー!」

 

 名誉を返上してどうするつもりなんだか、そもそも返上する名誉もない。発言には呆れるが、宣言通り平均を大きく超える大遠投を見せ、50メートル走の汚名を返上。

 その後は、滞りなく進み。最後の種目を無事に終え、他の連中が終わるのを木々の日陰に入って待つ。

 

「ハァハァ......ヤバい、マジで死にそうっす」

「お前、この後、部活なんだろ?」

「いや......これ以上動くと、ミートグッバイする自信があるよ」

 

 それ、間違ってるからな、と突っ込む気力すら無い。乱れている息を整えるだけで精一杯。休息を取っていたところ、すぐ近くをショートカットの女子が、使い終わったハンドボールが入ったカゴを運んでいた。よく前が見えないのか、足下がおぼつかない様子。辺りには、他の器具が放置されたままになっている。

 

岡崎(おかざき)?」

「ちょっと行ってくる」

 

 見てしまった以上、致し方ない。もし見過ごして、後味の悪い結果になるのは御免被る。足に鞭を打って、彼女の元へ駆け寄り、カゴの反対側から支える。結構重い。こんなの女子に運ばせるなよ。

 

「手伝う。どこへ運べばいいんだ?」

「あっ、ありがとっ。えっと、体育用具庫なんだけど......」

 

 彼女の足が止まった。

 

「どこなんだろうね」

「知らないのか?」

「あははっ、実は、私――」

一花(いちか)ー!」

 

 声が聞こえた方を見る。ボールで視界が塞がっているため顔は見えないが、緑色のリボンが近づいて来る。どうやら、四葉(よつば)のようだ。

 

「あれれ? あなたは、後ろの席の......」

「よう」

 

 ちらっと顔が見えた。声の主は、思った通り人物。

 

四葉(よつば)、用具庫の場所分かった?」

「あ、うん。聞いてきたよ。あの建物だって」

 

 指が差された建物へ運び、指を挟まないようにカゴを降ろす。

 

「助かったよ、ありがとね!」

「いや、気にする......は?」

 

 一緒にカゴを運んでいた女子の顔を見て、固まってしまった。彼女の隣に立つ女子と顔を見比べる。そんな俺に、四葉(よつば)は苦笑いで、もう一人の方は、とても愉快そうに笑っていた。

 

「まさか、もう一人居るなんて思わなかったぞ。だから、初級だったんだな」

「そう言うことですっ。でも――」

四葉(よつば)、しーっ」

 

 もう一人の姉妹、中野(なかの)一花(いちか)は口の前で人差し指を立てる。そして、二人で内緒話しを始めた。

 

「えっ? どうして?」

「だって、そっちの方が面白そうだしっ」

「もぅ、一花(いちか)ってば~」

「何の話しだ?」

「ううん、こっちの話し、気にしないで。ところで、キミの名前は?」

 

 そう言えば、自己紹介がまだだった。

 

「俺は――」

岡崎(おかざき)、何やって......って、同じ顔!?」

 

 木陰からやって来た春原(すのはら)は、目の前のそっくりな姉妹の顔を見て、予想通りの反応を見せた。

 

「いやー、まさか、三姉妹だったとはねぇ~」

「全くだ。さすがに混乱しそうだ」

 

 昇降口へ向かって、四人で歩く。俺と春原(すのはら)の一歩前を、四葉(よつば)と並んで歩いてる一花(いちか)が振り向いた。

 

「だけど二人とも、四葉(よつば)五月(いつき)ちゃんは見分けられたんだよね?」

「そうなんだよ、私もびっくりしたよ」

「まぁ、たぶんアレだよね?」

「ああ、間違いなくな」

 

 前を歩く二人が、同じタイミングで首を傾げた。

 

「双子の姉妹が居たんだ。前の学校で」

「へぇ、それでかぁ。あれ? 前の学校?」

「俺達も転校して来たんだよ、今日」

「わぁっ、それはスゴい偶然ですねっ」

「う~ん、こんな時期に、同じ学校から二人揃って......何やら事件のニオイがしますなぁ!」

 

 結構、鋭いな。

 

「ちょっと、いろいろあったんだよ」

「そっか。聞きたいんだけど、知り合いの双子の姉妹ってどんな感じ?」

 

 イジって来たわりに、空気を読むタイプなんだな。

 

「分からないのか?」

「自分達だと客観的にはね。知り合いに双子とか居ないし」

「私も、興味ありまーす。やっぱり、容姿とか、性格とか似ていたんですかっ?」

「顔は似てたな。けど......」

「性格は真逆だったね。例えると、姉はゴリラで、妹はハムスター......ひぃ!」

 

 ドシンッ! と真後ろで大きな音がした。驚いて振り向くと――。

 

「え、英和辞典......?」

「な、何で、こんなところに? まさかっ」

 

 俺と春原(すのはら)は、辺りを見回す。それらしき人物は見当たらなかった。

 

「すみませーん、大丈夫ですかー!?」

 

 見上げると、校舎のベランダで生徒が手を振っていた。

 どうやら、誤って落としてしまったようだ。ホッと胸をなで下ろす。当たり前だ。アイツが、こんなところに居るはずがない。

 

「あ、危なかったですね」

「ホント、誰にも当たらなくて良かった。こんなのが当たってたら大ケガするところだったよ」

「あ、ああ、そうだな......」

「あ、あはは......」

 

 回収した英和辞典を昇降口に置き、校舎に入る。

 

「私は、向こうだから。じゃあね!」

 

 廊下で一花(いちか)と別れ、更衣室で着替えを済ませ、教室へ戻る。朝と同じ、連絡事項だけのホームルームを終え、夕食と求人広告を調達して帰宅の途についた。

 

「いやー、しんどい一日だったねぇ~」

「ああ」

 

 転校初日、真面目に受けた授業、まさかの三つ子。

 間違いなく、今までの高校生活の中で一番濃い一日だった。

 正直、疲労困憊で、買ってきた夕食にもなかなか手が伸びない。結局半分近くを残して、残りは明日の朝食へ回すことにした。

 シャワーを浴びて汗を流し、布団の上に横になる。

 

 ――そう言えば、聞き損ねた。まぁ、いいか。またの機会で。

 

 目を瞑ると、すぐに睡魔が襲ってきた。

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