中間試験を再来週に控えた、九月末日。
通学路の商店街は、多くの屋台が軒を連ね、開店準備に躍起になっていた。この日は、この町の花火大会。そこそこの規模らしく、バイト先のパン屋も路上販売を行った。
そして――。
「いよいよだね」
「そうだな」
あっという間に月日は巡り。遂に、中間試験当日。バイトは、一週間前から休みを貰っている。チャンスは、三回。おそらく、いや、間違いなく今回の試験を全てパスすることは不可能だろう。
それでも、五教科のいずれか一つでいい。先ずは、そこを目標に俺なりにやって来たつもりだ。とりあえず、現状を知れるまたとない機会であることは間違いない。
「いやー、楽しみだねぇ。林間学校」
「......はあ?」
「だから、林間学校だよ。栞読んでないの? 飯盒炊さんとか、スキーとか、肝試しとかもあるって話しだぜ。女の子誘って、男らしいところをアピールしてさ。念願の彼女ゲットのチャンス到来って訳さ!」
「お前、本当に幸せ者だよな」
「そう褒めるなよ、照れるじゃん。アハハッ」
高笑いしている。ある意味、本当に幸せなヤツだ。
教科書を開いて、話半分に聞き流す。
「それにさ。伝説があるって話し何だしさ」
「伝説?」
「そう。最終日のキャンプファイヤーのフィナーレの瞬間に手を繋いでいたカップルは結ばれるってヤツ」
「よく聞く話しだな。で? 肝心の相手は居るのか?」
「とりあえず、手当たり次第アタックしてみる」
「それは、さすがにどうかと思うぞ?」
「僕のことが気になってても、勇気を出せない子がいるかも知れないだろ。ほら僕、イケメンだし」
この自信は、いったいどこから沸いてくるんだろうか。
「そうだな。お前は、ムチャクチャイケメンだもんな。略して、ムチャメンな」
「何だか、ムチャな顔をみたいですねぇ。とにかく、
「別にいいよ。あと全部、同じ意味だからな」
正直、色恋沙汰にかまけている余裕はない。退学宣告回避の方が重要事項だ。バイトを探してた時、最低でも高卒が条件のところが多かった。何としてでも卒業だけはしておきたい。
「それにしてもさぁ」
「今度は、何だよ......」
「
「あん?」
顔を上げて、前の席を見る。空席のままだった。
時計の針は既に、八時半近くを指している。
「居ないな」
「寝坊でもしたのかな?」
「ああ~、あり得るかもな」
土日は家に籠もって、試験勉強に専念すると話していた。と言っても、連絡を取る手段はないし。どうすることも出来ない。登校時間の八時半を過ぎた頃、試験開始時間ギリギリで、ようやく登校して来た。
「おはようございますっ」
「おっ、来た」
「ギリギリセーフ。寝坊か?」
「夜中まで勉強していて。みんな一緒に寝坊してしまいました。あはは」
「そりゃご苦労だったな」
「試験中に寝落ちしなければいいけどね」
「それは、お前だろ?」
今朝も、目覚ましが鳴り響く中で熟睡していたヤツが言える台詞じゃない。
「一夜漬けで大丈夫なのか?」
「討論は、英語で“でばて”です! 絶対に試験に出るそうですよ」
「ふーん、覚えとく」
「
「あ、はーい」
遅れてきた
「わっはっは!」
「笑うなよ!」
返却された
「どうしたんですか?」
「奇跡的なことが起こってたんだ。これ、見てくれよ」
「こ、これは......スゴいです!」
「だろ? 狙って出来ることじゃないよな」
全科目オール7点という奇跡を起こした。
「ジャックポットだな」
「嬉しくありません。つーか、お前らはどうだったんだよ?」
「ふっふっふ。じゃーん! 国語は、赤点を回避しましたー!」
他の四教科は、赤点。自分でおバカと言っていたのは本当だったらしい。と言う俺も、全教科赤点。全ての教科で二十点台前半、合格ラインをやや下回る中途半端な結果に終わった。元の実力からすれば、こんなところだろう。
「アハハ。何だ、みんな仲良く赤点じゃん」
「まあ、バカだしな」
「ししし。補習、一緒に乗り切りましょう。では私は、答え合わせと結果発表の約束がありますので」
教室を出て行く
「そう言えばさぁ。補習だと部活も参加出来ないんだろ? 予選に出られないと、ポイントも稼げないんじゃないのか?」
「......勉強、教えてください」
「オール赤点の人間に教え請うなよ......」
今後クリアしなければならない様々な課題を知ることが出来た中間試験は、こうして幕を閉じた。
* * *
「スゲー眠いんですが......」
「お前、楽しみにしてたじゃないか。林間学校」
そこそこの人数が参加した補習も無事に終わり、林間学校当日を迎えた。普段よりも一時間ほど早い登校。俺は、早朝のバイトで慣れているが、
「やっぱこのままブッチしちゃわない? ダルいしさ」
「単位に響くぞ。それに、この期に乗じて彼女作るって話しはどうなったんだ?」
「あ、ああ、アレね。何か急にどうでもよくなっちゃってさ」
失敗したんだな。分かりやすいヤツだ。
コンビニで朝食を調達し、集合時間の五分前に到着。集合場所の駐車場には、既に大勢の生徒達が集まっていた。
「もう居るよ。みんな、朝っぱらから元気だねー」
「とりあえず、飯済ませるか。空きっ腹で長距離移動はキツい」
この町へ来た日に、身を持って体験済み。
「ん? あれって、
「ああ、そうみたいだな。
辺りを見回している
「あっ、二人とも、おはよう。フータロー君、見かけなかった?」
「誰?」
「
「ああ......アイツのことね。五つ子美人姉妹を独り占めしてる、羨まけしからん野郎のことっすね!」
「ふふっ、そうそう。フータロー君は、私たち五人の心を奪って弄ぶ罪深い男の子なんだよ」
若干流し目で、色っぽく身体をくねらせた。
「ジェラシー! 僕も弄びたい、むしろ弄ばれたいっす!」
「変態か。
「あっははっ! リアクションが面白いから、つい。毎日、隣のクラスから楽しそうな声が聞こえてくるんだもん」
「全く。で、
「う~ん、そっか。携帯も繋がらなくて、そろそろ集合時間なのに......」
目が合うと
「分かった。飯食い終わったら探してみる」
「ありがと。フータロー君は、
「了解」
「オッケー」
「いやー、ホント愛されてるよね」
「分かりやすいよな」
「羨まし過ぎっす」
「さて、探してみるか」
ゴミを片付け、俺達は手分けして、
「
「はい? あ、
「
「
このリアクションからして、
「
「先生。どうしましたか?」
「肝試しの実行委員の代役を――」
事態は、予期せぬ方へ向かっていた。
「
「
「スマホ、見てないのか?」
「スマホ?」
「その反応は、見てないみたいだね。
「――え?
「妹さんが、熱を出して看病しているらしい。さっき、担任と
「らいはちゃんが風邪を。
――話し、酷かったんだ。と、聞き損ねそうなほどか細い声で呟いた。
全く、世話が焼ける姉妹だ。
「行けよ」
「えっ?」
「一時間程度の遅れ。電車とか、タクシーとか使えばどうにでもなるだろ。正真正銘のお嬢様なんだろ?」
「......行ってきます!」
列を抜けてた
「損できるのは、いい男の役回りだよね」
「自分で言うな。さっさと乗るぞ」
クラス別に用意されたバスに乗り込み、最後の確認が行われ、定刻通り学校を出発した。二人掛けの席に座った俺達は、騒がしい車内の中だろうとお構いなしに、深い眠りについた。
* * *
「――
「なんだよ? もう、着いたのか?」
軽く首を慣らして、重いまぶたを開ける。
バスは、止まっていた。
「外、見てみろよ」
視線を車窓へ移す。止まっている理由が判明した。
「......吹雪だな」
「それも、頭に猛が付くほどのね」
「立ち往生かよ。ブッチする方が正解だったな......」
「今さら言っても遅いけどね~。どうする?」
「寝る」
一番楽に時間を潰せる方法だ。と、思っていたところへ担任からアナウンスが入った。今日の予定は変更し、近隣の旅館へ分散して宿を取ることになった、と。
「いやー、宿があって助かったね。危うく、バスの中で寝泊まりするところだったよ」
「だな。だけど......」
四人部屋に、定員オーバーの六人で寝泊まり。結構、気を使いそうだ。
「とりあえず、温泉にでも行こうぜ。自由行動になったことだしさ」
「それもそうだな」
決められた予定で動くより、気楽でいい。
部屋に荷物を置き、着替えを持って、旅館の浴場へ向かう。
「
「そんな偶然、あり得ないだろ」
「ちょっといいかい?」
廊下を歩いていたところ、突然、声をかけられた。
「やあ」
声をかけてきたのは初めて見る、妙に爽やかな男子だった。