~辿り着く場所~   作:ナナシの新人

8 / 32
Episode7

 朝早く旅館を出発したバスは昼前に、コテージに到着。

 初日の予定は繰り上げられ、クラス別に各班ごとに昼食作りに取りかかる。メニューは、キャンプで定番のカレーライス。メインは料理経験のある女子が担当してくれて、俺と春原(すのはら)は、比較的簡単らしい飯盒炊さんを担当。レンガ造りのかまどで手順表を片手に、同じ班の四葉(よつば)が割った薪を使って火を熾し、米と水を入れた飯盒を備え付けの棒に吊して、火に掛けて炊き上がりを待つ。

 

「あの、隣使わせて貰って――あっ!」

「ん? ああ、二乃(にの)か。どうぞ」

「えっと、薪は――」

「使うか?」

「あ、ありがと......って、何でこんなにあるのよっ?」

「調子に乗って割りまくったんだよ。四葉(よつば)が」

「今、その絵が浮かんだわ」

 

 大量に積まれた薪の束を見た二乃(にの)は、若干呆れ顔を覗かせる。

 

「カレーの担当じゃないのか。料理得意なんだろ?」

「もう作ったわよ。後は、焦がさないように煮込むだけ。班の男子が、ご飯を焦がしちゃったから作り直しに来たの。そもそも、具材も市販のルーも用意されてたじゃない。失敗のしようがないわ」

「......本当に、そうか?」

「どう言う意味よ?」

 

 無言で、三玖(みく)の班を指差す。同じ班の女子が、何故か鍋の中に味噌を大量に投入しようとしている三玖(みく)を止めようと必死になっている。

 

「ごめん。前言撤回させて」

「了解。普段は、姉妹の分も作ってるんだよな」

「ええ。他に、まともに料理できる子がいないから」

「スゲーな」

 

 素直に尊敬する。五人前を毎朝作るなんてこと、そう出来ることじゃない。少し気恥ずかしそうにして視線を背けた。

 

「別に。一人分作るのも、五人分作るのも変わらないわ。作るのは私だから、好きな物を作れるし。出す料理に、文句は言わせない」

 

 なるほど、そういう利点もあるのか。

 

「キミは毎朝、パンなの? 四葉(よつば)が、教室に入るといつも良い匂いがするって言ってたけど」

「まかないで貰えるんだよ。さすがに、三食は飽きるけどな」

「少しは栄養バランス考えないと......て、噴いてるわよっ!」

 

 話しにかまけていたお陰で、取り上げるタイミングを見誤ってしまった。急いで軍手を付け、火から避けて、蓋を開ける。周りが少し焦げ付いていた。真ん中の方は、たぶん食べられそうだ。まあ、死にはしないだろ。

 

「キミねぇ!」

「これは、俺と春原(すのはら)の分だ」

 

 用意しておいた、もう一つの飯盒を火に掛ける。一度の失敗は織り込み済み。上手くいけば同じ要領で、失敗したら見直せばいい。

 

「時間計ってくれると助かるんだけど」

「......まったく、めんどうね。スマホ、買ったら?」

「そんな金はない」

 

 あれば、生活費に充てる。今はまだ、暖房器具を使わずに過ごせているが、冬になれば光熱費は確実に上がる。最悪、死活問題に発展しかねない。

 

「格安スマホなら学割適用で、ほぼタダで持てるわよ」

「へぇ、そんな契約があるのか」

 

 アパートも、無料で無線が繋がるとか書いてあった覚えがある。と言っても、今のところ必要性は感じないけど。それより冬場に備えて、他の揃えておきたい物がいろいろある。コタツとか、保温ポットとか。

 

「ところでそれ、本気で食べるつもり?」

「損をできるのは、いい男の役回りだそうだ。春原(すのはら)が言ってた」

「あの金髪が? 何それっ? 似合わな過ぎて可笑しいわっ」

 

 二乃(にの)の笑顔を見たのは、初めてだった。

 その笑顔は四葉(よつば)とも、一花(いちか)とも違う。やっぱり、五つ子の姉妹でも全然違うのだと改めて感じた。

 

「それで、その本人は?」

「サボり。そろそろ出来上がる頃じゃないか?」

「あっ」

 

 少し熱そうに、蓋を開ける。さっきのとは違い、湯気の中にキレイな白米の粒が立っていた。

 

「美味そうだ」

「でしょ? さすが、私ね!」

 

 得意気な顔で胸を張った二乃(にの)は、炊き上がった飯盒を持っていかず、この場に留まった。

 

「持っていかないのか?」

「時間計ってる途中でしょ。女子に、焦げたご飯を食べさすつもりなの?」

「だな」

 

 今度は、目を離さないようにしっかりと注意を払う。

 

「ねぇ、今夜の肝試し参加するの?」

「しない」

「えっ、ズルくないっ?」

「自由参加だろ。今の言い方だと、参加するように聞こえたけど」

五月(いつき)が、一緒に付いて来て欲しいって言うのよ。あの子、超が付くほどの怖がりだから」

「何で、参加するんだよ? ペナルティもないじゃないか」

四葉(よつば)が、脅かし役なのよ。参加者が少ないと可哀想だからって」

「うちのクラス、キャンプファイヤー担当だった気がするんだが?」

「あいつの、上杉(うえすぎ)の手伝いをするって」

「お人好しを発揮したわけか」

「そういうことよ。ホント、いい迷惑だわ」

 

 恨み言を言いつつも、参加するというのだから、本気で嫌悪感を抱いている訳ではないみたいだ。さて、こっちも出来上がった。今度は、上手くいった。二乃(にの)に礼を言って、自分の班に戻る。

 しかし、誰も居なかった。代わりに、テーブルの上にメモが置いてある。四葉(よつば)からの置き手紙には、「肝試しの準備に行ってきます。お先にどうぞ!」と書かれていた。

 

「あれ~? 女の子たちは?」

 

 トイレへ行くと言ったきり姿を消した春原(すのはら)が、のんきに戻ってきた。

 

「肝試しの準備だってよ」

「肝試しぃ? キャンプファイヤーじゃなくて?」

「キャンプファイヤーは、明日の夜だろ。先に食っててくれってさ」

「んじゃあ、お言葉に甘えさせて貰おうかぁ。すんごい腹減ってるんだよね~」

 

 ――サボりやがったクセに、コイツは。焦げた部分をやや多めに皿に盛り、バレない様にルーをかけて手渡してやる。

 

「ほらよ」

「おっ、サンキュー!」

 

 スプーンで掬って、口に運んだ。そして、二度運んだ手がピタリと止まった。

 

「......何これ?」

「カレーだぞ。見てわからないか?」

「いや、それは分かるけどさ......このカレー、あんまり――」

「ただいま戻りましたー!」

 

 ナイスなタイミングで、四葉(よつば)達が戻ってきた。

 

「おかえり」

「あれれ? 岡崎(おかざき)さんは、まだ食べていなかったんですか?」

「今、よそってるところだよ。こっちは、四葉(よつば)達の分のご飯」

「あっ、ありがとうございますっ!」

「わぁ、美味しそう」

「ホント、いい匂いだね」

 

 座って、四葉(よつば)達が作ってくれたカレーをいただく。米の炊け具合は予想通りいまいちだけど、ルーのおかげで普通に食べられる。

 

「美味い」

「よかったですっ。ご飯も美味しいです!」

「よかったな、春原(すのはら)

「う、うん、そうだね......。頑張ったかいがあったよ。あ、あはは......」

 

 二乃(にの)のおかげで、女子達は満足してくれた。ついでに、サボった春原(すのはら)にも、ささやかな仕返しを果たすことも出来た。

 午後は、班ごとに周辺の散策。ハイキングコースをのんびり歩き、夕食後の自由行動。

 

「さーて、じゃあ始めようか」

 

 肝試しには参加せず、コテージの一室に残った俺と春原(すのはら)は、数名と共にテーブルを囲んでいた。

 

「今宵、敗者は肝を冷やすことになる。運命の麻雀大会を......!」

 

 春原(すのはら)主催の、カード麻雀大会。

 面子は俺、春原(すのはら)武田(たけだ)。そして何故か、担任が居る。

 

「おほん! んん! ああー、言っておくが。お前たちが悪さをしないか見張るためだからな? くれぐれも勘違いしないように」

「いやだな~、もちろんですよ。ただの遊びですから。アハハッ!」

 

 春原(すのはら)のヤツ、担任を巻き込んでいざという時の免罪符に仕立て上げやがった。

 

「お前、ルール知ってるのか?」

「ん? もちろん、知らないよ」

「よく参加する気になったな......」

「家庭教師をするにあたって、親睦を深めることが大事と思ったんだよ、ねっ」

 

 また無駄に爽やかだ。

 

「で? 肝を冷やすってのは」

「これさ」

 

 テーブルの真ん中に差し出された物。

 それは――抹茶ソーダ。

 担任の顔色が変わる。どうやら、この代物の味を知っているらしい。

 

「これはね、ただの抹茶ソーダじゃないんだ。これは、ホットなんだ......!」

 

 抹茶が暖かいのは分かる。ソーダが冷たいのも道理。もはや、情報が追いつかない。何故、相反する物を混ぜた上で暖めてしまったのか。どんな味がするのか、逆に気になってしまう程だ。

 

「じゃあ、そうそろ始めるとしますか。勝負は半荘といきたいところだけど、入浴時間までってことで」

「待て。この勝負、あまりにも武田(たけだ)が不利だ」

「ルールブックはあるかな?」

「ほいよ」

 

 付属品のルールブックを受け取ると、口元に手を添えて目を通し出した。

 

「とりあえず、一回目は練習って事で。解らなかったらその都度聞いてくれよ」

「うん。そうさせて貰うよ」

「よーし、じゃあ始めよう! センセ、どぞっ!」

「仕方ないな......」

 

 ここぞとばかりに、よいしょしている。

 担任の仮親で、麻雀大会は幕を開けた。

 

 

           * * *

 

 

「おい、そろそろ起きろよ。朝飯に行くぞ」

「何か、気分が悪いんすが......」

「調子に乗って、接待し過ぎるからだ」

 

 昨夜の麻雀大会。練習では負け込んだ武田(たけだ)だったが、本番では持ち前の頭脳でルールを把握し、局が進むにつれて上達して三位。媚びを売るために接待麻雀を繰り返した春原(すのはら)が、巻き返せずに最下位に沈むという結果に終わった。

 

「で、どんな味だったんだ? 抹茶ソーダのホット」

「......覚えていません」

 

 宿舎のコテージ併設の、スキー場のフードコートで朝食を食べる。

 

「スキー、どうする?」

「やらない。自由参加なんだろ」

「まあねぇ。けど、キャンプファイヤーまで暇だよね」

「また麻雀大会でも開く――」

「やりません!」

 

 若干食い気味に却下された。

 

「いい?」

 

 水色のニット帽にスキーウェア姿の女子が声をかけてきた。

 顔は、中野(なかの)姉妹。今日は、髪形が普段と違うから少し判別し辛い。

 

三玖(みく)だよな?」

 

 彼女は、小さく頷いた。

 

「正解。フータロー見かけなかった?」

上杉(うえすぎ)? 見かけてないけど」

「まだ寝てるんじゃないの?」

「部屋には、居なかった」

「そうか。なあ、ちょっといいか?」

 

 近くのテーブルで談笑していた、同じ班の女子に聞く。

 

上杉(うえすぎ)くん? 見かけてないけど、そう言えば四葉(よつば)ちゃんが、スキーに誘ってみるって言ってたよ」

「サンキュー。だってよ」

「ありがとう。行ってみる」

 

 三玖(みく)を見送り、食事に戻る。

 

「朝一でお誘いですか。モテモテだねぇ、羨ましいですねぇ!」

「お前も、学年一位になればモテるかも知れないぞ?」

「マジかよ!?」

「オール満点の上杉(うえすぎ)を越えられればな」

「......地道に行くよ。て言うか、僕には部活がある! 新人戦で大活躍すれば、モテモテだよね!」

「ああ、そうだな」

 

 生返事で、この場を流すことにした。

 

「結局、相手は見つからなかったんだな」

「うるさいよ! あなたもでしょ!?」

「俺は、お前と違ってナンパしてない」

 

 春原(すのはら)がスキー場でナンパに勤しんでいる間、俺は部屋でのんびりとくつろがせて貰った。おかげで気分がいい。

 ただ、気になったのは。昼過ぎに、上杉(うえすぎ)が担ぎ込まれたこと。その場に居合わせた五つ子の話しでは、体調不良で倒れたとのことだ。

 

「ハッスルし過ぎたんかねぇ?」

「妹の看病で疲れたんじゃないか」

「ああ~、そういえば、結構な発熱だったって言ってたし」

「なら、その風邪をもらったんだろ」

 

 寒空の中、肝試しの実行委員を務めたり、スキーしたり、体調を崩すきっかけには十分過ぎる。上杉(うえすぎ)の体調ももちろんだけど、責任感じて抱え込んでなきゃいんだけどな。

 

「おっ、フィナーレのカウントダウンが始まったぞ」

 

 顔を上げる。

 

「どうする? 手繋ぐ?」

「死んだ方がマシだ」

「あなた、辛辣過ぎです......」

 

 カウントダウンがゼロになると同時に、大きな歓声が上がる。

 そして、色とりどりの煌びやかな花火が周囲を彩り。

 林間学校は、終焉の時を迎えた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。