~辿り着く場所~   作:ナナシの新人

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Episode8

 二学期最後のイベントの林間学校が終わり、季節は晩秋を迎えた。日を追うごとに寒さが増して行き、布団を出ることに少し未練を感じるようになり始めた今日この頃。家庭教師を買って出てくれた武田(たけだ)の助力の下、放課後になると、図書室で勉強会が開かれていた。

 

「ふむふむ。どうやら、岡崎(おかざき)君は、理系の方が覚えがいいみたいだね」

「そうなのか?」

 

 自分では実感がないけど、学年二位の武田(たけだ)が言うのだから確かなんだろう。それにしても、勉強の仕方そのものを教わっただけで変わるんだな。

 

「うん。それから、この数日で解ったけど。二人とも、地頭はいいと思うよ。春原(すのはら)君も、頭の回転は相当速いね」

「聞いたか? 岡崎(おかざき)。僕、天才だって!」

「そこまで褒められてないだろ」

「ただ、絶望的に使い方を間違っているけど、ね」

「......上げてから蹴落とすの辞めていただけませんか?」

 

 悪気なく笑顔を見せる、武田(たけだ)

 春原(すのはら)の扱いも手慣れて来たようだ。

 

「今の調子なら、岡崎(おかざき)君の方は、期末試験での赤点回避は十分可能だと思うよ」

「マジかよ」

 

 もしそれが本当なら、目標だった退学宣告回避のノルマ達成になる。と言っても、ここで調子に乗って、本番を落とすことになれば意味がないし。年度末の試験にも響きかねない。油断せずに行かないとな。

 

「悪いな、春原(すのはら)

「クビになること前提で話しをしないでください」

「ところで春原(すのはら)君、部活はいいのかい?」

「あっ、やべっ! じゃあ行ってくるねー!」

 

 ノートと筆記用具を放り出したまま、図書室から走り去って行った。

 

「よく続くな。あの、超気分屋で飽き性の春原(すのはら)が......」

「さすがは、スポーツ特待生だよね。最近、サッカー部は急激に力をつけているそうで。先日の試合で好成績を収めたことを、父も喜んでいたよ」

 

 親父さん、理事長の耳にまで届いているのか。

 しかし、何故だろうか。喜ばしい話しなのだろうに、武田(たけだ)表情(かお)が一瞬、憂いを帯びた曇った様に見えたのは。

 ――何かあったのか? 親父さんと。

 口に出かかった、その言葉を飲み込む。家庭の話しだ、部外者が口を挟む事でも、土足で踏み込んで聞く様な深い間柄でもない。

 春原(すのはら)の筆記用具も片付け、図書室を後にする。

 

「話しは変わるけど。上杉(うえすぎ)君は、まだ入院中なのかな?」

「みたいだな」

 

 四葉(よつば)から聞いた話しによると、林間学校の後も熱が引かず、姉妹の父親が院長を務める病院に入院することになったそうだ。今日で、入院三日目。明日、インフルエンザの予防接種を受けるために病院へ行くと言っていたから、上杉(うえすぎ)の容態も聞けるだろう。

 

一花(いちか)から、聞いていないのか? 同じクラスなんだろ」

「なかなか尋ねるタイミングがなくてね。僕と彼女は、いつも大勢のクラスメイトに囲まれているから、ねっ」

「そら、よかったな」

 

 テキトーに流す。

 

「冗談だよ」

「心の底からどうでもいい」

「ふぅ......。でも、キミ達の方が彼女達と仲がいいのは確かだと思うよ」

「それはないだろ」

「事実さ。親同士に親交があったとしても、子供達は必ずしもイコールじゃない。会話の中で耳にすることはあったけど、実際に目にしたのも、言葉を交わしたのも、旭高校へ転校して来てからだからね。名前と顔は、まだ完全には一致していないかな」

 

 大病院の経営者と学園経営者、同じ資産家同士の子供でも、いろいろとあるみたいだ。

 

「それこそ、疑問に感じていたのだけれど。どうやって、彼女達のことを見分けているんだい?」

「普通に見れば分かるだろう? 髪形とか、身に付けてる小物とか」

「普段ならまだね。けど、フードコートの時なんて、それこそ誰かわからなかったから」

「見てたのかよ......」

「正直、あの観察眼には感服したよ。ぜひ、ご教授願いたいね」

「......そうだな」

 

 廊下を歩きながら、窓の外へ目を向ける。

 一枚のイチョウの葉が、北風に吹かれて秋晴れの夕空を舞っていた。いつかの、英和辞典のように。

 

「一言で表すとすれば――愛だな」

「......愛? つまり、姉妹の誰かに好意を寄せている、と言うことかい?」

「お前さぁ、勉強は出来ても経験は浅いのな」

「ど、どう言う意味だいっ?」

「頭いいんだろ? 少し自分で考えてみろよ、愛が持つ意味をな。先に教えておくけど、春原(すのはら)に聞いても、同じ答えが返ってくるだけだぞ。じゃあな」

 

 頭にクエスチョンマークを浮かべ、その場に呆然と立ち尽くす武田(たけだ)を置き去りにして、バイト先のパン屋へ向かった。

 

 

           * * *

 

 

 休日を挟んだ、後日の昼休み。

 久しぶりに訪れた学食で、偶然居合わせた五月(いつき)三玖(みく)と一緒に、テーブルを囲むことになった。

 

「今日は、パンではないのですね」

「たまにはな。他の姉妹は?」

一花(いちか)は、早退。二乃(にの)は、クラスの友達と」

四葉(よつば)は、ヘルプを頼まれた陸上部の方々と一緒に食べるそうです」

 

 いつも一緒と言うことでもないらしい。それはそうだ。俺も今日は、一人で学食へ来ているし。たまには、そんな気分の日もある。

 

「――って、早退? 一花(いちか)、体調崩したのか」

「い、いえ、そう言うわけではなくですねっ」

五月(いつき)、慌てすぎ。一花(いちか)は、個人的な用事で先に帰っただけ」

「ふーん、そっか。上杉(うえすぎ)の風邪でももらったのかと思った」

 

 突然、三玖(みく)が若干ふくれ面になってそっぽを向いた。

 

「フータローなんて名前の人、知らない」

「下の名前で呼んでないからな」

 

 とりあえず、ツッコミは入れおく。

 

「あはは......実は、ですね」

 

 苦笑いの五月(いつき)の話しを聞いて、納得。

 

「まだ間違えることがあるのか。三ヶ月くらい経つだろ?」

「今回の場合は、少し状況が特殊だったと言いますか」

五月(いつき)、ちょっといい」

「何ですか?」

 

 姉妹で仲良く内緒話を始め、二人して席を立った。

 止まっていた箸を進める。半分ほど食べたところで、二人が戻って来る。

 

「お待たせしました」

「いや、それで何の話しだったっけ?」

「はい。みんな、同じ髪形にしていたんです」

 

 なるほど、それで間違えたのか。顔だけで判断する難しさは、スキーの時に経験済みだけど。

 そんなことより――。

 

「ふーん。で。お前たちは、どうして入れ替わってるんだ?」

「バレた」

「バレてしましたね......」

「どうして、分かったの?」

「そうです! 今回は、セーターまで替えたのに......」

「まあ、話しの流れ的に仕掛けてくるんだろうなと」

「か、カマを掛けましたねっ?」

「行動を読まれた」

「とりあえず、元に戻ってくれ。さすがに話し難い」

 

 入れ替えたセーターはそのままに、髪形と、アクセサリーをお互いの物に戻した。

 

「理由は、いくつかある。先ずは、姿は入れ替わってるのに座る席が変わってない」

「あっ!」

「初歩的なミス。今度は、気をつけよう」

「そうですね。テストも見直しが大事です」

 

 また、やるつもりなのか。嬉々としてやっている気がするのは気のせいだろうか。今度は是非とも、別のヤツを相手にして欲しい。

 

「他の理由は、何?」

「言っておくが、上杉(うえすぎ)の参考にはならないぞ?」

「それでもいい。個人的に知りたい」

「私も、気になりますっ」

 

 二人揃って、前の目めりに身を乗り出して来た。その分引いて、話しやすい距離を保って答える。

 

「雰囲気だよ」

「雰囲気ですか?」

「ああ。五人それぞれ、何となく違う雰囲気を感じるんだ。佇まいとか、ちょっとした仕草とかで。な? 教えて出来ることじゃないんだよ」

「それは、確かに難しいですね。感受性は、抽象的でパーソナルなものですし」

「でも、身に付いた理由は参考になるかも」

「いや、それはもっとならないぞ......」

 

 思い出しただけで、気が滅入って来る。

 

「お、岡崎(おかざき)君、大丈夫ですかっ?」

「急に顔色が、どうしたの......?」

「本当に、知りたいのか?」

 

 念を押す。気圧されたらしく、二人は少し怯えながら首を横に振った。水を飲み干し、気分を落ち着かせる。

 

「俺に聞かなくても、お前たちは間違えないだろ」

「当然です。生まれたときから、ずっと一緒ですから」

「うん。間違える訳がない」

「なら、その方法を教えてやればいいじゃないか」

「無理だと思う。四葉(よつば)が教えたけど、一蹴された」

「何て言ったんだ?」

「それは――」

 

 姉妹の母親の言葉――愛さえあれば、自然と見分けられる。

 

「と、言うことがあったんだ」

 

 昼休みのやり取りを体育終わりの移動中に、四葉(よつば)と話す。

 

「そうでしたかー......はっ! それはつまり、岡崎(おかざき)さんは、私達のことを愛しているとっ!」

「どんな解釈だ?」

「だって今、言ったじゃないですか。私達に対する愛があるから見分けられるって」

「一言たりとも言っていないからな」

「僕は、愛してるけどね!」

「ご、ごめんなさいっ!」

「またフラれたーッ!」

 

 玉砕、そして即復活。

 

「まあ、僕たちの場合は、身に付ける以外の選択肢がなかったからねぇ」

「思い出したくもないぞ」

「僕、何か胃が痛くなってきたよ。アハハ......」

「お二人にいったい、どれほどの壮絶な過去が......!」

「前に話したことあっただろう。前の学校で、双子の姉妹が居たって」

「あー......えっと、はい。顔は同じでも、性格は真逆の双子さんだったと」

「その姉妹絡みでちょっとな」

「あのゲームは、二度とやりたくないよね」

「ゲーム? 五つ子ゲームみたいなものでしょうか?」

「五つ子ゲーム?」

「なにそれ?」

「ご説明します! 五つ子ゲームとはですね」

 

 五本の指を親指から一花(いちか)二乃(にの)三玖(みく)四葉(よつば)五月(いつき)と、姉妹に見た立てて誰かを予想して当てるゲーム。

 そんな微笑ましいゲームなら、どれほど良かっただろう。

 

「試しにやってみますか? 行きますよー」

 

 校舎の廊下を歩きながら、左手で右手を隠した四葉(よつば)に、教室の前に居た女子生徒が駆け寄ってきた。

 嫌な予感がした。

 

「あ、中野(なかの)さん!」

「はい? あ、あなたは......」

 

 彼女は、とても切羽詰まった表情(かお)をしている。

 何故なのだろうか? こう言う時、得てして当たってしまうのは。

 

「お願い、あなたの力を貸して!」

 

 悪い予感、と言うものは――。

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