二学期最後のイベントの林間学校が終わり、季節は晩秋を迎えた。日を追うごとに寒さが増して行き、布団を出ることに少し未練を感じるようになり始めた今日この頃。家庭教師を買って出てくれた
「ふむふむ。どうやら、
「そうなのか?」
自分では実感がないけど、学年二位の
「うん。それから、この数日で解ったけど。二人とも、地頭はいいと思うよ。
「聞いたか?
「そこまで褒められてないだろ」
「ただ、絶望的に使い方を間違っているけど、ね」
「......上げてから蹴落とすの辞めていただけませんか?」
悪気なく笑顔を見せる、
「今の調子なら、
「マジかよ」
もしそれが本当なら、目標だった退学宣告回避のノルマ達成になる。と言っても、ここで調子に乗って、本番を落とすことになれば意味がないし。年度末の試験にも響きかねない。油断せずに行かないとな。
「悪いな、
「クビになること前提で話しをしないでください」
「ところで
「あっ、やべっ! じゃあ行ってくるねー!」
ノートと筆記用具を放り出したまま、図書室から走り去って行った。
「よく続くな。あの、超気分屋で飽き性の
「さすがは、スポーツ特待生だよね。最近、サッカー部は急激に力をつけているそうで。先日の試合で好成績を収めたことを、父も喜んでいたよ」
親父さん、理事長の耳にまで届いているのか。
しかし、何故だろうか。喜ばしい話しなのだろうに、
――何かあったのか? 親父さんと。
口に出かかった、その言葉を飲み込む。家庭の話しだ、部外者が口を挟む事でも、土足で踏み込んで聞く様な深い間柄でもない。
「話しは変わるけど。
「みたいだな」
「
「なかなか尋ねるタイミングがなくてね。僕と彼女は、いつも大勢のクラスメイトに囲まれているから、ねっ」
「そら、よかったな」
テキトーに流す。
「冗談だよ」
「心の底からどうでもいい」
「ふぅ......。でも、キミ達の方が彼女達と仲がいいのは確かだと思うよ」
「それはないだろ」
「事実さ。親同士に親交があったとしても、子供達は必ずしもイコールじゃない。会話の中で耳にすることはあったけど、実際に目にしたのも、言葉を交わしたのも、旭高校へ転校して来てからだからね。名前と顔は、まだ完全には一致していないかな」
大病院の経営者と学園経営者、同じ資産家同士の子供でも、いろいろとあるみたいだ。
「それこそ、疑問に感じていたのだけれど。どうやって、彼女達のことを見分けているんだい?」
「普通に見れば分かるだろう? 髪形とか、身に付けてる小物とか」
「普段ならまだね。けど、フードコートの時なんて、それこそ誰かわからなかったから」
「見てたのかよ......」
「正直、あの観察眼には感服したよ。ぜひ、ご教授願いたいね」
「......そうだな」
廊下を歩きながら、窓の外へ目を向ける。
一枚のイチョウの葉が、北風に吹かれて秋晴れの夕空を舞っていた。いつかの、英和辞典のように。
「一言で表すとすれば――愛だな」
「......愛? つまり、姉妹の誰かに好意を寄せている、と言うことかい?」
「お前さぁ、勉強は出来ても経験は浅いのな」
「ど、どう言う意味だいっ?」
「頭いいんだろ? 少し自分で考えてみろよ、愛が持つ意味をな。先に教えておくけど、
頭にクエスチョンマークを浮かべ、その場に呆然と立ち尽くす
* * *
休日を挟んだ、後日の昼休み。
久しぶりに訪れた学食で、偶然居合わせた
「今日は、パンではないのですね」
「たまにはな。他の姉妹は?」
「
「
いつも一緒と言うことでもないらしい。それはそうだ。俺も今日は、一人で学食へ来ているし。たまには、そんな気分の日もある。
「――って、早退?
「い、いえ、そう言うわけではなくですねっ」
「
「ふーん、そっか。
突然、
「フータローなんて名前の人、知らない」
「下の名前で呼んでないからな」
とりあえず、ツッコミは入れおく。
「あはは......実は、ですね」
苦笑いの
「まだ間違えることがあるのか。三ヶ月くらい経つだろ?」
「今回の場合は、少し状況が特殊だったと言いますか」
「
「何ですか?」
姉妹で仲良く内緒話を始め、二人して席を立った。
止まっていた箸を進める。半分ほど食べたところで、二人が戻って来る。
「お待たせしました」
「いや、それで何の話しだったっけ?」
「はい。みんな、同じ髪形にしていたんです」
なるほど、それで間違えたのか。顔だけで判断する難しさは、スキーの時に経験済みだけど。
そんなことより――。
「ふーん。で。お前たちは、どうして入れ替わってるんだ?」
「バレた」
「バレてしましたね......」
「どうして、分かったの?」
「そうです! 今回は、セーターまで替えたのに......」
「まあ、話しの流れ的に仕掛けてくるんだろうなと」
「か、カマを掛けましたねっ?」
「行動を読まれた」
「とりあえず、元に戻ってくれ。さすがに話し難い」
入れ替えたセーターはそのままに、髪形と、アクセサリーをお互いの物に戻した。
「理由は、いくつかある。先ずは、姿は入れ替わってるのに座る席が変わってない」
「あっ!」
「初歩的なミス。今度は、気をつけよう」
「そうですね。テストも見直しが大事です」
また、やるつもりなのか。嬉々としてやっている気がするのは気のせいだろうか。今度は是非とも、別のヤツを相手にして欲しい。
「他の理由は、何?」
「言っておくが、
「それでもいい。個人的に知りたい」
「私も、気になりますっ」
二人揃って、前の目めりに身を乗り出して来た。その分引いて、話しやすい距離を保って答える。
「雰囲気だよ」
「雰囲気ですか?」
「ああ。五人それぞれ、何となく違う雰囲気を感じるんだ。佇まいとか、ちょっとした仕草とかで。な? 教えて出来ることじゃないんだよ」
「それは、確かに難しいですね。感受性は、抽象的でパーソナルなものですし」
「でも、身に付いた理由は参考になるかも」
「いや、それはもっとならないぞ......」
思い出しただけで、気が滅入って来る。
「お、
「急に顔色が、どうしたの......?」
「本当に、知りたいのか?」
念を押す。気圧されたらしく、二人は少し怯えながら首を横に振った。水を飲み干し、気分を落ち着かせる。
「俺に聞かなくても、お前たちは間違えないだろ」
「当然です。生まれたときから、ずっと一緒ですから」
「うん。間違える訳がない」
「なら、その方法を教えてやればいいじゃないか」
「無理だと思う。
「何て言ったんだ?」
「それは――」
姉妹の母親の言葉――愛さえあれば、自然と見分けられる。
「と、言うことがあったんだ」
昼休みのやり取りを体育終わりの移動中に、
「そうでしたかー......はっ! それはつまり、
「どんな解釈だ?」
「だって今、言ったじゃないですか。私達に対する愛があるから見分けられるって」
「一言たりとも言っていないからな」
「僕は、愛してるけどね!」
「ご、ごめんなさいっ!」
「またフラれたーッ!」
玉砕、そして即復活。
「まあ、僕たちの場合は、身に付ける以外の選択肢がなかったからねぇ」
「思い出したくもないぞ」
「僕、何か胃が痛くなってきたよ。アハハ......」
「お二人にいったい、どれほどの壮絶な過去が......!」
「前に話したことあっただろう。前の学校で、双子の姉妹が居たって」
「あー......えっと、はい。顔は同じでも、性格は真逆の双子さんだったと」
「その姉妹絡みでちょっとな」
「あのゲームは、二度とやりたくないよね」
「ゲーム? 五つ子ゲームみたいなものでしょうか?」
「五つ子ゲーム?」
「なにそれ?」
「ご説明します! 五つ子ゲームとはですね」
五本の指を親指から
そんな微笑ましいゲームなら、どれほど良かっただろう。
「試しにやってみますか? 行きますよー」
校舎の廊下を歩きながら、左手で右手を隠した
嫌な予感がした。
「あ、
「はい? あ、あなたは......」
彼女は、とても切羽詰まった
何故なのだろうか? こう言う時、得てして当たってしまうのは。
「お願い、あなたの力を貸して!」
悪い予感、と言うものは――。