エンティティ様が見てる   作:お寿司大好きTV

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儀式査定:アイアン・ワークス・オブ・ミザリーにて

 昏く澱んだ世界の底。

 その奥底で、蠢くものがあった。

 

 それは、あまりに不浄で。

 あまりに虚に満ちていた。

 

「アイアン・ワークス・オブ・ミザリー……」

 

 女神エンティティの数多の目がぎょろぎょろと動く。

 その視線の先には、現在同時に進行されている儀式の様子が映っていた。

 

「今回仕入れたサバイバーは豊作だ……ああ、そうだ、この儀式……」

 

 数多の腕の内の一本が儀式の画面を愛おしそうに撫でる。

 

「記憶の漂白に失敗した出来損ないの魂……まさかこれほどまで魅せるとは、な……」

 

 宙に、カラシナ・ゲッケイ:儀式結果:処刑、の文字列が並ぶ。

 通電後の脱出ゲート開放の間のチェイスを引き受けたこの男は、他3人を脱出させつつも自身は処刑された。

 自己中心的でありながら自己犠牲的。

 冷静沈着でありながら強迫観念に縛りつけられたこの男が参加した儀式は、剪定前の儀式とは思えないほどに高揚を覚えるものだった。

 

「シェリル・メイソン……カラシナ・ゲッケイ……この2人を霧の深部に招こうか……」

 

 残り2人は、もう一度だけ査定用の儀式にかける。

 カラシナ、シェリルの働きが目立ったせいで見極めが難しいからだ。

 

「ふ、ハハハ……」

 

 このような措置も、エンティティにとっては初めてであった。

 心と呼ぶにはあまり汚れた何かが軋みながら、揺れる。

 

「カラシナ・ゲッケイ……お前の知識は、面白い……いったい前世はどの世界にいた……?」

 

 残りの期待はずれ共の魂を貪りながら、エンティティの身体が悦びを示すようにぶちぶちと嫌な音を立てて弾けた。

 

 

 

 

 

 

「……ッ……あ、ぅあ」

 

 身体の芯を貫かれるような、鋭い痛みで意識が覚醒する。

 ここは、どこだ。

 黒い霧に包まれ、何も見えない。

 

「ああクソ。失敗した失敗した失敗した……」

 

 頭を掻きむしり、腹を押さえる。

 強烈な処刑の痛みが、幻覚となって苛んでくる。

 エンティティの脚。アレは単に腹を貫くだけに留まらなかった。

 魂そのものに傷を入れられたような、そんな悍ましさ。

 己の大切な何かを蹂躙されたような、圧倒的な不快感と苦悶があった。

 

呪術:誰も死から逃れられない(ノーワンエスケープデス)……クソ、固有パーク3つじゃなかった、追加で共通パークを……ッ!」

 

 思い返すのは、先程の儀式。

 どのキラーでも最初から取得できるパークの一つ、通称ノーワン。

 そのパークにしてやられたのだ。

 

 ノーワンの効果は単純だ。

 通電後に生存者を一撃でダウンさせられるようになるというもの。

 

「足の速さで気付くべきだった……!」

 

 副効果として、移動速度が最大4%増加というものがある。

 そこがノーワンを見分けるポイントではあるのだが……見分けたとして、無効化は厳しかったか。

 

 ノーワンは強力なパークだが、無効化する方法がある。

 そもそも呪術と名前がついたパークは全て、無効化が可能なパークである。

 呪術パークをキラーが装備した場合、マップ上にある無力なトーテム(骸骨で作られている、腰丈ほどのサイズの物)が、パークの数に応じて呪いのトーテム(火が灯った姿)に変化する。

 そして、この呪いのトーテムを破壊する事で、呪術パークの無効化が可能だ。

 

 ……中には、霊障の地などの呪いのトーテムが壊されることをトリガーとするパークもあるが。

 

「こっちはパーク一個だぞ……」

 

 動きに拙さがあるとしても、パーク全揃いの殺人鬼の相手は苦しい。

 こっちの味方の動きだって負けず劣らずの拙さだったから余計に。

 ……3人は逃げられたのだろうか。変に俺の救助を狙って居残りをしていないといいが。

 

「……ん?」

 

 突如として、周囲を覆っていた霧が晴れる。

 それと同時に、足元に鮮血で描かれた蜘蛛の巣状の模様が広がった。

 

「血……?」

 

 力が抜け、その模様の上に倒れる。

 この血は……俺の血だ。

 

「ご機嫌よう、サバイバー・カラシナ。君に理解しやすい呼び名でいくならば、これはブラッド・ウェブだ」

 

 言語ともつかない囁き声。

 しかし、脳に直接その言葉の意味が伝わってくる。

 周囲を黒い蜘蛛の脚が囲んでいる。

 

 ブラッド・ウェブ。そう言ったのか。

 儀式で得たポイントを使い、パークやアイテム等を取得していく、スキルツリーのような物。

 やはりあるのか。

 

「は、ぁ……パークの、枠は」

 

「まだ1つ。先程の儀式の報酬は少し多めにしてある。次の儀式では、2つ目の枠が開放されるだろう」

 

 そうか。

 2枠目のパーク開放は、確かレベル5……かなり多めにしてくれているらしい。

 だが共通パークで使えるものなんて限られてる。

 凍りつく背筋、予感あたりの索敵パークか、血族なんかが欲しいところだが……そこまで自分の運に期待はできない。

 

 そこで、周囲の蜘蛛の脚がケタケタと、嗤うように地面を何度も叩き始めた。

 耳の奥まで潜り込んでくるような、不快な音だ。

 

「固有パークと言ったか……それが欲しいのであれば、枠は1つ空けておく事をすすめるよ……」

 

 ……なるほど。

 

 ブラッド・ウェブに手を触れる。

 力が抜けていく感触と共に精神の奥深い場所が侵食されていく。

 これは……危険な代物だ。

 可能ならレベルを上げすぎない方が良い。

 パーク枠の最大数である4……それを開放できる15レベルあたりで止めておくべきか。

 

「好きにするといい。だが忠告しておこう……ここで使わなかった血は

、消える。お前の記憶の中のように貯め置く事はできない……」

 

 構わない。

 パークが4つ。それさえあれば俺はやれる。

 

 ブラッド・ウェブをレベル5まで回した辺りで、視界がじわじわとブラックアウトしていく。

 次の儀式に連行されるのだろう。

 

「その自信、いつまで保つか……楽しみにしているよ……」

 

 残る力を総動員して、エンティティを睨み付ける。

 奴はただ、脚を揺らして愉悦を表現した。

 

 視界が、聴覚が。完全に閉じ切る最後の瞬間。

 

 ——どこか遠くで、金切り声が聞こえた気がした。

 

 

 





洗礼といこうか。
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