「——ナ」
「カラシナ!」
「うおっ!?」
視界に飛び込んできたのは、俺を睨む金髪の女。
シェリル・メイソンだった。
次第に状況を思い出す。
そうだ、俺は処刑されて、エンティティと会って、それから……
「次の、儀式か……?」
シェリルに支えられつつ、身体を起こす。
俺が寝ていたのは丸太を切って足だけつけたような、質素なベンチだった。
そして、中心で焚かれた火を囲むように、他2人が同じようなベンチに座っている。
「あー、なるほど?」
ある意味、儀式よりも見慣れた景色だ。
dbdにおける、待機画面である。
ひょっとして出る儀式がないサバイバーはここで待つ事になるのか?
そこで、ふと、横のシェリルがずっと無言な事に気付く。
「……」
「え? 怒ってる?」
「当たり前じゃない。私達、血の協定を結んだ仲でしょ。反応が薄すぎない?」
血の協定はオブセッションであれば誰でも結べるぞ。
そんな事を言いかけて、止める。
オブセッションの概念を知ってるのは流石に言い訳がきかない。
「……そうだな。その様子だと、脱出はできたんだな?」
「貴方の処刑を見てたら逃げ遅れた」
は?
……いや、3段階目で処刑なんて教えてないからな。助けられる、と判断してもおかしくはないか。
「処刑、されたのか」
「いいや? 一応、カラシナの言ってた別の脱出経路から出られたから」
何なんだよ。
二転三転するシェリルの話に肩を落とす。
主人公ってのはマイペースらしい。
「まぁ、また無事に会えたって事で。次の儀式でも多分一緒だ、よろしくな」
俺が手を差し出すと、シェリルが握り返す。
血の協定、再結成だ。
「そうね。よろしく」
「感動の再会は済んだかしら」
向かいのベンチから女性の声が聞こえた。
そうだ、俺たち以外にも人がいるんだ。
アレは……ネア・カールソンか。
アーティスト肌の不良少女だな。
「放ったらかして悪いな。俺はカラシナ・ゲッケイ。儀式は2回目だ……あんたら、儀式の先輩ってやつだよな?」
そう言ってネアのいるベンチに歩み寄る。
隣にいる人物もよく見えるようになってきた。コイツは……デイビット・キングじゃねぇか。
「おいおいよく見りゃ新入りはジャップかよ! 期待できねぇな!」
キングが大袈裟な動作で頭を抱える。
ネアが軽く眉をしかめた。
「まぁまぁ。ここじゃ国籍は関係ない、流れる血も一緒、皆等しく死体候補だ。そうだろう?」
「ハハハハハ! 違いねぇ!」
キングが膝をバンバンと叩いて笑う。
意外に陽気だな。儀式が始まって日が浅いのか?
「つかぬ事を聞くが、ネアとキングの儀式参加回数を教えてくれないか」
俺の質問に、2人が揃って怪訝な表情を浮かべた。
何だ? 回数を聞くのはタブーなのか?
「あんた、何であたしの名前を知ってるわけ?」
「ああ。俺の名前もだ」
しまった。
クソ、また同じミスをするのか。
……だが、まだリカバリーがきく。
「俺は現世でこの儀式の管理をしている邪神について調査を行ってたんだ。黒い霧に誘われた可能性がある人物リストに、あんたらの名前があったのさ」
俺の言葉に、キングがすっと目を細めた。
「へぇ? じゃあ向こうでの俺を知ってるのかよ」
「勿論、有名じゃないか。その後の暴力とコネに物を言わせたグレーな生活については知る人は少ないけどね」
デイビット・キング。
元ラガーマンの、才能と実家に恵まれた男。
ラグビーのリーグにいた時こそ華やかなキャリアを積み上げていたが、暴力事件をキッカケにそれは一変。
リーグから追放され、酒女暴力の三拍子揃った典型的なろくでなしの人生を送り始めた。
これが俺の知るデイビット・キングだ。
「……探偵気取りかよ、くだらねぇ」
反応を見るに、俺の知識とそうズレはないようだ。
助かった。
「じゃあ、あたしの事も知ってるわけ?」
「ああ。ネア・カールソンだろ? 見事なストリートアートを描いて回っていた」
ネアの口の端が上がる。
そして得意げに続けた。
「見る目あるじゃない」
「そいつはどうも」
横でキングが不機嫌そうに鼻を鳴らす。
儀式の前に仲違いはしたくないのだが……
「おい。奥の金髪女とはどういう関係だ?」
キングから探るような目が向けられる。
どういう関係、か。
「最初の儀式は彼女と一緒だった。それ以前に会った事は無かったな」
「……2回目でその落ち着きか」
鋭いな。
流石は公式にスポーツと
「儀式の結果はどうなんだ。ゲートを開けて逃げたのか?」
これは……処刑されたと言うのはまずいか?
疑念が加速するかもしれない。
しかし、シェリルがいる以上偽ることは不可能。
いや上手く言いくるめられれば。でもバレるリスクと釣り合うか?
様々な思考がよぎり、悩んだ結果——真実を語ることに決める。
「2人がゲートから脱出、奥の金髪女が別口からの脱出。俺は……処刑された」
どうだ?
どういうリアクションになる?
ネアは単純だ。顔を青ざめさせている。
自分が処刑された時の苦しみを思い出したのだろう。
一方のキングは、無表情を保ったままだった。
「発電機を回し切ったのか?」
「ああ」
「経験者ゼロで?」
「そうだな」
「お前が指揮した結果か?」
「他の奴らに発電の指示をして、俺が殺人鬼を引きつけて時間を稼いだ」
キングが腕を組み、目を瞑る。
そしてゆっくりと口を開いた。
「俺には、違法賭博をやってる地下闘技場に出入りしてた時期がある」
ああ、知ってる。
俺は頷いた。
キングが続ける。
「俺は負け無しの闘士だったが、ある対戦を機に、顔を出すのをやめた……まぁ、場所を変えただけでそういう所自体にはその後も少しだけ出入りしてたが」
それは知らない話だ。
「俺はこう見えて冷静に物事を判断してるし、情だってある。だがあの時会ったのは、俺とは決定的に違う人種だった。間違いない、ホンモノだよ。……何のって?」
キングが目を開け、俺を指さす。
ニヤリと笑って言った。
「
俺は咄嗟に反論しようとしたが、尚も話を続けるキングに出鼻を挫かれた。
「良い。お前となら脱出できそうだ……感情やら何やら度外視でイカれた手法を取りはするが、お前みてぇなのは——恐ろしいほど合理的だからな」
「合理的である事は同意するが、狂ってはない。第一、俺はお前達のような被害者を助けようと熱心に調査を——」
「俺が儀式に何回参加したかって? さぁな、20回かそこらだろうよ。そしてゲートを開けて脱出できた回数は、たったの1回だ。しかも俺1人だけ。それをお前は初めての儀式で3人も脱出者を出した。何故か? お前が狂ってるからだよ。処刑された、なんて口では悔しそうだが、その行動が一番脱出者を増やせるからやったんだろ?」
キングが俺の胸ぐらを掴んで引き寄せる。
何なんだよ。
「俺の処刑は避けられそうになかった。だから最大限活用する事にした。何がおかしい?」
キングが堪えきれない、といった風に笑いだす。
俺の胸ぐらから手を放し、立ち上がって背中をバンバンと叩いた。
体育会系のコミニュケーションだな。
「ハハハハハ!!! おい、聞いたかよネア! やっぱそうだぜ! 次の儀式は死なずに済むかもしれねぇ!」
「……そうね」
俺は肩に回してきたキングの腕をやんわりと振り払い、シェリルの隣に戻った。
勝手に狂人に仕立て上げたきゃ仕立て上げるといい。
俺は友人を手にかける時だって微塵も狂っちゃいなかったんだ。
冷静に、苦痛を与えず、手際良くやった。
友人の死、その一つ一つに向き合ってから殺したんだ。
「あー……カラシナ、大丈夫?」
「大丈夫だ。一応俺の指示は聞いてくれそうだしな」
その後、俺はキングの興奮が落ち着いたのを見計らって、互いの能力や儀式内での立ち回りについて話し合った。
正しさと狂気は両立するものだ。