エンティティ様が見てる   作:お寿司大好きTV

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第二の儀式

 作戦会議が終わった数分後。

 疲労のせいか、強烈な眠気に襲われた俺は焚き火付近の地面に寝そべり、目を閉じた。

 

 

 そして、気付けば霧の森に俺は立っていた。

 突然の事に頭が追いつかず、周囲をキョロキョロと見渡す事しかできない。

 

「こ、れは……」

 

 微かに眠気の残る脳を無理やり動かす。

 思い出せ、ここはどのマップだ!?

 

 中央に向かって歩く。

 すると、すぐに2階建ての固有建築が見えてきた。

 

 そして目に入る——考え無しに跳んだとしてもかなりの時間が稼げてしまう、イカれた強さの窓枠。

 記憶にある。思い出せるぞ。

 

「クロータス・プレン・アサイラム…… ディスターブド・ウォード!」

 

 マップ中心に2階建ての病院。

 クロータス・プレン・アサイラムと言うと、サーカス団のあるマップ—— ファザー・キャンベルズ・チャペルの方を想起する事が多いため勘違いしがちだが、一応はナース(・・・)のマップである。

 この病院は、テキストから推測すると……ナースの勤めていた、暴力的な精神病患者を大量に閉じ込めていたらしいクロータス・プレン精神病棟だろう。

 

 初儀式の事を考慮するなら、キラーは……

 

「キィ……ァアア……」

 

 マップ上に響く金切声。

 間違いない、ナースだ。

 

 看護服に看護帽、麻袋のような物で覆われた顔。

 ひび割れ、中に火が灯った腕。

 金切声と共に行う、ブリンクと呼ばれる瞬間移動。

 

 中でも金切声は、敵がナースである事や、いつ瞬間移動したのか把握できる重要な情報源だ。

 

「巡回中ってとこか」

 

 早めに中心の確定湧き発電機を修理してしまいたいところだ。

 せっかくの強い窓枠は、相手がナースという事もありほぼ無意味だが……発電機の偏りを無くす為には真ん中は早めに抜きたい。

 

 忍び足で固有建築内に侵入する。

 目指すは階段をのぼった先、中心の部屋だ。

 

「よし……」

 

 ナースか。

 寝る前の会議で、多少なりとも対策は話したはず。

 

 チェイスのポイントは、視線を切りつつとにかく距離を取る事だ。

 実践できているといいが。

 

「ここを修理したらそこの宝箱でも漁るか」

 

 アイテムについても検証したい。

 ブラッドウェブにはまだ出現しなかった。オファリングはいくつか出現したため、使用を検討していたのだが……寝ている間に儀式に呼び出されたせいで何も使えていない。

 

 

「————ァアア!」

 

 

 びくりと肩が跳ねる。

 これは、悲鳴だ。

 生存者の誰かがダウンした事を示す断末魔。

 

「オーラは見える、か」

 

 発電の進捗はまだ半分ほど。

 もうダウンか……早いな。

 これは覚悟しておいた方が良いかもしれない。

 

「救助……可能なら他に任せたいが……」

 

 距離。行けない範囲ではない。

 だがナースは救助狩りも得意だ。そしてこの試合で決死の一撃を持った生存者はゼロ。トンネルしない理由はない。

 

 ……1台も直っていない状況でリーチを作られるのはまずいな。

 

「……クソッ」

 

 連続して吊られる事を防げる——いわゆるトンネル対策パークを持っているのは俺だけだ。

 行くしかない。

 

 オーラがふっと消える。殺人鬼に担がれたようだ。

 発電機から手を放し、床に空いた穴から一階に降りる。

 

「悲鳴は女……シェリルなら多分血の協定で担いでる間も見えるはず……いや、俺がオブセッションとは限らないか?」

 

 思考を整理しながら、おそらく吊られるであろう場所に向かう。

 固有建築を出たあたりで、ようやく悲鳴と共に吊られた生存者のオーラが可視化された。

 

 ……シェリル・メイソンだな。

 

「チェイスは苦手か。なおさら俺がタゲ取りしねぇと……」

 

 オブセッションは他の奴か。

 オブセッションが執着の対象である事を考えると……黒い霧に招かれる以前から接点のある、ネア・カールソンが現在のオブセッションと考えるのが妥当か?

 

「なら、シェリルに聞けばネアの居場所も分かる。チェイスする場所はそこから判断して……」

 

 デビキンであれば俺とチェイスを交代してもそれなりの時間が稼げるはず。

 デッドハードはそれだけのパワーがあるパークだ。

 

 そこまで考えた辺りで、シェリルが吊られたジャングルジム地帯のフックに到着する。

 

「うッ、あ!」

 

 オーラが消える。

 救助されたからだ。

 

 俺以外の者によって。

 

「被ったか……!」

 

 おそらくずっとオーラが見えていたであろうネアが救助に来た。

 純粋な発電時間の損失である……普通なら。

 

 俺が来た意味はある。

 ベビーシッターなら完全にパークが腐っていたところだが、俺の固有パークなら。

 

「そんなに急いでどうした? サリー・スミッソン」

 

 救助通知を聞きつけやってきたナースの視界内に自身の姿を晒す。

 コール・ネームが発動した感覚。

 視界の隅に、シェリルのオーラが見えるようになる。

 走って逃げている様子だ。心音が聞こえ始めたからか、俺がパークを発動したのを理解したからか……あるいはその両方か。

 

「……アァウ」

 

 ナースが、ブリンク使用後の疲労スタンを示す呻き声を発した。

 

 さぁここからだ。

 ゲームにおける、いつの時代の能力を持ったナースなのか。

 そこを確かめさせてもらう。

 

「ゥウ……」

 

 即座にブリンクの構え。

 クールタイムは無しか。ハハ、なるほど。

 絶望的だな?

 

「そんなに怒るなよ」

 

 即座にジャングルジムに入り視線を切る。

 さて、ここからどうチェイス——いや、おかしい。

 

 ブリンクの溜めが長すぎる(・・・・)

 

「トンネル狙いかよ……ッ」

 

 このナース、理性があるのか!?

 

 慌ててシェリルの位置を確認する。

 かなり遠い……俺のパークで痕跡は消えているはずだから、フック付近を探すはず……!

 なら俺のするべき行動は一つだ。

 

「じゃあ隠密させてもらうぞ」

 

 ナースとのチェイスは難しい。

 開始場所次第では熟練のサバイバーですらあっという間にダウンする事もある。

 ならどうやって時間を稼げばいいのか?

 

 隠密だ。

 ナースの通常歩行速度は他のキラーと比べて圧倒的に遅い。

 岩の裏を見る、なんて動作ですらそれなりの時間を持っていかれるほどに。

 

「俺がこのあたりにまだ残ってる事は知ってるはず」

 

 シェリルの発見は難しいだろう。

 そうなれば俺の方に来る。

 

 一人称視点での隠密など未経験だが、やるしかない。

 

「……ッ」

 

 ナースの金切声が響く。

 心音が近付く。

 

 来た。俺を探しに。

 

「……」

 

 既に俺は手頃なレンガ壁に身を隠している。

 相手の動きに合わせて、しゃがみ移動で隠密する……!

 

 ナースの呻き声が近付く。

 静かな戦いが、幕を開けた。

 




 寝ぼけているようだな。
 お前なら既に気付けているはずだ。
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