エンティティ様が見てる   作:お寿司大好きTV

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囁き

「……」

 

 痛々しい呻き声。

 それに合わせて、レンガ間を移動する。

 隠れんぼが始まってから、まだ数十秒といったところか。

 離れないあたり、ここに誰かいるという確信を持っているとみて良いだろう。

 

 つまりは——キラー共通パーク、囁きをつけている可能性が高い。

 

 囁き。

 生存者から最小32メートル以内にいると、時々エンティティの囁きが聞こえるようになるパークだ。

 

 ゲーム的に言えば、アイコンが光る。

 吊られている生存者にも反応してしまうという難点に目を瞑れば、まぁ腐ることはない汎用性の高いパークと言えるだろう。

 

 正確なところはナースのみぞ知るところだが、おそらくエンティティが俺の居る場所をこそこそと囁いているのだろう。

 なんとも陰湿な奴だ。

 

「ウゥ……ゥ……ホォウ……」

 

 ブリンクの構え。

 ようやく去るか。

 

 ブリンクの瞬間に合わせて、立ち上がる。

 時間は稼げたが、俺も時間を取られた。

 さっさと発電を

 

「キィイイ! ァアアッ!」

 

「ッ!?」

 

 こいつ、2度目のブリンクで引き返してきて……!?

 まずい、視線を切れるのは……最寄りのジャングルジムか!

 

「ウゥ……」

 

 ブリンクによる疲労スタン。

 下方修正後であれば存在するはずの6秒間のクールタイムは無い。

 即座に視線を切らなければ。

 

「ホォウ……」

 

 がらんどうの腕から灯火が漏れる。

 ブリンクがくる。

 

 視線切りは——間に合わない。

 

「う、お……」

 

 後頭部に衝撃。同時に言葉通り頭が割れるような痛みが走った。

 

「ぁあああああッ!」

 

 悲鳴をあげながら急加速する。割られた後頭部が一気に再生し、一定の損傷に変換されていくのを感じる。

 そうか、この加速は超再生による身体機能の上昇によるものか。

 痛みを思考で誤魔化しつつ、次のチェイスルートを探す。オブセッションが俺に移ったのか、血の協定でシェリルの位置が見える。

 発電中だ。なるべくその方向とは逆で、チェイスしやすい場所を探さないと。

 

「ホォウ……」

 

 ナースのブリンクが来る。

 ジャングルジムのお陰で視線は切れている。おそらく俺を視界に入れるためのブリンク。クールタイムがあったならやりづからかった動きだ。

 

「ァア!」

 

 金切り声。正確なブリンクだ。俺を視界に入れる位置まで移動してきた。

 

「あ、ぶねッ」

 

 二度目のブリンク。ギリギリ届かない。

 鋸は振ってこなかった。よく距離を見てるな……!

 

「ウゥ!」

 

 疲労スタン。どこで視線を切る? ジャングルジムには戻れる距離……引き返そう。

 

「ホォオ……」

 

 ブリンク。

 ジャングルジムに入った瞬間に、移動音を聞き取り即座に切り返した。

 ブォン。

 鋸が空を切る音。俺の移動先を読んだ上での決め打ちブリンクだ。いかにも余裕そうにチェイスするお前ならやってくれるって信じてたぜ……!

 

 敵の技量を読んだ上での、建物に入ったフリ。見事に刺さった。

 

「アァウ!」

 

 疲労スタン。

 俺は既にジャングルジムから離れ始めている。

 さぁ、どうする?

 俺がそういう事をするサバイバーなのは既に割れた。

 次は素直に建物内を突っ切るか? それとも繰り返すか?

 フェイントは多用してはならない。今成功したのは、ナースがこれまで相手してきたサバイバーのチェイス能力が低かった故のことだろう。

 

「ホォウ」

 

 ブリンク。

 俺を追尾するためのものだ。

 

「アァ」

 

 視界に俺を入れて——いや、これは。

 

「発電機を見に戻りやがった……!」

 

 ああ、そうだ。

 チェイスが上手い奴が1人しかいないのなら、そいつを発電機担当に押し込んでしまえばいい。

 絶対に逃しようがないとこまで追い込んで、最後の1人にし、初吊りで処刑してしまえばいい。

 理屈は分かる、

 

 クソ、初戦のトラッパーとは格が違う。

 しかも今アイツが見に行った発電機は……ッ!

 

「負傷中のシェリルが発電している発電機……!」

 

 まずいまずいまずい。

 俺は負傷状態でセルフケアも無い。

 シェリルがダウンして吊られた場合でもチェイスや救助は請け負いづらい。

 味方と合流? 場所もよく分かってないのに?

 

 ……ああクソ、味方がもう少し頼りになれば。

 デビキンのチェイスには多少期待が持てそうではあるのだが。

 

 発見した発電機に食らいつくようにして発電を始める。

 本当はチェストを漁って救急キットが出ないか試したい。しかし今、それをするほどの時間的余裕は無い。

 

 Dead by Daylightは、キャリーをしづらいゲームだ。

 決定打になるのはチェイスぐらいのもので、発電や救助は結局、要所での良い選択の積み重ねが物を言う。

 

 低ランクパーティーとマッチしてしまい、赤帯は自分だけ。

 そんな状況で、自分だけが執拗に見逃され続け、結局最後の1人になり初吊りで始末されてしまう。

 たまにある事だ。自分がキラーでもそうするだろう。

 

「——ッ」

 

 推定で5%ほど発電したところで、遠くで悲鳴が聞こえた。

 シェリルが吊るされたのだろう。

 ゲーム時代ならば発電中ももう少し周囲を見れたのだが、現実仕様になるとなかなか厳しい。

 

「救助はいくべきじゃない……」

 

 負傷状態の俺では吊り交換になりかねない。

 デビキンかネアに任せるのが無難なはずだ。

 

「つーか……ハハ、やべぇな出血」

 

 足元が血でぬかるみ始めている。

 だが俺がこれで死ぬ事は無いのだろう。何か、どこからか体内に血が補充されている感覚があるからだ。

 あるのは、どうにもならない血生臭さとじくじくとした苦痛だけだ。

 

「半分くらいか」

 

 発電機の上部にある突起の具合で進捗を確認する。

 折り返し地点。そろそろ一台点いていい頃だと思うんだが……そこまで期待するのは酷か。

 

 シェリルが吊られた方向をちらりと見る。

 ちょうど救助されたらしく、オーラが腹を押さえた見覚えのあるポーズに変わっている。

 

 よくやった。

 ネアかデビキンかは分からないが。

 

 

 瞬間、軽快な音が儀式の場に響く。

 発電機、まずは一台。

 

「2吊りで1台……いや、2台か」

 

 俺の発電もあと少しすれば完了する。勝ちが見えるペースになってきた。

 次は真ん中の固有建築の発電機を直しに行きたいところだな。

 

 

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