軽快な音が発電の完了を告げる。
その余韻に浸る暇は無い。
残り3台。
真ん中の発電機はまた抜けてない。
「が、ぁあ、クソ!」
負傷状態。
ゲームならばステータスの一つで片付けられるが、現実では違う。
常に苦痛を感じ続けなければならないのだ。
本音を言えば、発電なんて放ったらかしてチェストを漁るか味方を探すかしたい。
オブセッションになっているお陰で血の協定でシェリルのオーラが見える。
回復されているようだ。
複数人でやるなら速い。これは回復しても良いかもしれない。
「……いや、我慢だ。回さないと勝てない」
シェリルがトンネルされておらず、あまつさえ回復までされている。
これはおそらく、デビキンかネアのどちらかがチェイスを請け負ってくれているからだ。
「ナイスチェイスだ」
俺の推測だと、チェイスを担当しているのはデビキンだ。
何故なら、彼は彼の固有パークであるデッドハードを所持している。
デッドハード。通称デッハ。
負傷時かつ走っている時のみ発動でき、アビリティ発動で前方に素早くダッシュする。
この前方へダッシュ中はダメージを回避でき、使用後にキャラクターに(60/50/40)秒間の疲労を発生させる、といったパークだ。
そしてこのパークは疲労中には発動できず、疲労は走っている限り回復しない。
まぁ、疲労が走っていても回復する時代もあったが。
デッハを始めとする発動で疲労を付与するパークはダッシュ系パークと呼ばれ、ゲーム時代ではパーク4枠の内1つはこのダッシュ系パークにするのが定石だった。
デッドハードは汎用性が高いパークだが、ナース相手だと更に輝く。
相手のブリンクは攻撃の振りとしてはかなり分かりやすく、回避しやすいからだ。
「ネアもスマ着があるが……んー、まだ活かしやすいマップか?」
ネアもダッシュ系パークを1つ持っている。
玄人好みのやや渋いパークだが。
「うーん、真ん中の発電機、は……流石にリスクが高ぇか」
歩きで移動しながら、次の発電場所を考える。
端っこでこっそりと発電するのが良いか。
可能なら回復したシェリルとその回復を行った生存者の2人で真ん中を抜いて欲しい。焚き火の場所で俺がレクチャーした立ち回りを思い出してくれるといいのだが。
「……! チェストか」
端っこ。発電機のあるジャングルジムという好立地。その裏で、見慣れた箱を発見した。
これは……どうする?
「医療キットか鍵が出りゃでかい、か」
チェスト。
オファリングやパークで増減させない限りは、マップ上に三つだけ存在しており、内一つは地下室に確定で出現する。
開いて中身を見るには10秒程度の時間が必要で、中身は完全ランダムである。
鍵はレア度次第でハッチを開放でき、医療キットは耐久値の許す限り自分で自分を治療できるようになる。
「他人に使わせる択もあるが……」
チェストを開けると、中にはゴミやガラクタが大量に入っていた。
現実では、これらをかき分けてアイテムを探していく仕様らしい。運や手際が良ければすぐにアイテムが見つかったりするのだろうか。
「おっ」
見慣れた赤く四角い見た目。
医療キットだ。レア度は不明。
「でも助かるな」
全身が怠くてたまらない。
ゲーム時代ならチェストあさりもせず負傷状態でひたすら発電していただろうが、現実仕様となると話が変わってくる。
この苦痛は、確実に俺の思考能力を奪う。
あと一応、アイテム関連の仕様を確認しておきたい。
次の儀式にも活かせる知識なはずだ。
「……? えぇと、これは」
ジャングルジムの壁に隠れながら、医療キットの使用を試みる。
キットの箱の隙間から、透明な包帯のような物が引っ張り出せる。
「巻く、のか?」
ぺたぺたと身体にテープを貼っていく感覚だ。
怪我の治療が進んでいくのを感じるが、どうにも遅い。
もっと効率的に貼れないか。
「医療キットの引っ張り口を直で当てて、軽く引いて貼ったら一旦切って……」
奇しくも、いや、必然と言うべきか。
ゲーム時代に腐るほど見た、セルフケアの時の挙動をなぞるような動きになっていく。
いったい何を巻いているのか疑問だったが、こういう事だったのだろうか。
「キィ……アァ!」
「ッ!?」
かなり近い場所で金切り声。
途端に心音も発生する。
だが、同時に男の呻き声も聞こえる。
チェイス中だ。相手はデビキンで、負傷状態。この距離感じゃダウンが近いな。
距離感的には、治療のテープ音はギリギリ聞こえない……はず。
ギィン……
「は?」
思わず間の抜けた声が漏れる。
警告音が聞こえたからだ。
警告音。
独特な音で、小さな獲物や警戒などのパークの発動時に鳴る音だ。
だが、俺は今回どのパークもつけていない。
というより、コール・ネーム以外のパークを付けようが無かった。ブラッドウェブの深度が浅く、パークの枠がないからだ。
ひょっとして、パークが生える予兆か?
枠を空けていないと固有パークは生えてこないという話だったはずだが。
そうやって思考に没入したせいだろうか。
俺は完全に油断していた。
ナースの固有パークの存在を、失念していた。
「キィ——ァアア——ッ!」
「お、ぁあ!?」
顔に鉈がめり込む感覚。
痛みで意識が一瞬飛び、頭が地面に強く打ち付けられた感覚で目を覚ます。
「アァウ!」
疲労スタン。
後悔も反省も、今は必要ない。
必死に這いずって少しでも時間を稼がねば。
這いずりながら、後ろを向く。
ナースはこちらに近づいて——こない。
「ホォウ」
ブリンクの構え?
……まずい、これは。まずいまずい本当にまずい。
「う、おぇ……動い、てる場合じゃ……ねぇ……ッ!」
回復ゲージを溜めろ。
俺のダウンは皆に見えてるはずだ。
ナースはとっくに視界外にブリンクしていった。
目的は一つだろう。
デビキンのダウン。すなわち、俺含め2人をダウンさせた状態を作ることだ。
倒れ伏したまま必死に思考を回す。
おそらく俺が見つかったのは
効果は単純だ。
20/24/28メートル以内にいる治療中、または治療を受けている生存者のオーラを視ることができるというもの。
壁の向こう側に一瞬でブリンクできるナースとはそれなりに相性が良い。
ダウンしている間の唯一の利点。他の生存者のオーラが見える事を活かし、状況を整理する。
1人は真ん中の固有建築内で発電。これはダウン前から血の協定で見えていた事から、シェリルであると判断できる。
もう1人。腹を抱えて歩いているのはデビキンか。
そして近場の発電機でネアが発電——いや、発電の手を止めた。
呻き声でデビキンに気づいたらしい。
いや、だが、それはまずい。
「やめろ、治療するな……!」
聞こえるはずもない俺の叫びが虚しく響く。
ナースは、ナースコールの発動範囲よりも心音範囲の方が大きい。
だがブリンクによる一瞬の移動距離が長く、心音に気付いて治療を止めても位置自体はバレてしまう可能性が高い。
問題は、デビキンだけでなく治療をするネアまでも襲われてダウンした場合だ。
「ク、ソ……ッ」
ネアがデビキンの治療を開始する。
そして、少ししたところで慌てたように止めた。
もう遅い。手遅れだ。
「うぁあッ!」
ダウンを示す、短い悲鳴。
そして——軽快な音が鳴った。
「真ん中の、発電機……」
ああ。
まずい。かなりまずい。
ダウン2人。残り2人の位置バレまでしてる。
これは、立ち回り次第で……一気に全滅するぞ。
あぁ。良い。
良い絶望感だ。