「……う、あ」
目を覚ますと、暗い森の中に俺は倒れていた。
ここは……考えるまでもない、エンティティの世界だ。
自分の姿を確認する。
モーニングスターが無い。
……エンティティの脚を直で使うタイプのキラーにされたか?
「初試合か」
そんな事を考えながら森の中を進んでいく。
しばらくすると、景色ががらりと変わり、眼前に見覚えのあるオブジェクトが出現した。
「マクミラン・エステート……」
無骨な2階建ての建造物。
ゲームで見慣れた景色だった。
背後を振り返ると、先程まで歩いてきた森は無くなっている。
そういう始まり方か。
暫くキョロキョロと周囲を見渡した後に、俺は再び歩き始めた。
「アイアンワークス・オブ・ミザリーだな」
俺はすぐに、マクミラン・エステートの中のどのマップかを見抜いた。
中央の2階建ての建造物には、発電機が確定で出現する。
まずはそこを確認だ。
ゲーム時代ではキラーは発電機のオーラが見えていたが、実際は違うらしい。
巡回がやりづらくて困る。
「第一、俺のキラー能力がわかってねぇんだっつーの」
ふらふらと建造物を出た辺りで、ドクン、と心臓の音が聞こえた。
「ッ!?」
思わず建造物に戻りしゃがみ込む。
心音が止まない。
馬鹿な、有り得ない。
そんな思考が駆け抜ける。
「ハァ……、ハァ……」
あまりの恐怖に思わず声が漏れる。
やめてくれ、収まれ。
違う、俺は、殺人鬼のはず——
カチッ、キリキリ……
(トラッパー!?)
何度も何度も聞いた音。
トラッパーと呼ばれる殺人鬼が、踏むと生存者を負傷させ外すまで動きを封じるトラバサミを設置する音だ。
ただし、何度も聞いたというのはゲーム内の話。
生身で聞く殺意の籠った音。それはあまりにもゲーム時代の感覚と乖離していた。
動揺が一気に広がる。
ああ、神よ。
女神エンティティよ。
何かの間違いだと言ってくれ、俺は、俺は……まさか、サバイバーなのか?
「……心音が消えたか」
納得も、理解もできていない。
だが一時的にも脱出しなきゃ殺される。殺されても死なない世界ではあるはずだが、痛い思いなんかしたくない。
となれば、ゲーム時代の通りやるしかない。
マップに配置された7台の発電機の内5台を修理し、脱出ゲートを開けて逃げる。
「クソ、どういう仕組みだ……順番通りにコードを繋いで、スイッチを押す……?」
発電機に張り付き、ギコギコと音を鳴らしながら修理を開始する。
これが俺の知る儀式ならば、生存者は4人いるはず。他の3人はどこで何をしているのだろうか。
俺のように初めてここに来た奴だったとしたら最悪だ。
発電機はまず回り切らないだろう。
ならもう一つの脱出手段であるハッチを開けるための鍵を探すべきか?
発電を進めながら、アイアンワークス・オブ・ミザリーの宝箱確定湧きポイントである2階の小部屋を睨む。
「はやく、はやく直れよ……ッ」
そこで焦りが出た。
手順を進めるタイミングを間違えて、発電機を爆発させてしまったのだ。
「やっば」
慌てて走ろうとして、すぐに停止する。
歩かなければ。足跡を辿られてしまう。
タゲを取ってチェイス担当なんてごめんだ。
ゆっくりと2階に移動している途中で、心音が鳴り始める。
来たか。やはり爆発させると殺人鬼に通知がいくらしい。
2階の手摺りからトラッパーの挙動を眺める。
聞こえる心音に負けず劣らずの自身の心音を感じる。
トラッパーは暫く発電機の周囲を彷徨いた後に、去っていった。
罠を仕掛けた様子はない。
手持ちが無かったのか、あえてここは修理させきる判断なのか。
「ついでにチェスト漁り、するか」
窓枠を超えて、小部屋に入る。
チェストを発見した。
「さて、中身はなんじゃろな……っと」
「ちょ、ちょっと!」
「うおッ!?」
突然背後から声をかけられ、慌ててチェスト開けを停止する。
まずい、これも殺人鬼に通知がいく行動だ。
声をかけてきた人物を見る。
ショートカットの金髪。やたら多いそばかす。
そして強い意志を宿した挑戦的な目。
「シェリル・メイソンか」
「な、何で知ってるのよ……もしかして貴方」
シェリル・メイソン。
サイレントヒルコラボで追加されたキャラクターだ。
固有パークは血の協定、ソウルガード、抑圧の同盟。
抑圧の同盟に関してはその“感触”が非常に気になるところだな。
「教団の者ではない。とにかく、お前に驚かされたせいで慌ただしくチェストを閉めちまった。直に殺人鬼が来る。逃げるぞ」
コラボ先の殺人鬼がいることがほぼ確定した。
三角様か。相手したくねぇな。
檻とかめちゃくちゃ痛そうだし、煩悶状態もかなり苦しそうだ。
「え、ちょっと」
「走るなよ、足跡がつく」
「……物知りね、後で色々と質問させて」
「後でな」
今は逃げる時だ。
階段をゆっくり下っていく。
途中から心音がドクドクと鳴り出すが、方向的に向かい側からそのまま2階に登るルートなはずだ。
逃げる時間はある。
そう思い、少し安心したその時だった。
「キャアッ!?」
階段を降り切った場所にトラバサミ。
先ほど仕掛けなかったのは、ここに既に配置していたからか!
「クソ、まずいまずいまずい。オラ、外すぞ、外れたら走って逃げろよ。ここにはあと2人味方がいるはずだから治療してもらえ」
「ハッ、ウゥ……痛い……!」
脚を怪我したはずだが、彼女は何故かお腹を抑えている。
リアルで見ると違和感しかねぇなこの仕様。
そんな事を考えている間にも、心音が近付いてくる。
「はやく行けッ! さっさと発電機を修理しろよ!」
「あ、貴方はどうするのよ!」
俺がどうするって?
決まってんだろ。
「殺人鬼と鬼ごっこだ。捕まって吊るされたら助けに来てくれよな」
シェリル・メイソンは少し躊躇するような様子を見せた後、走ってその場を去っていった。
さて、と。
2階から俺を睨みつける鉄仮面の大男が見える。
罠の有無は確認済み。
幸い、ここは強ポジがある。
「来いよトラッパー! いや、エヴァン・マクミラン!」
本名を呼んだ効果があったのか無いのか、トラッパーが咆哮をあげる。
良い調子だ、シェリルの残した血痕を辿ったりするんじゃねーぞ。
俺を見ろ。
俺にとっての、始まりの儀式。
最初のチェイスが、幕を開けた。
殺してでも“生き延びたい”。
私が見たのは、その一点だ。