エンティティ様が見てる   作:お寿司大好きTV

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興奮

 トラッパーの肩の上に乗った途端に身体の拘束感が少し緩んだ。

 すかさず肩を殴り、胸を蹴りつける。

 ゲーム時代にもあった、もがく動作だ。もがきゲージが溜まれば殺人鬼の腕から脱出できる。

 更にもがけばもがくほど、殺人鬼は身体が揺れ、思うように動けなくなる仕様があったはずだ。

 

「く……」

 

 フックが近い。

 それに、妙に足が速くなった。

 固有パークである興奮を持っていると見て間違いないだろう。

 

 興奮、英名のアジテーションで親しまれるトラッパーの固有パークだ。

 その効果は、担ぎ中の移動速度を最大18%上昇させ、担いでいる最中の心音範囲を12メートル広げるというもの。

 

 さて、ここまで来れば流石に勘づく。

 キラーは、そのキャラクターごとに固有パークを3つ所持している。

 トラッパーの残り1つの固有パークは、不安の元凶だ。

 これを所持していると見て間違いないだろう。

 

 不安の元凶はスキルチェックと呼ばれる仕様に干渉するパークだ。

 だが厄介なことに俺はこの世界におけるスキルチェックがどのような物なのか把握できていない。

 もしスキルチェックが存在しないならば、トラッパーのパークの1つが実質潰れることになる。その方が俺も嬉しいのだが……エンティティがそんな優しいことをする奴とは思えない。

 

「う゛ぅ……がぁああああああッッ!!」

 

 肩が裂けるような痛み。

 肉フックに吊るされたのだ。

 あまりの激痛に呻き声をおさえきれない。

 

「く、う……あぁ……」

 

 だが1回目だ。

 儀式の処刑は、3段階に分けて進行される。

 まずは1段階目。肉フックに吊られる。この段階であれば、処刑の進行度増加を犠牲に、フックからの自力脱出を試みることができる。

 そして2段階目。2度フックに吊られるか、処刑の進行度ゲージが半分切るかでこの段階に進む。自力抜けは不可能になり、味方からの救助以外に脱出方法は無くなる。

 またこの時、エンティティの脚が出現し、生存者を餌食にしようと襲いかかってくる。ゲーム時代では連打で抵抗だったが、こっちでは単純に腕力勝負になりそうだ。

 

 最後に、3段階目。処刑の進行度ゲージがゼロになる、または連打に失敗する、はたまた2段階目を経験後にフックに吊られる事でこの段階に進む。

 

 生存者は、即座にエンティティにより処刑される。

 これは、避ける事のできない絶対的なルールの1つだ。

 

「……発電機、修理が……2人、か」

 

 肉フックに吊られることは基本的にデメリットだが、メリットが皆無というわけではない。

 吊られた生存者は、他の生存者の場所を黄色いオーラで視認できるのだ。

 そして他の生存者からは、吊られている生存者のオーラだけが赤く視認できるようになる。

 これはダウンしている状態でも同様である。

 

「あっちがシェリルか……?」

 

 腹をかかえたような姿勢でのろのろと動くオーラが一つ。

 状況判断だと、あのオーラがシェリル・メイソンという事になる。

 他2人がせっせと発電機を回しているのは何だ?

 シェリルが教えたのか、経験者がいるのか……それとも、勘が良い奴らなのか。

 

 痛みを誤魔化すために必死に思考を回していたが、そろそろ終わりが近い。

 助けは来ているからだ。

 シェリルらしきオーラが近付いてきているのが見える。

 問題は、救助された後。

 救助も殺人鬼に通知がいく行動だ。行かない理由がない限り、奴はこちらにやってくるだろう。

 

「う、わ……酷い……」

 

 声の方向を見る。

 負傷状態のシェリルだ。

 肉フックに吊られた血塗れの俺を見てドン引きしている。

 

「限界、だ。頼むぜ」

 

「わかった」

 

 シェリルに抱えられ、ゆっくりとフックから外される。

 

 それとほぼ同タイミングで、チャラン!という軽快な音と共に、視界に修理が終わった発電機のオーラが強調表示された。

 

「これは……」

 

「治療してもらえって言ったけど、いざ会っても治療方法なんて知らないって言われちゃってさ」

 

 シェリルがお構いなしに話しかけてくる。

 この時間が一番無駄だ、とりあえず離れよう。

 

「奥の方にジャングルジムがあるよな? あそこで教えてやる。互いに治療し合うぞ」

 

「ジャングルジムではないでしょ……」

 

 確かにそうだけども。

 俺は肩に穴が空いていない事を確認しつつ、歩き始めた。

 

 数秒と経たずジャングルジムに到着する。

 発電機有り、板が1枚と窓枠1つ。良い場所だ。

 

 トラッパーの心音はしない。別の生存者を見つけたのか、直った発電機の方向に向かったのか、そのどちらかだろう。

 

「じゃあ俺からいくぞ。しゃがんでくれ」

 

「変なことする気じゃないでしょうね」

 

「変なことではあるな」

 

 俺はシェリルの背中を、ゲーム時代散々見たモーションをなぞるようにして、撫でた。

 

「は!?」

 

「気持ちは分かるが待て。やめろ、中断する時に限ってスキルチェックが発生するんだ」

 

「……」

 

 俺の声音に必死さを感じ取ったのか、シェリルが口を閉じる。

 よし、それでいい。

 

 暫く撫でていると、何というか、粘土をこねるような感覚が伝わってきた。

 

「な、なんか変な感じするんだけど」

 

「粘土だ……」

 

「私の背中よ」

 

 知っとるわ。

 

 暫くこねていると、硬い何かに突っかかる。

 驚いて一瞬手を止めると、その硬い感触はすぐに消えていった。

 意味は不明だが、感覚的に理解できる。今のは——

 

「スキルチェックだな」

 

「何が?」

 

 やがて粘土の感触自体が消える。

 おそらくだが、魂的な物を揉んでたのではないだろうか。

 

「な、治った……本当に……」

 

 シェリルが信じられない、といった風に自身の身体を確認している。

 サイレントヒルから来てるんだからこのぐらいの怪奇現象には慣れていて欲しかったところだ。

 

「次は俺を頼む」

 

「えっ」

 

 えっ、じゃねぇよ。

 

「手本は見せただろ。はやくしてくれ、死ぬほど疲れてる」

 

「わかった、わかった。背中をさすればいいんでしょ?」

 

 無言でしゃがみ、シェリルに背中を向けた。

 すぐに、おっかなびっくりといった手付きで背中が撫でられ始める。

 

「!?」

 

 何だか自分の内部を弄られるような、落ち着かない気分になってきたところで、シェリルが小さく悲鳴をあげた。

 

「これ、粘土……?」

 

「俺の背中だ」

 

「知ってる」

 

 そうですか。

 瞬間、電撃のような痛みが走った。

 

「ぐッ!? あぁッ」

 

 思わず悲鳴が漏れる。

 聞かずとも分かる、スキルチェックを失敗しやがった。

 

「殺人鬼に、通知がいくんだぞ……」

 

「え!? ど、どうしよう」

 

「あとちょっとなはずだから治しきってくれ」

 

「わかった」

 

 再び落ち着かない気分になる。

 それに耐え、暫く待っていると身体が一気に楽になった。

 

「はぁ、生き返った気分だ。心音がしないって事は別のやつと鬼ごっこしてるって事だろうし……修理、やるか」

 

 そう言って真横の発電機を指す。

 シェリルは怪訝な顔をしつつも、こくりと頷いた。

 

「修理しながら、この場所が何なのか、なんで貴方がそんなに詳しいのか。全部話してもらうから」

 

「洗いざらい全部吐いてやる。ただ、スキルチェックは失敗するなよ」

 

 シェリルの眉がひそめられる。

 

「スキルチェックって……なんか、この、硬いのが……」

 

「そうだ。多分発電機修理でも似たような事が起こる。これも失敗すると殺人鬼に通知だ」

 

「……あー、あんまり難しい話は修理後にお願い」

 

 俺は肩をすくめると、発電機の修理に取り掛かった。

 





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