エンティティ様が見てる   作:お寿司大好きTV

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心音とオーラ

「結局、ここはどこなの?」

 

 発電機のレバーを記載通りにガチャガチャしつつ、シェリルにどこまで喋るべきか吟味する。

 あまりにゲーム的な説明をするわけにはいかない。

 経験者を名乗るには不自然な言動をし過ぎた。

 

 さて、最適な言い訳は……

 

「殺人鬼1人、生存者4人で行われる儀式の場だ。俺は、何年もこの儀式を管理している邪神について調査してきたんだ」

 

「邪神?」

 

 会話の途中、レバーが不自然に固くなったため手を止める。

 スキルチェックだ。

 爆発しないので、どうやら成功したらしい。危ないな……。

 

 というか、発電の手順を間違えても爆発してたな。

 ゲームより発電の難易度が上がってやがる。

 

 心中で悪態をついていると、向かい側で修理しているシェリルがぐっと身を乗り出してこちらに視線を向けてきた。

 むっとした表情だ。質問を無視したからだろう。

 

「……ああ。この儀式は女神エンティティと呼ばれる邪神が管理している。俺の知識は全て、その調査の中で知った知識だ。本当は儀式を破壊する方法を見つけたかったんだが……とうとう、俺自身が取り込まれちまった。ミイラ取りがミイラに、ってやつだな」

 

 シェリルはまだ少し疑念を持ったような顔だったが、それ以上質問してこなかった。

 一旦修理に集中したいということだろう。

 

 その会話から、おそらく40秒ほどで、発電機の修理が完了する。

 僅かな達成感と共に発電機から顔を上げる。

 

「妙だな」

 

 静か過ぎる。

 好意的にとらえるなら、あの2人の内どちらかがロングチェイスしてくれているという事になるが……そうは思えない。

 

「次はどうするの?」

 

「そりゃ、発電機の修理だ。5台直さないと脱出ゲートを開けられない」

 

「……そういうの、先に言ってくれない?」

 

「悪かったよ」

 

 そんな会話をしつつも、俺は圧倒的に情報が不足している事に頭を悩ませていた。

 

 Dead by Daylightは、基本的にアクションゲームではなく、情報戦のゲームだ。

 チェイスやフェイントの技量は確かに勝敗を左右することはあるが、それは最後の一押しに過ぎない。

 今、誰がどこで何をしているのか。

 どこの発電機がどのぐらい直っているのか。

 誰が何のアイテムを持っているのか。

 パークは何を使っているのか、アドオンは何が付いているのか。

 より多くの情報を集め、無駄のない動きをする。

 それがDead by Daylightだった。

 

 だが今はどうだ。

 キラーの場所は分からず、残り2人がまともに立ち回れるのかも不明。

 負傷状態なのかどうかも不明ときた。

 

「……シェリル、俺が吊られた場所はどうやって見つけた?」

 

「えっと……心音と、あと貴方の叫び声」

 

「オーラは見えたか?」

 

「オーラ?」

 

「俺が吊られている間、あと俺がダウンしている間。俺が赤いオーラで見えなかったか?」

 

 シェリルが首を横に振った。

 視界が眩む。

 

 馬鹿な、オーラが見えていたのは俺だけ?

 そんなの……試合が成立しない。

 

「いや、待て、考えろ……!」

 

 ゲーム内で読むことができる文章の中に、先代の生存者のメモらしきものがあった。

 あの文章を鵜呑みにするならば、心音を聞く力は最初から持っていたわけじゃなく、儀式を重ねるにつれて獲得していった能力のはずだ。

 ならオーラを見る力も同じ?

 

 だがシェリルは心音が聞こえていたという。

 この差は?

 ……俺が教えたからか? 知識の有無が関係している?

 

 とにかく、オーラが見えない事があるというのは問題だ。

 最悪の状況が脳裏をよぎる。

 

「すまん、発電を進めててくれないか。俺は吊られてるやつがいないか探してみる」

 

「了解。気をつけてよ? 次は助けられるか分からないから」

 

 そうか。

 確かにそうだな。

 

「シェリル、儀式の中の生き残りが1人になった時点で脱出ゲートとは別口の、脱出用のハッチがどこかに出現する。もし俺が死んだら発電をやめてそれを探せ」

 

「……」

 

 より詳しく言うならばハッチの出現と解放は別々に語るべきなのだが、言葉では伝わりづらい。混乱を招くだけだ。

 もし焚き火の場所で会えたなら、その時にでも教えよう。

 

 フック巡りの旅に出ようとしたところで、シェリルに呼び止められる。

 

「ねぇ! 貴方、名前は?」

 

「カラシナ。カラシナ・ゲッケイだ」

 

「オーケー、カラシナ。また生きて会いましょう」

 

 思わず口の端が釣り上がる。

 主人公はこれだから困る。

 

 俺は背後に向けサムズアップすると、ひとまず中央の建築物に足を向けた。

 

 

 

 シェリルと分かれた辺りから妙に足が遅くなったような気分だ。

 理由を色々と考えていると、一つの結論に辿り着いた。

 

 シェリル・メイソンの固有パーク、「血の協定」の効果だ。

 このパークの効果を語るには、まずオブセッションについて語らなければならない。

 儀式内で、オブセッションに由来するパークを誰かが装備していた場合のみ、生存者4人の内から1人が選ばれてオブセッション状態になる。

 オブセッション状態そのものに大した効果はなく、強いて言うなら殺人鬼とチェイスしている場合、生存者アイコンのオブセッションマーク(エンティティの脚が囲い込むようなマークだ)が揺れるぐらいのもの。

 また公式設定ではオブセッションとなった生存者は、殺人鬼が“執着心を持っている相手”だそうだ。

 

 話をシェリルの固有パークに戻そう。

 血の協定はこのオブセッションが効果に絡んでくるパークなのだ。

 

 シェリル・メイソン固有パーク、血の協定。

 パーク使用者かオブセッションが負傷すると、両者とも互いのオーラが見えるようになる。

 オブセッションを治療するか、オブセッションに治療してもらった場合、両者とも互いの距離が16メートル以上になるまで移動速度が7%上昇する。

 また、オブセッションになる確率が低下する。

 

 俺は足が遅くなったと感じたが、逆だ。

 先ほどまでが速かったのだ。

 

「でもオーラは見えてなかったみたいなんだよな」

 

 ゲームのようにいきなりパークが使えるわけではなく、熟練度のようなものが必要なのだろうか。

 あと俺にパークはあるのだろうか。

 固有パークが無いなら無いで構わないが、共通パークぐらいは使わせて欲しいとこだ。

 

「あ、俺がオブセッション状態になってるって事になるのか」

 

 オブセッション。

 殺人鬼の執着の対象。

 ゲームじゃ単なる設定でも、現実になると寒気がする。

 

「……まぁいいか」

 

 思考を中断する。

 建物内部に入ったからだ。

 一応、付近の板グルポジションと窓枠の罠の有無は確認してから入った。オールクリアだ。

 

「やっぱここに地下室か」

 

 地下室。そのマップの固有建築か、殺人鬼の小屋のどちらかに湧く、フックが4本置かれた血塗れの部屋の事だ。

 フックの他には身を隠せるロッカーが合計4つ、またチェストが1つ確定配置される。

 

「はー……」

 

 トラッパーと地下室の組み合わせはトップクラスに相性が良い。

 入り口が少ない場所+トラバサミ。これだけ言えばわかるだろうか。

 

 俺はあまり気が進まないながらも、地下への階段に足をおろした。

 

「ぐ……はッ、あッ」

 

「!?」

 

 奥で呻き声が聞こえる。

 やっぱり吊られてたのか!

 

「おい、待ってろ! もう少しで助けに行く!」

 

 だが無計画に走りたくはない。

 罠がないか慎重に確かめながら、ゆっくりと、確実に階段を降りていく。

 

「たす、たすけてッ!」

 

「おいおい……」

 

 エンティティの脚が後ろのフックから伸び、男を連れ去らんと襲いかかっている。

 処刑2段階目だ。自力抜けしようとしたのか、俺が遅かったのか。

 

「わかってる。待ってろ……」

 

 階段を降り切った先に置かれていた罠を避けつつ、ゲームでは見たことのない顔の生存者に手を伸ばした。

 

 その瞬間、ドクリと腹の奥を揺さぶるような心音が響く。

 

「……殺人鬼が近い、もう少し耐えててくれ」

 

「はぁ!? ふっざけんなッ! 意味わかん、ねぇよ! はやく助けろッ!」

 

 心音が聞こえないんだな。

 クソ、最初に仲間に啓蒙活動しなきゃ詰みとかどうなってんだ。

 

 しゃがみながら心音を聞く。

 ダメだ、何故か分からないが近付いてきている。

 

「殺人鬼が来ているのは本当だ。一旦隠れてしのぐから、頑張って耐えろ」

 

「……ッ」

 

 泣きそうな顔になりつつも男が頷いた。

 良い子だ。

 

 俺はそっと階段先のロッカーに身を忍ばせた。

 

 心音が近づく。

 




殺人鬼の執着を、文面だけで理解した気でいるとはな。
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