エンティティ様が見てる   作:お寿司大好きTV

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不安の元凶

 心音は止まらず、どんどん近付いてくる。

 それと同時に女性らしき呻き声も聞こえてきた。

 

 まさか、シェリルか……?

 

 床が揺れる。

 トラッパーが降りてきている。

 地下吊り2人目……シャンデリア状態だ。

 

「やだ、やめてよ! 嫌! 嫌ぁ!」

 

 シェリルではない、か。

 

 ひとまず安心だが——予断を許さない状況である事には変わりない。

 地下吊りが2人、俺は地下ロッカー。

 直った発電機はたったの2台。

 

「い、いや……やめ、て……」

 

 見覚えのない顔の北欧女性らしき人物を担いだトラッパーがロッカーの前を通り過ぎていく。

 興奮が厄介だな。このパークのせいで地下吊りを狙えるダウン場所がかなり拡大している。

 

「ぁああああああああッッッ!」

 

 絶叫が地下室中に響き渡る。

 もう一度トラッパーがロッカーの前を通り過ぎていく。

 

 カチャ、キチ……

 

 罠を仕掛ける音。

 階段を登りきったところに仕掛けたか。

 

「……」

 

 やがて心音が小さくなり、消えた。

 キャンプはしないらしい。俺なら絶対に地下の入り口周りから動かないが……何か狙いがあるのか、そこまで知能が残っていないのか。

 

「シェリルがスキルチェックでもミスったか?」

 

 そんな事を呟きながらロッカーから出る。

 

「やっとか! はやく助けてくれ、腕が限界だ……!」

 

 駆け寄りつつフックの状況を見る。

 男から優先して救助、女は……おいおい!?

 

「やめろ! 動くな! 自力で抜けようとするんじゃねぇ!」

 

「え? は? ……きゃあッ!?」

 

 クソ、遅かった! これでリーチが2人になっちまった!

 男を救助し、罠の場所を教えつつ女の方も救助する。

 

「俺の後ろにぴったりつけろ!」

 

 心音がする。

 やはり、そこまで遠くには行ってなかったか。

 そりゃあそうだ。トラッパーで地下吊り2人。遠くまで出向く理由がない。

 

「わ、わかった」

 

 男と女が俺の後ろにぴったりついたまま階段を駆け上がる。

 

 自力抜けが痛いが、説明が無ければやって当然の行動だ。

 フックに引っ掛けられ、黒い脚がじわじわと構築されている状況。抜けようとすれば死が早まるなんて発想に至れるほど冷静な奴はほぼいない。

 

「殺人鬼が来たら俺が引きつける! お前らは離れてお互いの背中をさすれ、発電機を修理しろ! いいな!?」

 

「せ、背中……?」

 

「いいから従え! 死にてぇのか!?」

 

 俺の剣幕に気圧されたのか、2人が頷く。

 階段は登りきった。心音から、トラッパーの方向も何となく把握できている。

 

 2人を別方向に逃げるよう指示したあたりで、固有建築内に入ってきた鉄仮面の殺人鬼と目が合った。

 まずい、まだ2人の足跡と血痕が残っている。

 追われれば、あっという間に2人の仲間を失うだろう。

 

「……」

 

 その時感じたのは、体験したことのない奇妙な感覚だった。

 体験したことがないはずなのに、その効果がわかる。

 そんな、不思議な感覚。

 

「エヴァン・マクミランッッッ!!!」

 

 声に何かが宿る。

 トラッパーの目に、剣呑な光が宿った。

 

「俺とチェイスしようぜ」

 

「グオオ……オオオオオオオッ!!!」

 

 獣のような雄叫びをあげ、トラッパーが俺目掛けて突き進んでくる。

 俺は一目散に二階の窓枠を目指して走った。

 

「あば、よッ!」

 

 窓枠を飛び越える。

 外階段を降りながら横目で確認すると、トラッパーは窓枠をゆっくりと越えていた。

 あれだけ激怒した風だったが、そのルールだけは律儀に守るらしい。

 

「近隣の板は1枚使っちまってる。小屋板も吐いちまった。さて……どうするかね……」

 

 貯水タンクのあたりはまずい。

 木箱地帯に逃げたいところだ。

 

「1発もらう前提で……どうせなら一階の窓枠でもうちょい稼ぐか」

 

 横目で背後を確認する。

 窓枠は間に合わない距離だ。真っ直ぐ木箱地帯を目指した方が良いだろう。

 

「はッ、はッ」

 

 恐怖で呼吸が乱れる。

 そりゃあそうだ。俺は苦しいのが嫌いだ、大嫌いだ。

 背中を引き裂かれる痛みなんて到底受け入れられない。

 

 でも、やるしかない。

 俺が生き残るには、他の生存者に生き残ってもらわなきゃならない。

 

「ぐ、う……ッ!?」

 

 視界が眩む。

 痛みで思考が飛びそうになる。

 だが貴重な負傷ブーストを無駄にはできない。

 考える事をやめるのは許されない。

 

「おい、1発殴って終わりなんて腰抜けじゃああるまいよな、エヴァン・マクミラン! 俺はまだピンピンしてるぜ!」

 

 これは単純な煽りだ。

 あの感覚は全くこない。

 

 おそらく先程の名前を呼ぶ行為は——俺の固有パークのようなものが発動していたのだろう。

 効果は不明だが、クールタイムがあるのは確からしい。

 

 それと。

 

「グオオ……オオ……」

 

 煽りは、それなりに効果があった。

 

「は、はは」

 

 全身が気怠い。

 だが動ける。板が見えた。

 

 3周だ。

 フェイントをかましてでも3周してやる。

 何がなんでも時間を稼ぐ。

 

「罠は無しッ!」

 

 まず1周目だ。

 2度目のチェイスを経てわかってきたことだが、このトラッパーは知性が無いわけではないが……理性が、狡猾さが、圧倒的に足りていない。

 

 通知があれば、反応する。

 生存者を見たら、攻撃する。

 ダウンしたら、吊るす。

 その程度だ。

 

 板や窓に仕掛けると良い、ぐらいは学んでいるようだが浅い。

 キャンプとトンネル、救助狩り、発電機に圧をかけるべきタイミング。この中の一つたりとも理解していないだろう。

 

「追われたがってる奴を追っちまうようじゃ三流だ」

 

 だからこそ、まだ勝ち筋が途切れていない。

 2周目、追いつかれそうなところで板倒しのフェイント!

 

「ッ!」

 

 思わず足を止めた隙にもう1周!

 そして、すかさずチェイスポイントを移動する。

 

 背後から、バキバキと板を割る音が聞こえる。

 板割りフェイントはどうせやらないだろうという読みだったが、当たったな。

 

 さて、あいつらの負傷状態は治っただろうか。

 ゲーム時代なら確認できていた事だが、残念ながら今の俺には推測することしかできない。

 時間的には治療が終わっていてもおかしくない。

 シェリルも、解散後すぐに修理に取り掛かったのであれば……あと少しで完了するだろう。

 その頃には2人が修理を多少なりとも勧めているはず。

 

 そこまでいけば残るは1台だ。

 流石にその頃には俺が吊られているだろうし、シェリルにチェイスを頼む必要があるかもしれない。

 可能な限り窓枠で時間稼ぎをしたいところだ。

 

 さて、次のチェイスポイントは板1、窓1タイプか。

 板倒しのフェイントをうまくやって窓を最大限に使いたい。

 

 そんな思考に至ったところで、正面から突如爆発音が響いた。

 

「おいおい……!」

 

 スキルチェック失敗。

 おそらく、トラッパーの固有パークである不安の元凶の効果のせいだろう。

 

 シェリルか?

 せめてシェリルであってくれ、頼む。

 

「か、カラシナ……!」

 

 見知った顔がひょこっと出てくる。

 良かった、シェリルだった。

 

「別のところに行け。そこの狂犬と散歩しなきゃならん」

 

「……わかった」

 

 シェリルが走り去っていく。

 おい、走るな……とは言えないか。

 

「執着の対象で、負傷状態。理性がねぇお前なら俺を追ってくれるよな?」

 

「グオオオオオオオ!!!」

 

 俺が余裕そうなのが癇にさわったらしく、背後から雄叫びが聞こえる。

 

「声がでけぇのは、デメリットだぜ?」

 

 修理完了間近の発電機を横目に、チェイスに入る。

 これを邪魔してしまったのは痛い。勝利が遠のいた。

 

「さて、次はどこに逃げる……」

 

 じわじわと真綿で首を絞められていくような感覚。

 本当は余裕なんか、微塵も感じちゃいなかった。

 




 カラシナ固有パーク①

 コール・ネーム

 貴方は、その殺人鬼を知っている。
 16メートル以内に負傷状態の生存者がいる状態で、殺人鬼の視界に入った場合に任意で発動可能。
・(6/12/18)秒間、殺人鬼は使用者以外の足跡及び血痕を見ることができない。
・発動後、使用者はオブセッション状態になる。
 また、コール・ネームの発動には60秒のクールタイムがある。

「来いよトラッパー! いや、エヴァン・マクミラン!」
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