"人の心を読むことができる"
一体何の神様の悪戯か、俺は生まれながらにしてその能力を持っていた。
相手を見て何を考えているのか知りたいと念じれば、そいつが何を考えているのか、何をしようとしているのかがすっと頭に入ってくるのだ。
この能力を使えば、相手のスマホのパスワードや銀行の口座番号はもちろん、気になるあの子のスリーサイズだって知ることが可能だ。
しかもこの能力の発動条件はかなり軽いもので、単に相手を見るだけで発動することができる。
後ろ姿や体の一部分しかみえなくとも、ただ見つめるだけで心が読めるという優れものだ。
強いて欠点を上げるとすれば、この能力は対象を一人に絞らなければ発動できず、一気に何人もの心を読むことはできないということだが欠点というほどのものでもないので全く気にはならない。
俺はこの能力を駆使して素晴らしい人生を送ってきた。
スクールカーストは常に上位でグループの中心にいたし、トランプや将棋といったゲームだって負けたことはない。
成績だって常に上位を維持してきた。
相手がどんな反応を欲しているかが分かるのだから周りから好かれる存在になるのは容易だった
相手の戦術や思考パターンが分かるのだから勝負事で負けるはずもない
カンニングでさえ怪しまれることなく行うことが可能でテストは常に正答率9割以上
ルックスだってイケてる方だし運動神経だって悪くはない
そして何よりも、自分だけが一方的に相手の心を読めるという優越感
この能力を使って受験だって難なく乗り越えてやる。
あの進学率・就職率共に100%の高度育成高等学校に進学してやるつもりだ。
こんな素晴らしい能力を授けてくれた存在には本当に感謝している。
この能力のおかげで人生はもはやヌルゲーだ。
俺、
❖
俺はむさ苦しいバスの中から降り、春の気持ちのいいそよ風に包まれながら目の前の校舎を見つめる。
国が運営しているだけあって敷地はかなり広く、もはや小さな町レベルである。
そんな光景を前にして、俺は改めてこの学校に入学したという実感と安心感を得る。
「なんとか無事に入学できたな。一時はどうなるかと思ったが」
なぜそんな感覚を覚えているのかと言われれば、話は受験当日まで遡る。
試験会場に余裕を持って到着した俺は早々に決められた席へと着席して長机に筆記用具を並べていた。
緊張感は全くなかった。
能力を使わなくとも大抵の問題は解けるほど素の学力も悪くはなく、たとえ分からない問題がでたところで、事前に調べておいた秀才共の心を読んでカンニングすれば答えを写すだけで簡単に合格できると
そう、思っていた。
ふと周りを見わたすと試験官が何人か会場を巡回している様子が見えた。
だが試験官の参加者達を見る目が少し変なのだ。
何か憐れむような、同情するような目で俺達を見ている。
試験が始まるまで暇だし、少しこいつらの心でも覗いてみるか。
そうして試験官の心を覗いて.....この学校の受験の構造を知った。
それを知った俺は動揺し、頭に血が登るのを感じた。
さっきまでしていた余裕の表情は崩れ、手を口に当てながら体は震え、服は冷や汗でびっしょりと濡れていた。
この学校、通常の高校の受験の仕組みとは訳が違っていた。
なんとこの学校は、学校側が事前調査をして"当校に所属するに値する"と判断された生徒だけが入学できるというふざけた仕様だった。
つまり、面接や入学試験なんてものはただの形式上のお飾りということだ。
ふざけるなと叫びたい気分だった。
当然だ。
いかに試験で良い点数を取ろうとも面接を完璧にこなそうとも意味がなく、実は最初から全て決まっていましたなんて言われれば誰だってキレるだろう。
(クソッ!こんなの完全に出来レースじゃないか。まずい...まずいぞ、俺はここしか受験していない。もし俺が事前調査で振り落とされていたとしたら.....)
"中卒"
の2文字が頭をよぎる
完璧だった人生が一転してしまう。
だが今更できる手立ては何もない。
まさに時すでに遅し。
その後試験が始まったが全て無記入で提出してやった、面接もバックレた。
こんなものをやったところで無意味だ、俺が入学できるかどうかはもう決まっている。
できることは天に祈ることのみ。
家に着いてからも落ち着かず夜も満足に寝れない日々が何日も続いたが.....
「それも杞憂だったな」
あの時は間違いなく人生で一番焦っただろう。
周りにもみっともない姿も晒してしまった。
あんなのは、二度とゴメンだ。
だが、あんな裏があったのだから学校の運営方針にも何かしら裏があるだろう。
俺はもうあんな失態は犯さない
そう決意を固めながら校門を通り抜けると教員と思しき人物から封筒を渡される。
開封してみると、中にはクラス表が入っていた。
夜見文宏ーCクラス
どうやら俺はCクラスのようだ。
俺はクラス表を封筒の中に戻しCクラスまで向かおうとすると
「Cクラス...か」
という呟きが聞こえてきた。
聞こえてきた方を向くと、そこには青髪のクールそうな女の子が立っていた。
どうやら声の主はあの子らしい。
これから共に同じクラスとして過ごしていくだろう彼女に、俺は早速能力を使った。
(失礼だが勝手に覗かせてもらうよ。名前は...
どうやら口数の少なさと、少し男勝りな性格もあって友達はあまりいないらしい。
これはいい情報を貰った。
一人を好むなんて言っちゃいるが、こういう人間ほど友を欲しているものだ。
心を読めば一発で分かる。
そういう人間は、自分に優しくしてくれる人や自分を理解してくれる人に依存する傾向がある。
そしてこの学校にいる生徒とは全員と面識がないだろう。
つまり知り合いすら0の状態
ならば上手く接すれば俺に依存してくれる可能性がある。
依存した人間は扱いやすい。
依存さえしてくれれば、俺の言うこと全般は聞いてくれるようになるだろう。
この学校で何が起こるか分からない以上、そういう人間はある程度欲しい。
そんな失礼なことを考えながら、俺は伊吹に話しかけた。
「もしかして君もCクラス?」
「何?...まぁそうだけど、あんたも?」
「そう、俺は夜見文宏。これからよろしく!君は?」
「.....伊吹澪、よろしく」
少しぐいぐい行きすぎたかな?まぁ悪感情は持たれていないだろうしこのままいくか。
その後も他愛もない会話をしながら一緒に教室を目指した。
まぁ素っ気ない返答しか返ってこなかったが。
「そういえばこの学校、すごい監視カメラが配置されてるけど一体何の為だろうな。いじめの対策とかか?」
「監視カメラ?」
「そう、ほらあそこに...あとそこにも」
「...あんたよく気がついたね」
「俺は目がいいからな、それにこの校舎すごい綺麗だからああいうのが目に付きやすいんだよ」
それにしてもすごい数だ、数メートル間隔で配置されている。
ここは刑務所か何かか?
そうこう話している内に教室に辿り着いた。
中を見てみるとまだあまり生徒はいないようだ。
どうやら俺達は早めに着いたらしい。
自分の席を確認すると、なんと伊吹の隣の席だった。
これは運がいい。
「席が隣同士なんて偶然だな。そうだ!これも何かの縁だし俺と友達になってくれないか?」
「...あんた高校生にもなってそんな堂々と友達になってくださいって、恥ずかしくないの?」
「ごめん...ダメ、だったか」
「別に...ダメとは言ってない」
「なら良かった!じゃあこれからよろしく!」
俺は握手をしようと手を伸ばす
「さっきよろしくって言ったじゃない」
「さっきのはクラスメイトとしてのだよ、これは友達しての」
「友達としての.....」
「そう!」
俺はさらに手を伸ばす
「...よ、よろしく」
伊吹は照れながらも握手を交わしてくれた。
こうして俺と伊吹は友達になった。
❖
(この学校何か裏があるとは思ってはいたけど裏ありすぎだろ.....)
分かっていたがどうやらとんでもないとこに入学してしまったらしい。
クラスの生徒全員が揃うと、担任の坂上先生からこの学校と併用施設や個人端末などについての説明があった。
なんでもこの学校にはSシステムというものがあり、個人端末の中にはクレジットカードのような機能が搭載されていて、毎月一日にポイントが支給されるらしい。そのポイントを使って敷地内にあるショッピングモールで買い物したり、学食を食べたりすることが可能であり、ポイントで買えないものはないと説明された。
そしてその額何と10万。
クラスにいるやつの大半は学生の小遣いとしては破格の10万という金...ポイントが貰えるということに喜んでいたが、そんな話胡散臭すぎる。
これは間違いなく何かあると思って担任の心を読んだらこれだ。
進学・率就職率が100%なのはAクラスだけだの、実はABCDのクラスは優秀な生徒から順に分けられているだの、クラスポイントによってクラスが変動するだの、赤点取ったら即退学だのetc.....
もう本当に勘弁してほしかった。
さっき坂上先生が『この学校は実力主義を掲げており〜』なんて言ってたがここまでとは。
こんなことになるんだったら他の高校に行けばよかった.....
嘆いていてもしょうがないので、クラスポイントが減らされないようにするためにはどうするべきかと思考を巡らせた。
手っ取り早いのはこの事実を皆に伝えることだが、どう伝えるべきか。
そのまま伝えたところで誰も信じてはくれないだろう。
何かしらの根拠がなければ信憑性に欠けるが。
何かないか.....いや、そういえばあれがあったな。
あの無数に配置してあった監視カメラ。
あれの存在を皆に知らせ、あれで普段の俺達の行動を監視している
とか何とか言えば信憑性は上がるだろう。
だがこれだけではまだ信憑性に欠ける。
他には何かないか.....
そうこう考えている内に入学式も終わり、教室に戻った俺達は学校生活の注意事項やらが書かれたプリントや教科書などを配られた後解散となった。
とりあえず今考えるのはここまでにして。
この後暇だしケヤキモールでショッピングでもするか。
俺は座りながら体を横に向けて伊吹に声をかけた。
「この後ケヤキモールに寄って色々買おうと思ってるんだけどさ、一緒に行ないか?」
「っ!行く、教科書とか仕舞うからちょっと待って」
少し驚いたような仕草を見せると、すぐに返事が返ってきた。
友達に誘われることに慣れてないのだろうなぁと思いつつ、仕舞い終わるのを待った。
俺は教科書などを持ち運ぶのを面倒だと感じる人間なので、鞄には入れずそのまま机の中に仕舞っておく。
流石に置き勉程度ではポイントは減らされないだろう。
「終わった、いこ」
どうやら終わったようだ。
俺は立ち上がると伊吹と共にケヤキモールへ向かった。
❖
「やっぱ広いな」
俺はケヤキモールの広さに圧倒されていた。
外からでも分かることだったがやはりデカいし広い、ら○ぽーとレベルである。
「俺はとりあえず家電量販店に行きたいんだが、伊吹はどこか行きたい店あるか?」
「私は洋服買えるとこに行きたい。まだ制服しか持ってないし」
そういえば服という服はまだ制服しかなかったことを忘れていた。
あやうく部屋に戻った時に気づいて二度手間になるところだった。
俺も何着か買おう。
下着なんかも買わなければ。
「あんたは何買うつもりなの?」
「まぁ普通に時計とかレンジとかかな」
時計はないと不便だし、いつでも温かいご飯を食べるためにレンジは必須だ。
まぁ大きいやつを買うと重すぎて持って帰れなくなるので、買うのは必然的に小さいやつになるが。
「それにボイスレコーダーとビデオカメラ」
「?そんなの何に使うのよ」
まぁそう言われるのも仕方ないだろう。
だがボイスレコーダーは非常に重要な物だ。
5月以降、本格的にクラス同士の戦いが始まる。
ボイスレコーダーを予め用意しておけば、他クラスの生徒の弱みや問題のある発言を録音できる。
それを脅しに使ってポイントを譲渡させたり、学校側に提出してその生徒を停学や退学に追い込むこともできる。
ビデオカメラも同様。
「とりあえず買いたいものは買ったし、服買いに行こう」
他クラスとの戦いに備えるためなんて言っても、1年生でこの事実を知っているのは俺以外にいないだろうし信じてはもらえないだろう。
俺は買う理由は言わずに話を切り替えた。
それにしてもレンジが重い。
やっぱり先に服買ってからにすれば良かった。
その後何店舗か回った俺達は一緒に昼食を取ることにした。
ただお互い両手が荷物で塞がれている状態なので一度部屋に戻ってから再度集まることなった。
俺はさっき買ってきたTシャツとズボンに着替え、待ち合わせ場所の寮の入口まで歩く。
それにしても手が痛い。
さっきまでレンジを持っていたせいで手が真っ赤である。
15分ほど待つと伊吹がやってきた。
俺と同様、私服に着替えている。
「おまたせ、待った?」
「いや全然」
正直に言えば少し待ったがこういう時は待ってないと答えるのが紳士の嗜みである。
「それにしてもその服、似合ってるね」
そして女性の服装を褒めることも紳士の嗜みである。
「ふぇっ!.....そう?」
伊吹がクールそうな外見からはあまり想像できない素っ頓狂な声を上げる。
「あぁ、すごい似合ってる」
これは決してお世辞ではない。
伊吹は非常に整った顔つきをしている。
そこにフード付きの白いパーカーと短パンがマッチしてとても可愛く仕上がっている。
まさにベストマッチ。
「その.....ありがと」
そっぽを向いているが顔は照れて赤く染まっている。
褒められることにもあまり慣れていないようだ。
✜
私がこの学校を受験した理由は、人間関係を一度リセットするためだった。
昔から口数の少なさと男勝りな性格が災いして、私の周りには友達と呼べる人はいなかった。
いじめとまではいかなくても、生意気だの何だのと陰口を叩かれたり、軽い嫌がらせを受けることはしょっちゅうだった。
親との関係もとても良好とは言えなかった。
私は一人っ子で、小さい頃はとても愛情を注がれて育った。
けれど時が経つにつれてその愛情は減っていった。
多分、両親は私に女の子らしくして欲かったんだと思う。
成長して女の子らしい趣味の1つ持てなかった私には、愛情を注げなくなっていったんだろう。
武術を習いたいって言ったときには猛反対された。
そんな女の子らしくないことはしないでって。
結局親は諦めて武術を習うことを許可してくれたけど、今思えばあの時から目に見えて家族関係が悪くなったと思う。
中学生になった時には家族仲は冷え切っていて、とても気まずいものだった。
だからこそこの学校の存在を知ったときにはここしかないと思った。
地元でこの学校を受験する人はいなかったし、外部との接触が禁止された寮での生活になるので、親からも嫌がらせをする奴らからも開放されるまさに理想の学校だった。
合格したときは嬉しさよりも、安心感の方が強かった。
これで今の生活から抜け出せるという安心感。
でもその安心感も入学式が近くなるにつれて薄れていった。
高校でも友達1人作れないのではないのかという不安感。
少なくとも今のままでは中学までと同じ道を辿ることになるというのは分かっていた。
可愛げがなくて無口な奴と、誰が好き好んで仲良くしてくれるだろう。
でも性格なんて三日三晩で変えられるものじゃない。
高校デビューなんて言葉もあるが、無理して自分を偽って生活していても無理がくる。
私はその不安感を拭えないまま入学式を迎えた。
校門を抜けると、教員と思わしき人物から封筒を渡された。
開けてみるとそこにはクラス表が。
「Cクラス...か」
どうやら私はCクラスらしい。
果たしてこのクラスには私と友達になってくれる人がいるだろうか。
不安に思いながら歩き出そうとすると
「もしかして君もCクラス?」
と、声をかけられた。
「何?...まぁそうだけど、あんたも?」
「そう、俺は夜見文宏。これからよろしく!君は?」
「.....伊吹澪、よろしく」
突然話しかけてきたこの男は夜見文宏というらしい。
こいつは良く言えばフレンドリー、悪く言えばぐいぐいくる奴だった。
印象はコミュニケーションが上手でクラスの中心にいそうなヤツ。
私はこういうタイプの人間はあんまり好きじゃなかった。
小中とこいつと同じようなヤツは何人かいた。
だが、あいつらは最初はよろしくと好意的に接してくるが、私がつまらないヤツだと分かると皆決まってすぐに距離を置く。
確かに私と一緒にいてもつまらないのかもしれないが、それにしてもあんまりだ。
どうせこいつもあいつらと同じだ。
そう思ってこいつとの会話は全部素っ気ない言葉で返した。
「伊吹はなんでここを受験したんだ?やっぱり進学率・就職率100%ってことに惹かれてか?」
「...そんなとこ」
「やっぱり魅力的だよな。こんな数字出してるのこの学校しかないし」
「.....」
私.....何やってんだろ。
こんなことしてるから友達ができないんじゃない。
私は私を自嘲した。
でもそいつは笑顔で話し続けた。
私との会話がつまらなくないの?
それとも単に話し出すと止まらないタイプなだけだろうか。
さらに
「席が隣同士なんて偶然だな。そうだ!これも何かの縁だし俺と友達になってくれないか?」
そいつは友達になろうとまで言ってきた。
握手を求めるように手まで伸ばしてくる。
そんなに堂々と言われるとこっちまで恥ずかしくなる。
周りから注目を浴びてしまっているのでやめてほしい。
初対面なのに、さっきの会話で私がつまんないヤツだって分かってるはずなのに.....なんなのよ、もう。
でも
「さっきのはクラスメイトとしてのだよ、これは友達としての」
「友達としての.....」
「そう!」
「...よ、よろしく」
悪い気は、しなかった。
感想乞食なので感想くださいお願いします。