ようこそ読心至上主義の教室へ   作:ひゅらら

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第2話

入学式から一週間が経ったCクラスでは、男女共にいくつかのグループができていた。

俺はそういうグループには属していないが、伊吹とはあれからも交流を深めており、今では放課後は毎日一緒に行動するようになっていた。

初日の緊張感は既に無くなっており、皆クラスに馴染んできている。

 

しかしこれはまずい。

逆に緊張感が無くなりすぎて皆の生活態度が悪くなってきている。

まず真鍋という女が中心になっているグループ。 

クラスで一番最初にできた女子だけで構成されているグループで、授業中に小さい声ではあるが喋ったり、携帯をいじったりしている。

 

そして不良っぽい見た目の男達で構成されているグループ。

こっちは携帯こそいじらないものの、授業中にふざけていたり、昼休みにも石崎という男を筆頭に他クラスにも響きそうな声で騒いでいる。

それとなく注意はしたが、どちらのグループも気にも留めていない様子。

だが石崎は最近になって落ち着いてきている、何があったのかは分からないがありがたい。

顔にできている痣が関係しているのだろうか。

 

大体のやつは真面目に授業を受けているが、ふざけているヤツが一人でもいればポイントはガンガン減らされていく。

 

さらに無断欠席を繰り出すヤツもいて、かなりマズイ状況だ。

そいつの名前は龍園とかいうやつで、登校したのは初日だけで他の日には全く出席して来ない。

時々授業中に廊下をうろうろと歩いている様子が見られるが、一体何をしているんだか。

 

そして今日の授業も終わり、皆が駄弁りながら帰りの支度をして教室を出ていこうとしていた。

このままポイントが減らされ続けるのはゴメンだ。

現状に危機感を覚えていた俺は、今度はクラス全体に注意を呼びかようとして立ち上がろうとしたが、予想外の出来事が起こった。

 

ガンッ!

と教室のドアを勢いよく開け、無断欠席男の龍園が入ってきた。

なんだ?今になって遅めの登校か?

しかしもう授業は終わっている。

一体何しに来たんだと凝視していると、龍園はパチンッと指を鳴らして口を開いた。

 

「いきなりで悪いが、お前らを帰すことはできねぇな」

 

そう言うと、クラスの不良である石崎と、かなり体格のいい黒人の男...山田アルベルトの二人がドアの前に立って道を塞いだ。

突然のことにクラス全員が困惑した表情を浮かべていた。

 

「クク、まずは自己紹介からいくか」

 

龍園は教卓の前に立つと再び口を開く。

 

「俺は龍園翔。このクラスの"王"だ。」

 

.....は?

いきなり何言ってるんだこいつ。

 

「これからのクラスの方針は全て俺が決める。お前らはそれに従ってもらうぜ。文句のあるやつはかかってきな」

 

皆を挑発するよな口調で言う。

するとすぐに声が上がった。

 

「ちょっと、いきなり何言ってんの?」

 

どうやら声を上げたのは真鍋のようだ。

 

「あぁ?なんだテメェ」

 

「それはこっちのセリフよ!いきなり訳わかんないこと言い出してさぁ。こっちは早く帰りたいんですけど」

 

真鍋は不機嫌なオーラを隠そうともせずに突っかかる。

 

「それは俺に従えないってことか?」

 

「当たり前でしょ!そんなの認め   」

 

『られるわけない!』

 

と続けたかったのだろうが、それを言い終わる前に、龍園の拳が真鍋の頬を捉えていた。

 

『きゃー!』と女子から悲鳴が上がった。

殴られた本人はというと、一瞬何をされたのか分からない様子だったが、殴られたのだと分かると恐怖と痛みで泣き出してしまった。

 

「さぁ、他にも文句のある奴はいるか?」

 

威圧するような声だった。

一瞬クラスは静寂したが、すぐに男子が声を上げて龍園に向かって突進する。

 

「てめぇ!何してんだ!」

 

「調子乗ってんじゃねぇぞ!」

 

そう言いながら何人かが殴りかかったが、全員が龍園の前に屈した。

腕っぷしには自信があると自慢していたやつでさえ、あっけなく破れ去った。

結局10人ほどが龍園に対して攻撃を繰り出していたが、誰一人として龍園に怪我をさせることすらできなかった。

 

こいつ、ただの不良じゃないな...

尋常じゃないほどに強い。

何度も修羅場をくぐった先にしか手に入れられないような圧倒的な暴力を持っている。

 

「文句あるやつはもういねぇのか?」

 

10人もの相手をしたのにも関わらず、龍園は汗一つ流していなかった。

今度こそクラスが静寂した。

流石にもう龍園に挑むやつはいないか...

そう思った時

 

「おまえで最後みたいだな」

 

俺の隣に座っていた伊吹が立ち上がっていた。

まじか、武術の経験があるということは心を読んで知っていたが、ここまで圧倒的な力を見せられても立ち上がる気力があるとは思わなかった。

 

「おい伊吹   」

 

「止めないで夜見」

 

やめといたほうが良いと言おうとしたが、その言葉は伊吹によって遮られてしまった。

 

「私、虐げられてヘコヘコしながら3年も過ごすの...嫌だから」

 

どうやら意思は固いらしい。

 

伊吹は龍園に向かって駆け、すぐさま蹴りを繰り出す。

だが、それは龍園の右腕によって防がれる。

伊吹はバックステップを踏んで後方に下がると、軽快な動きでもう一度龍園との距離を詰める。

 

「女だからって...舐めないで!」

 

洗練された素早い攻撃を龍園に叩き込む。

流石武術経験者だ。

 

「ほう、なかなかやるな」

 

龍園も感心したように呟く。

 

「だが   それだけだ」

 

しかし龍園は食らった攻撃をもろともせず、余裕の表情を崩さない。

伊吹も自分の攻撃が大したダメージになっていないことに焦りを覚えたのか、苦しい表情をしていた。

 

「っはぁ!」

 

それでも伊吹は攻撃をやめない。

飛び蹴りを繰り出し、それが避けられると着地した右足を軸にして体を回転させ、今度は右ストレートを放った。

が、それは受け止められる。

 

「っ!」

 

掴んでいた伊吹の右拳を勢いよく突き放すと、今度は龍園が右ストレートを放ってきた。

伊吹は咄嗟に両手をクロスするようにして防御するが、衝撃を殺しきれずに態勢を崩す。

龍園はその隙を逃さず、右脚を突き出して伊吹を蹴り飛ばした。

 

「ぅぐぁっ!」

 

伊吹は痛みに耐え切れずに呻き超えを上げる。

 

「最初の勢いはどうした?もっと仕掛けてこいよ」

 

龍園は挑発するように笑う。

だが伊吹はさっきの蹴りが効いているのか呼吸を整えるだけで精一杯なようだ。

 

流石にこれ以上は様子を見ていられない。

龍園は不敵な笑みを浮かべているが、対して伊吹は満身創痍な様子。

このままやっても結果は誰の目から見ても明らか。

打算で近づいたとはいえ、これ以上友達が傷つくのは見ていられない。

気づいたら俺は、伊吹の元へと駆けていた。

 

 

 

 

 

✜

 

 

 

 

 

「俺は龍園翔。このクラスの"王"だ。」 

 

文句のある奴はかかってこいと、そいつは言った。

そいつに殴りかかった男は10人くらいいたけど、全員がそいつの前に破れた。

私は武術を習っていたけど、闘う前から勝てないって思うくらいそいつの強さは圧倒的だった。

 

「文句あるやつはもういねぇのか?」

 

そんな弱腰になっている自分に、心底苛つく。

ここで龍園の暴挙を許したら、恐らく待っているのは3年間こいつのいいなりになって虐げられる惨めな生活。

せっかく友達もできて楽しく過ごせていた所だったのに、こんなやつに壊されてたまるか。

気づくと私は立ち上がっていた。

 

「おまえで最後みてぇだな」

 

龍園を思いっきり睨みつける。

 

「おい伊吹   」

 

「止めないで夜見」

 

多分、私の身を案じて止めようとしてくれたんだろうけど、その言葉を私は遮る。

 

「私、虐げられてヘコヘコしながら3年も過ごすの...嫌だから」

 

私は龍園に向かって突進して蹴りを繰り出す。

けどそれは龍園の右腕に日差しを遮るようにして防がれる。

私は一旦下がって体制を整える。

そしてもう一度龍園との距離を詰め再び蹴りを放つ。

 

「女だからって...舐めないで!」

 

それも防がれたけど、私はそんなこと気にも留めず何度も攻撃を繰り出していく。

しかし何がおかしいのか、龍園は笑みを浮かべている。

 

「ほう、なかなかやるな」

 

ムカつくっ! 

全然ダメージを受けているようには見えないのに、何がなかなかやるだ。

 

「だが   それだけだ」

 

その言葉がさらに私を苛立たせる。

 

「っはぁ!」

 

まだこんなもんじゃないと、飛び蹴りを食らわせようとするが避けられる。

振り返って拳を突き出すがそれは龍園の右手で受け止められた。

 

「っ!」

 

振り解こうとしたが、龍園の方から放される。

 

一瞬何故と困惑したが、次の瞬間には龍園の右ストレートが迫ってきていた。

私はすぐに防御したけど態勢を崩され、蹴りをもろに食らってしまった。

 

「ぅぐぁっ!」

 

痛みで声が漏れる。

蹴りの威力が想像以上で、私は床に蹲ってしまった。

 

「最初の勢いはどうした?もっと仕掛けて来いよ」

 

なんとか立ち上がったが、呼吸だけで精一杯だった。

くそっ

私は悔しくて心の中で悪態をついた。

ここまで歯が立たないなんて....

 

「来ないなら、終わらせるぜ」

 

龍園はそう言うと再び右ストレートを私の顔目掛けて突き出してきた。

 

避けられないっ。

 

殴り飛ばされると思い私は咄嗟に目を閉じた.....

 

けど

 

 

 

その衝撃が私を襲うことはなかった。

 

 

 

 

 

「まだやるヤツがいるとはな」

 

目を開けると、夜見が既の所で龍園の拳を受け止めていた。

 

「あんた.....なんで」

 

こんな危険を被ることまでして、私を助けたの。

思わず声が漏れた。

 

「伊吹がこれ以上傷つけられるのは、見たくなかったからな」

 

夜見はそんなキザなセリフを吐いた。

その言葉はすごく嬉しかった。

でも

 

「こんなことしたらあんたまでっ」 

 

殴られる   と言うつもりだったけど、手で制されてしまった。

 

「随分とカッコいい登場だなオイ。ヒーローでも気取ってんのか?」 

 

龍園は愉快そうに笑うと夜見を煽る。

 

「そんなつもりないさ。ただ、高校生にもなって王になるとか言っちゃってる厨二病野郎に興味が湧いただけだ」

 

夜見が煽り返す。

 

「クク、面白い野郎だな」

 

龍園は挑発されても、相変わらず愉快そうな笑みを浮かべながら続ける。

 

「だがそんな大口叩くってことは.....少しは楽しませてくれるんだろ?」

 

そう言うと龍園は夜見に殴りかかる。

 

「夜見!」

 

私はそれが避けられないと思って夜見の名前を叫んだ。

夜見は別に体格が良いわけでもないし、喧嘩慣れしているようにも見えなかった。

龍園のパンチは素人では対応できないほど速い。

けど夜見は難なくそれを避けてみせた。

 

「ほう.....」

 

龍園は自分の拳が避けられたのが分かると、品定めするように夜見を見つめる。

夜見も同じく龍園を見つめていた。

龍園は腰を低くしてボクシングをする様な姿勢を取る。

対する夜見は手のひらを開いて何かを掴もうとするような構えを取った。

ニ人が見つめ合ってから既に10秒が経過している。

一触即発の空気。

 

それを先に破ったのは龍園だった。

即座に距離を詰め、勢いよく右拳を夜見の顔に向かって突き出した。

 

「っ」

 

夜見はその拳を掴もうと左腕を伸ばす。

しかし瞬間、龍園がニィと笑った。

 

っまずい、あの拳は夜見を殴ろうとして突き出したんじゃない。

 

「夜見!違うっ!」

 

そう叫んだ時には遅かった。

龍園はさらに左腕も突き出し、作っていた両の拳を開いて夜見の肩を掴んだ。

武術を習っていた私は直感で分かった。

あれは膝蹴りを繰り出そうとしている構え。

殴られると思って対応が遅れた夜見にはもう防げない。

あと1秒もしないうちに夜見は膝蹴りをもろに受ける   

 

でも、龍園がそこから動くことはなかった。

時間でも止まったかのように、龍園は固まっていた。

 

なんで?どうして?

 

そう思いながら目を凝らすと、龍園が驚愕した表情で足元を覗いた。

私も釣られて龍園の足元に目を向ける。

膝蹴りを繰り出そうとしていたであろう龍園の左足が、夜見の右足によって思いっきり踏まれて抑え込まれていた。

 

「うそ.....」

 

まさか膝蹴りが飛んでくることを読んだの?

私はその光景を信じられない物を見るような目で見つめた。

 

「おまえ   」

 

龍園は何か言おうとしてたけど、次の瞬間に夜見の左ストレートによって顔面を打ち抜かれていた。

 

「っ!?」

 

龍園は思わず後ろによろけた。 

クラスからおっ!という声が上がる。

あの圧倒的だった龍園に対抗できる存在が現れたのだ。

もしかしたら.....

そういう思いが浮かんでくる。

 

しかし、殴られたはずの龍園は笑み浮かべていた。

 

「クク、ククク...」

 

そんな薄い笑い声まで漏らして。

 

「今のは驚いたぜ。まさか読まれるなんてな」

 

「別に読んでない。俺は反射神経が良いからな」

 

「ハッ、騙されねぇよ。俺は肩を掴んだ時とほぼ同時に膝蹴りをかまそうとした。たがその時には既に左足は抑え押さこまれていたんだぜ?動かしてから抑え込まれていたんじゃねぇ。こんなのは反射神経だけじゃ不可能、先読みの領域だ」

 

確かにそうだ。

動く前から抑えていたのなら、そこに反射神経は関係ない。

夜見は龍園が膝蹴りをしてくると読んでいたとしか考えられない。

 

「俺みたいな奴と闘い慣れているのか、それとも別の方法で俺の攻撃を読んだのか...どっちでもいい。そんなのは勝ってから聞けばいいだけだからな」

 

龍園が攻撃を再開する。

右ストレートや膝蹴りに加え、回し蹴りやフェイントをいれつつの左ストレート、目潰しなど多種多様な攻撃を繰り出した。

 

が、そのどれもが躱されたり、防御されて威力を殺されたりで、夜見に直撃することは無かった。

その後も3分ほど攻防が続いたが、その間夜見は龍園の攻撃全てを対処しきっていた。

 

ここにきてようやく龍園の額に汗が流れ始めていた。

それだけじゃない、呼吸も乱れてきている。

でもそれは夜見も同じだった。

 

「たまらねぇなぁ.....たまらねぇよ夜見、頭ん中見られてるみたいで...ゾクゾクするぜ」

 

「そいつは...どうも」

 

「だが...解せねぇな」

 

「何が?」

 

二人は息が絶え絶えになりながらも会話を続ける。

 

「そんだけの腕があんなら、なんで避けるばっかりで反撃してこなかった?」

 

「別に...お前の攻撃に対処するので精一杯だっただけだよ。反撃する暇なんてなかった」

 

「ハッ...まぁ、そういうことにしといてやるよ」

 

「そういうことも何も本当なんだけどな」

 

夜見は困惑したような顔で答えた。

そして沈黙が訪れる。

私はすっかり二人の勝負に見入ってしまっていた。

もしかしたら夜見が龍園を倒してくれるかもしれない。

そんな希望を持ち始めていた。

多分、他のクラスメイトも同じようなことを思っていたと思う。

 

でもその希望は夜見自身によって打ち砕かれる。

 

「もうやめだ...」

 

夜見はそう言うと両手を上げて降参のポーズを取った。

唐突な展開に私...いやクラス全体が困惑した。

 

「どういうつもりだ?」

 

龍園までもが困惑する。

 

「普通に疲れたんだよ...このままやってもジリ貧で負けるのは見えてる。俺はお前を王だと認めるよ。」

 

意外すぎる結末だった。

そして結局夜見も龍園に屈してしまったと、クラスの雰囲気は再び暗いものに変わる。

 

「つまらねぇ幕引きだったな、まぁ俺を王と認めるならいいが」

 

そうは言いつつも、龍園はあまり納得していない様子だった。

そこに夜見がそれにと付け加える。

 

「お前が王になれば、このクラスも上に上がれるだろうしな」

 

夜見がそう言うと龍園は驚いたような素振りを見せた。

そしてまた愉快そうにクククと笑みを漏らしている。

 

「まさか頭まで回るとはな、いつ気づいたんだ?」

 

「初日だよ」

 

「...やっぱたまらねぇよおまえ、気に入った。俺の右腕にしてもいい」

 

「まじか、そいつはありがたいな」

 

一体何を話してるの?

クラスが上がれる?初日に気づいた?何に?

それに夜見が龍園の右腕になるだの...話が早すぎてついていけないわよこんなの。

 

「んじゃ俺はここらへんで帰ってもいいか?」

 

「あぁ、いいぜ。」

 

もう二人の中では話が完結しているのか、龍園は夜見を開放した。

 

「よし。伊吹も帰ろう...別に伊吹も開放して構わないだろ?」

 

「構わねぇ。その代わり、分かってると思うが」

 

「分かってる。俺から話しとくよ」 

 

「ならいい」

 

なんかまた話が進んでいる。

...よく分からないけど私も帰っていいらしい。

気がつくと夜見は既に教室のドアに手を掛けていた。

 

「ちょっ...夜見待って!」

 

私は急いで荷物を拾い、夜見の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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