俺に恋愛なんてあり得ない   作:詩野聡一郎

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火曜日・水曜日・木曜日

 火曜日。

 瀬戸は何も聞いてこないので、俺は気楽に一日を過ごすことができた。

 帰宅したあとはお湯を沸かして、カップ麺を食べ、ライトノベルを読むだけの生活。

 悠々自適な一人暮らしというやつだ。

 いつかは偏った食生活の反動を受けるかもしれないが、今だけは許して欲しいと思う。

 食後のコーヒーに舌鼓を打つ一方で、昨日から読み始めた本については、既にだいぶ読む気が失せていた。

 田中先生のことだから、どうせ途中でファンタジー要素を入れて風呂敷を広げると思っていたのだが、今のところはほとんどただの恋愛小説だ。

 確かに田中先生は以前から必ずといって良いほど自著に恋愛要素を入れていたが、それはコーヒーに砂糖を一杯入れる程度の話。

 これじゃあまるでカップ一杯分の砂糖を飲まされてるようなものだ。

 しかも、目次をサラッと見た限りでは、なんとこれは短編集。

 つまりファンタジーが大好きな俺が、「等身大の」という謳い文句の下で繰り広げられる非現実的でご都合主義的な恋愛模様を、中毒になりそうなほどに過剰摂取するということ。

 うわ、想像しただけで吐きそう。コーヒーが不味くなってきた。

 そもそも、よりにもよって今の俺に恋愛なんて――

 

「――あり得ない、よな」

 

 幼馴染とか偽恋人とか、そうした要素を散りばめた美しい恋愛を見ても、今の俺には到底感情移入できそうにない。

 こういう恋愛小説は滝川や村上、瀬戸といった普通の人が楽しむためのものであって、俺にはファンタジー小説が関の山。

 俺に、恋愛小説の登場人物の心理は理解できない。

 そういう星の下に、生まれている。

 

 

 

   ◆水曜日

 

 

 

 水曜日。

 コーヒーチェーンでの会話のせいですっかり色気づいた話をしてくる滝川を無視しつつ、俺は帰宅する。

 今日もお湯を沸かし、カップ麺を啜る。

 最近は朝までカップ麺で済ませている気がする。

 そもそも、母親が家にいないんだからしょうがない。

 こんな状態でまともな食事をするなら、それこそ頼みこんで友達の家に――

 

「――いや」

 

 俺が友達と言えるのは、滝川や村上、あとは百歩譲って瀬戸ぐらいのものだ。

 そして俺は、滝川の家にも村上の家にも行ったことはない。

 だから、他人様の家に頼るアテなんてないわけだ。

 当然の帰結として、俺はカップ麺を食べる。

 これは仕方のないことなのだ。

 全部、俺のせいなんだから。

 そして、俺はラノベを読む。

 

 

 

   ◆木曜日

 

 

 

 木曜日。

 村上は寝不足かあるいは炭水化物抜きダイエットでもしているのか、珍しく殺気だっていた。

 俺に対する言葉にも棘を感じるので、日中はなるべく村上を避けながら早々に帰宅をする。

 食事はもちろんカップ麺。

 今日で定番商品の塩・醤油・味噌を見事にコンプした。

 このカップ麺生活のささやかな楽しみは、このぐらいのもの。

 不摂生な生活にも、ちょっとぐらいは彩があったっていいじゃないか。

 まあ、でもさすがに連日カップ麺というのも飽きてきたので、そろそろコンビニで弁当でも買おうかな。

 母さんからの送金はきちんとあったし、お金には困っていない。

 相変わらず栄養は偏りまくっているが、どうせろくでもない人間になる運命だから好都合。

 誰かが注意してくるなら別だが、こんな俺の生活にわざわざ口出す奴なんて――

 

「――――」

 

 誰かの声を側頭葉が再生しようとした気配もしたが、前頭前野の管理者権限でブロックした。

 今日も理性はフル稼働で、脳内感情をしっかりコントロールできている。

 良い調子だ。あとは目の前のライトノベルを事務的に処理すればいい。

 おそらく今日中に読み終わることだろう。

 そうすれば、全ておしまいだ。

 何もかも、元通りになる。

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