「でも……だからこそ救いを求めてもいいでしょ?」
私は今まで外の世界を知らなかった。いや……正確にはパパが居る所だけが私の世界だったから知る必要がなかった。だってパパと私の世界には色んなものがいっぱいあったから。
でもそんな生活も長くは続かなかった。パパが倒れてしまったのだ。それだと言うのに私はただ見ている事しかという事実がなんとも歯がゆく、悔しい気持ちで私の心の中はいっぱいになる。これが絵画と人間の差なのだろうか。
そんな私を心配してか、私より先にパパの手で産み出されていた人達はこちらを心配そうに見つめてくる。しかしそんな目を向けられたところで私の悲しみが癒される事は無いしパパが戻って来るなんて事も無い。ただただ私が惨めになっていくだけである。
しかし、そんな気持ちも束の間に私達は人間達の手でパパの家からなんだか広い所へと皆次々と運び出されていく。私達の世界では自由に動いたりお喋りする事が出来てもパパのいた世界ではただそこに存在する事しか出来ない。
出来る事ならずっとこの家で過ごしたかったのだけれどこの人間達はそれすらも許してくれないらしい。そんな事に強い憎しみを覚えながらも私達は突然の引越しを余儀なくされた。
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私達が連れて行かれるのはどうやら“美術館”という所らしい。と言うのも私達を運んでいた人間達が「美術館に向かう時は〜」などと言っていた為おそらく間違いはないだろう。
しかし私達の行先は1つだけなのだろうか。もしかすると散々になってしまうかもしれない。ただでさえパパがいなくなってしまったのにこれでみんなとも離れてしまうなんて考えたくもない。
もしこれで離れ離れになってしまった時には私は少しだけ倒れたパパを恨む事にした。
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“美術館”という所に来てある程度経った。何とかあの家にいた皆も同じ所に運ばれてきたので少し安心をしたのは言わずもがなだろう。
そんなこんなでここでのんびりと他の仲間……『お友達』と私達の世界で仲良くやっていたが、やっぱりなんの変化も起きないこの世界は退屈だ。何をしようにも私以外はあまり乗り気でないように感じるし、それを押し通して付き合ってもらうのもなんだか申し訳ない。そんな訳で私の描いた世界を何となく青人形とぶらぶらしていると、外の世界が騒がしくなるのを感じる。何があったのだろうか。
どうやら人間達は様々な人間を数多く呼んで私たちを見せ物にしているらしい。それをして何があるのかは全く分からないが、どうせ私達にとってはくだらない事だろう。そう思いながら外の人間達を観察していると、私とあまり歳の変わらなさそうな女の子が両親と共に美術館に来たのが確認出来た。
私が初めて人間の子供を見た瞬間だった。その子を見た瞬間に私は外の世界に行ってあの子と、あの子の友達と目いっぱい遊んでみたい。そんな欲に駆られる。
しかしこの世界から外に出る方法なんてあるのだろうか。ちょっとほかのお友達に聞いて回る事にしよう。
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話を聞き回った感じ、外に出るとしたら誰か外の人間を代わりに入れればいけるのではないかという結論が出た。それならばあの女の子も贄と一緒に入れてしまえば一緒に行動する事も出来るし、その時にあの子の好きな事とか聞けるからいいのではないか。
そんな事を思いながら適当に『吊るされた男』の前でじっと彼を見つめている人間を贄としてこちらの世界に呼び込む事にした。
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こいつは一体誰だ。私はコートの来た男と可愛らしい女の子の2人しかこの世界に招き入れていないはず。それなのにこの見た事の無い格好をした男はどうやってか知らないがこの世界に入ってきているではないか。私は驚きのあまり心ここに在らずのような返事をしてしまった気がするがそんな事はお構い無しに3人は話を進めていく。
どうやら私を連れてこの世界から出ようとしているらしい。少なくとも2人をここに呼んだ私からすれば甘い考えだなと思ってしまうが、目標は高い方がいい。私もここから出られればそれでいいので頑張ってもらう事にしよう。
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『告げ口』があの男2人の会話を喋ってくれている。どうやらあの2人は私の正体を知ってしまったらしい。……いや、あのイレギュラーの男はここに来る前から私の正体を知っていたらしい。しかし私の記憶にはあの男の顔を見た覚えはない。もし顔に見覚えがなくてもあの服装なら記憶の片隅に残っててもおかしくないはずなのにそれすらない。
私のことを知っている人間はそんなに多くはないはずなのになぜこの男は私のことを知っているのだろうか。
……あいつは私を外に出してくれるのだろうか。もし今の発言を信じるのであれば私は彼にこの世界からの脱出を手伝ってもらえるという事なのだろうが、そんな簡単に信じていいのだろうか。でもここまで言って貰えたんだから信じても良いのかもしれない。私はヒロトシという男を少し信じてみる事にした。
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モノクロの部屋が色付き、部屋の中央に虹がかかったことで対岸の鍵を取る事が出来た。これでようやくあの2人と合流する事が出来る。 そうすれば脱出まですぐだろう。そう思って気が抜けたのか、私は何も無いところで躓いてしまった。すると私のポケットからパレットナイフがするりと床に落ちてしまう。
前を歩いていたイヴが「大丈夫?」と声をかけてきた為、私は「大丈夫だよ。」と返しパレットナイフを拾う。するとその時階段の方から誰かが駆け上がってくる音が聞こえてくる。ふとそちらを見てみるとギャリーが1人でこちらに向かってきている。ギャリーが、1人で。
目の前が少しづつ暗くなっていく―――。
「はぁ……はぁ……!アンタ達いいところに来たわね!ヒロトシが今1人で頑張ってるから迎えに行くわよ!ってメアリー!アンタそんな物騒な物捨てちゃいなさい!」
「ギャリー1回落ち着いて!それとメアリーが持ってるのは念の為だから気にしないで!」
「そんなのでアイツらを退かせる事が出来るとは思えないけど……まぁそんな事は今はいいのよ!それより早く下に行きましょ!」
「お兄さんは今何してるの?てっきり一緒にいると思ってたんだけど……。」
「あの子“王様”ってやつに会いに行って部屋に閉じ込められたのよ!」
「!?本当に“王様”に会いに行ったの!?」
「えぇ!あの青人形が嘘でもついてない限りはその筈よ!」
「―――ッ!」
私はそれを聞くなり2人を置いて階段を駆け下りていく。ただの青人形が相手ならなんでもないのだが“王様”となると話は別である。
「……あの子、やっぱり何か知ってるのね。」
「ねぇギャリー、わたし達も早く行こ?お兄さんが心配だもん。」
「そうね!出来ることは少ないかもしれないけど何もしないよりマシよ!って事で走るわよイヴ!」
「うん!」
私は1人“王様”のいる部屋の前へとたどり着く。切れた息を整えドアノブをゆっくりと回し扉を開けていく。するとそこには――――――、
うつ伏せに倒れて青人形に囲まれた人影がそこにはあった。