「―――いや、俺はここで“サヨナラ”だ。」
「……は?アンタ何言ってんの?」
「―――あ、そういえばお兄さんだけ入ってきた美術館が違うって言ってたもんね!だからサヨナラってことなんでしょ!」
「いや、俺はここに残る。ここからは3人で仲良く脱出してくれ。」
俺がそう言うとギャリーは怒りに、メアリーは悲しみに満ちた表情になる。イヴちゃんは未だに状況が飲み込めていないのか、まるでハテナでも浮かんでいるようななんとも言えない顔をしている。
俺がみんなの表情を見ながら何も言わずにじっとしていると、何を思ったのかギャリーが俺のそばにズンズンのと通ってきていきなり胸ぐらを掴まれる。
「ちょっとアンタ、いきなり何を言い出すかと思えばここに残るぅ?バカ言ってんじゃないわよ!一緒にここから出て色んなところに遊びに行こうって!マカロンも一緒に食べようって約束したじゃない!」
「あぁ、そうだな。でも俺にはやらないといけない事があるんだ。」
「―――ッ!あぁそう!ならアタシはもう何も言わないわ!勝手に残って1人寂しくそのやらなきゃいけない事をやってればいいじゃない!」
「トシ……。もしかしてそれって私を外に出す為に残るって事……?」
掴まれていた胸ぐらを乱暴に離された俺は、メアリーから間髪なくそう問われる。彼女は何となく察していたのか、それとも実は知っていたのか。この2択ならば原作を鑑みるにおそらく後者なのだろうが今はそんなことはどうでもいい。それよりもこの場をどうやって切り抜けるか。それが問題だ。
「……まぁそれもあるな。」
「それもって……じゃあ他にどういう理由でトシはここに残るの?」
「1番はとある人に……、俺をここに呼んだ人に会いたいからって言ったら納得出来るか?」
「えっ……。た、確かにトシをこの世界に呼んだのは私じゃないけど。じゃあ一体誰がトシを呼んだっていうの?」
「あー……。じゃあメアリーだけに教えてあげる。耳貸して。」
俺はそう言って膝立ちしてメアリーの頭の位置まで体勢を低くする。恐る恐る近づいて来たメアリーの耳の横を手で覆って俺は“この世界の生みの親”の名前を口にする。
「―――俺をここに呼んだのはワイズ・ゲルテナ。君の父親のような存在だよ。」
「―――えっ?それ、嘘、だよ……ね?」
「俺も本人にちゃんと確認を取れてないけど十中八九間違いない。だって聞こうとしたら“多分あってるから口外するな”って言われたからさ。」
まぁそれを知ったのもついさっきだけどなんて少しおどけながら言っている中メアリーは肩を震わせながら俺に1つ質問をしてきた。
「パパは……私の事なんて言ってた……?」
「―――“可愛い可愛い私の娘だ”。口では言ってなかったけどあの人の目が、表情がそう言ってたよ。」
「そっかぁ……。私ってちゃんと愛されてたんだね。」
メアリーは涙を流しながら晴れやかな笑顔で俺にそう言ってきた。それを見ながらメアリーの頭を撫でていると、イヴちゃんが俺に言いたい事があるのか近づいてくる。
「お兄さん……。本当にここに残るの……?」
「あぁ。それが俺のなすべき事でずっとしたかった事だ。」
「じゃあお兄さんはわたし達よりも美術品と一緒にいたいの……?」
「いや……できる事なら3人とずっと一緒にいたいさ。」
「ならっ!」
「でもこの世界がそれを許しちゃくれないんだ。」
「どういう事……?」
それを聞かれるタイミングはいつか来るのだろうと思っていたが、いざ言うとなると口に出す事をはばかられてしまう。しかしそれを言わなければ誰も彼も納得できないだろうし、結局いつか知られてしまう運命なのだからと腹を括る。
「この世界からメアリーが出る為には誰かが変わりにならないといけないんだ。」
「そんな……。嘘……嘘だ!お兄さんの嘘つき!」
「嘘じゃない。ここから4人で出ることは出来ない。現に出口となるはずの
「そんなの絶対に嘘だもん!4人でここから出るんだもん!じゃないと嫌だ……嫌だよ!」
イヴちゃんは涙を流しながら現実を受け取れられずに嫌だ嫌だとずっと言っている。しかしここでそんな事をしていても無駄に時間が過ぎるだけだしいいことは何もない。あまりこの手は使いたくなかったが致し方ない、最終手段だ。
「イヴ!これが現実なんだ!何事も必ず上手くいくとは限らない!だから俺のできる事をする!ならイヴのできる事はなんだ!」
「やだ……やだよぅ……。みんなで一緒に帰りたいよ……。」
「そうやっていつまでもグジグジしてるつもりか!俺の知ってるイヴはそんなに弱い女の子じゃなかったぞ!もっと明るくて活発でみんなを元気にしてくれる子だった!」
「えっ……?」
「イヴの笑顔に俺もギャリーもメアリーも!みんな元気をもらってたんだ!そんな子が涙を流したら悲しいお別れになるしかないだろ!」
「でも……。お兄さんと離れ離れになっちゃう……。」
「……大丈夫だ。例え体が離れてても心が忘れてなければ繋がっていられるさ。それに最後くらいイヴの笑顔を見ながら別れたいな。」
「うん……。わかった、頑張る。」
イヴちゃん……いや、イヴはそう言うと頑張って口角を上げて笑顔を作る。その笑顔は自然に出てくる笑顔と比べるとあまり楽しそうではなかったが、今まで見てきた笑顔の中で一番輝いて見えた笑顔だった。
――――――
「それじゃあアタシ達は行くわね。ヒロトシ、達者で暮らすのよ。」
「あぁ。まぁきっとなんとかなるさ。」
「トシ!私ぜっっっったいにトシの事忘れないから!」
「そうしてくれると嬉しいよ。俺もお前ら3人の事は絶対に忘れない。」
「お兄さん!―――またね!」
「―――っ。あぁ、またな。」
別れの言葉も程々に絵空事の世界は元あった形に戻っていき絵の中にいた3人の姿がゆっくりと消えていく。その姿が見えなくなるまで見送った俺は1人になってしまったこの空間でぽつんと立ち尽くしていた。
「やぁ、待ったかい?」
「いや、それほど待ってねぇよ爺さん。」
俺の目の前には夢の中で散々お世話になった初老の男性が立っていた。漸くここまでたどり着けたので色々と聞きたいことはあるがまず1つ何よりも先に聞きたいことがある。
「なぁ爺さん。」
「ん?一体どうかしたのかな?」
「俺、上手くできたかなぁ……?」
「―――あぁ。君の望む結末を君の手で成し遂げたんだ。上手くできたさ。」
「そっかぁ……。じゃあさ、嬉しいはずなのになんでこんなに悲しいんだろうな。俺もうわかんねぇや。」
「そうだねぇ……。」
―それはきっとあの3人との時間は本物だったんだよ。ゲームでもなんでもなく、ね?―
次回、エピローグ。