Ib〜ハッピーエンドへ行き着くためには〜   作:月舘

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END:1 君の求めたハッピーエンド

いつの間にか目を閉じていたのか目の前が徐々に明るくなっていく。ゆっくりと瞼を開けるとそこは美術館の廊下だった。それも、壁や床が変な色をしていないまともな美術館である。

 

 

「あぁ、戻ってこれたんだな……。」

 

 

俺は『絵空事の世界』を背に1人そうつぶやく。しかしそこまでしてようやく気づいた事が1つ。他の3人がこの場にいない。恐くじいさんの事だからきっとゲームと同じ所に他の3人を配置をしたのだろうけど、その場合イヴは何処にいるのだろうか。両親の傍か、はたまたギャリーかメアリーと共にいるのか。若しくはそのどちらでもなく1人で作品を見て回っているのか。

 

最良はギャリーかメアリーと一緒に行動している事だが、まぁその他の場合でも何とかならない事もないだろう。

 

 

「……取り敢えずここから離れるか。ここにいても何もわからん。」

 

 

1人寂しく立ち尽くしていてもここに誰が来る事もない事は知っているので兎に角ここを離れる事を最優先に動いていく。

 

少し歩くと俺の目に「指定席」の端が入り込んでくる。そこでふと後ろを振り返ると、『絵空事の世界』は疎かそれを飾る事の出来そうなスペースすら奇麗さっぱりと消えてしまっている。その光景に少し寂しさを覚えつつも、足は戻ろうとはせずに先へ先へと1歩ずつ歩いていく。

 

 

「おぉ……、久しぶりにあの美術館にいたメンツ以外の人を見た気がする……。」

 

 

作品を鑑賞している人達。どこかから聞こえる、喋っているという事しかわからないほど小さな話し声。館内のスピーカーから小さい音量で流れてくるクラシックのような音楽。その全てが俺が元の世界に戻ってきた事を実感させてくれる。

 

 

「やっとここまで来る事が出来た気がするな……。それもこれもじいさんが俺の事を振り回したからだろ……。」

 

 

そんな事を愚痴りながら1階へ繋がっている階段へと歩いていく。

 

結局3人の誰とも会わずに1階へたどり着いてしまった。それがなんだか今までの冒険全てを否定してきているようでなんとも悲しい気持ちになるがそれを考えないように俺は足を進めていく。

 

 

「やっぱり薔薇のオブジェの所か?あそこならイヴかギャリー辺りがいそうだし。」

 

 

逆に言えばメアリーがどこにいるのかてんで見当がつかないのだが、まぁ多分イヴと一緒にいるだろう。なんて予測をつけながら俺は歩く速さを少し早めた。

 

1階に着いて少し歩くとあの世界の入口となっていた『深海の世』を囲っている柵が目に入る。その絵を何度見直しても動く素振りは疎か海の中に入れそうな雰囲気も感じられない事から実は白昼夢だったのではと本格的に疑いを持ち始める。それ程までにこの世界は俺達の過ごした虚構を否定しているように感じたのだ。

 

既に一種の諦めのような感情を抱きつつ薔薇のオブジェへ続く道へと足を向けると、そこには見知った顔が3つ並んでいた。

 

 

「―――えっ?」

 

「最後の合流はアンタだったのね。アタシ達待ちくたびれちゃったわよ。」

 

「トシ遅ーい!……でもここまで連れてきてくれたから許したげる。にしし♪」

 

「お兄さん、お疲れ様。わたし達の為にありがとね。」

 

 

「メアリー、少しは静かにしなさい。」と優しく宥めるギャリーに対して「やなこった!」と第一次反抗期のような反応を見せるメアリーとそれを見てあたふたしているイヴを見ていると何だかあの世界に戻ったようで、でもこの世界には俺達だけじゃなくて。

言葉に言い表す事の出来ない複雑な感情が渦巻く中、とりあえず俺は3人に提案をする。

 

 

「あー、1回外に出ないか?自販機もあるし何より陽の光を浴びたい。」

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

「―――で?なんでアンタはこんなに戻ってくるのが遅かったのよ。」

 

 

イヴが紅茶、メアリーが炭酸のジュースを飲んでいる時にギャリーが缶コーヒーを開けながらそう尋ねてきた。

 

 

「いや分からん。俺は皆で『絵空事の世界』に入った後に気がついたらその絵の前で棒立ちしてたんだよ。しかも少し離れて振り返ったら消えてたしよ。」

 

「ふーん……そこら辺はアタシ達と大差ないわね。でもなんでヒロトシだけ別れて帰ってきたのかしら?」

 

「―――ここがギャリー達の過ごしてた世界じゃないからだろ。“うぇるかむとぅじゃぱーん”ってな。」

 

 

内容が内容なだけにあまり重くなりすぎないようおちゃらけて言うと、ギャリーは驚いたような納得したようななんとも言えない表情を見せる。

 

 

「変な表情なんかしてどうした?ガスの元栓でも閉め忘れてきたか?」

 

「失礼ね、そんなんじゃないわよ!……道理でアンタの喋ってる言葉が違うように聞こえるのに理解できるのか謎が解けたのよ。―――先生の仕業ね?」

 

「あぁ、そんな事か。まぁ恐らくそうだろうな。」

 

「そんな事って……よく軽く流せるわね。アタシだったら“何してくれんのよ”って文句言ってやりたくなるわ。」

 

「あの人とある程度関わってると諦める事が肝心だって理解出来るようになるさ。」

 

 

俺が遠い目をしながらそう言うとギャリーは何となく察したのか先程とは打って変わって可哀想なものを見るような目で俺を見ながら肩にぽんと手を置いてくる。

 

 

「ま、他人事なのは今のうちだぞ。ギャリーもこれからあの人に振り回させるだろうよ。」

 

 

仲間だなと言わんばかりにいい笑顔でそう言うとギャリーはギョッとした表情になり、誰でもひと目でわかるくらいに項垂れる。

 

 

「そんな事よりもこれからの事だ。お前らこっちの世界に来て家とかどうなったか“頭に入ってる”か?」

 

「あー……その点は大丈夫みたいよ。少なくともアタシはこっちにちゃんと家があるわ。」

 

「わたしもママとパパもこっちに来てお家も近くにあるみたい!」

 

「……。」

 

 

俺の質問に対しイヴとギャリーは返事が返ってくるがメアリーがだんまりを決め込んでいる。何かあったのだろうか?

 

 

「どうしたメアリー?なにか都合の悪い事でもあるのか?」

 

「……だもん。」

 

「え?なんつった?」

 

「ギャリーと同じ家なんて嫌だもん!」

 

「この子この話をするとこうなるのよ。この世界に来た時とアンタを待ってた時、それに今で3回目ね。」

 

「イヴと同じ家が良かったぁ……。」

 

「もう決まっちゃった事なんだからグチグチ言わないの。いつでも遊べるような距離なんだからそれでいいじゃない。」

 

 

どうやら一人暮らしのギャリーの家に転がり込んだ形となってしまったメアリーだが本人はイヴと一緒に住みたかったらしい。まぁゲームでも姉妹になるエンドがあるくらいだからそうなるか。

 

 

「まぁいいじゃんか。イヴといつでも遊べるんだし泊まりにだって行けんだろ?」

 

「むぅ……それはそうだけどぉ。」

 

「わたしが2人の家に泊まってもいいんだよ?ギャリーを仲間外れにしたくないもん。」

 

 

そんな事を話していたらイヴのご両親がこちらに向かって歩いてきているのが目に入る。流石に長く外にいすぎたか。

 

 

「さて、イヴのお迎えも来た事だしそろそろ解散しようか。」

 

「そうね。また今度会う時はいっぱい話しましょうね。」

 

「―――そうだ!わたし達戻ってきたんだよね?じゃあ言ってない事があるよ!」

 

「?……あぁ、確かに帰ってきたら言わないとだな。」

 

「じゃあいっせーので言いましょうか!」

 

「さんせー!」

 

 

俺達は笑顔で顔を突き合わせて旅の終わりの呪文をせーので唱える。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ただいま!お帰りなさい!」」」」

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