Ib〜ハッピーエンドへ行き着くためには〜   作:月舘

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最近話の冒頭を書くのが大変になってきました。私です。
どこもひねり出すのは大変なんですが、中でも冒頭ってどう切り出せばいいのか分からない。

ようやく無個性さんがアップを始めましたよ。



では、どうぞ。


無個性

次のフロアを覗いてみると、どうやらそこはで長くない廊下のような場所だった。しかしどちらを見てもどこかにつながっている様子はなく行き止まりとなっている。そして奥の行き止まりには何やら見覚えのある彫像────確か無個性といったか────がぽつんと佇んでいた。そしてその手前の壁には何やら絵画が飾ってありそうな雰囲気がある。

 

兎にも角にも進まないことに事態の進展はない。先程の出来事で緩んでしまった緊張感をピンと張り直しフロアに足を入れる。

 

 

 

入ってみてわかったことがひとつある。この部屋は何やら雰囲気が重い。何やら良くない事の前兆のようにも感じるそれは俺の体にズシンと重くのしかかる。何故だか分からないがこの部屋で間違いなく“ナニか”が起こる。そんな確信さえ持ててしまうようなそんな雰囲気。そんな雰囲気をなるべく感じさせないように俺はイヴちゃんへ話しかける。

 

 

「よし。この部屋はあまり物もないしチャチャッと探索を済ませて次の部屋に行こうか。」

 

「うん!わたしも何かないか頑張ってさがすよ!」

 

「おーそれは頼もしいな。頼りにしてるよイヴちゃん。」

 

「任せて!わたし物をさがすの得意なんだから!」

 

 

そんな言葉に少しホッコリとしながら、しかし張ったテンションを緩めないように俺は辺りを改めて見回す。どうやら先程見えた絵画のようなものは蝶の成長の続きのようだ。タイトルはさすがに見えないが、蝶が何かに覆い被さられているように見える。あまり縁起の良いものでは無いし、見ていて気分も良くはならない。リアルという名の銃口を突きつけられているようなそんな感覚さえ感じる。

そんな絵のタイトルを確認しに俺は絵画の前へと足を運ぶ。

 

 

「エピローグ……か。随分と洒落が効いてるねぇ。これが俺らの果てとでも言いたいのか?」

 

 

だとしたら随分とこちらに喧嘩を売ってきている。それともこちらの謎解きの実力を甘く見ているのだろうか。どちらにせよ言えることはただ1つ。

 

 

「ここを無事に脱出してやるよ。見てろよ、ゲルテナ。俺の……俺らの底力見せつけてやるから。」

 

 

なんて自分を鼓舞するためにカッコつけてたらイヴちゃんにすごいものを見てしまったかのような目で見られていることに気づいた。その瞬間俺の中にやってしまったという感情が押し寄せてくる。少しこの雰囲気に呑まれていたのかもしれない。それにこんな不可解な場所に来てしまったのだ。俺の心の奥に押し込められていた少年心が擽られてしまったのかもしれない。そうだ。きっとそうに違いない。

 

そんな言い訳を誰にする訳でもなく自分自身に言い聞かせる。何度も何度もそうしていると、痺れを切らしたのかイヴちゃんが俺に話しかけてきた。

 

 

「お兄さん。さっきのってなぁに?」

 

「あっいや、えっと……。決意表明、かな。」

 

「決意表明?なんだかよく分かんないけどすごそう!」

 

「あ、あはは。何も凄くないよ。ただ願望を口にしただけだから。」

 

「願望?底力見せるのが願望なの?変なの〜。」

 

 

実際は底力を見せたいのではないのだが言葉が少なかったせいで何か勘違いされたまま話が進んでいる。が、まぁこれくらいなら特に気にしなくてもいいだろう。

そんなふうにこの話題を自己完結させて、俺は“エピローグ”を後目に無個性の方へと向かう。どちらかと言うとこちらの方が重要性としては高いだろう。ただの彫像のはずなのに今にも動き出しそうな雰囲気を醸し出している。宛ら俺たちに注意喚起を促しているようだ。しかし、今のところなんの害も及ぼしていないこの彫像をずっと気にし続けるのもなかなか難しいものがある。そう思った俺はおもむろにその彫像の右手を触ってみる。が特に何も起きずがっちりと握手を交わしてしまった。

 

 

「うーん……。この彫像は俺たちを襲ってこないのか?」

 

「お兄さんさっきからどうしたの?急に決意表明したりこのマネキンさんの手を握ったり。何かおかしいよ?」

 

「あーうん。色々と気になることがあってね。」

 

「ふーん。」

 

 

ふーんで終わっちゃうんだ……。なんて思いながら俺は無個性から手を離す。……なんだか少し肩の位置が下がった気がする。が、まぁ多分気のせいだろう。少し肩肘を張りすぎていたのかもしれないし。

しかしこれでもし今後襲われずに触れ合いを求められたらどうなるんだろうか?……そんなことあるはずないか。数が少ないとはいえ今まで会ってきた作品たちはどれもこれも俺たちに害を及ぼしたり無干渉だったから。これでもし触れ合いを求められてもこちらとしてはエイリアンと触れ合っている感覚にしかならない。それがどんな感覚なのか知る由もないが。

 

イヴちゃんの方へ振り向くとどうやら足元に何かを見つけたらしい。しゃがみこんでじっと一点を見つめている。何を見つけたのか皆目見当もつかないがきっと脱出の手がかりになるものだろう。

 

 

「どう?なにか見つかった?」

 

「あ、うん。カギを見つけたんだけど取れないの。」

 

「えっ本当?ちょっと俺が試してみてもいい?」

 

「うん!いいよー!」

 

 

床に落ちている鍵が取れないとなると、床から剥がすために必要な器材(アイテム)でもどこかに置いてあるのだろうか。しかし今まで歩いてきたところにはそれらしきものは見当たらなかった。見通しているだけなのかもしれないけれど今まで通ってきた部屋数的にその線も薄いだろう。

 

俺が鍵に触れようとすると鍵からキィンと金属同士が物価だたような音がした。イヴちゃんの方を向き今の謎の音が聞こえたか確認すると少し強ばった表情でこくりと頷く。さて、気張ろうか。

 

 

「じゃあ取るよ。一応周りを見ておいてね。何が起こるかわかんないから。」

 

「うん。わかった。」

 

 

イヴちゃんも前のフロアの件があったからか少し身構えていた。あの女性の絵画のように特に害のないものが起こるのならばまだ良いのだが先程の黒い手のことを思うとあまり安心ばかりしていられない。イヴちゃんには申し訳ないがその不安な気持ちを払拭するのは後にさせてもらい、俺は鍵を拾う。

 

何やらコツンと固いものが床に当たる音が真後ろからする。バッと振り返ると先程より1歩分近づいているように見える無個性の姿がある。イヴちゃんは動いたところは見てなかったらしく無個性の方を向いて頭にハテナを浮かべている。

百歩譲って1歩分ならまだ俺の見間違いかもしれないが先程の音も気になるところ。しかしこれで襲われましたじゃシャレにならない。

 

 

「イヴちゃん。ちょっとここの入口を開けてきてくれないかな?これ、もしかしたら走るよ。」

 

「え?うん。わかった。」

 

 

これであとは無個性(コイツ)がこれからどう動いてくるか。そこが問題なんだが……。

 

 

「ま、襲ってきますよね……。痛いのは嫌だしさっさと逃げますか。」

 

 

歩くようにこちらに向かってくる無個性。しかしその際に小型動物が威嚇しているかのような音が無個性の方から聞こえた。つまりはそういうことだろう。やはり俺達はあまり歓迎されていないらしい。それかこの方法がここの歓迎の仕方なのか。どちらにせよこちらの身の安全が確保できてないのなら逃げるしか方法はない。立ち向かいたいのも山々だが、過失は蒙りたくないし、何しろこちらには武器がない。それに壊したら壊したで良くないことが起こりそうだから物品破損は必要最低限に収める必要があるだろう。こういう時の感程よく当たるものは無い。

 

 

「イヴちゃん!そっちに行くけど無個性には触れないように!わかった!?」

 

「わかった!それよりもお兄さん!後ろ来てるよ!」

 

「了解!俺が入ったらすぐ扉閉めて!」

 

 

そこまで言うと俺はスパートをかける。正直そこまで急がなくてもこのスピードなら巻けそうなのだが扉を閉める時間も考慮するといくら頑張っても1秒ほどはかかるだろうし急ぐに越したことはないだろう。

 

急いで穴の空いた部屋に飛び込むとイヴちゃんは扉を閉めてくれる。その閉めた扉に俺はもたれかかって息を整える。これで扉は抑えられるし俺も楽な体勢を取れる。そして扉を抑えていることによって(多分)イヴちゃんも少しだけ安心することが出来る。一石三鳥では無いか。

なんて思っているとすぐにドンドンと扉を叩く音が聞こえてくる。初めのうちはまだ良かったのだが、次第にその音は大きくなっていってついには扉を壊す勢いになってきた。

 

 

「これはまずい……!イヴちゃんごめんね!」

 

「え?……キャッ!」

 

 

俺は走ってイヴちゃんを抱き抱えるとその勢いのまま蟻の絵の上をジャンプで通過する。一方無個性は俺という支えが無くなった扉にタックルをしたせいで体制を崩していた。これ幸いと思いもうひとつの扉をくぐると、扉の奥で何かが割れる音がした。恐らく無個性が穴の存在に気づかず落ちてしまったのだろう。多少とはいえ蟻の絵の原型が残っていたのは僥倖だったか。イヴちゃんの体重でギリギリなんだ。それより重い俺や無個性に通ることなど出来るはずがない。

緊張の糸が解けた俺はその場に座り込んでしまった。それまでずっと俺の腕の中で大人しかったイヴちゃんが降りるとこちらを向きほっぺを膨らませてぷりぷりと怒っていた。

 

 

「お兄さん!きんきゅうじたいとはいえ女の子の体に気安く触っちゃダメなんだよ!」

 

「ごめんね。でもああするしか思い浮かばなかったんだ。」

 

「もう!それじゃ立派な大人になんてなれないんだから!」

 

「ははっ。そりゃごもっともで。本当に申しわけない。」

 

「むぅ!……でもカッコよかったよ、お兄さん。」

 

 

……こりゃ将来とんでもない小悪魔に育ちそうだな。あまり男を誑かさないように育って欲しいものだ。なんて変に親目線になりながらも俺はこの瞬間を楽しく過ごしていた。




ちなみにここがギャグ時空だった場合無個性さんが動き出す時に主人公に触れ合いを求めてきます。愛情表現を身体全身で示してきます。きっと威嚇音も変わってムードのある曲とかになるでしょう。きっと我らが主人公は横に首を振って逃げるでしょうけど。

これだから個性的な無個性なんて言われるんですよね。彼女たちって。でもそんな彼女たちが大好きです。


ちなみに小学三年生女子の平均体重を調べたところ30kgだそうです。イヴちゃんは平均を下回ってるイメージなので28kgくらいでしょう。ということは無個性さんは30kg以上あるということですね。そりゃギャリーがあんなに重そうに押すんですから30kgは超えてますよね。無個性さんの名誉の為に深くは掘り下げませんが。
それと重いものは下の方を押してあげると上の方を押すより楽に動いてくれますよ。まぁだからなんだって話なんですが。
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