では、どうぞ。
どうやらこの部屋は目の前のでかいペイントだけだと思っていたが左右にも部屋があるらしい。辺りをパッと見渡しても特に何かがある訳でもないので手がかりはこの左右の部屋にあるのだろう。さて、どちらから向かうべきか。
俺がどちらから行こうか迷っていると、イヴちゃんは俺の袖を弱々しく引っ張って何かを言いたげにこちらを見つめてくる。
「どうした?さっきからあんまり喋らなくなったけど怖いことでもあった?」
「あっちからなんかいやな感じがする……。」
そう言いながらイヴちゃんは左側の部屋の方を指す。こういう時の嫌な予感ほどよく当たるものは無いため行かなくていいよと行ってあげたい気持ちもあるが、だからといってイヴちゃん1人にするのはそれはそれで彼女の精神が持つかどうか怖いところがある。
多感な時期の子をなんとも言い表せない所に放置して悪影響を及ぼす可能性も否めない。もし悪影響を受けた場合俺は責任を取れないし彼女にはもしかすると一生摘むことの出来ない何かを植え付けてしまうことになるかもしれない。
そこまで考えた俺はさすがに1人にさせる訳にも行かず、結果嫌な予感がする左側を後回しにして右側から向かうことに。
左側の探索については数分後か数十分後か。探索が終えたあとの俺に丸投げすることにしよう。
右側の部屋に入ってみるとそこはまるで美術準備室のような色んな彫像がごったがえしている部屋だった。無個性も何体かいるがどうやら動きそうも無さそうだ。そんな事を思いながら真っ直ぐ歩いていく。同じような彫像が5つ並んでいる所を通りすぎると後ろからズッ……ズッ……と何かを引きずる音が聞こえてきた。
急いで後ろを振り向くとちょうど真ん中の彫像がこちらに向かって動いていた。よく見ると目のところが赤く光っているようだ。動きは全然早くないため逃げるのはなんともないがずっと着いてくる可能性を考えると少し面倒に思えてくる。
彫像から逃げて少し進んだ足元に少し大きな窪みがあり、少し躓いてしまった。それのせいで彫像が俺たちに近づいてくるが、これは使えるかもしれない。そう思った俺は窪みの少し先で足を止めてイヴちゃんを後ろにつかせる。
「あの彫像多分転けるけどその時破片が飛んでくるかもしれないから気をつけてね。」
「うん。……大丈夫だよね?」
「きっと大丈夫。あいつが勝手に転けるだけだから。」
俺の予想だが。まぁこの予想はきっと当たるだろう。なにやら引きずるように動いているようだし少しの段差でも躓くだろう。それで壊れたとしても俺らは何もしてないしきっと何も問題は無いだろう。
ゆっくりと、しかし確かに近づいてきていた彫像は俺の予想通り窪みに躓いて割れてしまった。その際ガシャンとすごく大きな音が出ていたのでイヴちゃんがすっかり怯えてしまった。こんな調子で逆側の部屋に入れるのだろうか?なんて俺は少し不安に思いながら割れた彫像の辺りを見る。
「ん?なんだこれ。……魚の尾か?」
「あ、これ……。まんなかの部屋の穴の形に似てる……。たしかお魚の形だったはず。」
「あれ。そうだっけ?じゃあ逆側には頭側でもあるのかねぇ。」
そう言いながら俺は彫像が倒れて塞がれた道を見る。俺一人ならばジャンプすれば何とか超えられなくはないがイヴちゃんも一緒となると厳しいものがある。幸い迂回できる道があるからそちらにしようと右手側を見るとポツンと灰色の花瓶がひとつ不自然に鎮座している。
今までの道のりで像はいくつも見てきたが花瓶のような容器を見るのは初めてだ。少し警戒しながら近づくとどうやら中に液体が入っているらしい。
「イヴちゃん。薔薇って今どんな感じ?花弁は少ない?」
「うーん……。赤も白も多くはないかな。赤いバラの方が小さいかも?」
「そっか。あーじゃあ2本同時に入れてみるか。」
あまりイヴちゃんに負担はかけたくないけど、あまり過保護すぎてもイヴちゃん自身が嫌がるだろう。それにもしこれが回復要素ならこれからの探索が楽になるだろう。
あまり乗り気ではないがここでの発見が今後の探索を楽にするかもしれない。
この美術館に来ると決まった時から全てかもしれない的思考で考えないと俺は何もしないし新たな発見はないと思い、黒い手に触ったり無個性と握手してきたりしたが、今までのものよりこの花瓶がいちばん怖いかもしれない。それは何故だろうか。自分でもよく分からない。でもこれが回復手段なら有難い。そんなことを思いながらイヴちゃんが花瓶の中に2輪のバラを入れようとするところを見届ける。
「それじゃあ入れるよ……。」
「おう。何時でもいいぞ。ばっちこい。」
ばっちこいと言った時にイヴちゃんは少し頭を傾げたが、あまり気にもとめず花瓶の中へ薔薇を入れる。もしかしたら痛みや苦しみが襲ってくるかもしれないと身構えていたが、俺の身体に齎されたのは体の底から力が湧き出してくる。黒い手に触れ手から少し経った今でも多少残っていた節々の痛みすらも癒えていくようなそんな感覚。さすがに全回復という感じではないが、それでも十分なくらいには体力が戻った感じがする。
ふと薔薇はどのように変化しているのか気になって花瓶の方を見てみると、赤い薔薇と白い薔薇両方とも花弁の数が増えている……気がする。変化前をあまりしっかりと見ていなかったせいでちゃんとした変化は分からなかったが、花弁のボリューム感が増しているように見える。
「イヴちゃん。体の調子はどう?なんか元気が湧いてくるような感じはしない?」
「お兄さんも感じたの?じゃあこれは元気になれるかびんなんだね!」
「そうだね。また花瓶を見つけたら薔薇を入れよっか。花瓶の中に液体はまだ残ってるかな?」
「え?うーん……。残ってないみたい!ゆらしてもポチャポチャ聞こえないし!」
「なるほど使い切りなんだね。じゃあ薔薇を入れるタイミングは慎重に考えないとだね。」
「うん!」
これはいい発見になった。恐らくこれからは花瓶を探しながら探索をすることになるだろう。そうすればもしダメージをくらってしまってもすぐに回復をしに行けるということになる。しかし一つにつき1回しか回復できないのは面倒な縛りとなる。回復するタイミングを見極めるのは至難の業になりそうだ。正直今回復したのも適切なタイミングだったのか不安になる。しかし試さないことには回復できるものだということは分からなかったため致し方ないだろう。俺はそう自分に言い聞かせる。
「それじゃあこの部屋から出ようか。いつまでもここに居ても何も進まないからね。」
「うん……。」
イヴちゃんは嫌な予感のしたもうひとつの部屋のことを思ったのか気分が落ちていた。しかしあの部屋に行かない訳にもいかない。俺は心を鬼にしてもうひとつの部屋へ向かうために出口へと足を運び始めた。
はい。という事でここはササッと(当社比)進ませました。1番最初の部屋で何ページも使う私がこの部屋を1ページで終わらせちゃいました。次の部屋もこれくらいサクサク進ませたいですね。
あ、黄色いインクの垂れてくるイベントは全カットです。(無慈悲)