では、どうぞ。
嘘つき達の飾ってある部屋へと戻ってきた俺達は今一度この6人がなんと言っているのかを確認をする。
曰く、
緑:石像の正面に立って 西に3歩 次に南へ1歩 そこが正解
茶:石像の正面に立って 東に4歩 次に北へ2歩 そこが正解
黄:白い服が言ってることは 本当だよ
青:本当のこと言ってるのは 緑の服だけだよ
白:石像の正面に立って 東に2歩 次に南へ2歩 そこが正解
赤:黄色の服に同意!
との事だ。なにか紙にメモが出来れば話は別なのだが……。
「あっ。携帯があるじゃん。」
「へっ?お兄さん何か言った?」
「いや、メモ出来るものをそういえば持って来てたなって思い出してさ。」
「も〜!お兄さん!そういうのは早く言ってよ〜!」
「ごめんごめん。ただ紙媒体じゃないから使えるかどうかだけ確認するね。」
そう言って俺は携帯をカバンの中から取り出す。美術館の中ではあまり携帯を触らない方がいいと思って電源を落としてカバンに仕舞っていたのが仇となったのか、今の今まで持っていること自体忘れていた。
電源をつけてみると、少しの起動セクションを待った後にいつものロック画面が表示される。深海の世を通った時にもしかしたら壊れた可能性もありえなくはないと思っていた俺は安堵のため息をする。メモ機能を開く前に念の為ネットにつながるか確認をしてみたところ、やはり繋がっていないようだ。画面上部のステータスバーにも圏外と表示されていた。
「やっぱりネットには繋がらないか……。ワンチャンSNSで謎解き有志に力添えしてもらえるかと思ったんだけど無理そうだな。」
「お兄さん何それ!なにか板が光ってる!」
「何って……スマートフォンだけど……。」
「SmartPhone?う〜ん……わたし聞いたことないなぁ……。お兄さんのおうちってお金持ち?」
「いや、ごく一般的な家庭に生まれた普通の男子高校生だけど……。イヴちゃんの両親とか携帯電話って持ってないの?」
「持ってるけどそんなタッチで動かすものじゃなくてボタンで動かすパカパカするやつだよ?」
……イヴちゃんって過去の人物なのだろうか。スマホが出始めたのって大体10年くらい前だろ?ガラケーが主流だったのって遅く見積っても2010年位までじゃなかったか?それなのに現代で未だスマホを全く知らない人がいるとは思えない。
メモ機能を開きながらそんなことを思う。しかしいつまでもそんなどうでもいいような思考を続ける訳にも行かないので一先ずこの問題は頭の端に置いておいて謎解きの方へ集中をする。
とは言っても誰が誰に賛同しているかを書けばすぐに仲間はずれが分かるだろう。
まとめてみた結果
白←黄←赤
緑←青
茶
という事が分かった。やっぱりこういう問題は書くものがあれば直ぐにわかってしまうことがひとつの問題点としてあるかも知れないが、俺自体はこの謎ときを楽しんでいる訳では無いので、考える楽しさが半減するとかそういうことは無い。
しかし俺は良いのだがまだ答えが分からないらしくうんうんと頭を悩ませている彼女に答えを言うのか否か。それが問題だ。
「イヴちゃん。一応俺はわかったけどもう少し自分で考える?それとも答え言おうか?」
「もう少し一人で考えてみる!すぐ答えなんてつまんないもん!」
「分かった。じゃあ10分くらい経ったらヒントが必要かまた聞くね。」
「うん!ありがと〜!」
なんて会話を最後にまたイヴちゃんは謎解きを始める。俺は特にすることがないので取り敢えずスマホの電源を再び落とす。次いつ使うことになるのか分からないのにずっとつけておくのも如何なものかと思ったからだ。しかし、しまうのはカバンではなくポケットの中にする。これでいつ必要になってもすぐに取り出せる。……この場合電源は落とさない方が良かったか?そんな後悔を少しだけ心に残しつつ俺はイヴちゃんの方へ向き直る。どうやらまた絵画の言っていることを見直しているようだ。
かれこれ5分ほど経ったか、6枚の絵画の前をずっと行ったり来たりしていたイヴちゃんの足が止まり大声で
「わかった〜!!!」
と叫び始めた。どうやら解けたらしいので、俺と答えが同じものになったのかどうかともし違った場合どちらがあっているかを議論しなければ。
「じゃあどの人が正解を言ってると思ったかせーので指を指そうか。イヴちゃんがせーのって言っていいよ。」
「うん!じゃあいくよ?せーの!」
その掛け声とともに俺は茶色の服を着た女性の絵画を指さす。イヴちゃんが指を指しているのは───、どうやら俺と同じく茶色の服を着た女性の絵画のようだ。満場一致なら特に話し合う必要も無いので早速奥の部屋でタイルを剥がしてそこにあるであろう「何か」を見に行こうじゃないか。
そう思い動き出した俺にイヴちゃんは不満げに口を開く。
「お兄さんずるいよね。そのSmartPhone?って奴でシャシャっと何かしたらすぐ答えわかってたもん。……もしかして答え見たの?」
「いやいや……。さすがにここは電波が届いてないからインターネットには繋がらないよ。俺が使ってたのはメモ機能だよ。ほら。」
そう言って俺はイヴちゃんに携帯の電源を入れて画面を見せる。わかりやすいメモの取り方というわけではないから少しごちゃごちゃしているかもしれないが、手書きよりはスッキリしているからまぁ気にしなくても大丈夫だろう。それに……
「それに狡いのは大人の特権だよ。」
「え〜!そんなのずる〜い!」
「はっはっは。そう褒めるな褒めるな。」
「ほめてないもん!」
そんな冗談を交えながら奥の部屋へと再び入る。そして石像の正面に立つと俺はメモしたものを確認する。東に4歩北に2歩とあるがどちらが北か。もし今向いている正面が北とするならば、東は右側だろう。今までのギミックもそんなに頭のひねったものはなかったしきっとここもそれくらい単純で大丈夫な筈。
「イヴちゃんはこの石像の前で待ってて。俺がちょっとタイル開けてくるから。」
「え ?わたしもいっしょに行くよ?」
「うーん。もしこれが間違ってたら何かしらの罰があるかもしれないからここで待ってて欲しいな。それにそんなに離れてる距離じゃないしさ。」
「うん……分かった。」
「ありがとう。じゃあちょっと行ってくる。」
そう言って俺は石像から右へ4つ目、そこから上へ2つ目のタイルへと移動をする。もしこれが正解なら何かがあるはず。そんな期待と、もしかしたら黒い手みたいな薔薇を散らしてしまうようなものが来るかもしれないという緊張感の両方を保持しながらタイルへと指を伸ばす。
タイルの下には黄色い文字で4と書かれており、他には何も出ては来なかった。それにホッとした次の瞬間、隣の部屋が急に騒がしくなった。何かを切り裂くような音とそれと同時にガラスの割れる音が俺たちのいる部屋にまで届いてくる。
一体何が起きた。そう思わざるを得ないこの状況で俺はどれくらい呆けていたのだろうか。ハッと我に返るとイヴちゃんの元へと駆け寄る。
「イヴちゃん!大丈夫?怪我とかはない?」
「うん……。わたしはなんともないよ。でも……前の部屋からスゴい音が……。」
「うん、そうだね。じゃあちょっと戻ってみよっか。なにかギミックが動いた音なのかもしれないし。」
俺はそう言うと扉の方へと歩みを進める。何か嫌な予感がしてたまらないがそんな予感をぐっと押し込んで扉の前に着く。そしてドアノブに手をかけると1回ゆっくりと深呼吸をしてイヴちゃんへと声を掛ける。
「じゃあ開けるよ……。心の準備をしておいてね……。」
「うん……。こっちは大丈夫だよ……。」
「オッケー……じゃあ行こうか……!」
そう言って扉を開け放つと目の前には通路へと戻る扉以外何も無い。それではこちら側の壁だろうか?それとも両奥の壁か?
そんなことを思いながら振り向くとそこにはまるで血のように紅いペンキをその体や額縁に滴らせているナイフを持った5枚の絵画とズタズタに引き裂かれて元はどんな絵だったのかすらわからなくなってしまった1枚の絵画があった。
「……っ!これはキツイな……。イヴちゃん。これは見ない方がいい。」
「え?何……が……きゃぁぁぁあああああああ!!!!」
「イヴちゃん!!」
彼女は叫び声を上げたかと思うとその場に蹲ってしまった。慌てて傍に駆け寄ると身体をがたがたと震わせながら何かをボソボソと呟いている。ゆっくりと優しく、落ち着かせるように背中を摩ってあげながらイヴちゃんが何を言っているのか耳を澄ませてみると、どうやら「ごめんなさい。ごめんなさい。」とずっと何かに向けて謝っているようだ。しかし今回の事はまさに予測できなかった事態だった。まさかこんな惨たらしい行為がすぐ近くで行われるなんて誰も思うわけが無い訳で。
あれからどれくらい経ったのだろうか。まだ会話は出来そうにないが、漸くイヴちゃんの容態は安定してきて動けるくらいには回復してきていると思える。しかしいつまでもこんな部屋にいてはまたいつさっきのような状態になるかわかったものでは無いので、早急にこの部屋を出てしまうのがいいだろう。これから向かうのは……取り敢えずさっきのノートの前辺りならマシだろう。
「イヴちゃん。動けそう?」
「……。」
彼女はゆっくりと縦に頷く。その顔に先程の謎解きをしている時のような覇気は感じられなくなっている。正直こんな状態の女の子を無理やり歩かせるようなことはしたくないのだが、だからといっておんぶや抱っこをする訳にも行かないだろう。そう思った俺は蹲っているイヴちゃんに手を貸してゆっくりと立ち上がらせる。その際、俺は憔悴しているイヴちゃんを見ていられなくなり、彼女が俯いているせいもあって目を合わせることが出来なかった。
「それじゃあこの部屋を出よっか。ノートのあるところまで戻ろう。」
「……。」
立ち上がった彼女に俺はそう声をかけるも返事は来ない。今まだ心の中では自分を責め続けているのかもしれないが、慰めるにしてもここでは多少でも回復するとは思えない。そんな訳で俺達は一旦元来た道へ戻るのであった。
イヴちゃんを虐めたいわけじゃないんです……。ただこういう現場を見たら誰でもこうなると思うんです……。ユルシテ……ユルシテ……。