では、どうぞ。
あの後本棚を2つほど確認したが鍵の在処やこの美術館の謎は疎か、『世界の美術館』の別の号すら見つからないままに俺達のヒント捜索はいよいよ最後のブロックへと突入する。
正直この状況は非常に良くない。主に俺の精神的に。もしこれでここにも鍵かヒントに準ずるものが1つも見当たらなかった場合、この部屋の本を全て片っ端から見るか今まで来た道をUターンする羽目になる。ここまで進めたということはここからも進める事なのだと思うのだが、如何せん最後の1つにかけるということは出来る限りしたくない。
最後のブロックとはいえあと4つ本棚はある事だしさっさと見つかってくれれば御の字なのだがそんなに上手くいくのかどうか。まぁ成るようになるだろう。
「イヴちゃん。ばっと全部の棚を見てみてなにか気になるものある?まずはそれを確認してみようか。」
「え、いいの!?わたし頑張るね!」
「イヴちゃんがやってくれると俺も助かるよ。少しでも気になるものがあったら教えてね。」
「うん!まかせて!」
イヴちゃんのなんとも頼りになる返事を聞きながら俺もぼんやりと本棚を眺める。本を見ると言うより本棚の輪郭をぼーっと視界に収めながらイヴちゃんが一生懸命本を探している様子を見ておく。イヴちゃんのことだから大丈夫だとは思うがあまり本を傷つけるようなことがないようにしなければ。
「お兄さん!見つけたよー! 」
「ん?何見つけたの?」
「絵本!なんかこの本だけ表紙が赤かったからこれかなって!」
そう言って彼女が手渡してきたのは真っ赤な表紙の1冊の絵本。しかもただ赤いだけじゃなくまるで演劇の舞台などでよく見るような
「『うっかりさんとガレット・デ・ロワ』?動く絵本ねぇ……何も起きなければいいけど。作者は……これなんて読むんだ?“xxxx”?うーん……読めない。まぁ絵本だし害はなさそう……かな?」
「お兄さんさっそく読んでみようよ!」
「そうだね。さっそく読んでみようか。」
そう言って絵本を開く。その瞬間に俺の目の前が本棚から謎のクレヨンで書いたような舞台の前へと変貌する。何が起きたのか分からないうちにドラムロールが鳴り響き目の前の緞帳のようなものに文字が浮び上がる。
“うっかりさんとガレット・デ・ロワ”
そう浮かび上がったと思ったらすぐに消え、緞帳の幕が開く。そこには4人の人が描かれているが男か女かは判別できない。
「お誕生日 おめでとう!」
「ありがとう!」
「今日は あなたのために」
「ガレット・デ・ロワを 作ったの!」
「なにそれ?」
「このパイの中に コインが入っていて…」
「食べたパイの中に コインがあったら…」
「その人は幸せに なれるのよ!」
「おもしろそう!」
「でしょ?」
「じゃあ 切り分けるよー」
……俺は一体何を見せられているんだ。喋っているのは手前の2人だけだし背景は真っ黒。更には絵が本当に子供が描きましたってクオリティなもんだから全く面白みを感じない。というか切ってる時は幕を閉じるんだな。
……なんか結末がわかった気がする。そう思った途端に嫌な予感が増してきた。……とりあえず続きを見よう。
「さぁ 好きなの選んで!」
「いただきまーす!!」
そういうと再び幕を閉じる。やはり子供が書いたものなのだろうか腕も動かなければこういう細かい描写も動いたりしない。躍動感がないのだ。まぁ可愛らしい作品だ……ここまでは。
「もぐもぐ…」
「あっ…!」
「どうしたの?」
「なにか 固いもの…」
「飲み込んじゃった!」
「あはは うっかりさーん!」
「きっとコインだ!」
「どうしよう…」
「コイン小さいから 大丈夫よ」
「じゃあ 片づけてくるね!」
……きっと彼女が飲み込んだものはコインでは無いのだろう。だがそれをどう取り出すか。なんか見てはいけないものを見ているようで精神が参ってくる。一体なんだってんだこの作品は何を伝えたいのかてんで分からない。
そう思ってるとまた幕が開かれる。どうやら次は別の場所らしい赤い扉の前に母親らしき人物が立っている。……赤い扉?あっ……。
「ママ どうしたの?」
「書斎のカギを 知らない?」
「しょさいのカギ?」
「それならいつも そこのテーブルに…」
「……あれ?」
「コインだ……」
「このコイン たしか…」
「パイの中に 入れたハズなのに…」
「もしかして……」
「どこ行ったのかしら…」
「お父さんに 怒られちゃうわ」
「どうしよう……」
そういうとケーキを切り分けたナイフが地面に落ちた。……ここから先は見たくない。しかし身を瞑った所でこの映像は何故か見えなくなることは無い。一体なんなんだこの世界は。そう思ってるうちにもう何度目か分からないがまた幕が開かれる。
「わたしってば うっかりしてたわ」
幕が閉じられると同時になにかがきられるときによく使われているようなザシュッという効果音が鳴る。俺の思考回路はもう「ですよね〜」という言葉しか思い浮かばなかった。なんというか……お誕生日の子不憫過ぎないか?こんな救いのないストーリーはあまり好ましくないんだが……。
「カギ みつけたよ!」
「今ドア 開けるね!」
閉じた幕から顔を出した彼女はそう言い放つと目の前が先程の本棚の前へと戻りどこからか何かの音がした……。きっと鍵の開いた音なのだろう。しかしここを進む前に1つしなければならない事がある。
「イヴちゃん。もし今のを見てたのならああなったのはイヴちゃんのせいでは無いからね。あれは作者がそうあるべしと書いたものなんだ。気に病む事じゃない。」
「うん……。ありがとう……。」
「……すぐに行く?それとも少しだけ休んでから行く?俺はどっちでもいいよ。」
「すぐに行こ。なんかここに止まってたらさっきの思い出しちゃいそう。」
「わかった。じゃあ進もうか。」
俺たちはそう言うと空気の重いまま先程は鍵のかかっていた扉を開ける。次の部屋は一体何が待っているのだろうか。
今回も遅れてしまい大変申し訳ございません。これからも精進して参ります。
今回の「うっかりさんとガレット・デ・ロワ」が気になった方はぜひご自分でプレイしていただくかYouTubeなどに動画が上がってますのでそちらをご覧下さい。
因みに絵本の会話は本文ママです。