では、どうぞ。
〜無個性と初めての追いかけっこ前〜
ただの彫像のはずなのに今にも動き出しそうな雰囲気を醸し出している。宛ら俺たちに注意喚起を促しているようだ。しかし、今のところなんの害も及ぼしていないこの彫像をずっと気にし続けるのもなかなか難しいものがある。そう思った俺はおもむろにその彫像の右手を触ってみる。が特に何も起きずがっちりと握手を交わしてしまった。
「うーん……。この彫像は俺たちを襲ってこないのか?」
「お兄さんさっきからどうしたの?急に決意表明したりこのマネキンさんの手を握ったり。何かおかしいよ?」
「あーうん。色々と気になることがあってね。」
「ふーん。」
ふーんで終わっちゃうんだ……。そう思いながら俺は無個性の手をじっと見つめる。手のシワもしっかりと入っていてなかなか人の手を再現しているように思える。
それに元々美術展として生まれてきているおかげか指先まで美が凝縮されている……様な感じがする。あまり美術に明るくない俺でもすごい作品だって思える1点だった。
「……お兄さんいつまで手を握ってるの?そのお人形さんの事好きなの?」
「うーん……なんと言うかすごく綺麗だなって思ってさ。頭のてっぺんから足の先まで寸分の狂いなく計算され尽くした美がここに表れてる気がしてね。つい魅入っちゃった。」
「ふーん?……良かったねお人形さん!お兄さんすごくきれいだって言ってくれてるよ!」
「えっ……?」
イヴちゃんが何故か無個性に対してそう言っているのに違和感を覚えてもう一度無個性の方に向き直る。すると、
照れたように体をクネクネとよじらせた無個性がありもしない頬を抑えているではないか。
なんとも言えない光景を目にしてしまった俺はもう何も考えたくないと視線を空に漂わせ現実逃避をするが、そんなことはお構い無しに無個性は俺の腕に抱きついて甘えてくる。
すっかり襲われるなんて考えもどこかに行ってしまい、もう成るようになれと俺は匙を投げる。
「お兄さんお似合いだよ!美男美女のカップルだね!」
「イヴちゃん……変な事言わなくてもいいよ……。もう何が何だかさっぱりわかんないよ……。」
俺が頭を抱える中、イヴちゃんと無個性はとても上機嫌な雰囲気を漂わせていた……。
〜嘘つきたちの部屋にて〜
嘘つきたちの飾ってあった部屋へと続く扉を開け放つと目の前には通路へと戻る扉以外何も無い。それではこちら側の壁だろうか?それとも両奥の壁か?
そんなことを思いながら振り向くとそこにはまるで血のように紅いペンキをその体や額縁に滴らせているナイフを持った5枚の絵画とズタズタに引き裂かれて元はどんな絵だったのかすらわからなくなってしまった1枚の絵画があった。
「……やだ。やだ!や〜だ〜!!い゛や゛な゛の゛〜!!!」
「っ!?大丈夫イヴちゃん!きっとあの人も無事だから!」
「み゛ん゛な゛な゛か゛よ゛く゛な゛い゛と゛い゛や゛な゛の゛〜!!!!」
そう言いながらイヴちゃんは大粒の涙を流す。そんな姿を見た俺は八つ当たりになるのかもしれないが、イヴちゃんをあやしながら6枚の絵画に対して睨みつけてしまった。
あまり態度の宜しくない事は重々承知しているのだが、少々面倒臭い対応を迫られている以上これくらいは許して欲しい。そんな気持ちを知ってか知らずかなんだか絵画達も少しだけ慌てているような空気を見せ始める。
そんな空気になったのもつかの間、何やら嘘つきたちが動きを見せる。少しずつ赤いインクが消えていき、茶色の服を着た女性の切られた痕も修復されていく。そして彼女達の上部に大きな文字で“ドッキリ大成功”と浮かび上がっていく。
……確かに俺もあまり態度が宜しくないとは自覚していたがまさかここまで対応してくれるとか神店員かよ。そんなことを思いながらイヴちゃんをもう一度彼女達の方へと顔を向けさせる。
「イヴちゃん見てみ?何とかなったみたいだよ?」
「えっ……?……もぉー!そういう悪ふざけはダメなんだよー!」
「まぁまぁ。きっと彼女達もそうしてくれって誰かから言われたのかもしれないし許してあげて。」
「むぅ……。今回はいいけど次からはやっちゃダメだからね!絶対だよ!」
プンスコと怒りながら絵画達を叱りつけているイヴちゃんを見ていると先程まで泣いていたとは思えなくて、そんなコロコロと感情が変わるのって子供っぽいなぁなんて思いながら微笑ましくその光景を少しだけ後ろから眺めていた。
〜赤い服の女が追いかけてくる直前〜
「うぉあ!?急に襲ってくるのは禁止でしょ!イヴちゃーん!今から大回りしながら入口の方へ行くからその内にここら辺見といてー!返事しなくていいよ!」
それだけ矢継ぎ早に言うと俺は付かず離れずの速さで心の音の方へ歩き始める。……薔薇を持ってなくても追いかけてくることが立証されてしまったことに少しだけ面倒くささを覚えつつ後ろから追いかけてくるあいつの方をちらりと見遣る。どうやらしっかりと俺に着いてきているようだ。
心の音の辺りまで来た俺は再び大声でイヴちゃんに現在の状況を取り敢えず伝えようとしたその時、ふと赤い服の女の後ろで何かが動いたような気がして視線を少しだけ上げると何やら足音を消してこちらに向かってくるイヴちゃんが。
え?この子何してるの?そんな事を思っているとゆっくりと着実にこちらへと近づいてくる。
「えい!」
「……イヴちゃん何してんの?俺ビックリしてんだけど?」
「え?だってこの人なんか後ろに倒したら動けなくなりそうだったもん。」
そう。イヴちゃんは後ろから額縁を引いて倒したのだ。それのせいで赤い服の女はいま床から胴体が生えているような感
じになってしまっている。急にそんな状態になって今まで呆然としていた赤い服の女も流石に今の状況をわかり始めたのかその場でもがき始める。が、しかし残念ながら上半身しかない為いくらもがいた所で傾く事はあれど先程のような体勢に戻る事は早々に出来るはずもなく。意図せずになんともシュールな絵面になっている。
「でもこれで安全に探索できるね!行こっ!お兄さん!」
「……俺が“うわようじょつよい”って奴なのかな……。」
そんなことをつい呟いてしまいながら俺はイヴちゃんの後をゆっくりと追っていく。
隙自語なんですが、最近休みがないので書く時間が取れてません。お休みもなかなかに取れないのでこれからも少々遅れる可能性がありますのでご了承ください。