気を楽にして見ていってください。
では、どうぞ。
どうやらイヴちゃんは英語圏の人らしい。想像通りだが、だったらなぜ日本語で会話できるのだろう。たとえ親族に日本人がいたとしても日本語がききとれることは出来るだろうけど、こんな流暢に話すことはとてつもなく難しいはずだ。
もしかして片親どちらかが日本人なのか?それともこの訳の分からない空間が自動翻訳をしているのだろうか?まぁどちらにせよ会話が成り立つことに感謝をしよう。
なんて思いながら俺はファーストネームとファミリーネームを入れ替えて自己紹介し直した。……名前変じゃないよな?
「なんでお兄さんは美術館に来たの?」
「うーん。なんでだろうな。普段は美術に興味を持たなかったし。案外ゲルテナさんに呼ばれてるのを俺の第六感が感じたのかも。」
そんなことは無いだろうけれど場を和ませるために態と誇張して伝える。すると彼女のお気に召したらしくニコニコと笑顔を見せている。
こんなところに意図せず1人で放り出されたもんだから、心が壊れても何らおかしくはないはずなのに未だ壊れずに形を保ってる。年齢に見合わないすごい精神力だ。たとえそれが綱渡り状態だったとしても。
「イヴちゃんって今年幾つ?」
何の気なしに俺はちょっとした疑問を投げかける。少しでも話が途切れると俺が気まずくなるからだ。
でもこの話は少し踏み込みすぎたかもしれない。女の人はたとえ若くても年齢の事を聞かれるのは嫌がると聞いたことがある。小学生くらいの子にそれは杞憂が過ぎるかも知れないが、危ない橋はいくら叩いたところで渡りたくはない。
だがこちらの葛藤に全く気づいていないようで、イヴちゃんは口を開く。
「えっとね。9才!3年生になったの!」
「そっか9歳か。学校が楽しい時期だね。授業も少し難しくなってきて面白いでしょ。」
「うん!この間はね!かけ算したんだよ!」
「おっ。じゃあ九九は全部言えるかな?」
「うん言えるよ!1×1=1、1×2=2……」
どうやらイヴちゃんは楽しく学校へ通っているみたいだ。こういう話をしていると、なんだか親になった気分になる。子供を持つってどんな感じなのだろう。こんな状況で考えることでもないがふと考えてしまう。
きっとイヴちゃんくらいまで大きくなると今までの苦労分凄く可愛いんだろうなぁとか。もしかしたら小生意気な子供になっていつまでも苦労するのかなぁとか。
そんなことを考えているとイヴちゃんがムスッとした顔でこちらを覗いている。
「ん?どうしたの?」
「む〜!九九全部言えたのに聞いてなかった!」
「あー。ごめんね。親のことをいろいろかんがえちゃって。」
なんて正直に濁しながら言うと、イヴちゃんは頭にハテナを浮かべながら俺を見つめてくる。
「それってお兄さんのパパとママのこと?」
「俺の両親と言うよりは俺が子供を持ったらって感じかな。子供がイヴちゃんくらいになった時に自慢できるお父さんになれるかなって。それとも子供に何一つやってあげられないお父さんになるのかな……。ってイヴちゃんには難しかったかな?」
「もー!わたしそんな子どもじゃないもん!」
そう言いながら頬をプクっと膨らませる。そんな姿が愛らしくて、ついほっぺを指でつんつんとつついてしまう。それを続けていると、堪忍袋の緒が切れたのかもう知らないと言わんばかりにそっぽをむく。
「ほんとにゴメンね。イヴちゃんが可愛くって。妹がいたらこんな感じだったのかな。」
「わたしはお兄さんの妹じゃないもん。でも可愛いって言ってくれたから許してあげる。」
「ははぁ!有り難き幸せぇ!」
「お兄さん何それぇ!あははは!」
俺は正直に話したことを少しだけ後悔しつつ話を誤魔化す。どうせ誰にも分からない問題だ。少なくとも9歳の女の子に話す内容では決してない。俺はなにも見えていないのか。自分自身を叱責する。付け上がらないように。現実を見据えるために。だいたい俺なんて────
「お兄さんはきっと。」
「えっ」
「お兄さんはきっといいお父さんになるよ。」
「────。」
この子は何を言っているのだろうか。いいお父さんになる?俺が?まさか。そんなわけが無い。だって俺なんてズボラで生意気で人に楯突くことだけは1人前で……
「ここまでいっしょに歩いてきたわたしが言うんだもん!まちがいないよ!」
「────そっかぁ。そうだといいなぁ。」
「きっとそうだよ!」
この時俺は、初めてイヴちゃんに心を開いた。そんな気がした。
少しイヴちゃん幼くさせすぎましたかね?
うちのイヴちゃんはおそらくこんな感じで進んでいきます。
はぁ……イヴちゃん可愛い……。