東京工業大学 水曜日 九日目
悠人「………」
美咲「悠人どうしたよ?
朝からずっと辛気くさい顔してるけど何かあったのか?
講義中もずっと上の空でぼうっとしてたけどよ。」
悠人「………いや………別に………。」
美咲「………何があったか知らんが話せることなら話してみろよ。
何か力になれるかもしれねぇぜ?」
悠人「………」
美咲「………そうか………まぁ人に話せるようなことじゃないってんなら無理に聞き出したりはしねぇよ。
なんか調子悪そうだし今日は早めに帰って休んだ方がいいんじゃないか?
講義も集中できてないみたいだしよ。
ノートなら俺が取っとくから今日のところは早退しな。」
悠人「………あぁ、
悪いな。」
美咲「気にすんなよ。
俺とお前の仲なんだしよ。」
悠人「サンキュー美咲………。
今日は………もう上がることにするわ………。
それじゃあな。」
昨晩のレイナとの会話が頭から離れず悠人は午前中の講義を二回とも椅子に座ってどこか遠くを見ていた。悠人の様子を見かねた美咲が昼休みに入ってから学食に誘ってきたがそれでも悠人はレイナのことばかり考えていた。
悠人「(………俺自身今のこのヴェノムが定期的に発症する体質をなんとかしたいと思ってる………。
レイナが精霊ウンディーネと同化しない限りは俺はずっとこの体質と付き合い続けなくちゃいけない………。
………けどもしレイナがウンディーネと同化しきったらレイナは俺の中のヴェノムをウンディーネの力で完全に………。
そうなったら俺とレイナが一緒にいる理由が無くなってレイナは俺の前からいなくなる………。
………俺は………一体あとどのくらいレイナと一緒にいられるんだろうか………。)」
レイナと出逢ってからまだそう日は経過していないが悠人は彼女がいる生活にどこかしら居心地の良さを感じ始めていた。
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悠人宅
悠人「え………?
レイナ「えぇ、
まだ当分は先のことよ。
私がウンディーネと同化するのはね。」
あれから家へと帰った悠人はレイナに昨日のことを訊いてみた。するとレイナはウンディーネが体に定着するのはもっと先のことだという。
レイナ「私があの研究所で大人しくしていたのはウンディーネが定着するのを待っていたからなの。
昨日の話はそんな直ぐの話じゃないわ。
まだ暫くはここに住まわせてもらうわよ。」
悠人「………そっ、そうか………。
なんだ………そうか………。」
レイナ「何よ?
もしかしてそれを確認するために今日は早く帰ってきたの?
生憎だけど昨日言質は取ったから私はこの家から出ていく気はないわよ。
貴方にはまだまだこれから私の世話を焼いてもらうつもりだからね。」
悠人「………しょうがねぇなぁ。
沢山世話を焼いてやるっつーの。」
レイナが出ていくのが当分先のことだって知り悠人は安堵する。レイナの世話をするのは大変だがそれでも一人で家で住むよりかは誰かが家にいる安心感の方が気持ち的には強かった。
『次のニュースを御知らせします。』
悠人・レイナ「「!」」
レイナのウンディーネのことを聞いて安心していたらテレビからニュースの放送が流れる音声が耳に入ってきた。その放送の内容は………、
『本日の日本時間午前十時頃アメリカニューヨークに本社を置く“フェザード社”が打ち上げた惑星探査機“セライオス”が火星の様子の撮影に成功しました。
フェザード社が惑星探査機を宇宙に打ち上げたのはこれで三度目で前回月面の撮影に成功した“ビクティア”に続き今後も随時惑星探査機を送る予定とのことです。
フェザード社の火星探査チームの調査によると火星にはかつて生命がいたのではないかと撮影されたセライオスの映像から先住民の生活していた痕跡が見つかり詳しくはこれから調査を進めていく方針だそうです。
アメリカ政府も今後ともフェザード社に協力していく考えで各国から多くの指示を得てフェザード社には益々期待の………。』
テレビではアメリカの大企業のニュースが取り上げられていた。
フェザード社。
世界的にも技術の最先端を牛耳る企業で生活用品から交通、食品、医療、科学、その他諸々とあらゆる分野に進出しておりそのどれもが世界でトップの業績を収める会社である。一部では大国にも劣らぬ権力を持つと噂され世界各地に支部を設けている。
………そしてフェザード社にはもう一つ別に事実に基づいた噂も囁かれる。
レイナ「………悠人。
フェザード社は今どのくらいの力があるの?」
悠人「………そうだな………。
俺が知るところだと………、
フェザード社があるからこそ
フェザード社が創立したのは第二次世界対戦直後。フェザード社は瞬く間に世界中にその名を轟かせ各国に支部を設立していった。フェザード社が進出した国は全ての市場でフェザード社が圧倒しフェザード社一強の独占市場となってからはフェザード社が物流から情報までを掌握し次第に世界はフェザード社を中心に回るようになった。
悠人「フェザード社は世界中の政界にも口が利く方でな。
フェザード社の支部がある国々はフェザード社によって治安が守られてるとさえ言われてる。
その関係でフェザード社がある国同士はパスポート無しでも旅行出来るんだ。
もし外国人犯罪者とかが出たとしてもフェザード社にその犯罪者の追跡を依頼すればどうやってかは知らんが直ぐにそいつの居所を掴んでくれる。
検挙率九十九.九パーセント越えのその手腕で大戦前までの各国の犯罪計数が格段に引き下げられるくらいだ。
世界がフェザード社に向ける信頼度は
とても個人でなんて相手にならないほどフェザード社の規模は層が厚いぜ。」
レイナ「………そう。」
世界中を隈無く探したとしてもフェザード社ほど知名度と業績のある企業は存在しない。他の追随が追い縋ることすら不可能と諦めるほどフェザード社は力と勢いのある企業だ。
レイナは
悠人がレイナとはじめに出逢った研究所強いては保泉市のある島をまるごと所有しているのがフェザード社である。あの研究施設はフェザード社が建てたものでフェザード社が各国で土地を買い取ってそこに支部を建設することは多々あることである。故に保泉市と保泉市の住人達を怪物へと変えたのはフェザード社といえる。もし悠人が保泉市と全く無関係であったらフェザード社の闇に触れることは無かっただろう。………がフェザード社の闇を垣間見たところでフェザード社に立ち向かおうという気概は全く湧いてこない。
悠人「(フェザード社が裏であんな生物達を量産していたのには驚いたがだからといって奴等のあれを世間に公表しようとしたところでどっかでフェザード社に妨害されて失敗するのが落ちだ。
もうこれ以上フェザード社の件に首を突っ込むのは危険過ぎる。
下手すれば俺がフェザード社の奴等に消されて何も無かったことにされるだけだろう。
何も出来ないのなら何もしないままでいい。
俺が関わったって何の役にも立たない。
レイナの邪魔になるだけだ。)」
悠人はレイナを心配するが悠人に出来るのはそれだけだ。レイナと一緒にフェザード社と事を構える勇気は悠人には無かった。
レイナ「フェザード社………。
………待ってなさいよ………。
必ず私が父の代わりに貴方達を潰しに行くからね………。」
悠人「………」
悠人はレイナがしようとしていることを止めたかった。しかし悠人にはレイナの強い意思を止められるような言葉を見付けることは出来なかった………。