東京工業大学 月曜日 昼休み 十四日目
美咲「お?
今週もちゃんと来たみたいだな。
先々週はいきなり一週間まるまる来なくなったから今週もそうなんじゃないかって心配してたぜ。」
悠人「言っただろ。
先々週は法事で休みだったんだよ。
これからは特にそんな予定ないから安心しろ。」
美咲「ハハ!
それもそうだな。
会長のせいで出席数がヤバイからもう休めねぇもんな。
そんじゃ俺が一々悠人がいるかどうか確認しなくてもよさそうだな。」
悠人「何でおまえが俺の出席状況を心配してんだよ。
この間は見捨てたくせに。」
美咲「もういいじゃねぇかこの間のことはよ。
昼飯奢ってやってんだろ?
まだ単位落としてもいないってのに。」
悠人「これぐらい当然の罰だろうが。」
大学に来て一限、二限と講義を受け今悠人と美咲は食道で食事を注文し昼食を取っていた。普段は家で料理をするため弁当を持参してくる悠人だったが先週の件で美咲に食事を奢らせるために今日は弁当は作ってはこなかった。
美咲「どうだ?
たまには食道の飯食うのもいいだろ?」
悠人「…人が多すぎてうんざりする。
人が多いのは講義の時間だけで十分だ。」
美咲「お前友達
どうしてそんなにお前孤立したがるんだよ?
孤高気取ってるつもりか?
端から見たらただの根暗なボッチだぜ?」
悠人「いいんだよ。
どうせ友達なんかいても大学期間が終わったら結局疎遠になる。
中学、高校もそうだったんだ。
就職なんかしたらそれこそもう会うことも無いだろ。
そんな関係ならわざわざ自分から作りに行きたくなんかない。」
美咲「冷めてんなぁ………。
達観し過ぎだろ。
大学だってまだ後三年はあるんだぜ?
お前中高もそう言って六年間俺以外にまともに話す奴がいなかったじゃねぇか。
お前話は普通に出来るんだからもう少し社会性をつけねぇとこの先「鈴木ィッ?」」
美咲とテーブルの席で食事をしていると悠人達に声をかけてくる人物が現れる。
悠人「佐藤………。」
佐藤「よぉ?
鈴木に保斗橋。
久し振りだなぁ。
鈴木に至っては退学してなかったんだな?
先々週見掛けなかったから大学辞めたもんだと思ってたぜ。」
悠人「俺が大学を辞めようが辞めまいがお前には関係ないだろ………。」
悠人達二人に話し掛けてきたのは
佐藤「だって気になるじゃねぇか?
同じ高校から上がってきた同期がどうなってるかよぉ。
相変わらずお前達湿気た面してんなぁ。
たった二人で広く座れるテーブル席陣取るとかセコくねぇか?
二人だけしかいないんならどっかベンチにでも行けよ。
俺達五人もいるからテーブル席に座りたいんだよ。」
佐藤の後ろには佐藤に似た服装の柄の悪そうな男女が立っている。高校の頃から彼はこうしたグループをよく作っていた。彼等は所謂不良というやつで校内でも彼等の良くない噂はよく耳に入ってくる。
美咲「ようするに俺達にどけって言いたいんだろ?
よく周り見渡してみろよ。
他にもテーブル席空いてるのがいくつかあるじゃねぇか。
そっちに行ったらどうだ?」
佐藤「何で俺達がお前らに配慮してわざわざ向こうの席まで行かなくちゃいけねぇんだ?
お前達がどけばいいだけだろ。
そこは俺達の特等席なんだよ。」
美咲「はぁ?
この前は向こうの席が特等席とか言ってただろお前ら。
どうせお前ただ俺達に難癖つけに来ただけだろ。」
佐藤は何かとこのように悠人達に絡んでくる。元々佐藤は高校の時に気の弱そうな学生に恐喝して金をむしり取っていた悪だ。佐藤のせいで不登校になったりそのまま高校を中退した者もいるぐらいだ。
そして悠人もある時佐藤に目を付けられて呼び出されたことがある。
悠人「………行こうぜ美咲。」
ガタッ!
悠人は食器のトレーを持って席を立ち上がる。そしてそれを持って返却コーナーへと歩みだそうとする。
………そこへ、
佐藤「おっと!」
悠人「…!」
ガシャンッ!!
佐藤がわざと悠人にぶつかり悠人は食器を床に落としてしまう。
美咲「悠人!
………佐藤お前ェッ!」
佐藤「おいおい、
何キレてんだよ?
こんだけ人が混雑してるところ誰かとじゃぶつかったりすることなんてよくあることじゃねぇか。
ちゃんと前を見てなかったそいつが悪いんだろ。
その散らかしたもんさっさと片付けろよ。」
そう言って佐藤達は食事を取り始める。取り巻き達はにやにやと食器を拾う悠人を見ていた。悠人は雑巾を持ってきて床を拭きだす。
美咲「悠人………。」
悠人「悪い美咲…………。
先に行っててくれ。
俺はこれを片づけて追い付くから。」
美咲「……いや、
俺も手伝うよ。」
悠人「………すまん。」
佐藤「プッハハハハハ!
それでよぉ!
この間高校の時の奴に会ってよぉ?
そいつから………。」
佐藤達は悠人達の嫌がらせに成功した後はすっかり興味を無くしたかのように自分達の話で盛り上がる。佐藤達が食道に現れたことで他の学生達も立ち去っていく。大学生ともなると佐藤達のような連中と関わり合いになること事態を避けたいのか誰も汚れた床を拭く悠人を手伝おうとしはしない。
パシャ!
床を拭く悠人に冷たい水がかかる。
「あっ、悪ぃ。
それも拭いといて。」
悠人「………」
悠人は無言で佐藤の連れが溢した水を拭く。服にも少しかかったが悠人は文句を言わずに床を拭き続ける。
悠人は高校時代佐藤に恐喝を受けたが金は出さなかった。代わりに佐藤から度重なる暴力を受けてはいるが悠人は佐藤に抵抗したりはしない。もし抵抗の意思を見せたりなどすれば佐藤は悠人だけでなく美咲にまで暴力を奮う可能性がある。悠人にとっては唯一の友人である美咲を傷付けられるのは何よりも耐え難かった。美咲からは成人していることもあり警察に相談すべきだとアドバイスはされたが悠人は警察どころか教諭にすら相談しなかった。
佐藤の父親はフェザード社に勤務していた。佐藤とのことを大事にすれば必ず父親が間に割って入ってくる。保泉市の件で悠人はフェザード社に不信感を抱いていたので彼はフェザード社の関係者と接触することだけはなんとしても避けたかった。故に悠人は叔父にも警察にも誰にも頼れず佐藤の横暴に耐え忍ぶしかなかった………。
………という