悠人宅 土曜日 十九日目
レイナ「………直りそうなの?」
悠人「少し時間はかかるがこれくらいならどうにかなりそうだな。
うん、
心配するな。
直ぐに直してやるよ。」
悠人は真っ青な色の背景に英文が画面いっぱいに書かれたPCを操作しながらそういう。三日前の悠人が大学でヴェノムを発症した日の朝レイナにPCの起動の仕方を教えたのだが電源をオフにするやり方は教えてなかったためレイナは誤ってPCの電源をコンセントプラグを引き抜いて切ってしまったようだ。そのせいでPCのデータが破損してしまってそこから画面が動かなくなっていた。土曜日の休日で悠人が家にいたのでレイナがPCを起動してレイナではどうしようも出来ない状態の画面が開きレイナは悠人を頼ってきた。
悠人「電源の切り方が分からなかったなら別に放っておいてもスリープモードに切り替わるから付けっぱなしでも良かったんだぞ?
PC付けててもそこまで電気代がかかるわけじゃないし。」
レイナ「あの日は仕方なかったのよ。
電源を切らなきゃいけなかったの。
悠人が突然帰ってきたりなんかするから………。」
悠人「俺が突然帰ってきたりする?
なんか俺が帰ってきたらまずいサイトでも開いてたのか?」
レイナ「そういうわけじゃないけど………。」
悠人「あれから文字打ちは出来るようになったのか?
まだ分からないって言うならこれから教えてもいいけど?」
レイナ「大丈夫よ。
文字を打つだけならもうマスターしたから。
あとは電源の切り方だけ教えてもらえばいいわ。」
悠人「もう出来るようになったのか?
お前覚えるの早いな………。」
レイナ「このくらい一時間もあれば直ぐに覚えられたわ。
それよりも早くその機会の調子を直してちょうだい。」
悠人「ハイハイ。
………っと直ったぞ。
これでもう問題なく使える筈だ。」
レイナ「そう………良かった。
じゃあ代わってちょうだい。
この間の続きを見なくちゃいけないから。」
悠人「フェザード社の情報か?
だったら履歴からお前が調べてたページを読み込むことが出来るぞ?」
レイナ「履歴………?
履歴って何かしら?」
悠人「履歴は履歴だよ。
PCはこういう時とかのためにユーザーが見ていたページのアドレスを保存しておく機能があるんだよ。
ここをクリックすれば………………ほらな。」
悠人はまだPCを使い慣れないレイナのために
レイナ「!!!?」
悠人「あったぞ。
これがお前が見て………………んん?」
『ニャア………。』
PCの画面には何匹かの猫が戯れる動画が映されていた。
悠人「………これは………。」
レイナ「………」
悠人「………お前この前の日ずっとこれを見てたのか?」
レイナ「見てないわ。
偶然フェザード社について調べてたら勝手にこの猫達のテレビが流れ出しただけよ。」
悠人「最初の方は確かにフェザード社のサイトを調べてたみたいだけど途中からなんか動物関係のサイトばかりになってるんだけど………。」
レイナ「私じゃないわ。
貴方がこのPCを使って見てたんじゃないの?」
悠人「俺あの日ぶっ倒れて帰ってきただろうが。
帰ってきてからずっと寝てた俺がどうやって見るんだよ。
この家には俺とお前の二人しかいないんだぞ。
お前しかいないだろうがこんなの見るとしたら。」
レイナ「………それはどうかしら?」
悠人「はぁ?」
レイナ「悠人には言ってなかったんだけどあの日実はこの家に泥棒が入ってきたのよ。
その泥棒がそのPCで猫のテレビを見始めたの。
だから私じゃないわ。」
悠人「はいぃ?
泥棒がこの家にだと?
お前さっき俺がこれ見てたとか言ってたよな?」
レイナ「………」
悠人「ってか泥棒なら何か盗んでった筈だろ。
その泥棒は何を盗んでいったんだ?」
レイナ「えっ、えと………。」
悠人に問い詰められたレイナは部屋中をキョロキョロと見渡す。しかし特に何も見付けられなかったのかレイナは次にこう言った。
レイナ「………安心して悠人。
泥棒は私が追い払っておいたわ。
幸い泥棒は何も盗らずに帰っていったわ。
泥棒に出来たのは猫のテレビを見ることだけだったわ。
まったくおかしな泥棒よね。」
悠人「………あぁおかしいな。
うんお前の壊滅的な嘘付くセンスの無さがな。」
レイナは何故か自分が猫の動画を視聴していたことを悠人に知られたくないようだった。一体何をそんなに隠す必要があるのか。
レイナ「なっ………!?
どうして私の嘘が見破られたの!?
私の嘘は完璧だったのに………。」
悠人「どこがだよ。
完璧どころか穴だらけだよ。
どうして泥棒がわざわざ人の家のPC使って猫の動画なんか見てるんだよ。
本当はそんな泥棒なんて来なかったんだろ?
この動画だってお前が見てたものなんだ。」
レイナ「くっ…!」
悠人に真実を突き付けられ悔しそうに悠人を睨むレイナ。悠人としては女性がこういったものに興味を持つことは普通のことだと思っていたので特段気にはならなかったがレイナはそうでもなかったようだ。
悠人「別にそんな隠すようなことでもないだろ。
まさか恥ずかしいから隠してたとかか?
俺やお前くらいの年の女だったらこんなものくらい見るやつだっているって。
そんな気にするほどのことか?」
レイナ「………だって私はフェザード社と戦わなくちゃいけないのよ………。
一人ででも戦わなくちゃいけないの………。
それなのにこんな猫のテレビなんかに釣られて………。」
悠人「………」
レイナ「私には遊んでいる暇なんてないの………。
何年………何十年かかったとしても今の内からフェザード社と戦う準備をしなくちゃいけないのこんな誘惑なんかになんて負けてられないの………。
だから私はこんなものを見たりしてる時間は………。」
悠人「………はぁ。」
PCに映される猫の画面。たかがこれだけでレイナが思い詰めたような顔をしてしまった。それは彼女がたった一人で世界トップの巨大企業を相手にしようという決意を持っているからだろう。一人でフェザード社に立ち向かうのであれば時間はいくらあっても足りない。それこそ彼等との戦いは想像を遥かに越える時間を費やすことになるだろう。下手すれば数年から十年、もしくはそれ以上かかるか最悪世界がウルゴスとやらに滅ぼされるまで戦いは終わらないかもしれない。それか
この少女は誰にも頼れず誰にも求められずこの世界の未来を想って戦おうとしているのだ。それも十歳の時に両親を殺されてそこから十年幽閉されていた。十歳といえばまだ遊びたい盛りであった筈だ。そんな年齢の少女が十年間も保泉市のあの部屋で捕まり続け最近やっと出てきた。
悠人「(………こいつ………本当はもっと普通の生活とかを送ってみたいとか考えたりしないのか………?
見た目は少し違うだけでこいつを見ててもそんなに人間との違いがあるようには思えない………。
………こいつは………、
普通の
もしそうなら俺は………。)」