悠人「………」
高橋「………」
会長達がいなくなり悠人は高橋と二人でフェザーズ動物園の中を進んでいた。彼女とは相変わらず微妙な距離感のままだ。月曜日に悠人の失態で美咲にからかわれてそれからずっとこんな感じが続いている。別に喧嘩をしているわけではないが何故か高橋の方も悠人といると口数が減ってしまう。
悠人「(まだ月曜日のこと気にしてるよな。)高橋………疲れてないか?」
高橋「いえそんなことは………。」
悠人「もし疲れた時は言ってくれ。
そこら辺で適当に休憩を挟もう。」
高橋「はい………。」
悠人「………」
高橋「………」
悠人が話し掛けても会話が続かない。普段は悠人が話し掛けたりせずとも勝手に好き放題余計なことまで喋る彼女がこうも寡黙だと悠人も調子が狂う。
悠人「………高橋。
少しそこのベンチで待っててくれないか?
ちょっと俺飲み物買ってくるよ。」
高橋「…分かりました。」
高橋にそう言うと彼女は素直に悠人の指示に従う。やはり高橋としても今のこの悠人と二人だけの空気は居心地が悪いのかぎこちない動作でベンチへと歩いていきそこに座る。
悠人「(ハァ………なんだかなぁ………。)」
こんな状況になってしまったのは恐らく美咲と山本の策略だろう。美咲が調子にのって悠人と高橋の話題を吹聴しまくったせいで山本がそれに便乗したのだ。高橋と二人だけになってしまったのも二人が悠人がいないところでこの様に差し向けるよう予定を組んでいたのかもしれない。悠人はこの後どうするべきなのか頭を抱える。
だが悠人にとって高橋と二人きりのこの状況はある点においては都合がよかった。
悠人は高橋から見えない位置にある自動販売機の元に来て飲み物を
悠人「………チケットは無事に買えたようだな。」
レイナ「ええ。
あれだけ人が並んで買ってるところを見れば私でもあのくらいなら真似出来るわ。」
悠人に近寄ってきたのはレイナだった。彼女も悠人の後をつけて園の中へと入ってきていた。
悠人「そうか。
でもチケット高かったろ?
ここに来るまででも結構かかったし金もっと渡しとくわ。」
悠人はたった今販売機から購入した飲み物と一緒にレイナに追加の資金を渡す。
レイナ「私お茶じゃなくてその水がいいわ。」
悠人「え?
お茶の方が良くないか?」
レイナ「私飲み物は味の無い方が好きなの。
家でも純粋な水を飲んでるし。」
悠人「俺もどっちかっていうと同じだな。
………でもまぁいいか。
ほら。」
悠人はレイナに渡したお茶と水のペットボトルを交換する。高橋に渡す用に水かお茶を選択出来るようにと二種類だけしか買ってなかったこともあって悠人の手には二つのお茶の入ったペットボトルが残った。
レイナ「また慧子と一緒にいるわね。
入ってきた時は他に三人いた筈だけどあの人達はどうしたの?」
悠人「あっちはあっちで俺達とは別のところを回ってるよ。
大人数だと動きづらいってんでな。」
レイナ「そうだったの。
………こうして見てると貴方達デートしてるみたいね。」
悠人「そう見えるのか?」
レイナ「そうとしか見えないのだけど。」
男女の二人組でいるとやはり周りからはそう見えるのだろう。
悠人「けどなぁ………。
実際はそんな感じじゃないんだけどな。」
レイナ「?
何かあったの?」
悠人「この前大学で少しやらかしちまってな。
そっから高橋とはなんか距離が出来ちまったんだよ。
それで一緒にいても空気が悪いっていうか正直今は側に居づらいんだ。」
レイナ「貴方慧子に何をしたの?」
悠人「先週のお前と行った池袋のことを口止めしようとしただけなんだけどな。
高橋が他の連れの奴と一緒にいる時に来たもんで慌てて高橋の腕を掴んでその場から離れただけだよ。
そしたら今のこの状態が出来上がってた。」
レイナ「たったそれだけでそんなことになるのかしら?」
悠人「連れの前でそれをやったことが問題だったんだよ。
それ見てた美咲が大学で俺と高橋を茶化しだしてな。
それが一週間も続いたせいでこうなってんだよ。」
美咲としては日頃高橋に悠人との仲を変に解釈され周囲に広め回っている高橋への仕返しのつもりなのだろう。この機に自分が高橋が言うような悠人と恋人同士でないとはっきりと誤解を解くために悠人に高橋を宛がっているのだ。
悠人「高橋も俺と一緒にいるとそういうふうに見られるからさっきから何も話さねえんだよ。
お前も俺達のこと見てたなら分かるだろ?
俺達二人が気まずい感じだったのが。」
レイナ「貴方はそうだったわね。
でも慧子は
悠人「ん?」
レイナ「貴方達が二人になった辺りから見てたけど慧子ずっと貴方の後ろで顔を赤らめながら楽しそうにしてたわよ。
まるで
悠人「好きな人と………?」
悠人はレイナが何を言っているのか分からなかった。
レイナ「慧子って貴方のことが好きなんじゃないの?
この間は気付かなかったけど今日見ている限りじゃそんな印象があるのだけど。」
悠人「何言ってるんだよお前………。
高橋が俺のこと好きなわけないだろ。」
悠人はレイナが言ったことを否定した。悠人からしてみればもしそうであったのなら普段美咲と一緒にいる時に高橋が推してくるあの美咲との恋人設定は何だというのだろうか。
レイナ「遠くから見た感じではそうだとしか思えないくらいあの子貴方の後ろでニヤけてたわよ。」
悠人「そりゃ見間違いだろ。
今日は暑いしな。
あいつはただ男と男が絡み合ってるのが好きなだけだ。
あいつ自身が誰か男を好きになるところなんて想像出来ねぇよ。」
レイナ「そうかしら?
慧子が貴方のことを本当に好きだったとしたらこれまでの貴方から聞いたあの子の言動も説明がつくと思うけどね。」
悠人「何………?」
レイナ「
本心では悠人に歩み寄りたいのだけれど勇気がなくて何も出来ずにいるの。
けど自分が何もせずにいると他の誰かに貴方を盗られてしまう。
そうならないように美咲っていう貴方とは絶対に結ばれることのない有り得ない相手と恋人と嘘を周囲に言い回ってるんじゃないのかしらね。」