徳川邸、それは一部の闘士における聖地である。そんな聖地の中にある広さ30畳にも及ぶ巨大な和室の中では一人の老人が胡坐をかいて座っていた。老年とよべるほど老いているその人、徳川光成は目をぎらつかせ、目の前の男たちの会話に聞き入っていた。彼は静かに着物から煙管を取り出し口へと咥えこむ。
とある一人の陸上自衛隊員が震えて言葉を紡ぐ。額に大きな汗を浮かべた彼は自身の緊張を隠すこともできないまま、話し続ける。そんな男の報告をその部屋にいる十数人の男たちが聞き続ける。開き放たれたふすまの陰から夕暮れに沈む都会の喧騒が見え出していた。
「で、ありますからして…その…」
「では何かな、君の言う通りだとすると…化け物が現れたと?」
「そ、そう表現するしかありません…あれはまぎれもなく…化け物でした」
陸上自衛隊である彼は接触した化け物の報告をすべくここ徳川邸へと招集されたのであった。突如襲来した正体不明の、海からやってきた化け物に部下である自衛隊員たち10名を殺されたその自衛隊員、田川1等陸士は声を震わせながら答えた。
「いい加減にしろ!」
「し、しかし…!」
「我々が聞きたいのは事情である!。正体不明の化け物が自衛隊員を10名も殺したなどと誰が信じられる!」
スーツを着た男の罵声が部屋へとこだまする。それを皮切りに報告をしていた男性隊員を非難するように罵声が飛び交った。そんな男たちを一括するかのように、煙管が火鉢へとたたきつけられた。
キンとなる音に対して男たちは会話をやめて一人の老人を黙って見つめた。その老人は煙管から煙を一吸いすると静かに、まるで語り掛けるようにゆっくりとしゃべりだした。あぐらをかいた老人は天井を見上げながら言葉を紡ぎだす。
「儂が君をここへ呼び出したのは…君の報告が非常に興味深かったからじゃ」
「御、御老公…私は嘘などついていませんッ!奴らが海から這い出るようにして現れて…」
「しかし写真の一枚もないのでは国家としては信じられまいて。ましてやそれが銃弾も爆弾も効かない敵となるとなおさらな」
「カメラが使えなかったのです!電子機器の一切が操作不能になったせいで…」
徳川光成の言葉に男は悔しそうに震えた。この人の言うとおりだ、写真の一枚もないのでは上層部が信じられるはずもないのも無理はない。だが事実なのだッ!
奴らの前では一切の電子機器が使用不能になってしまった事は。自身もまたスマートフォンでの撮影を試みたがあの人型にむけてカメラを向けたとたん、画面が暗くなり壊れたようにノイズを発してしまったのだ。
部下が狂ったようにあいつらに向けて発砲したが…そのすべてが無意味であった。まるで肌の寸前ではじき返すように、自動小銃の弾丸を跳ね返してしまうのだ。もしや奴らには現代兵器は通じないのでは?そんな恐ろしい予感をつい持ってしまう田川。そんな彼に対して徳川は語り掛けた。
「信じておるとも田川君、実はな…君と同様の報告が2件もあるのだ。だからこそ我々は君を呼び出したのじゃ」
「な…!?」
「すでに東京都のとある無人島3つを襲撃され…ついに先日、人的な被害がでたのだ。だからこそ今のうちに対策を取らねばならない…無論化け物云々を信じていない者もいるがな」
「しかし御老公…ならばなおさら自衛隊が動くべきでは」
「自衛隊の名は重い…その意味が君ならわかるだろう」
「……」
眼鏡をかけたその政府高官である男性はその意図を理解し押し黙る。自衛隊を派遣するだけでマスコミからのバッシングが飛び交うこの時勢である。ましてや国家の防衛生命線である自衛隊員が負けた、などとの風潮が出てしまえば。文字通りの国家存亡の危機へとつながってしまう。
自衛隊が動くのは最終手段。そうでなければ国民に対する示しがつかないのである。だからこそ、必要なのだ。自衛隊に匹敵するほどの武力を持ち、自由に動かせる戦力が
「領域外には領域外の生物をあてるしかあるまい」
「つ、つまり…例の民間人たちに調査させると?」
「呼ぶしかあるまい…"グラップラー"を、な」
にやりと笑みを浮かべる御老公。その表情はまるで少年のように無邪気な笑顔であった。老人は煙管を置くと静かに傍らに置いてあるお茶を飲みだした。