艦隊格闘士これくしょんッ!!   作:葉隠 紅葉

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第2話

 霧雨島、それは東京都の南西から約800㎞離れた太平洋上にある島である。海流の問題からマダイやシマアジといった回遊魚が豊富に暮らすその島。島上には乾性低木林が生い茂る、閑静な島であった。そんな島を現在、無数の化け物たちが攻撃していた。

 

「ギャギャ!ギャギャギィ」

 

 海面から浮上してくる魚型の化け物、深海棲艦のイ級が島周囲への攻撃を始めて既に30分は経過した。なおも彼らの攻撃は激しさを増すばかりであった。

 

 爆撃の音が響く。これで四度目となる無人島への襲撃であった。魚の姿をした深海棲艦達はその島の周囲へと攻撃を繰り返す。まるで土壌を汚そうとするように、彼らは執拗に海から大地を攻撃し続けた。

 

そんな爆撃の連続。

やがて爆撃の音そのものが止みだした。

 

 ふと訪れる静寂の瞬間、そのまま深海から何かがスッと姿を現し始めた。海面から身を乗り出すように、とある一人の深海棲艦が海から浮上してくるではないか。目を凝らしてよく見ると…それは女のような姿をしていた。それも年若い女性のような姿をしているのが見て取れた。

 

「……」

 

 それは、周囲をきょろきょろと見渡し、敵影がないことを確認するとのそのそとのろく歩き出した。重装である両手を大地へと突くように彼女がどしんどしんと歩き出すその姿はまるでサイのように重厚で恐ろしかった。

 

 軽巡ツ級。別世界においてはそうよばれる彼女。それはあまりに異様な怪物だった。10代後半の少女のようないでたちをしている彼女。

 

 彼女は自身の頭皮をすっぽりと覆いかぶさるように黒いフェイスヘルメットをしていた。何よりも目立つのはその両の掌だろう。自身の身体にも匹敵するほど巨大なその手はあまりにも『異常』であった。

 

「…ァ」

 

 小さく唸る海の化け物。彼女はきょろきょろと周囲を見渡すとそのままのしのしと島の中心に向けて歩き始める。四度目となる地上進行作戦は決まって同じように行われるのであった。

 

第一作戦にて海上艦による地上への爆撃

第二作戦にて二足歩行型深海棲艦による地上への『巣』の建設

 

 深海棲艦による作戦は決まってこのように行われていた。特筆すべきは彼らが必ず地上へと進行するフェイズが存在するという点だろう。それがなぜかは分からないがこれまでも、これからも深海棲艦はそのように行動するのだ。

 

 現状、深海棲艦が海上にいる場合はあらゆる攻撃が無力化されてしまうのである。バリアのようなもので攻撃そのものが無効となってしまうのだ。ましてやその脅威を撮影しようにも、電子機器の類は一切が故障、または使用不能となってしまうのだから。これがどれほど恐ろしい事かこの段階ではまだ、政府はそれを理解できないでいた。

 

 

深海棲艦

人類史上最大の敵

その一端の逸物がそこにはあった。

 

 

 いつも通りの仕事である。彼女、ツ級はこれまでと同じように地上を歩いていく。地上を震わすように歩き続ける彼女。都度四度目となる進行作戦の最中に、「それら」は現れた。彼女の背後から一人の男が現れた。

 

 地上に掘った塹壕から隠れるようにして一連の行為を盗み見ていた彼らは不穏な気配を感じ取る。このまま何かをさせてはまずいと、彼らの本能が告げたのだ。そうして二人は砂浜をけるようにして地上へと飛び出した。

 

男は…否、格闘士は背後から駆け寄ると

そのツ級に対して肘鉄をくりだした。

 

「やるじゃねーか加藤!!」

 

「黙ってろ末藤!油断をするな」

 

加藤清澄

末藤厚

 

神心会から放たれた

二人のグラップラーであった。

 

 最初に仕掛けたのは加藤清澄であった。神心会空手三段、デンジャラスビーストとまで呼ばれるほどに身に着けたる野獣性をもって彼はかの敵へと襲いかかった。ツ級の頭から途端に鳴り響く甲高い音。投擲物がツ級の顔面へとヒットする。

 

こぶし大のサイズの投石、である

 

 たまらず呻くツ級に対して彼は即座に敵への間合いへと迫りゆく。走りながらなおも次の一石を拾い、掌に収める加藤。そうして彼は全力をこめてその必殺の一撃を彼女の顔面へと叩き込んだ。

 

メキリ

 

ツ級のヘルメットが握りこまれた石によって音を立てる

 

 完全な一撃。かつて死刑囚スペックが花山薫に対して叩き込んだのと瓜二つの近接攻撃である。渾身の力を込めて振り下ろされる握撃と石による一撃はたやすく人間の命だって奪って見せるだろう。

 

そう

相手が深海棲艦でなければ

 

「アァ…」

 

「まったくよぉ…まるで効いちゃいないって事かよ…」

 

 衝撃もなんのその、自身の頭を軽く2,3度振るツ級。ただそれだけであった。まるで眠気を覚ますためにだけあたまをふるように。加藤の一撃はまるで効いてはいなかったのだ。

 

「そこをどいてな加藤」

 

 思わず額に汗を浮かべる加藤。そんな加藤に対して末藤が声をかけた。トレーニング用のズボンとタンクトップに身を包むその格闘士。

 

 末藤は懐からホルダーを取り出すとかちりとそれを開いた。掌にすっぽりと収まるそのサイズ。その中にはなんと…彼の歯形を模した何かが入っている。彼はそれを手に取る。ズシリと重みを感じるそれを手に、彼はそれを自身の口腔へと収めた。

 

「ま、まさかそれは…」

 

「テンプレート、さ」

 

 ニヤリとほくそえむ末藤。それはまぎれもなく野獣の笑みであった。自らの凶暴性を隠そうともしない行為に思わず唾をのむ加藤。

 

 テンプレート、とはマウスピースのようなものである。自身の歯にかぶせるようにして身に着ける、歯専用の武装である。自身の歯形にフィットさせた樹脂をかみしめることにより頭部と脊椎の一体化を促す。端的に言えばタフネスを増強させる効果があるのだ。

 

 しかしそれだけではない、テンプレートの最も恐ろしいのは脊椎の配列を正常化させることによる身体機能の上昇ぶりにある。その比率ッ!驚異の30パーセント!

 

 想像してみてほしい、身長205㎝体重130㎏の巨漢とも呼べる格闘士がさらに30%にも及ぶ攻撃力を手にするということの意味を。その破壊力の恐ろしさを。だが、そんな彼に対して思わず加藤は声を荒げてしまう。

 

「歯医者に行くのを怠ったか末藤ッ!」

 

 相棒である加藤から飛ばされる罵声。そう、テンプレートをはめたということは歯列が悪いということに他ならないッ!

 

 そんな彼に対し末藤はニヒルな笑顔で答える。末藤は首をこくりと鳴らしながら静かに深海棲艦へと歩み寄った。

 

「いいや違う…パーフェクトナチュラルさ」

 

「ッ!?」

 

 ほほ笑む末藤、そんな馬鹿な、目を見開いて驚く加藤。なんと末藤の歯は…見事に整っていたのであった。範馬刃牙の如き見事な歯並び。今、そこに、特注製のテンプレートがはまり込む。

 

 末藤厚は学習していたのである。自身と一流格闘士の間にある差に。自身と範馬刃牙という男の間にある恐るべき戦力の差に。

 

自身は劣っている

ならばそれを補えばよいと

 

食生活を、鍛錬を、精神を鍛えなおし続けた彼。

 

歯医者に通い詰めた事で手に入れたパーフェクトナチュラルパワー

さらに特注で作成したテンプレート

 

 この二つを掛け合わせることにより更に50%の身体機能上昇を手に入れた末藤。彼は笑みを深める。まるで獣のように鋭い眼光で眼前の敵をにらみつけた。

 

 

「徳川の爺さんから話をもらってよぉ…チャンスだと思ったぜ、きっと面白れぇ戦いができるってな」

 

「ァ…ァ?」

 

「この戦いを通して俺は成長してみせる…もう負け続けるのはごめんだぜッ!!」

 

 そう、調査を命じられた神心会の人員。彼らは徳川翁の命令で付近の島へと潜伏しているのであった。彼らが再び地上へと侵略すると見た翁の手によって、付近の島々へとまんべんなく敷き詰められた神心会による強力な殲滅包囲網。

 

 

ほかの島でも襲われている所があるかもしれない。

―――どうでもよい――――

 

目の前の未確認生物の調査が必要だ

――――くだらない――――

 

彼は歩み続ける

それこそが強者の在り方だといわんばかりに

 

彼は無防備に、その深海の化け物へと歩み寄る

 

 

なぜならば己は

自分は

 

「格闘家の意地だッ!!舐めんなよ化け物ッッ!!」

 

 

そうだ、すべては些事だ

頭で考えることなど他人に任せてしまえばよい

 

ここには二人の闘士がいて

目の前には強者がいる

 

 わかっているべき事などそれだけで十分なのだから。そうして末藤は動き出す。大地をかけんばかりに、唸り声をあげながら。そうして彼は渾身の一撃を化け物へと繰り出す。

 

はじけ飛ぶような轟音が

砂浜へとこだました。

 

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