「えーと、お知り合い?」
「あはは、前まで一緒に居たことがあって……」
「そ、それでは、2名様ご案内いたしま~す☆」
(キャラじゃない! キャラじゃないよジュピター!)
2人がギンガ団の幹部である事をアンバーは知らない。何とか誤魔化しつつ、ジュピターは2人を席へ案内した。
「俺はモーモーミルクだけで良いかな」
「私はミルクと、モーモーチーズケーキで」
「かしこまりました~☆ ごゆっくりお待ちください~☆」
(だからキャラじゃないって!)
語尾に「☆」をつける喋り方に、マナは違和感を覚えっぱなしだった。何せジュピターは幹部時代、ドSな笑みでしたっぱ達を怖がらせていた事がある。そんな彼女がぶりっ子な態度を取ると言うのが信じられないのだ。
最も、マナも幹部時代の強気な態度から一転して、ですます口調で話しているため人の事は言えないが。
「それにしても、お客さんも結構居るね。それほど人気なんだな」
「男性が多いように見えますけど……」
「それはほら、彼女目当てなんじゃない?」
客の注文にジュピターが応えているが、彼女を呼んだ本人は鼻の下が伸びている。何人かの客も彼女に対して熱い視線を送っていた。
「あの人、人気なんだねぇ」
「そう、ですね……」
アンバーはジュピターに対して他の客と同じような顔をして居なかったが、マナは不思議とそれが面白くなかった。少しモヤモヤした物を胸に感じる。
「……あの、すみません。ちょっとお花を摘みに」
「分かった。ごゆっくり」
アンバーはメニューに目を落とし、追加で何か頼むべきか考え始めた。
化粧室にて、マナは鏡に写る自分の顔を見ていた。
「……はぁ。何かおかしい」
「何がおかしいって?」
「うえぇ!?」
驚いて隣を見ると、ジュピターが手を洗っていた。
「ジュピター……」
「シェリィよ」
「え?」
「シェリィ。それが私の本名。もうお互いギンガ団を抜けたんだし、コードネームで呼ぶんじゃないわよマーズ」
「……マナよ。私の本名はマナ」
「……そう」
軽く化粧を整え直すシェリィ。2人の間に僅かな沈黙が訪れた。
「……あんた、普通の女の子に戻れてるわね」
「突然何よ。あんたこそ、あんな喋り方するなんて思わなかったわ」
「ふふふっ、こう見えて店では人気なのよ?」
「みたいね」
一瞬だけ、マナが面白くなさそうな顔をしたのをシェリィは見逃さなかった。そしてその理由はすぐに分かった。
「まさかマナが男の人と一緒に居るなんて思わなかったわ。……あんたの彼氏?」
「ブフッ!? ちょ、何よ! 彼氏とかそんなんじゃ……!」
「その反応だと益々それっぽく聞こえるわよ~?」
「あ、あの人の家に居候させてもらってるだけよ! 後はお店のお手伝いしてるだけ!」
「うーん、ますますカップルに見えるわね~」
顔を赤くしてアタフタと慌てるマナ。ニヤニヤが止まらないシェリィ。
「あんた、その男の人をどう思ってるのよ?」
「どう、思ってるって?」
「あの人が他の女と居るのが面白くないんじゃない?」
「うっ!」
「……はぁ。あんたは本当に感情を隠すのが下手ねぇ」
この手のパターンの小説は何度か読んだことがある。ここは敢えて遠回しに応援するのがセオリーだろうが、この場合は直接教えた方が良いのかもしれない。
「あんた、あの男の人に恋してるんじゃない?」
「……はぁ!? 私が!? アンバーさんに!?」
「胸に手を当てて考えてみなさいよ。そのアンバーって人の事を考えるとどうなるの?」
マナはアンバーの事を考える。毒で弱っていたブニャットを助けるためにポケモンセンターまで送ってもらい、お礼を言おうとしても受け取らず「ポケモンを治すのが先だ」と言ってそのまま去ってしまった。
その後彼の元へお礼を言いに訪れ、自分が旅をしている理由を話し、そして気付けば彼の店で生活することになっていた。
その間の生活は楽しいものだった。子供たちとのふれ合いも楽しくて、ポケモン達とも充実した生活をしている。
そして……ホウエンからやって来た、ツツジとのバトル。相手がジムリーダーだと分かっていても、心の中ではアンバーを応援していた。そして何より……。
(バトルをしていた時の顔……凄くカッコよかった……)
普段は笑っている事が多く、フレンドリーな印象があるアンバー。だがバトルの間の彼の目付きはとても鋭く、口調も熱いものがあった。いわゆるギャップと言うものがあった。
マナは自覚していなかったが、おそらくそれが決め手となったのだろう。
「あ、う……」
「あーらら。結構彼の事を想ってたのね」
「け、けど! 私はギンガ団だった女よ……。もしアンバーさんが本当の私を知ったら……きっと……」
マナの顔が曇る。どれだけ笑顔を振る舞っていても、どれだけ丁寧な口調でいても、「ギンガ団の幹部だった」という過去は付いて回る。もし自分が犯罪に手を染めていたと知ったら失望されてしまう。そう考えると、恐ろしくなった。
だがそんなマナを見て、シェリィは呆れるようにため息をついた。
「そんなの、私や他のしたっぱ達も同じよ」
「だけど!」
「他にも辞めた連中だっている。あいつ等は、ノモセシティのサファリのスタッフやってたり、トバリシティの道場でジムリーダーのスモモと一緒に空手やってたり、色んな事をやってる。彼らだって『ギンガ団員だった過去』を背負って生きてるのよ」
「…………」
「それとも何? あんたの恋人は簡単に女を捨てる人でなし?」
「そんなこと!」
「だったら、シャンとしなさいな! ウジウジしてる間に好きな人取られたら、あんたは正気でいられるの!?」
マナは俯く。かつて自分が慕っていた人物、アカギ。彼はどこかへ消えた。彼を探す旅であったが、心のどこかでもう、諦めていたのかもしれない。
このままで良いのだろうか。同僚ですら過去を背負って強く生きていると言うのに、自分は過去を恐れて、好きな人を想う事すら出来ていない。
「…………」
「……そりゃ、私だって過去と向き合うのに時間は掛かったし、すぐに決別しろなんて言わないわよ。でも、少しくらいは我が儘になっても良いと思うわ」
そして、シェリィは仕事に戻っていった。マナは俯き、泣いた。
何とか泣き止み涙を拭いたマナは、アンバーの元へ戻ってきた。テーブルには頼んでいた物が届いている。だが手をつけてないのを見ると、戻ってくるのを待っていたようだ。
「すいません、遅くなっちゃって」
「ううん、大丈夫さ。……あれ、少し目が赤いよ?」
「あ、あはは! さっきの友達に旅の事で励まされて、つい……」
「そっか……。ごめん、デリカシーが無かった」
「そんなに謝らないでください。さ、食べましょう」
2人が頼んでいた物を食べようとすると、シェリィがやって来た。
「お客様、こちら私からのサービスです☆」
「え、これって……」
出されたのは、ラブカスの形をしたクッキーの盛り合わせ。これはカップルの間では人気のメニューで、特に口の部分がくっ付いてキスしてるような形のクッキーが見つかると良いことがあるらしい。。
「それでは、ごゆっくり~☆」
シェリィがマナにウインクする。それを察したマナは小さく笑った。
(ありがとう、シェリィ)
一方、周りの声からクッキーがカップル専用のメニューだと知ったアンバーは……。
(カ、カップル……。やっぱり、俺とマナさんってそう見えてるのか……?)
顔が少しだけ赤くなり、内心ドキドキしていた。
読んでいただき、ありがとうございました。次回をお待ちください。