ジムリーダー候補生とは、文字通りジムリーダーになれる可能性のあるトレーナーの事である。そこからジムトレーナー、そしてジムリーダーへと昇格していくのだ。
アンバーは、昔から“ポケモンにとって得意なこと”をバトルに活用するのが得意だった。時に奇想天外な方法でバトルに勝っていき、周りは彼の事を「天才」と誉め称えるようになった。実際に、彼は成績をどんどん伸ばしていき、ジムトレーナーを飛び級してジムリーダーになってもおかしくないと言われる程だった。
しかし、上位に行けば行くほど、その相手が強くなるのは当然の事である。彼の戦績は伸び悩んでいき、ついには連敗し、低迷することもあった。
絶好調な道を歩んできた彼にとって、連敗と言う事実は大きな衝撃だった。初めての挫折とも言えるだろう。やがてそのショックは、ジムリーダーになれないと言う焦りや、敗北の悲しみ、そして苛立ちへと繋がっていった。
「ゴーリキー、もっと早く避けろよ!」
「フカマル! 技を出すのが遅すぎんだよ!」
「イワーク! お前もっと速く動けるだろうが!」
そしてとうとう、言ってはいけない事を言ってしまったのである。
「お前らのせいで、また負けたじゃねえか!!」
その瞬間、アンバーは何者かに殴り飛ばされた。
彼を殴ったのは、当時アンバーの才能に注目していた、ヒョウタの父親でありミオシティのジムリーダーである、トウガンであった。
「アンバー! お前は今、バトルの敗北をポケモンのせいにしたな!」
「よく聞けアンバー! ポケモンの実力を発揮させるのがトレーナーなら、足を引っ張るのもトレーナーだ! お前の敗北は、お前が実力不足だからだ!」
「自分の実力不足をポケモンのせいにするような人間は、ジムリーダーに相応しくない!!」
ポケモンセンターで傷ついたポケモンを治して貰っている間、アンバーはずっと俯いていた。トウガンの言葉が、ずっと頭の中に響いていたからだ。
(俺は……皆を……)
その時、治療が終わったことをジョーイさんから告げられたが、暴言を吐いた手前、どのような顔をして会えば良いか分からなかった。しかし、いつまでも放置するわけにはいかず、ゴーリキー達に会いに行った。
「ゴゥ……」
「グルゥ……」
「ガッブ……」
3匹とも、アンバーの事を心配そうに見つめていた。彼が俯いて元気が無いことを気にかけていたのだ。
アンバーは、その事に驚き、そして自分が情けなくなった。
(みんな……! あんなに俺は酷いことを言ったのに……それなのに俺は……!)
涙が止まらなかった。3匹を抱き締めながら、大声で泣いた。
「ゴメンよ……! 本当にゴメン……! もっと俺がちゃんとやってれば良かったのに、俺、俺……! うあぁぁぁぁぁぁ!!」
それから数日後。アンバーの後をヒョウタが追いかけていた。
「アンバー! 候補生を辞めるってなんだよ! 一緒にジムリーダーになろうって、約束したじゃないか!」
「……ごめんよ、ヒョウタ。でも、俺はジムリーダーになれない」
「……父さんが君に何か言ったからか?」
「違うよ。トウガンさんは、俺にトレーナーとしての在り方を教えてくれただけさ。それを聞いて俺は、ジムリーダー以前に、トレーナーとして失格だと思ったんだ」
「アンバー……」
「泣くなよヒョウタ。俺はトレーナーとして修行をするだけさ。まだまだ修行中なのは、お互いに一緒だろ?」
「……分かった。だけど、僕は絶対にジムリーダーになるから。絶対だよ!」
お互いに拳を軽くぶつけると、アンバーはリュックを背負ってヒョウタの前から去っていった。
ミオシティの船着き場。そこで腕組みをして海を見ているトウガンの後ろで、アンバーが頭を下げていた。
「お願いします、トウガンさん。俺を、トレーナーとして鍛えてください! お願いします!」
「……着いてこい。もうすぐ『こうてつ島』行きの船が出る。そこでお前を鍛えてやる。ヒョウタの幼馴染みだからって、加減はしないぞ」
こうてつ島。かつては鉄鉱石を採掘する島だったが、廃鉱となってから人が住むことは無くなった島である。強い鋼タイプや岩タイプのポケモン達が洞窟内をうろついており、また海が近くにあるため水ポケモンも生息している。そのため、修行として訪れるトレーナーが多い。
アンバーが島に到着してから課せられた修行の内容とは、サバイバルだった。単純に聞こえるかもしれないが、アンバーは何度か死の覚悟をしたこともあった。
何せ通常のトレーナー同士のバトルとは違い、相手は群れをなして生活しているポケモン達である。昼間にゴローンの群れと、夜はヤミラミやゴルバットの群れと戦うこともあった。酷いときは、撃退された恨みとして同じ群れが襲ってくることもあった。その時は同じ戦法が通じず、相棒のポケモン達と涙を流して逃げ回ったものだ。
だが、戦法が通じなければオリジナルの技を使えば良いと理解した。また、進化したカイリキー、ガバイト、ハガネールの特技を見抜けるようになり、それらを活かした戦法を編み出していった。
ボロボロになりながらも、時には野宿をしてポケモン達と共に過ごし、トウガンが使っている山小屋に到着すれば、トウガンが作ってくれた男飯を食べて、生きている事を実感した。
そうして修行を続け、アンバー達はとうとう、島のポケモン達から強者と認められるようになった。その時をもって、修行は終わりとなった。
「ポケモン達と繋がり、時には意思を汲み取り、状況を見て戦う。……強くなったな、アンバー」
「あの時に殴ってくれなければ、俺はポケモン達にとって最悪な人間になってたかもしれません。師匠が気付かせてくれたおかげです」
「……そうか。ところで、これから先はどうするんだ」
「それなんですが……石屋を開こうかと」
「石屋?」
「修行の途中、この石を拾ったんです」
「『ほのおのいし』に『かいのカセキ』か」
「気ままに石を掘って生活する。そんな生活を送りたいんです」
「フッ、ハッハッハッ! そうかそうか! 良いじゃないか! 石屋をやるトレーナーと言うのも、中々居ないんじゃないか?」
アンバーの背中を、笑いながらバンバンと叩くトウガン。あまりの力強さに、アンバーは苦笑したのだった。
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