始まり
「……んん。あれ?いつの間にか寝てたのか」
一人の少年が目を覚ます。彼は通っている高校の制服を着ており、今まで背負っていたリュックサックが枕代わりとなっていた。
(あれ?でも、俺は自転車に乗っていたはずじゃ……)
少年の目に映っていたのはよくある住宅街の景色ではなく、それとはかけ離れた水田や畑など田舎の景色。そして、土の匂いと自然豊かな緑の匂いが彼の鼻をくすぐる。
「いや、まさかね……」
疲れすぎて深い夢を見ているのか。そう考えるが、あまりにもリアリティが高すぎた。この景色はまるで大河ドラマのロケ地のようだった。しかし、そのロケ地とは全く違う点に少年は気づいた。
「電線がないな」
そう、ロケ地では必ずどこかしらにはあるはずの電線がない。つまりは、ここは正真正銘のど田舎ということになる。
「……しょうがない。聞いてみるか」
夢である可能性が高いと感じたが、現実である可能性を捨てきれなかった。彼は寝ていた土手から降りて、村へ向かい、農作業をしている人に聞く事にした。すると、またしても可笑しな方に気づく。
「あのー、すみませんって、あれ?」
畑を耕す老人の髪型は月代を剃っており、髷を結っていたのだ。
「ん、わしに何かようか?お前さん、変な格好してんな〜。どこから来たんじゃ?」
へ、変な格好?それは俺から見たらその髪型は時代遅れだと言いたいんだけどな……。と、言いたいことを言わずに呑み込みつつ、ここがどこなのかを聞くことにした。
「あ、ああ。ここってどこなんだ?少なくとも千葉県じゃねえよな」
「千葉?何を言ってるんじゃ。ここは甲斐の国だぞ」
「え、貝?じゃなくて!甲斐か。そっか、ここは山梨県甲斐市という事か……。って、いやいや違うだろ!?」
あらま不思議!千葉県にいたのに目覚めたらタイムスリップ&山梨県にテレポート!わけがわからないんだが……。
「や…まなし?ほーんと、変わったガキじゃの……」
少年が呟く言葉に老人は首を傾げる。
「なあ、爺さん!」
「な、何じゃ。いきなり、大きな声を出しおって」
「俺の頬をつねってくれないか?」
これしかない。俺が昔の山梨県にいるのかは知らない。ただ、これで夢から解放されるはず。
「む……まあ、良い」
老人は少年の頬をグイッと引っ張る。少年はちょっと痛いで済むと考えていたが、予想に反してかなり強く引っ張った。先程、鍬で土を耕していたのだ。それなりに腕力はある。
「あ゛あ゛あ゛!?痛い痛い!夢じゃない…!?」
「……。」
場所を聞かれ、その上いきなり頬つねって欲しいと言っている少年の可笑しな言動に老人はほとほと困っていた。
「うぅ……何で?何で夢じゃないんだ?ああ、一体何がどうなっているんだよ!?」
「それはこっちが言いたいわ!何じゃいきなり、ここは何処かと聞いてくれば頬をつねろとお前は何をしたいんじゃ!?」
嫌気がさした老人の怒鳴り声にビクッと驚く。それと同時に低下していた少年の思考力も元に戻る。
「ご、ごめんなさい!実は……」
少年は自分が今置かれている事情を話す。今ここで未来から来たと言って信じてくれる人はいないだろう。と言うより信じてくれるような信頼関係を結べていない。彼は目覚めたらこの場所にいて、混乱していた事しか話せなかった。
「ふむ、可笑しな話しじゃの。最近は北条との戦はなかったしの……」
うむむ、と考えこむ老人。この様子では、何故自分がここにいるのかのヒントは得ることはできそうになかった。しかし、引っかかったことが一つあった。
「北条?ということは戦国時代。そして、ここを治めているのは武田」
「そうじゃ。この戦乱の世、信虎様は度重なる出兵で我ら百姓の生活が苦しくなるばかりじゃ。わしの息子も農兵として戦へ向かったが、今も帰ってきておらん」
老人は震えながら話す。戦に対する恐怖ではない。戦を行い続ける領主に対する怒りで震えていた。
「……。」
かける言葉が見つからない。いや、言葉をかけるべきではないのだ。人の気持ちを本当にわかるのはその人自身。ただ、少年は俯くしかなかった。
「何かも言わん辺り、お前は人の心がわかるやつのようじゃ。今夜はわしの所で泊まっていくと良い」
「い、いえ、そんな!泊まらせてくれるなんて悪いですよ!」
「なに、息子と重ねて話がしたいだけ。老いて仏の導きを待つ身じゃ、昔話にも付き合ってくれんかの?」
「は、はい!」
こうして、この少年
これは運命に抗う少女、運命に殉じようとする少女に挟まれ、精神が削られながらも生き抜こうとする物語である。
ストックはありますので、ある程度は書いていけると思います。誤字脱字があれば教えていただけると幸いです。