織田信奈の野望 〜in風林火山〜   作:マクロなコスモス

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お久しぶりです。。長い間投稿できていませんでした!申し訳ない!
ここまでの間、いろんな歴史番組とか見てました。

偉人 素顔の履歴書という番組が結構おすすめです。

さて、久しぶりの最新話となります。どうぞ。


第1話 越後潜入

 

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。

 

 白い髪、白い肌、そして赤い眼を持った少女は走る。その姿はまるで雪の妖精。彼女は自分の母がいる館へ息切れしながら走る。

 

 彼女の名は長尾景虎。長尾為景の次女として生まれ、いずれ越後守護代と守護を継ぐ者である。彼女の姿は現代でいうアルビノというもので、その日本人離れした姿に神々しく捉える人が後を絶たなかった。

 

 父の為景と従兄弟の政景がまさにそうである。

 

 為景は、関東管領と守護の上杉家の当主を殺して越後を乗っ取り、秩序を乱した。そのことに対しての当て付けではないか、と景虎を疎み、最期には毘沙門天の化身だと畏怖し、これまでの行いに許しを彼女に請うた。

 政景は景虎に異様な執着を見せており、「越後の王には相応な女が必要」と狙っている。そんな政景から守るために姉の綾(後の仙洞院)は景虎の身代わりとして政景に嫁ぐことで景虎を守ったが、政景はまだ諦めていない。

 そして、越後の諸将も景虎の美貌さに惹かれ、そして、越後支配のために彼女に求愛している。

 

 為景の死後は病弱で統率力が乏しかった兄の晴景が継ぐが、景虎を手に入れたい政景に唆され、晴景と景虎は対立してしまう。その間を守護の上杉定実が取り持ち、和解させて越後の守護代の座に景虎が就くこととなった。

 

 晴景が守護代を譲る時に景虎に告げたのは唐突な「別れ」と景虎に恋をしているという「告白」だった。

 

 もちろんそれは実らぬ恋であり、到底許されるものではない。義と秩序を重んじている景虎なら尚のことだった。だからこそ、晴景は景虎に別れを告げて隠居した。景虎も兄の想いを無駄にしないために二度と会わないと決めた。

 

 同日、景虎は政景に嫁いだ綾と再会する。その時、彼女が見たものは政景の子を身籠った姉の姿だった。姉の微笑みは「姉」としてではなく、「母」としてのもの。そして、その笑顔は自分ではなく、腹の中にいる子に向けられている。

 

 もはや、私の知っている兄上と姉上はもういない。一体、誰を信じれば良いのかわからない。

 そう感じた景虎は本丸から出ていき、母のいる館に向かって走り、今に至る。

 

「はぁ、はぁ……うっ!?」

 

 走る途中、景虎は倒れてしまう。躓いて転んだからではない。下腹部に激痛を感じたからだ。

 

「(痛い!痛い痛い痛い!)」

 

 景虎は近くの木にもたれかかる。両手で腹を押さえるが、一向に痛みが引く気配すら感じない。それどころか、酷い吐き気も込み上げてきたのだ。

 

 そんな時だ。

 

「お前、大丈夫……じゃあなさそうだな。ちょっと、待ってろ」

 

 声が聞こえる。聞いたのことのない声だ。景虎は顔を上げると、自分より少し年上で摩利支天の首飾りをつけた少年の姿が目に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、時間は少し遡り、視点は甲斐の躑躅ヶ崎館へと移る。

 

 小笠原長時を破った武田は再び村上義清との戦のために準備を始めていた。

 

 深志城や埴原城など一気に城を取ったことで城主を誰にするかを決めなければならないということ、領主が小笠原から武田に変わったため、領民の支持を得る必要がある、主にこの二点である。深志城には馬場信房が城主となっていることが既に晴信の頭の中で決まっていた。

 

 また、深志城は村上義清との戦いのために大量の兵糧を運び込む必要があるため、ある程度時間がかかる。

 

 村上義清の方も小笠原長時を破って再び勢いづいた武田を迂闊に攻撃できないと考えたのか、小競り合いも起きることもなかった。ほんの一時ではあるが、甲斐と信濃に平穏が訪れていた。そんな中、館の大広間で真斗と晴信は越後について話していた。

 

「越後へ行く、そう言ったのね?」

 

「ああ、特に村上との戦もなく睨み合いが続いている今なら、敵になりうる越後を見に行っても損はないだろう」

 

「目的は『長尾景虎』ね」

 

 晴信は顔を上に向ける。まだ顔を合わせていない誰かであるはずなのに、どうしてかその名前に惹きつけられる。

 

「まあな。長尾晴景が当主を退いた途端、力を急速につけ始めている。村上義清を倒したら次に俺たちに立ちはだかるのは越後の長尾になる。一番手が空いているのは俺だし、適任だと思う」

 

 対する真斗もそうだった。最近、夢に出る臼井城。何か説明しきれないものが俺に越後へ行けと言っているのではないか、と感じざるを得なかった。

 

 白井浄三。

 

 真斗は彼と同じ「白井」という名字。「白井」と言う人は何処にでもいるだろうけど、あの夢を見てからは何かしらの因縁があるようでならない。

 

「しかし、武田の者とわかれば命の補償はないわ」

 

「そうだな。けど、俺の名前は越後までには届いてないだろうさ」

 

 真斗の発言に晴信は首を横に振る。

 

「いや、そうとは限らない。村上義清と互角に渡り合う武勇に小笠原の領地を一気に手に入れることができるほどの調略。その功績は大きいわ。本来なら、深志城の城主としての役目をあなたに任せるべきだと考えているくらいよ」

 

 しかし、晴信は馬場信房に城主を命じた。実力があれば、先代信虎に滅ぼされた家系であろうが、姫武将だろうが取り立てるということを譜代の武田家臣に示すことが理由なのだろう。

 

「そこまで大したことはした覚えはないんだが……」

 

 本当に大したことはしていないという考えは遠慮ではなく、彼の本音だった。上田原での村上義清との戦闘は防ぐだけで精一杯で、塩尻峠の時は小笠原長時に対する不満を武田で解消できると説得しただけに過ぎない。現に、仁科盛能らの不満は解消され、今では仲睦まじい夫婦となっている。

 

「あなたはこの武田にどれ程の影響を及ぼしているのかをもっと自覚するべきよ」

 

「そうだったのか……すまん、悪かった。だが、これからの敵を見定めるには良い機会だと思ったんだ」

 

「……そうね。どんな人なのかは知る必要があるわね。けど、命だけは粗末にしないで」

 

「わかっている。危なくなったら、すぐに逃げるさ」

 

 

 

 

 さて、ここからが難しいところ。どうやって越後に潜入するか、だ。

 

 問題は越後へ進むルートだ。北信濃には当然、あの戸隠忍群がいる。あの加藤段蔵の目を掻い潜るのは難しい。

 ただ、戸隠山を守ることが目的の彼が甲斐以外の国に潜入していることは考えにくい。ここは安全策を取り、北信濃を通らないルートがベストだろう。

 

 そうなると残るのは上野から入るルートだ。知っての通り、関東管領である上杉憲政の領地。河越夜戦で大敗したものの、上野に未だ居座っている。

 

 あの貴公子のような彼に忍びを使うことはあまり考えられない。これは猿飛佐助から聞いた情報だが、北条は上杉家臣を調略し始めており、内応に応じる人は多数いるらしい。

 

 ならば、ここで行く道は諏訪から上野へ、そして越後に入る。

 

 よし、これで行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真斗の予想通り上野経由でのルートは遠回りではあったものの、特に怪しまれることもなく安全に越後に入ることができた。そして、坂戸城近くの農村を歩いている。坂戸城には景虎の従兄弟である長尾政景がいる。

 気性が激しく、力こそ全てという考えを持っていると農民から聞いていた。

 

「暑いな……」

 

 北陸とはいえ、夏の猛暑は彼の水分をどんどん奪っていく。何度か川や村の井戸から水を補充しているが、もうなくなりかけている。川を探して水を汲んで補充するしかない。

 今の彼はこの酷暑で判断力が格段に鈍っていた。

 

「待て、貴様!」

 

「ん?」

 

 真斗はフラフラ歩いている中、声をかけられる。声の方向へ振り向くと馬に乗っている武士3人がいた。その中でも真ん中にいる一人は目がギラギラしており、ヤクザにいそうな容姿だった。しかし、真斗に声をかけたのはその取巻きだった。

 

「『ん?』とは何だ!殿の前を横切るなぞ無礼であろう!」

 

「はい……」

 

「……。」

 

「……。」

 

 暫く静寂が続く。

 

「詫びぬか!?」

 

「あ、それよりも川がどこにあるか知りませんか?喉がもう渇いてて」

 

「こいつ……!」

 

 あまりにも図々しい真斗に対して、家臣達は苛立ち刀に手を取ろうとした。

 

「まあ、待て」

 

 熊のような図体をした男が家臣達を静止させる。

 

「貴様、見たところ浪人だな。俺を長尾政景と知ったうえで、この態度だな。しかも、それなりに力には自信がありそうだな。信濃の村上とそりが合わなかったか?それとも軟弱な関東管領に呆れてこの越後に入ったのか?まあ、良い。俺に勝ったら召し抱えてやる」

 

(いや、知らんし。それと、随分とおしゃべりだな。しかも、一撃でも当たったら死ぬのでは……)

 

 真斗は思わずツッコミそうなところ耐える。また、こういったチンピラみたいな雰囲気を出すような人は彼は苦手としている。

 好戦的だし、人間的に面倒くさそうだし、あまり関わりたくないという感想だった。

 

 政景は馬から降りて刀を抜く。刃の先には真斗の首。勝てば召し抱えられ、負ければ死ぬ。この世は戦国時代、命の価値は現代より軽んじられており、殺生なんて日常茶飯事だ。

 

「あ、いつでもどうぞ」

 

 真斗は刀を抜かず、拳を構えた。

 

「刀は抜かないのか?」

 

「いや、拳で十分なので」

 

 本音を言えば、真斗は剣術だけは壊滅的に酷いからである。槍を持ち歩くわけにもいかないため、選択肢は拳しか無くなるのだ。

 

「ならば、その拳を切り落としてやる!」

 

 真斗に切り掛かる政景に対してバックステップで躱していく。

 

「くっ!」

 

ブンブンと刀の素振り音だけが鳴っていく。擦りもせずただ時間が過ぎていくことに政景は苛立ちを隠せなくなった。

 

「なぜ当たらん!」

 

(あ、なんか聞いたことがあるこのセリフ)

 

 真斗は以前、信繁が切り掛かろうとした時を思い出していた。腕の位置を見ればどこを狙っているのかは大方予想がつく。この時点で勝負は決していた。

 

「ふっ!」

 

 真斗は短く強く息を吐き、拳を政景の腹へ打ち込む。

 

「ごふっ!?」

 

 政景は腹の空気が一気に外へ出て、自身の腹を抱えて倒れた。余程痛かったのか悶絶している。

 

「殿!」

 

 政景の家臣達が馬を降りて主人の元へ駆け寄る。

 

(このままいても、恨みを買われて複数人から襲われそうだし、すぐにここから離れよう)

 

「あ、貴様、待て!」

 

 真斗は全速力で走ってその場を後にした。

 

 

 

 

 

「あー、とんだ道草を食っちまった……」

 

 坂戸城を過ぎていき、春日山城下へ入った。景虎の容姿について、城下町の人たちに聞いてみたところによると、長尾景虎は戦の際に行人包をつけているらしく、下から見る足軽や農兵達はあまりはっきりと見た人は少ないそうだ。ただ、噂では雪のように白い肌に赤い目をしていると言っていた。

 

 さて、それはさておき、越後の経済的状況を整理しよう。日本海に面している越後は「青苧(からむし)」という繊維原料の輸出に力を入れている。

「青苧」というのは男性用の夏服の原料だ。姫武将がいるとはいえ、男性武将も非常に多いため、非常な経済力となって越後を支えている。現代でこそ、コシヒカリなどの米のブランドが有名だが、この戦国時代では繊維の産業地帯となっている。

 そして、直江津、柏崎が主な港となっている。ここから入って来るのは堺や長門、そして京からの輸入品が入ることもあるため、情報を得るのにも適している。

 

 甲斐と比べて雲泥の差だ。海があるかないかでここまで違うのか、と痛感せざるを得ない。

 

 あとはどうやって本拠地の春日山城に入るかどうかだ。

 

 考えながら城下町を歩いていると、大量の野菜や米俵が運ばれているのを目にした。運ばれる方向は城。つまり、春日山城だ。これってもしかして……。

 

「なあ、少し良いか?」

 

「何だ小僧?こっちは今忙しいんだ」

 

 荷車を引いている商人のおじさんは面倒くさそうにこっちを見る。

 

「大量の米俵を城に持っていくのは何でだ?何か、あったのか?」

 

 俺の質問に対して商人はため息を吐く。

 

「知らないのか?長尾景虎さまが越後守護代になられるんだ。そのことを祝うために持っていくんだよ」

 

「なるほどね……」

 

 晴景は隠居して景虎に家督を譲ったのか、ということはその後景虎の姉の綾が政景に嫁いで越後が統一されることになる。

 

「む、待てよ」

 

 この米俵を持っていくのを手伝えば、城の中に入ることができる。そしたら、長尾景虎を一目見ることができるかもしれない。安直な考えではあるが、捕らえられる可能性も少ない。

 

「なあ、俺で良かったらこの米俵を運ぶのを手伝おうか?」

 

「いきなりなんだ……。まあ、人が多いに越したことはねえけどよ」

 

 素性の知らない俺のことを少し怪しむだろう。ただ、この多くの作物を持っていくのには人手が必要なはずだ。

 

「良いだろう。この荷車を後ろから押してこい」

 

 荷車を押し始めておよそ三十分経過した。春日山城の南三ノ丸付近まで来ていた。そこには他の商人達が作物や干物などを持って並んでおり、二人の門番が何が来ているのかを調べて記録していた。

 

 それと、夏の炎天下で喉が渇いてる。後で水を貰えないか、不安が残る。

 

「次」

 

「はっ」

 

 商人は門番達に荷車の中身を見せる。

 

「よし、良いだろう。この先にある蔵に入れろ」

 

「はい」

 

「あの、すみません。蔵に作物を入れた後、この水筒に水を入れても良いでしょうか?」

 

「……わかった。宇佐美様のお屋敷の近くに井戸がある。そこから水を入れると良いだろう」

 

「ありがとうございます」

 

 俺は門番達に一礼して城内に入った。

 

 

 

「これで全部か」

 

「小僧、よく運んでくれたな。助かった」

 

「いや、ちょうど暇を持て余していたんで。俺、井戸に行って水飲んできます。先に行っててください」

 

「そうか。くれぐれも変な真似はするなよ!」

 

 そう言って商人は先に城を出た。さてと、井戸に行って怪しまれないように探索でもしますか。

 

 春日山城は連郭式山城という城に分類されている。「連郭式」というのは本丸と二ノ丸、三ノ丸といった他の曲輪を連なるように並べて配置したものだ。主に山城がその形式を取っている。そして、この城の特徴として、山全体にたくさんの曲輪が配置され、約2km四方にも及んでいることだ。攻め手からしたら厄介なことこの上ない城だ。

 

 さてと、井戸は確か「宇佐美様」の屋敷の近くと言っていたな。宇佐美と言えば宇佐美定満だよな。やべぇよ。上杉謙信を支えた名軍師。警戒しなくては。

 

 俺は歩き続けること暫くして、何とか井戸を見つけることができた。

 

「もう、喉がカラカラだ……」

 

「おい、あんた。ここで何しているんだ?」

 

 井戸に手を伸ばそうとした時に後ろから声をかけられ振り向いた。すると、目つきは歴戦を戦い抜いてきたようなギラリとした目。洋風な帽子を被った総髪の男がいた。戦国時代ましてや越後に西洋のような格好をする人がいるとは思わなかった。

 

 俺はその奇抜な格好におもわず目を見開く。いや、驚いたら怪しまれるため、一先ず深呼吸した。

 

「すみません。喉が渇いていたもので、水筒に水を入れたいのですが、井戸を使ってもよろしいでしょうか?」

 

 男は俺を少し様子を見て首を傾げつつも、首を縦に振った。

 

「いいぞ。いくらでも飲むと良い」

 

 優しい!この人、見た目によらず優しいぞ!

 

 俺は井戸から水を汲み上げ、水筒の口を洗った後、水を入れた。ようやく飲める水。

 

 いざ水を飲もうとしたその時だ。

 

 ざわっ……。

 

 風が吹いた。

 

 人によっては何てことのないただの風だ。だけど、俺には何か胸を騒つかせる風だった。木々が騒いでいるような……。

 

(誰かが苦しんでいる……?)

 

「お、おい、待て!」

 

 気づけば自然と走り出しており、先程の男の静止などお構いなしだ。

 

(行くべき方向がわかる……。)

 

 風がまるで俺の背中を押しているかのようだった。なぜなのか、理由を考えてわかるはずもなく、そのまま走り続ける。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……。!?」

 

 走り続けた先に俺が目にしたのは白い髪白い肌の女の子が腹を押さえて木にもたれかかっていた。太ももが血塗れになっており、口からは嘔吐物を出した後があった。

 

「お前、大丈夫……じゃあなさそうだな。ちょっと、待ってろ」

 

 この倒れている少女が長尾景虎だとは思わなかった。





時系列的にはこうです。

武田:小笠原長時を破った後、村上義清と戦うための準備中。砥石城攻め前の段階。

長尾(上杉):長尾晴景が隠居して景虎が当主になったばかり。越後はまだ豪族の独立意識が高い。

合戦の布陣図について

  • 上田原の戦いの方が見やすい
  • 塩尻峠の方が見やすい
  • どちらも見えにくい
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